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『谷川うさ子王国物語』勉強会
『慶應義塾大学夢物語』坂口由美の活動記録

慶應義塾大学『西洋史特殊Ⅱ』入門

2022-08-20 05:54:36 | 西洋史特殊Ⅱ課題レポート 慶應義塾大学

ご指導内容・添削・再確認事項

  • 最重要課題は、要約です。課題図書の内容を「正確に」要約すること。
  • 課題図書全体的に正確に要約することが最重要。
  • 部分的にしか扱われてない章があることは、内容に偏りがあることになります。
  • 今回の要約は文字数の上限を設けていませんが、あまりに長すぎる要約は適切とは言えない。
  • 課題図書の表現をそのまま抜き出すことは不適切。
  • 内容を自分の言葉で正確にまとめることが最重要。
    また後半の書評において、原理主義の危険性を述べるのは論旨が飛躍している。
  • 著者の主張やルイ14世の政策から主張されている、現代アメリカの原理主義に対する

自分の主張を、根拠を明確にして論じること。


西洋史特殊Ⅱ     

課題図書 ピーター・バーク著/石井三記訳『ルイ14世:作られる太陽王』
課題レポート
1. 要約の改編

12章276頁の課題図書を、各章400字で要約してみること

2.書評のテーマを変更する

  • なぜルイ14世は太陽王と呼ばれたのか?
  • 太陽王の光と影
  • 太陽光の功績

書評 800字で論じる。

総文字数 5600字で論文作成すること。

Louis XIV of France.jpg



慶應義塾大学『英語リーディング』入門

2022-08-19 13:25:54 | 慶應義塾大学英語(リーディング)

慶應義塾大学『英語リーディング』入門

第10-12回_放送英語(リーディング)

この講義では、William Saroyanによって書かれた物語『Old Country Advice to the American Traveler 』を訳します。

講義内容 

サロイアンによるキリスト教文学の世界

唯一神による天地創造、人間の神への反逆としての原罪、救世主イエスによる救済、最後の審判への準備としての罪の懺悔(ざんげ)と贖罪(しょくざい)など、信仰の主題を基底に構築される文学。この意味から、神話、歴史、物語、詩、伝記、格言、寓話(ぐうわ)などに満ち満ちている旧約、新約の両聖書。

 

 『アメリカの旅行者に対する田舎の古くさい忠告』 訳者 三浦朱門

SaroyanのHuman Comedy

人間社会への絶望を暗示しているものと受取れる「言いつけ」

Saroyanの「表現したいもの」

恩想的には人間のまだ描かれていない善い面を描こうという意欲

寓話的傾向がある

子供の心の中の素朴で純な気持に人間像の一断片をし求めて,

人間の心の奥深くにある善性を信じたいと願う気持と結びつける手法

「矛盾したことを言う人間の権利」を認めてここにも又愛すべき人間像を見出している。

童話的善の表現

疑心暗鬼にならざるをえない此の現実にあって「他人が何を信じようとその人間の人柄が善良である限りその人
間に対し悪意を持たない」というSaroyanの思想が明確に描き出されている。

例え社会の底辺的な境遇の人間であろうともそこに美しい人間生活の価値を見出そうと努める真剣なしかも温か
く新鮮な態度が発見出来る。

一種の逃避の世界であるとも考えられるので、現実把握の甘さがあるとも見られる。

ヒューマン・コメディ

 


慶應義塾大学『英語リーディング』入門

2022-08-19 13:11:22 | 慶應義塾大学英語(リーディング)

慶應義塾大学『英語リーディング』入門

第10-12回_放送英語(リーディング)

