ちくわブログ

ちくわの夜明け

斎藤潤一郎外伝「カミさん」

2019-03-16 00:58:55 | 
調布市の某団地近くに流麗な曲線も美しいアーチの掲げられた商店街がある。
かつて団地に住む人々で賑わったその商店街も今は半分のシャッターが閉じ、多摩川から藻のにおいを伴って吹きつける風が、いっそう侘しい心持ちにさせる。


カミさんとは何なのか。
『死都調布』の著者・斎藤潤一郎氏のなかば都市伝説化したカミさんの真相を確かめるべく、私は冬の寒い日のある夜、調布市にある某商店街を訪れた。

シャッターの閉じた商店街は日本各地に点在する。この風景もバブル以降の日本の、ありふれた結末の一つなのだろう。
その中でも比較的賑わう一角があった。日が暮れる頃、名もない小路にぽつぽつと火が灯りだした。団地から老人や老人のような人々がその中に溶け込んでいく。

この小路の奥に佇むスナック・チヨのママさんが、カミさんのことを知っている。
以前、ツイッターで見かけた頼りない、しかし唯一の情報をもとに私はそのスナックに赴いた。客は他にいなかった。いいタイミングだ。聞くしかない、と思った。

チヨのママさんは確かに斎藤潤一郎氏の事を知っていた。
年はいっても独特の妖艶さと、しかし何か一種凄みのあるママさんは、斎藤潤一郎という名を聞くなり唐突にアッパッパを脱ぎ捨て、傷だらけの上半身を薄暗い店の中に晒した。

「教えてやるよ」
タバコをふかしながら、ママさんは仁王のような顔で私を見下ろした。


キイキイと鳴く裸電球の下で、私は斎藤潤一郎氏とカミさんについての全てを聞いた。

何も、言うまい。

もはやここで語れることもない。
私はママさんの話を聞きながら、この口伝がどこがで発表するような内容ではない事を悟った。


店を出るとトップリ夜も更け、例の風が私の頬を叩きつけた。すっかりと酔ってしまったようだ。
狭い出入り口ですれ違いざま、常連らしき男が入っていった。

彼が斎藤潤一郎氏なのかも知れない。
しかし私の興味はとんと無くなり、詮索する気も失せていた。


街灯も乏しい商店街のシャッターに、その場に不釣り合いだが彩り豊かなグラフィティ・アートが描かれていた。

「C-TOWN STYLE」

何も無い場所に上書きされる記憶と情緒を巡って、私はまたこの街を訪れることだろう。


平成も終わろうとしている。



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「死都調布 南米紀行」
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