アカバネーゼのささやき

夫の裏切り!妻の仕返し!夫婦とは?自立に目覚めた私が起業するまで!

悪魔のささやき

2006年06月02日 | Weblog
「船に乗ろうよ?」

手をつないだまま、彼が言った

「え?船に?いったいどこに行くの?」

「”飛鳥”に乗って世界一周…は、ちょっと”まだ”乗せてあげられないよ」

「まだ…なの?」笑いながら尋ねた


「いつか、僕が乗せてあげる」

「それは楽しみだな~!!長生きしなくっちゃ!」


彼はクリスマスの人ごみを掻き分け、どんどん引っ張っていく


「さっきお店の人に聞いたら50分発だって言ってたから急がなきゃ!」

「いつの間に聞いたの?なかなか計画的だねぇ…」

「コレができなきゃ、マンションを完売させられないよ!」

「お!カッコいいね~、ちょっと惚れちゃうかも!」

「あ、それも計画のうち!」


なんて楽しいんだろう!
歳をとったから、こんな事が嬉しいのだろうか?
どんな言葉も、ハートにズンズン突き刺さる


山下公園から出る船というのは、ほんの近くまで移動するだけのシーバスらしい

でも私たちのクリスマスには充分な演出で、それだけでまるで世界一周に出かけるみたいな気分だった


二人は息を切らせて走り続けた

船着場についたが、クリスマスの夕方…同じようなカップルがいっぱいいて、50分発のシーバスに乗り遅れてしまった


「僕ね、約束に遅れたり、間に合わなかったりした時、いったい今日の行動の何がロスだったかなぁ…て、よく考えるんだけど、今日は1秒も無駄な時間はなかったと思うな…

「ふふふふ!理屈っぽいけど、それはなかなか明言ですねぇ~

「う~ん、全く明言ですよ、さすがですよ!」

と、同じ会社の同僚のモノマネをして言った


「あらぁそうかしらぁ、どうかしらねぇ~Nさ~ん」

と、私も年配の女性上司のマネをしてこたえた


「あ、やめてよ!せっかくのデートなのに、○△さんがいるみたいで怖すぎるよ!」


急に、彼が改まって立ち止まった


「今日さ、7時半から、みなとみらいの○○ホテルの最上階のクリスマスディナーの予約してあるんだ!」

「え?ディナー?」

「それまで、クリスマスのプレゼントを探しに行こうよ」

「・・・


時計をみた。もう5時を過ぎて、周辺はすっかり暗くなってきた

世の中は、今からがクリスマスイブのゴールデンタイムだ…


・・・子供はどうしているだろう?

お友達のところに朝から預けっぱなしで、きっと迷惑をかけているに違いない

急に、いろんなことが心配になってきた・・


繋いだ手を見ていると、急に罪深く思えてきた


どうしよう?帰らなきゃ、、

きっと主人が今年もクリスマスケーキを買って帰ってくるに違いない


「ねぇ、何が欲しい?僕が考えていたのはさぁ…」

バッグの中から、デパートのクリスマスのプレゼントカタログがどんどん出てくる…

いきなり、近くにいたカップルがベンチを立ったので、彼はすぐに座った

カタログのあちこちに付箋が貼ってあって、まるで仕事の資料のようだ!


「赤羽っちは、いつも高価そうな時計やアクセサリーをつけてるから、あんまり安い物だったら、つけてくれないかと思ってたんだ。」

「そんなの持ってないってば!コレもニセモノダイヤのピアスだよ…、それに、プレゼントなんてもらわなくてもいいよ。

「ダメダメ!だってクリスマスなんだから!

「本当に、そんなのいいの。今日、美味しいランチができただけで、本当に幸せだったから…」

「今日、プレゼントできなかったら、次のお誕生日まで、何もあげられないよ!」

「違うの、、本当にそんな事しないで。。」

「だって、ずっと計画立てていたんだから。ずっと逢えなかったから、付箋をつけて聞こうと思ってたんだ。」

「・・ほんとに、いいから…」

「ディナーもね、宅建の発表の日に、もうすぐに予約入れたんだよ」

「う、うん、、でも、…」


どうしよう…

彼は、手をつないだまま「早く行こう?」と言った


子供の顔と主人の顔が浮かんだ

頭の中では、『ここから帰ったらどのくらい時間がかかるのだろう…?』と計算が始まっていた

…と同時に、彼がタクシーを停めた

このまま、ずっと一緒にいたい・・・悪魔が「いいよ」とささやいた




・・・つづく