この講義では、William Somerset Maughamによって書かれた物語『The Ant and The Grasshopper』を訳します。

講義内容 

まだほんの子供であった頃、私はラ・フォンテーヌの寓話のいくつかをおぼえさせられ、それぞれのなかにふくまれている教訓を身に沁みるように説ききかされたものだった。そうして教えられた寓話の一つに「蟻とキリギリス」というのがあった。その話というのは、不完全な世の中では、勤勉にはよいむくいがあるが、浮薄なやからは罰をうける、という有益な教訓を若いものたちの胆に銘じるようにうまくつくられているのである。(不正確ながらも、ともかく一応はだれでも知っている、と礼儀上考えなければならないことがらを、改めて語るのは気がさすが)この称賛に値すべき寓話というのは、次の通りである----
  蟻が夏のうちにせっせと働いて冬の食物をたくわえているというのに、一方キリギリスのほうは、草の葉の上で、太陽に向かって唄を歌っている。やがて冬がやってくると、蟻はなに不自由なく暮らすのだが、キリギリスの食料部屋はからっぽである。キリギリスは蟻のもとに出かけてゆき、少しでもいいから食べ物を分けてくれという。すると、蟻はこのときとばかり、あのだれでも知っている有名な返答をする。
「おまえさんは夏の間なにをしてたのさ?」
「あんたの前だけど、わたしは昼となく夜となく、歌いつづけていたんだよ」
「ウン、なるほどね。それじゃ、またひとつ踊りにでも出かけたらどうだい」
子供の私にはこの教訓がぴったり来なかった。というのも、片意地な私の性格のせいではなくて、むしろ何がよいか悪いかの区別もつかない子供時代にありがちな矛盾によるものだと思う。私は怠け者のキリギリスのほうに同情してしまい、しばらくの間は、蟻を見ると、どうしても足で踏みつけずにはいられなかった。このように手っ取り早い方法で(それに大きくなって、それがいかにも人間味のある方法だとも思ったのだが)、私は思慮分別とか常識とかいったことに賛成できないという気持ちをあらわしたかったのである。

  先日、ある料亭で、ジョージ・ライゼイが一人ぼっちで昼食を取っているのを見かけたとき、私はこの寓話を思い出さずにはいられなかった。彼ほど深い陰うつなかげをやどしている人間を見たことがない。じっと宙をみつめていたのである。まるでこの世の重荷を自分一人ですっかり背負っているという感じだった。私は彼が気のどくでならなかった。またあの運の悪い弟が面倒でもおこしたのではないか、すぐにそう思った。私はジョージの許に近づいて握手の手をさし出した。
「やあ、こんにちは。いかがですか?」
「どうも、あんまり気が晴ればれしないんだよ」
「またトムさんがどうかしなのかね?」
 彼はふっとためいきをついた。
「ウン、またあいつのことでね」
「おっぽり出したらいいじゃないか。あんたはこれまで、あの人のためにできるだけのことをしてきたんだからね。あの男にはまったく見込みがないってことぐらい、もういいかげんわかってもいい頃じゃないかな」
 どんな家庭にも一人くらいは厄介者がいるものだ。トムは二十年間というもの、その家族の者にとって、大変な苦労のたねだった。もっとも最初は、けっこう人並みの出発をしたのだったが。実業界にはいり、結婚をし、二人の子供の父親となった。ラムゼイ家というのは、申し分のない立派な家だったので、トム・ラムゼイが将来有用な、立派な人物になるだろうと世間で思うのは当然なことだった。ところがある日のこと、出しぬけに、そのトムが、仕事がいやになったし、自分は結婚生活には向かない男だといいだした。自分自身の生活を楽しみたいというのである。彼はどんな諌めのことばにも耳をかたむけようとしなかった。

 彼は妻を捨て、会社を飛び出した。少しばかりのカネがあったので、彼は二年ほどヨーロッパのあちこちの首都で楽しい日をすごした。折りにふれて彼の行状についての噂が親戚縁者の耳にはいり、みんな大きなショックをうけた。彼はたしかにたいへん愉快な時をすごしたのだった。しかし、親戚縁者たちは首をかしげ、カネを使いはたしたときにはいったいどうなることだろうと話しあった。

