Avaloncity Central Park

不肖「信頼出来ない語り手」明智紫苑の我楽多ブログです。主に自作小説とカスタマイズドールを扱いますが、エッセイもあります。

女神の侵食 ―『緋色の果実とファウストの聖杯』断片―

2018-07-14 12:00:00 | Avaloncity Stories(掌編集)

「ふふっ、 い奴よ」
 女は男を組み敷き、のしかかる。互いに一糸まとわぬ姿、男は四肢に赤い絹のような長い布を巻きつけられ、大の字にされ とこ に縛り付けられている。
 常人離れした美貌の女は、真紅の瞳を輝かせ、艶やかに微笑む。髪も肌も白い女神は、哀れな犠牲者を貪る。
「果心」
 女は男の名を呼ぶ。果心と呼ばれた男は、精悍で端正な顔立ちと筋骨たくましい長躯を持っている。しかし、今のこの偉丈夫は借りてきた猫よりも弱い。
「お前は枯れぬ泉を持っている。ただの人の子では味わえぬ」
 果心は喘ぐ。苦痛と快楽の化合物により、意識がぼやけていく。
「イシュ…タル…」
「マル…いや、久秀があの娘と共に寵愛していただけの事はあるな。まあ、お前と久秀は そういう関係 ・・・・・・ ではなかったがな」
 当たり前だ。果心はぼやける意識の中、毒づく。あいつは ガキ の頃の屈辱のせいでそのような事を嫌っていたのだし、小姓などの部下たちにも無体な事はしなかったのだから。
 女神は豊満な肉体美を誇示し、勝ち誇る。果心は女神に精気を吸い上げられていく。

「やめなさい!」
 女神は突然の清冽な声に振り向く。そこには、一人の若い女がいた。
 黒く真っ直ぐに長い髪をなびかせ、白い女神をにらみつける。可憐にして毅然とした顔立ち、引き締まった肢体、女神と同じく白い肌。その目は怒りに燃えている。
「待っていたぞ、 緋奈 ひな
 女神…イシュタルは艶やかに微笑む。
「イシュタル、果心様を離しなさい!」
 イシュタルは果心の身体から離れぬまま、緋奈の目を見つめる。
「ふっ、愛らしいな。あの男が寵愛しただけの事はある」
 緋奈の両の握り拳を電流が囲む。その電撃から逃れられる者はほとんどいない。
「まあ、良い。少しは遊んでやろう」
 イシュタルは果心の身体から離れ、一糸まとわぬ姿のまま緋奈と向き合う。
 緋奈はイシュタルに殴りかかる。イシュタルは軽く拳をかわす。
「アガルタの精霊とはいえ、元は人の子。この私に本気で勝てるとでも思うか?」
「黙れ!」
 緋奈は電撃を放つ。しかし、そこに女神はいない。
「こっちだ、緋奈」
 イシュタルは窓辺に腰掛けている。
「おのれ!」
 緋奈はさらに電撃を繰り出す。しかし、女神はそれらをことごとく弾き返す。緋奈は直接イシュタルに殴りかかり、体当りし、蹴り上げようとするが、女神は軽々とかわす。
「やれやれ」
 女神はため息をつく。
「もう、どうでも良くなった。さらばだ」
「あっ…!」
 女神は光の球になり、飛び去った。

義母 はは 上!」
「伯母上?」
「姉さん!」
 二人の男たちと一人の女が部屋に駆け込む。
「父上は無事か?」
「かなり力を奪われているぞ!」
 緋奈は窓辺から戻り、昏睡中の果心のそばにひざまずく。
「果心様…」
 なめらかで愛らしい白い手を男の額に寄せる。悪夢による汗がにじむ。男を縛り付けていたものは、女神と共に消え失せていた。
「因心殿、翡翠。果心様をお願い」
 緋奈は義妹 緋月 ひづき と共に部屋を出た。
「兄者、伯父上はあの女に力を搾り取られた」
 翡翠と呼ばれる男は、兄者、もしくは因心と呼ばれる男に言う。因心は答える。
「うむ、やはりアガルタに連れて行こう。父上を回復させられるところはあそこしかないのだからな」

