2001年公開、スピルバーグ監督の映画 「A.I.」の原作三篇を含む短篇集です。
スーパートイズ三篇は「いつまでもつづく夏」 「冬きたりなば」 「季節がめぐりて」 の三部併せて50頁ほどであり、それを膨らませたのが 「A.I.」です。
もともと本作の映画化権は、かのキューブリック監督が持っていたそうですが、死後スピルバーグが引き継いで映画化されたとのことです。 封切時はそれが話題になったように思います。
それで大いに期待しながら観にいったのですが、 『 こりゃ ”ピノキオ” のSF版だなぁ 』 という印象で、どうも中途半端でイマイチ満足できなかったものです。
ところで、本誌の最後に 「スタンリーの異常な愛情 または私とスタンリーは如何にして『スーパートイズ』を『A.I.』に脚色しようとしたか」 というエッセイが載っています。その中で作者B.オールディスが映画の脚本を手がけたときのことが書かれています。 そして、キューブリックから『ピノキオ』の本を渡され「主人公のアンドロイドを人間にしたい」「人間に変える妖精も登場させる・・・」と云われたとのことであり、そのあたりの経緯が『A.I.』にも反映されているのだと思います。 しかし当時のB.W.オールディスは、アンドロイドと木製のピノキオを同列に見ることが出来なかったと述べており、映画の中に登場する「妖精」は、アンドロイドが見る幻想のように描かれていた(不確かですが?)ように、あくまでSFに拘ったものだったと思います。
で、ふと思うに、キューブリックはSFじゃなくってファンタジーにしたかったのかもしれません。
オールディスの『十億年の宴』の中で、『博士の異常な愛情・・・』 『2001年宇宙の旅』 『時計じかけのオレンジ』 を評して「当代の偉大なるSF作家になった」としたことに、キューブリックは喜んだとのことです。 そこで『2001年・・』の脚本を作者アーサー・C・クラークにやらせた如く、敬意を表し『スーパートイズ』についてもオールディスに任せたのでしょうが、SFに拘る原作者とは根本的なところで意見が合わなかったのだと思います。 もしもキューブリックの方が長生きしたとしたら、映画 『シャイニング』 のように原作者の意思通りじゃない、ファンタジーに仕立てていたのではないでしょうか。 で、 『博士の異常な愛情・・・』はコメディーで、『2001年宇宙の旅』がハードSF、『時計じかけのオレンジ』がバイオレンス、『フルメタル・ジャケット』で戦争物、『シャイニング』がホラー、『アイズ・ワイズ・シャット』のポルノ・・・と、どれも似たようなものは一つもないわけで、これに『A.I.』でファンタジーが加われば映画の様々なジャンルを網羅するキューブリック作品群が完成に近づいていたのかもしれません。