 やがて、それがはっきりした。トムは借金をしたのである。彼には魅力がある、遠慮のない男だった。彼ほど借金の断りがいいにくい人間に私は出会ったことがない。彼は友達からたえずカネを借りてきたが、そういう友達が、すぐにあとからあとからできたのである。ところが、生活の必要のために使うカネなんか面白味がない、といつも彼はいうのだった。使って楽しいのは、ぜいたくなものにたいして使うカネだ、というのだ。だがこのために、彼は兄のジョージに頼らなければならなかった。だが自分の兄にたいしては、身にそなわった魅力を発揮するようなムダな真似はしなかった。ジョージは真面目な男で、そうした誘惑には無感覚だったのである。ジョージは謹厳な人間だった。一度か二度は、トムが生活態度を改めるという約束にひっかかり、再出発をするためならばと、かなりな金額をあたえたことがある。ところが、そのカネでトムは自動車や宝石を買ってしまった。弟がとうてい身を落ちつけるようすがないということを周囲の事情からはっきりと悟って、兄はトムときっぱり手を切った。するとトムは、臆面もなく、その兄からカネをゆすりはじめた。

 ひとかどの法律家となっているジョージにとっては、自分の弟が行きつけの料理屋のカウンターの後ろでカクテルのシェーカーを振ったり、自分のクラブの外でタクシーの運転台に坐って客を待ってたりするのを見るのは、あんまりいい気持ちのものではなかった。トムは、バーで働くことも、タクシーを運転することも、ちっとも世間態を憚るような仕事ではないが、もしジョージが二百ポンドのカネを出してくれるというのなら、わが家の名誉のために、そんな仕事は放り出してもかまわないというのだ。それでジョージは二百ポンドのカネを出した。

 あるときなど、トムはもう一歩で刑務所に行くところだった。ジョージはすっかりあわてた。彼はこの不面目な事件をすっかり調べてみた。トムの奴はまったくひどいことをしたものだ。これまで彼は無鉄砲で、思慮分別がなく、身勝手なことばかりしてきたのであるが、決して不正直なまねはしなかった。ジョージにいわせれば、法律にひっかるような悪事ははたらいたためしはなかった。しかしこんどは、もし彼が告訴されるとすれば、有罪の宣告をうけることはまちがいなかった。しかし、たった一人の弟が牢屋にぶち込まれるというのを、兄貴としては黙って見ているわけにはゆかなかった。

 トムがだました相手のクロンショ―というのは、執念深い男だった。彼は事件を裁判沙汰にするといきまいた。トムは悪党だから、罰を加えるべきだというのだ。その事件を解決するために、ジョージはえらい苦労をしたばかりか、五百ポンドのカネまでもつかわされた。

 トムとクロンショーは、その五百ポンドの小切手を現金にかえると、さっそく二人揃ってモンテ・カルロに出かけて行った。そのことを聞いたときほど、ジョージがかんかんになって腹を立てたのを私は見たことがない。二人は、そこで楽しい一カ月をすごしたのである。

 二十年の間、トムは競馬やばくちにふけり、飛びきりきれいな女と遊びまわり、ダンスをしたり、いかにもぜいたくなレストランで食事をしたり、大いにめかしこんだりして遊びくらした。いつでも衣装箱から出てきたばかりといったスマートなかっこうをしていた。四十六歳だというのに、いつでも三十五歳以下に見られた。友達としてはとても愉快な仲間であり、まったくつまらない人間だとわかっていながらも、彼とつきあっていると、つい楽しくなるのだった。彼は意気揚々として、いつもはしゃいでいたし、信じられないほどの魅力をもっていた。だから彼が生活上の必要品を買うのだといってせびりに来ても、私は惜しまずカネを出してやった。こちらから五十ポンドのカネを貸してやったときでも、私はいつも自分の方に借りがあるような気がするのだった。トム・ラムゼイは誰でも知っていたし、また誰もがトム・ラムゼイを知っていた。彼のやり方には感心はできなくても、人間としての彼は好きにならずにはいられないのだった。

 かわいそうにジョージは、このやくざな弟とたった一つしかちがわないというのに、もう六十ぐらいに見えた。彼は二十五年の間というもの、一年に二週間以上の休暇をとったためしがなかった。彼は正直で、勤勉で、立派な人間だった。いい奥さんを持っていて、しかもその奥さんにたいして浮気をするなどということは考えてもみなかったし、四人の娘たちには、それこそ申し分のない父親であった。彼は収入の三分の一は必ず貯金するようにし、五十五歳になったら、小ぢんまりとした家を手に入れて田舎に隠退し、庭の手入れをしたり、ゴルフを楽しんだりしようという計画をたてていた。彼の生涯は、一点の非の打ちどころもないものだった。ジョージは早く年をとりたいと思った。トムも同じように年をとるからである。