「弾正様の忠告通り、 あの女 ・・・ は危険人物ね」
 緋奈は緋月に語る。義妹緋月。彼女は義姉緋奈と瓜二つの美貌の女だが、互いに血のつながりはない。
「黎明の子、第六天魔王、大淫婦バビロン。それがあの最強の女神、イシュタル。私たちにとっては最大の敵よ」
 夜明けが近づく。緋奈は 明けの明星 イシュタル をにらむ。
「あの女は総長シャマシュ公の妹。だけど、私たちはあの女とは相容れない」
 緋月は答える。
「あのお方は私たちの敵だとは限らないでしょう」
 緋奈は反論する。
「あの女は果心様をいたぶって辱めた。私はそれだけでも許せない」
 涙が頬を濡らす。
「今の私たちはまだまだ修行中。本来ならば私はまだ果心様とは再会出来ないはずだった」
 緋奈と緋月は、まだ 人気 ひとけ のない街を歩く。どこかから鶏の鳴き声が聞こえる。
「私たちが一人前になるには、もう少し時間がかかるわ。それまでは…あの人には逢えない」
 緋奈の目から滴り落ちた涙はすっかり乾いていた。日が昇る。
「さあ、行きましょう。緋月」
「はい、姉さん」
 緋月は微笑む。この頼もしい義妹は、緋奈がかつて愛したもう一人の男の義弟のようだった。そして、他ならぬ緋奈自身がかつてのもう一人の恋人のようであった。
 彼は死後もなお、彼女に寄り添い、助言をする。何度となく、彼女は彼に助けられていた。
 二人の仙女たちは、新たな試練を求めて街を出た。

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たまトマ丼が好き

2018-03-02 12:00:00 | Avaloncity Stories(掌編集)

 私の好物の一つに、卵とトマトの炒め物がある。中華料理で、 西紅柿炒鶏蛋 シーホンシーチャオジーダン というものだが、これは私が大切な人が初めて私のために作ってくれた料理だ。

「どうだ、 坊主 ラッド 。うまく出来るか?」
 マツナガ博士が言う。私のフォースタスはアガルタの厨房で博士に料理のイロハを叩き込まれている。
 まずは、中華スープの素で味付けした溶き卵を炒めてスクランブルエッグにする。卵を取り出し、トマトを炒める。ある程度炒めたら、先ほどのスクランブルエッグを加えてさらに炒め、塩コショウで味を整えて、完成。
「いただきます」
 おいしい。フォースタスは私の表情を見て安心したようだ。マツナガ博士はそんな私たちを温かい目で見つめている。

 今の私も、この料理が好きだ。少なくとも、週に一回くらいは作って食べている。どんぶり飯に盛り、「たまトマ丼」にする。いまだに飽きない。
 そんな私は今もなおフォースタスが作ってくれるこの料理が好きだ。この人の料理はみんなおいしいけど、それでも私はこの卵とトマトの炒め物が好きなのだ。
 今日の私は、中華風ではなくイタリア風でこれを作る。
 トマトはイタリア料理のシンボルだ。ならば、せっかくだからイタリア風の味付けで作ってみよう。
 まずは、溶き卵にアンチョビソースを少し加えて味付けし、スクランブルエッグを作る。炒め油はイタリア風らしくオリーブオイルを使う。フライパンからスクランブルエッグを一旦取り出し、オリーブオイルでニンニクとトマトを炒める。ある程度経ったら、スクランブルエッグをフライパンに戻して混ぜ合わせて炒め、バジルと塩コショウで味を整える。
 あらかじめ器に盛ったご飯の上に載せ、イタリア風「たまトマ丼」の完成。

「うまいな」
 フォースタスはほめてくれる。
「ありがとう」
 私の料理の腕はフォースタスの足元にも及ばない。やはり、この人が作る卵とトマトの炒め物が一番だ。
 フォースタスはテレビの電源を入れる。いきなり、ソーニア情勢のニュースだ。相変わらず内戦が続いているソーニアで、ゴールディとアスタロスの消息は分からない。
 今の連邦政府は、震災復興を優先しているので、ソーニアに鎮圧軍を送る事は出来ない。しかし、おそらくは 交渉人 ネゴシエイター や特殊部隊を向こうに潜入させているだろう。
「ロクシーが行方不明になっているのって、 あいつ ・・・ について行ったという噂だけど、色々とうさんくさいし、きな臭いな」
「あいつ」、プレスター・ジョン・ホリデイ。ロクシーことロクサーヌ・ゴールド・ダイアモンドはソーニア州知事ホリデイの愛人だ。かつては私を敵視し、私自身も不快感を抱いた元同業者だ。彼女は正式な引退宣言をしないまま、アヴァロンシティから失踪した。
 ミヨンママがあの古巣の芸能事務所を辞めてから、あの事務所は〈ジ・オ〉や〈神の塔〉に乗っ取られたようだ。ネミはそんな「魔窟」からかろうじて脱出出来た。彼女も私と同じ 人造人間 バール だ。私たちは〈ジ・オ〉のような狂信者集団とは相容れない。

