「……なぁ。見た目よりも意外に強いんだな、お前」
敗北宣告を受けた男子4人のうち一人が、のろのろと体を起こした。丹季はじろりと一瞥すると、男子から没収したボールで容赦なく石山の上から投げつけた。ぼこっ、というなんとも腑抜けた音とともに、彼は再び崩れ落ちる。
「お前さ、同じ学年だろ。名前何ていうんだよ。教えろよ」
それでもめげずに鼻血を拭うと、でろんと仰向けになって彼がこちらを見た。細っこい奴だ。とはいえ、貧弱でもない。ある程度鍛えられているのだろう。他の3人と比べれば、本当に必要な筋肉しかついていない身体だった。
泥まみれ、鼻血まみれの顔だが、すっきりとした面立ちが見て取れる。一言で言えば、―――知能犯。そうだ、最初に立ち退けと言っていたのもこいつだった。あとの3人は、どうやら子分のようだ。
知能犯は、繰り返し名前を尋ねて来た。よほど自分を倒した相手が気になると見える。
「…3年1組、青島丹季。知りもしねえくせに青島漬物店を馬鹿にすんな」
丹季はそっぽを向いてふてぶてしく答えた。
知能犯は、ずるずるとぶらんこの柱に寄りかかっって丹季に話しかけた。相変わらず挑戦的というか、上から目線な口調である。
「今日負けたのは、まぐれだ」
「どこがだよ」即座に丹季が返した。
「マジだぞ。これでも枇杷町では強い方なんだ」
「じゃあ、まだまだじゃんか」
ふと、サッカーボールに油性ペンで小さく書かれた名前が見えた。
「熊谷………げんぺい?これお前の名前?」
「ああ」
「………ヘンな名前」その時、真一文字だった丹季の口元が緩んだ。
「ヘンって何だよ。失礼だぞ。すごい名前なんだぞ」
「すごいって?」
それまでムキになっていた知能犯こと源平が、得意そうに喋りだした。
「源氏と平氏って知ってるか。どっちも昔の偉いサムライでさ。みなもとのよりともとたいらのきよもりっていうサムライが争って、最後は源氏が勝つんだ。でも、平氏も強かったから、じいちゃんが両方の苗字をとって名前、つけたんだよ。源平合戦ってお前、知らないだろ」
「名前だけなら聞いたことならある」3つ上の姉がぶつぶつ唱えて覚えているのを見たことがあるのだ。
「じゃあ、お前はりっぱな名前を持ってるってわけか」
「そう。だから俺はこの先サッカーいっぱい練習して、ほんとうに強い将軍になってやろうってわけよ。今日のケンカの負けは、たまたまだからな」
お世辞にも立派とはいえない泥まみれの顔で、源平はにやりと笑って見せた。今回の敗北を素直に認める気はないらしい。
敗北宣告を受けた男子4人のうち一人が、のろのろと体を起こした。丹季はじろりと一瞥すると、男子から没収したボールで容赦なく石山の上から投げつけた。ぼこっ、というなんとも腑抜けた音とともに、彼は再び崩れ落ちる。
「お前さ、同じ学年だろ。名前何ていうんだよ。教えろよ」
それでもめげずに鼻血を拭うと、でろんと仰向けになって彼がこちらを見た。細っこい奴だ。とはいえ、貧弱でもない。ある程度鍛えられているのだろう。他の3人と比べれば、本当に必要な筋肉しかついていない身体だった。
泥まみれ、鼻血まみれの顔だが、すっきりとした面立ちが見て取れる。一言で言えば、―――知能犯。そうだ、最初に立ち退けと言っていたのもこいつだった。あとの3人は、どうやら子分のようだ。
知能犯は、繰り返し名前を尋ねて来た。よほど自分を倒した相手が気になると見える。
「…3年1組、青島丹季。知りもしねえくせに青島漬物店を馬鹿にすんな」
丹季はそっぽを向いてふてぶてしく答えた。
知能犯は、ずるずるとぶらんこの柱に寄りかかっって丹季に話しかけた。相変わらず挑戦的というか、上から目線な口調である。
「今日負けたのは、まぐれだ」
「どこがだよ」即座に丹季が返した。
「マジだぞ。これでも枇杷町では強い方なんだ」
「じゃあ、まだまだじゃんか」
ふと、サッカーボールに油性ペンで小さく書かれた名前が見えた。
「熊谷………げんぺい?これお前の名前?」
「ああ」
「………ヘンな名前」その時、真一文字だった丹季の口元が緩んだ。
「ヘンって何だよ。失礼だぞ。すごい名前なんだぞ」
「すごいって?」
それまでムキになっていた知能犯こと源平が、得意そうに喋りだした。
「源氏と平氏って知ってるか。どっちも昔の偉いサムライでさ。みなもとのよりともとたいらのきよもりっていうサムライが争って、最後は源氏が勝つんだ。でも、平氏も強かったから、じいちゃんが両方の苗字をとって名前、つけたんだよ。源平合戦ってお前、知らないだろ」
「名前だけなら聞いたことならある」3つ上の姉がぶつぶつ唱えて覚えているのを見たことがあるのだ。
「じゃあ、お前はりっぱな名前を持ってるってわけか」
「そう。だから俺はこの先サッカーいっぱい練習して、ほんとうに強い将軍になってやろうってわけよ。今日のケンカの負けは、たまたまだからな」
お世辞にも立派とはいえない泥まみれの顔で、源平はにやりと笑って見せた。今回の敗北を素直に認める気はないらしい。