 彼はもみ手をしながら、こういった----
「トムだって、若くて男前のいい間は、なんにもいうことはなかったろうさ。しかし、わたしよりたった一つしか年下じゃないんだ。あと四年もたてば、奴さんだって五十になる。そうなれば、今までのようにそうやすやすと事が運ばんことがわかるだろう。わたしのほうは、五十になるまでには三万ポンドのカネがたまっているだろう。この二十五年間というもの、トムもさいごには乞食になるほかあるまい。そうわたしはいってきたんだ。そうなったら、奴さんもどんな気持ちがするか見てみよう。働くことを怠けることと、どっちがほんとうに得なのか、ひとつ見てみようじゃないか」

 かわいそうなジョージよ!私は彼に同情した。今こうしてジョージのそばに坐りながら、あのトムの奴がいったいどんな恥さらしのことをしたのだろうか、と考えていたのだ。

 ジョージはすっかり平静を失っているらしかった。
「こんどはどんなことが起こったと思うかね?」と彼は私にたずねた。

 私はもちろん最悪の場合を想像していた。トムの奴もとうとう警察の手にかかったのではないか、と思ったりした。ジョージは容易に話し出す気になれないようすだった。
「あなたは、わたしが働き者で、身分相応なくらしをし、世間にはずかしくないようなまっとうな生き方をしてきたことをみとめてくれるだろうね。まじめに働き、倹約してきたわたしは、老後には金ぶちの一流証券からはいるささやかな収入を目あてに隠退できることを楽しみにしている。わたしはいつも神様の思召にかなった自分の身分において、わたしに課せられた義務をずっと果たしてきたんだ」
「その通りだよ」
「それから、トムの奴がもう怠け者で、どうにも取り柄がなくて、面目ないごろつきだったことも、あなたは否定なさらんだろうね。もし因果応報とでもいうものがあるとすれば、奴さんはどうしても養老院行きということになるはずさ」
「ごもっとも」

 ジョージはだんだん顔を赤くしながら、ことばをつづけた。
「数週間ほどまえ、奴さんは自分の母親ぐらいの年かっこうの女と結婚したんだよ。ところが、こんどその女が死んで、持っていた財産がそっくり奴の手にころがりこんだってわけなのさ。五十万ポンドの大金、一艘のヨット、ロンドンの屋敷、それに田舎の別荘など・・・」

 ジョージ・ラムゼイは握り拳でテーブルをたたいた。
「これは不公平だ、まったくこんな不公平な話なんてあるもんかね。畜生!とんでもない不公平だ!」

 私はもうどうしようもなくなった。ジョージのまっ赤に怒った顔を見ていると、思わず大声で吹きだしてしまった。椅子の中で体をくねらせ、危く床に落ちそうになった。ジョージはこういう私の無礼をいつまでも赦してくれなかった。

 ところがトムのほうは、メイフェアの感じのいい家のすばらしい晩餐にたびたび私を招いてくれるのだ。彼がもし私から僅かなカネを借りるとすれば、それはたんに今までの習慣がぬけないからにすぎない。金額も一ポンドを超えることが決してないのである。


慶應義塾大学『英語リーディング』入門

2022-08-19 09:33:31 | 慶應義塾大学英語(リーディング)

慶應義塾大学『英語リーディング』入門

第17-18回_放送英語(リーディング)

この講義では,Isaac Bashevis Singerによって書かれた物語『The Snow in Chelm』を訳します。

講義内容 The Snow in Chelm  まぬけの村の物語

ケルムという村はまぬけ達が住む村です。その村では
若者も年寄もみんな、間が抜けています。とある夜、
村の住人の一人が、水樽の中に写る月を見つけ出しました。
ケルムの住人は月が落ちてきたのだと決めつけました。そして
彼らは樽にふたをして、月が逃げ出さないようにしました。
朝になり、樽のふたが開けられると、
月はいなくなっていました。住人たちは今度は、
月が盗まれたのだと決めつけました。彼らは警察を呼びに行きましたが、
結局月は見つからず、ケルムのまぬけな住人達は嘆き悲しむのでした。