 私たちは、新しい家が完成するまではアガルタ特別区にあるこの別荘で暮らしている。ここには時々ネミが遊びに来る。彼女は芸能界引退を考えている。
 私自身、以前のようには芸能活動を出来ないだろう。ステージには立たず、楽曲提供をするのが中心になる。幸い、そのようなオファーは少なくないから、ミュージシャンとして完全に引退する必要もないし、したくもない。

 私は「表現をする女」だ。私はフォースタスを愛しているけど、決してそれだけの女ではありたくない。

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Hina ―『ファウストの聖杯』前日談―

2017-06-06 12:00:00 | Avaloncity Stories(掌編集)

 7月7日、アスターティの誕生日だ。しかし、俺にとってはそれ以上の意味を持つ日だ。
 医学生だった頃の俺の、甘く苦い思い出。
 ヒナ。
 俺はアガルタを離れて、アヴァロン大学医学部に通っていた。大学の近くのマンションでの、人生初めての一人暮らしだ。当然、家事をやる人間は俺一人しかいないから、何から何までしていた。
 ただ、俺は自分の料理の腕前がどれほどのものかは分からなかった。新入生の俺は友人らしい友人もおらず、学校から帰ったら勉強するか、読書をしながら音楽を聴くか、テレビで昔の映画を観るかのいずれかで時間をつぶしていた。そう、当時の俺は今の俺とは違って内向的だったし、人間関係のややこしさに縛られるのが嫌だったのだ。
 バール(baal)、すなわち人造人間。俺はアヴァロンシティにおける一種の「秘境」アガルタで生み出された人造人間だ。アガルタ生まれの「官製」バールたちは兵士や警察官や消防士、看護師や保育士などの卵として作られるが、マフィアの企業舎弟であるバールメーカー製のバールたちは裏社会で売春婦/男娼やヒットマンとして使われる。
 俺が「普通の人間」として世に出るのは一つの実験だった。
 バールたちは元々人間の亜種だ。かつての地球にいたデザイナーベビーの発展形であり、その能力や寿命や容姿は並の「天然」の人間をしのぐ。当然、少なからぬ「天然」の人間たちが俺たちの存在自体を拒絶した。かつての地球に比べて宗教的タブーが薄れたこの植民惑星アヴァロンとて例外ではない。
 アヴァロンの地球連邦からの独立戦争では、天然の人間だけでなくたくさんのバールたちも犠牲になった。かつての天然の人間同士の人種差別のように、我々バールも「奴隷」として扱われたが、アヴァロン連邦の独立宣言を機に、我々バールたちも「人権」を認められた。

 ヒナは医学部の一年先輩だった。ヒナ・マツナガ。奇しくも俺と同じ苗字の日系人の女だ。
 艶やかな長い黒髪に色白のなめらかな肌、毅然とした意志と鋭い知性を匂わせる目鼻立ちの美女。均整の取れた体型に、スラリと長い脚。いわゆる清純派路線が十分務まる可憐な美貌だが、彼女は活動的でセクシーな格好を好んだ。誰にも頼らない「強い女」、彼女はそう見られたがっているようだったし、俺もあざとく「弱さ」をアピールするバカ女よりもずっと彼女に惹かれた。
 俺にとってヒナは外界に出て初めての友人だったが、彼女と俺の関係はほどなく「恋愛」に変わった。
「ねぇ、フォースタス」
 ヒナが鈴の音のような清冽な声で俺の名を呼ぶ。
「何だい、ヒナ?」
「あなた、卒業して研修医になってからは軍医になるの?」
「うん。俺、アガルタ生まれだし、普通の医者になるよりそっちを選ぶよ。それも宇宙軍。俺は大気圏外に出てみたいんだ」
 アヴァロンが地球連邦から独立して250年以上経つ今でも、宇宙軍を含めた軍隊はある。地上軍は内戦でも勃発しない限りは災害救助がメインの仕事だが、宇宙軍は他の植民惑星との関係次第では本来の「軍」の役割を求められる。
「軍隊って上官や先輩からのしごきがひどいんでしょう? 私、心配だわ」
「ん…。心配してくれてありがとう。でも俺、 宇宙 そら に惹かれるんだよ」
「まあね、行かないでくれなんて言うのは重い女みたいで嫌だけど、それでも寂しいわ」
 聡明なヒナは俺に色々な事を教えてくれた。何でも知っている女神。そう、彼女の名前はポリネシアの月の女神に由来するというけど、俺は彼女と宇宙に等しく惹かれていた。俺は彼女のアドバイスのおかげで料理の腕前がだいぶ上達したし、夜の秘め事でも彼女に導かれて色々とテクニックを身につけてお互いを満足させた。俺は他のほとんどの男性型バール同様、生まれついての無精子症だが、それでも避妊具は欠かせなかった。

 俺はヒナとの関係によって自信を持てるようになったので、校内でも何人かの友人を作れるようになった。俺とヒナは同棲していたが、彼女は俺が男友達と遊びに行くのを穏やかな笑顔で見送った。互いの誕生日やクリスマスイヴではプレゼントを交換したし、俺は彼女と居られるのが幸せだった。
 7月7日はヒナの誕生日だった。
 俺とヒナは家庭教師のアルバイトをしていたが、その日はちょうどどちらも休みだった。いや、この日のために休んだ。俺たちはセントラルパークの近くのホテルのレストランで食事をした。もちろん、食事代はヒナへの誕生日プレゼントの一部だし、俺が全額払った。ヒナもまた、俺の誕生日での外食では全額おごってくれた。
「海に行きましょう」
 俺たちはホテルを出て、海に向かった。当時、俺は運転免許を取り立てだったので緊張していたが、ヒナの微笑みを見ている内に落ち着いてきた。俺は海岸に車を走らせた。
 今夜は海辺のホテルに泊まろう。
 夕暮れまでまだ時間がある。海辺は海水浴客でいっぱいだ。家族連れやらカップルやらでごった返している。俺とヒナも水着に着替えていた。
 ヒナは真っ赤なビキニに花柄のパレオを身につけていた。長く艶やかな黒髪に白い肌、真っ赤なビキニ。彼女の肌はこの季節の割には白かったが、決して不健康な青白さではない。むしろ、強靭な生命力を感じさせる瑞々しさがあった。
 他の海水浴客たちもヒナの艶姿に惹かれていた。俺は何だか誇らしかった。この「女神」と一緒にいられる。そう、これからも彼女と共にありたい。俺は本心からそう願っていた。
「大変だ!」
「何だ!?」
 異変。突然、波が荒くなり、子供が波にさらわれたようだ。俺とヒナは子供が溺れている方向に泳ぎだした。プロのライフセーバーを待つよりも、自分で助けようとした。
《む? あの子か!》
 俺とヒナは6歳くらいの男の子が溺れているのを見つけて捕まえた。段々と波が荒くなっている。早く岸辺に戻らなくては! 俺は男の子を右腕に抱きかかえ、左手でヒナの右手を握って岸に向かった。
《何だ!?》
 波はますます荒ぶり、俺たちは翻弄された。俺は男の子を抱える右腕とヒナの手を握る左手にさらに力を加えたが、それも虚しく、俺は徐々に意識が弱まった。