ケルムの住人達の中で、もっとも有名だったのが、
7人の長老たちでした。彼らは村の中で一番年をとり、
偉大なまぬけでしたので、この村を治めていました。
長老たちのあごには白いひげがはえており、頭は考えすぎて
禿げあがっていました。

あるハヌカーの夜(12月に開かれるユダヤ教のお祭り)、雪が午後中降り続きました。

雪はまるで銀色のテーブルクロスのように、ケルムの村を覆いました。
月は輝き、星は瞬いています。雪は真珠やダイアモンドのように
きらきらと降り続けました。

その日の夕方、7人の長老たちは、頭にしわをよせながら悩んで
いました。今の村にはお金が必要ですが、彼らはそれをどこで
手に入れたらよいのかわかりません。すると突然、大バカ者のグロナムが
叫びました。
「雪が銀でできているぞ!」
続けてほかの住人が「雪の中に真珠があるわ!」と叫び、
またほかの住人が「おれはダイアモンドを見たぞ!」と叫びました。
ケルムの長老たちは、高価な品々が空から降ってくることが
わかりました。

しかし、住人たちはすぐに心配になってきました。ケルムの人達は
出歩くのが大好きです。きっと彼らは大切な宝物を踏みつけてしまう
でしょう。どうしたらよいでしょうか?おバカなトゥドゥラスが
思いつきました。「みんなに家にいてもらうように、
使いを送って伝えさせよう。銀や真珠やダイアモンドが
全部完全に集められるまではね。」

しばらくの間、長老たちは自分たちの賢い知恵に満足そうに
手をこすり合わせて喜んでいました。すると、愚か者のリキッシュが驚いて叫びました。
「使いの人が宝物を踏みつけてしまうじゃないか。」

長老たちはリキッシュの言うとおりだということに気付き、
またこの問題を解決しようと頭にしわをよせてしまいました。
「わかったぞ!」のろまなシュメラルが言いました。
「なんだ、教えてくれ。」長老たちは答えを求めました。
「使いの者は自分の足で歩いて行ってはいけない。彼が大事な雪を
踏まないように机に乗せて運ばせるんだ。」

誰もがのろまなシュメラルの考えに大喜びし、長老たちは手を
たたきながら、彼らの素晴らしい知恵を褒めたたえました。

長老たちはすぐにキッチンへ使い走りのギンペルを行かせ、机の上に
のせました。さぁ、誰が机を運ぶのでしょうか?ちょうどいいことに
キッチンにはコックのトライトルとジャガイモの皮むき係のベラルと
サラダ担当のユケルと、ヤギの世話係のヨンテルがいました。4人は
机を持ち上げるように言われました。その机にはギンペルが乗って
います。4人はそれぞれ机の脚をつかみました。机の上のギンペルは
村人たちの家の窓をたたくための金槌をもっていました。そうして
彼らは出かけていきました。

村人の家の窓まで来るとギンペルは金槌で窓をたたき、叫びました。
「今日の夜は誰も外に出ないでください。大切な宝物が空から
降ってきました。それを踏むことは禁じられています。」

ケルムの人々は長老たちに従い、一晩中家の中にいました。
一方、長老たちは、お宝が集められたらどのように使うのが
一番良い方法かを考えていました。

おバカなトゥドゥラスは宝物を売って、金の卵を産むガチョウを
買うことを思いつきました。そうすれば、この村は安定した収入を
得ることができます。

愚か者のリキッシュにはほかの考えがありました。ケルムの住人
すべてが大きく見えるメガネを買ったらどうだろうか?そのメガネは
家も通りもお店も大きく見せることができる。ケルムの村が大きく
見えるということはつまり、ケルムの村が大きくなったということだ。
ケルムはもはや村ではなく、街になることができる。