《フォースタス、ありがとう。あなたに会えてよかった》
《ヒナ…!?》

「あれ、ヒナ?」
「おお、目が覚めたね!」
「あれ、ヒナは?」
 俺は病院の一室で目覚めていた。俺はプロのライフセーバーに助けられ、意識不明のまま海岸近くの病院に搬送されていた。俺は医師にヒナがどうなっているかを訊いたが、最悪の事態になっていた。
 幸い、問題の男の子は何とか蘇生したらしいが、ヒナはすでに死んでいた。
 ヒナは孤児だった。彼女の葬式の喪主は、彼女が子供の頃にいた養護施設の関係者だった。俺はぐっと涙をこらえて葬儀に参列したが、耐えきれず泣き崩れた。
「ずっと一緒にいたかったのに」
 あれ以来、俺は様々な女たちと付き合ったが、ヒナほどの女はいなかった。彼女は今でも俺の心に住む女神だ。俺は大学を卒業し、医師免許を得て宇宙軍の軍医になったが、貴重な休暇で地上に降りた時には彼女の墓参りをした。彼女の墓碑にはそのフルネームが彫られている。
「Hina Astarte Matsunaga」
 そう、アスターティ・フォーチュンの名前は彼女のミドルネームに由来する。次世代の「希望の女神」「幸運の女神」になるように。そして、「 坊主 lad 」フォースタス・チャオの名前は俺がくれた。
 今年も俺は一人、ヒナの墓参りをする。彼女が好きだったカサブランカの花束を持って、あの海が見える墓地へ行く。昔はヒナの何人かの女友達が墓参りをしていたが、今は俺一人だけだ。
「ヒナ、久しぶりだな」
 俺はもうすぐ80歳になる。普通の人間よりもはるかに肉体的に若々しいバールと言えどもジジイである事には変わりない。いつ「お迎え」が来るか、いつまで生きていられるかは分からない。

 それでも俺は思う。またきっと、俺はヒナに逢える。あの希望の女神に。

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堺の街の陶朱公 ―『緋色の果実とファウストの聖杯』断片―

2017-06-05 12:00:00 | Avaloncity Stories(掌編集)

 私は今、堺の街にいる。
  松永少伯 まつなが しょうはく 、それが今の私の名前だ。我が妻もこの国の美女にちなんで「小町」と名乗っている。我らはすっかりこの国に馴染んでいる。
 我らはこの街で商人として、様々な者たちと交流がある。幕府要人や、他の商人たち、公家や武家など、頻繁に出入りがある。この国の人間だけではない。大陸や半島や、その他の国々の者たちも出入りする。中にはアガルタの者たちもいる。
 まあ、我らは今のところはアガルタには行く事もない。呂尚先生やカエムワセト殿下からも、特別な連絡はない。しばらくは、ここを動く必要はないだろう。
  果心 かしん はまだ、私がこの国にいるのを知らないが、今はまだ会う必要はない。いずれは会うだろうが、こちらから動く必要はない。その果心は、あの二人に付き従っている。

  翡翠丸 ひすいまる 瑪瑙丸 めのうまる 。あの子たちはすでに元服して、三好家の当主に仕えている。そして、果心はあの二人と当主を守っている。
 かつて、あの子たちはある寺の稚児だった。寺の僧侶たちに弄ばれた二人は、燃える寺から脱出し、私はこの二人をかくまった。そして、私は二人を養子にした。
 成人した翡翠丸は、ある遊女に出会い、果心や遊女の兄からの協力で彼女を身請けして妻にした。二人は仲睦まじい夫婦だったが、少女時代の彼女を弄んだ継父が翡翠丸と争い、翡翠丸はこの男を返り討ちにした。自分の夫を舅殺しにしてしまった女房は、悩みに悩んで自害してしまったが、彼女は翡翠丸の子を孕んでいた。妻と子を一度に亡くした翡翠丸は心を閉ざしていたが、妻の兄に紹介された果心に対して心を開き、今では互いに心を許す友となっている。

 かつては私の宿敵だった友、 伍子胥 ご ししょ も言っている。人間の男に生まれ変わるたびに愛する女を失う宿命にある四つの風の王。子胥も彼の力を受け継いでいる。その彼が再び人として現れたのだ。もちろん、彼自身は自らの正体を知らない。

 果心は海岸で、海の息子として生まれた翡翠丸を保護した。そして、ある裕福な家にこの子を預けた。果心はしばしば翡翠丸に会いに行ったが、あの子が十歳になった頃に、家は賊に荒らされて家族は皆殺しにされ、翡翠丸は破戒僧どもに売り払われた。今の翡翠丸が幼い頃に果心と出会っていたのを覚えているかは分からない。そもそも、翡翠丸も瑪瑙丸も少年時代の自らについて多くは語らない。
 おそらく果心は、今自分が守っている男がかつての赤ん坊と同じ者であるのを知らない。しかし、果心は懸命に翡翠丸を守っており、心の支えとなっている。まるで兄弟のように。
 翡翠丸と瑪瑙丸は義兄弟だが、翡翠丸にとって果心は瑪瑙丸以上の「兄弟」だ。 商鞅 しょう おう にはアスモダイが、ランスロットにはアーサーと 子鳳 フォースタス がいたように、あの子には果心がいる。