そのほかにも同じような賢い考えがいくつかありました。しかし、
長老たちがどの提案が一番よいかを考えているうちに、夜が明けて
太陽が昇りました。長老たちが窓の外を眺めてみると、あぁなんと
いうことでしょう、雪は踏みつぶされていました。机を運んでいた
者たちの重いブーツが大切な雪を台無しにしてしまったのです。

ケルムの長老たちは白いひげをつかんで、互いに間違い
を認め合いました。きっと彼らはこう思うでしょう。
ギンペルが乗っていた机を運んでいた4人も、また違う4人の
人々によって運ばれなければならなかったと。

長い間考えた結果、そうすることが次のハヌカーの夜に
雪が降ってきたときの一番良い方法だと長老たちは思いました。

村人たちは宝物をたったひとつも手に入れることはできなかった
けれども、来年への希望であふれていました。そして長老たちを
褒め讃えました。なぜなら、たとえどんなに問題が困難でも、
長老たちになら解決策を見つけることができると
彼らは知っていたからです。


慶應義塾大学『英語リーディング』入門

2022-08-19 09:33:31 | 慶應義塾大学英語(リーディング)

慶應義塾大学『英語リーディング』入門

第19-25回_放送英語(リーディング)

この講義ではRoald Dahlの短編 "The Landlady"を訳します。

講義内容The Landlady by Roald Dahl  

1959年頃。舞台はロンドン西部の街、バースです。ロンドンから140㎞のところにあるこの街が、古くからの温泉がある保養地として栄えたのは19世紀でした。義務教育を終えたばかり、社会人となって日も浅いビリー・ウィーヴァー君が出張でこの街にやってきたときには、戦後の観光産業はまだ起こる前、かつての「宴の後」がそのままうち捨てられたような街並みだったのでしょう。そんな街でウィーヴァー君を待ち受けていたものは……。

題名 『女主人』 著者 ロアルド・ダール

ロンドンから午後の鈍行列車に乗ったビリー・ウィーヴァーが、途中スウィンドンで乗り換えてバースに着いたときは、夜も九時近くになっていた。駅を出ると、向かいの家並みの上にひろがる澄んだ星空を背に、月がぽっかりと浮かんでいる。凍てついた空気のなか、頬に吹きつける風は氷のやいばのようだった。

「すいません」彼は声をかけた。「このあたりに安く泊まれるところはありませんか」

「『鐘とドラゴン亭』へ行かれてはどうでしょう」赤帽が通りの先を指さした。「あそこなら泊めてもらえますよ。向こうの道を五百メートルほども行けばあります」

 ビリーは礼を言うと、スーツケースを取り上げて、「鐘とドラゴン亭」目指して五百メートルの道のりを歩き始めた。これまでバースに来たことはない。ここに住んでいる人も、誰一人として知らなかった。だが、ロンドンにある本社のミスター・グリーンスレイドは、ここは実に素晴らしい街だと教えてくれたのだった。「宿屋を探すんだ」と彼は言った。「落ち着き場所が決まったら、すぐに支社へ行って支店長に報告するように」

ビリーは十七歳だった。おろしたての紺色のオーバーを着て、新品の茶色い中折れ帽をかぶり、新品の茶色いスーツに身を包んで、気分は爽快である。通りをきびきびと歩いた。ここ数日間、何ごともきびきびとこなせるよう努めてきた。きびきびとした態度こそ、成功したビジネスマンすべてに共通する唯一の資質だと判断したのである。本社のお偉方ときたら、いつだって文句のつけようがないほど、すばらしくきびきびしているじゃないか。それはもう、見事なまでに。

 彼が歩いている大通りには、一軒の店もなく、両側にはいずれもそっくりな、背の高い家が続いているばかりだった。いずれも玄関ポーチがあり、柱があり、玄関に通じる四、五段の階段があって、どうやらその昔はしゃれた住宅街だったらしい。だがいまや、暗い中ですら、ドアや窓の木造部分のペンキが剥がれ、白く端正だったにちがいない正面も、手を入れてないせいで、ひびわれ、しみが浮いているのが見てとれた。

 不意に、五メートルほど前方で、一階の窓が街灯に明々と照らされていた。ビリーの目をとらえたのは、上の方の窓ガラスに貼ってある、活字体で書いた張り紙だった。「お泊まり と 朝食」。張り紙のすぐ下には花瓶があって、丈の高く美しいネコヤナギが飾ってある。彼は足を止めた。一歩、そばへ寄ってみた。緑のカーテン(ベルベットのような素材である)が窓の両側に下がっている。両側のカーテンのおかげで、ネコヤナギはたいそう美しく見えた。もっと近寄って、ガラス越しに中をのぞき込んだ。最初に見えたのは、暖炉に燃えている明るい火だった。暖炉の前の絨毯の上には、かわいい小さなダックスフントが、鼻面を自分の腹に押し込んで、丸くなって眠っている。薄暗がりをすかして見る限りでも、その部屋は、気持ちの良さそうな家具がそろっていることがわかった。小ぶりのグランドピアノや大きなソファ、ふかふかの肘掛け椅子がいくつかと、隅には鳥かごに入った大きなオウム。こんなふうに動物がいるというのは、たいていいいしるしだ、とビリーはひとりごとを言った。全体に、たいそう美しく立派な家のように彼の目には映ったのである。きっとここは『鐘とドラゴン亭』などより居心地が良いにちがいない。

 とはいえ、寝泊まりできるパブの方が、下宿屋より楽しそうではある。夜になれば、ビールやダーツを楽しんだり、大勢の人と話したりもできるだろうし、きっとそっちの方がずっと安上がりだろう。前にもパブには数日泊まったことがあって、すっかりそこが気に入っていたのである。下宿屋に入った経験はなかったし、正直なところ、少しばかりぞっとしない気持ちもあった。下宿屋と聞くと、なにやら煮すぎたキャベツや、ごうつくばりの女主人、部屋まで漂ってくる薫製ニシンの強烈な臭いなどが連想されてしまう。

 二、三分、ビリーはこのように決めかねていたのだが、どちらかに決める前に、とりあえず『鐘とドラゴン亭』を見てみることにしようと考えた。そこでくるりと向きを変えたそのときである。

 奇妙なことが起こった。一歩下がって窓に背を向けかけたとき、ひどく奇妙なことに、そこにあった小さな張り紙に目が吸い寄せられ、釘付けにされてしまったのだ。張り紙には「お泊まり と 朝食」とあった。「お泊まり と 朝食」「お泊まり と 朝食」「お泊まり と 朝食」……。それぞれの言葉が、まるでガラス越しにこちらを見つめる大きな目のように見えてくる。彼をがっちりと捕らえて離すまい、この家からよそへ行かすまいとしているかのような。やがて気がついたときには、実際に窓の前を横切り、家の玄関を開けようと階段をのぼり、呼び鈴に手を延ばしていたのだった。

 彼は呼び鈴を押した。ドアの向こう、家の奥の方で鳴っている音がしたかと思うと、即座に――まさに音がした瞬間、彼の指が呼び鈴のボタンから離れてさえいないうちに、ドアがさっと開いて女性がそこに現れた。

 ふつうなら呼び鈴を押しても、ドアが開くまで、どう考えても三十秒ほどはかかるはずだ。だが、この女性はまるでびっくり箱を開けたときのように出てきたのだ。呼び鈴を押す――すると、ぽん! 彼はぎょっとして跳び上がった。

 女は四十五から五十歳といったところ、彼を見るとたちまち暖かな、よく来てくれたと言わんばかりの笑顔を見せた。

「お入りになって」にこやかにそう言う。脇へ退いて、大きく開いたドアを押さえたのにつられるように、自分でもはっきりと気がつかないまま、ビリーは足を踏み出していた。自分でもよくわからない衝動にかられたというよりは、あとについて中に入っていきたいという欲望が、抑えがたいまでに高まった、と言った方が正確だろうか。