 今はただ、あの子を見守るだけ。「神のみぞ知る」としか言いようがない。あの子が本来の自らに目覚めるか、これは大いなる賭けだ。

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犬思う、ゆえに犬あり

2017-06-04 12:00:00 | Avaloncity Stories(掌編集)

 俺は今、テレビで競馬中継を観ている。一度でいい。生の競馬を見たい。
 しかし、それは不可能だ。俺は介護犬ではないし、競馬場に出入り出来ない。そもそも、フォースタスもアスターティも競馬などのギャンブルはやらない。もちろん、馬券を買わずに純粋にレース観戦を楽しむ競馬ファンもいる(らしい)けど。
 俺はテレビでスポーツ観戦を楽しむ。特にサッカーやバスケットボールが好きだ。それに、フォースタスは友達とバスケをする事があるし、俺とアスターティはその様子を見守る事もある。
 だけど、俺は普通の犬のフリをしなければならない。口をきいてはいけない。
 俺は人間並みの知能と言語能力を持つサイボーグ犬。喉に組み込まれた装置で、人間のようにしゃべる。
 だけど、俺と会話する人間は限られている。アガルタの関係者以外では、フォースタスとアスターティ、ヴィクターらチャオ家の人間、フォースタスのマネージャーのブライアンなど、一部の邯鄲ドリーム関係者くらいだ。

 俺は大画面に映し出される電子書籍を読む。少しでも、フォースタスたち「人間」を知りたいからだ。
 俺たち犬の歴史は、人間と共に始まった。
 犬は、人間に愛されもすれば、憎まれもする。犬もまた、人間を愛しもすれば、憎みもする。
 犬は常に、人間と並んで歩いてきた。
 人間、この興味深い生き物。
 俺たち犬にとって害になる食べ物でも、人間は食べる。おそらく、人間社会が繁栄したのは「悪食」のおかげだ。キリスト教が「世界宗教」になった要因の一つに、ユダヤ教にある食べ物のタブーを排除して、異教徒を改宗させやすくしたのがあるけど、人間が世界中に広まったのもまた、それと似たようなものだ。
 だけど、それは他の生き物を圧迫する事態だった。
 人間の増え過ぎ。それがかつての地球の生物界を滅ぼしかけた。しかし、「人類の進化を司る神々」と彼らに選ばれた人間たちが危機を救った。
 何隻もの「ノアの方舟」たちが地球を旅立ち、新天地を求めて宇宙を旅した。そして、この惑星アヴァロンはその新天地の一つなのだ。

 アヴァロンの民は、地球連邦からの独立を志した。支配者たちは前近代的な圧政でアヴァロンを搾取したが、アヴァロンの民は独立を果たした。
 アヴァロン連邦建国350年記念コンサート。アスターティはこれに出演する。ただし、俺は犬だから、直接会場で観る事は出来ない。アスターティのマネージャー、ミヨンの計らいで、楽屋に俺が入るのを特別に許されたけど、その楽屋のモニターでアスターティの演奏を観られる。
 このコンサートで、カルト集団〈ジ・オ〉並びにその政治部門〈神の塔〉の爆破テロが行われる危険性が噂されているけど、どうやらそいつらは、アヴァロン連邦建国以前からの「地球原理主義者」の残党の子孫のようだ。奴らは、女性蔑視や性的マイノリティ差別や障害者の排除を「正義」とする。さらに、婚前交渉や妊娠中絶手術を罪悪視し、できちゃった結婚夫婦や未婚の母、性暴力被害者女性や妊娠中絶手術を行う産婦人科医らを殺害する。
 前近代的な圧政の亡霊。奴らは、アスターティらバールたちを「悪魔」だと非難している。しかし、奴らは多分、アスターティがバールだというのを知らない。
 アスターティを、そして他のバールたちを守らなければならない。人造人間とはいえ、元々は人間の亜種なのだから。
 アガルタが目論む人間とバールの融合、それはバールたちを再び「人」に戻す計画なのだ。

 アスターティは、素晴らしい才能のミュージシャンだ。多分、21世紀の地球にいても大スターになっていただろう。彼女こそが「 ディーヴァ 女神/歌姫 」、アヴァロンの民の平和と自由を祝福する歌を歌う。どうか、無事にコンサートが成功するように。いわゆる「神」とは、基本的に人間以外の生き物は必要としない概念だけど、俺はあえて祈る。

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