「窓の張り紙を見たんです」なんとか自分を抑えようとしてそう言った。

「ええ、わかってますわ」

「空き部屋があるんでしょうか」

「もちろん、ちょうどぴったりのお部屋がありましてよ」彼女の頬はふっくらと薄紅色、青い目はとても優しげだ。

「『鐘とドラゴン亭』に行こうと思ってたんです」ビリーは言った。「でも、偶然、ここの窓の張り紙が目に入って」

「あらあら」と彼女は言った。「外は寒いでしょうに、どうぞお入りになって」

「おいくらなんでしょうか」

「一泊五シリング六ペンスいただいています、朝食付きでね」

 途方もない安さだ。彼が、このぐらいなら、と思っていた額の半分にも満たない。

「高いようでしたら」と彼女は言い足した。「少しならお安くもできましてよ。朝食に卵はお望み? きょうび、卵も高くなりましたでしょ。もし卵なしでかまわないっておっしゃるんだったら、六ペンス、お引きしますわ」

「五シリング六ペンスで結構です」彼は答えた。「喜んでここに泊めさせていただきますよ」

「そうなさると思ってたました。お入りになって」

 それにしてもこの人はずいぶん親切だな。まるで、学校に行っている息子が、クリスマス休暇に招待した親友を迎えているような具合だ。ビリーは帽子を取ると、敷居をまたいだ。

「帽子はそこにかけてくださいな」というと、「オーヴァーは預かっておきましょうね」と手を貸してくれた。

 玄関ホールには、帽子もコートもかかっていない。傘もステッキも、一切なかった。

「ここはいま、わたしたちだけなんですのよ」彼女は階段を上がっていきながら、振り返ると、にっこりと笑いかけた。「わたしのちっちゃなお城にお客様をお迎えすることなんて、そうそうあることじゃないんです」

 このおばさん、ちょっとおかしいみたいだな、とビリーは考えた。だけど、一泊五シリング六ペンスってことを思えば、そんなこと、いったい誰が気にする? 「ここに泊まりたいって人なら、いくらでもいるってこと、すぐに気がつかなきゃいけなかったな」ビリーは失礼にならないよう、そう言っておいた。

「ええ、まあ、そういうことね、ええ、もちろんそうですよ。でもね、問題は、わたし、ちょっぴり、選り好みをしてしまうんです、特に――おわかりかしら」

「ああ、そいうことなんですか」

「でもね、いつも準備だけはしておくんです。お昼であろうが夜であろうがこの家へ、しかるべきお若い殿方が、いつお見えになってもいいように、何もかも用意はしてあるんですのよ。ですからね、あなた、ほら、ドアを開けたら、そこに、思っているとおりの方が立っていらっしゃるのをお見かけしたら、ほんとうにどれだけうれしいか」階段の途中まで来たところで、片手を手すりにかけたまま立ち止まると振り返り、寒さで青ざめた唇をしている彼にわらいかけた。「ちょうどあなたみたいな方が」とつけくわえ、青い瞳がゆっくりとビリーの全身を下りていき、足のところまでくると、そこからまた上がっていった。

 二階に着くと、女主人は言った。「この階はわたしが使っています」

 さらにもう一階上がった。「そしてこの階は全部、あなたがお使いになって」と彼女は言った。「ここがあなたのお部屋です。お気に召してくださるとうれしいのだけれど」小さいながらも、なかなか感じのいい寝室に案内すると、電灯のスイッチを入れた。

「あの窓から朝日が入ってくるのよ、パーキンスさん。パーキンスさんでしたわよね?」

「ちがいます」彼は訂正した。「ウィーヴァーです」

「ウィーヴァーさんね、なんてステキなお名前でしょう。シーツを温めるために湯たんぽを入れてありますよ。慣れないベッドでも、シーツが洗いたてで湯たんぽが入っていれば、くつろげるでしょう? もし寒いようでしたら、いつでもガスストーブを使ってくださいね」

「ありがとうございます」ビリーは言った。「ほんとに助かります」ベッドの覆いは取り外してあり、上掛けは一方の端できちんと折り返してある。あとはそこに誰かが入って寝るばかりだ。

「あなたが来てくださって、ほんとうによかったわ」彼の顔に熱い視線を注ぎながら、そう言った。「だんだん心配になってきてたの」

「そりゃどうも」ビリーは明るく答えた。「だけど、ぼくなんかにお気遣いなく」彼はスーツケースを椅子の上に置いて開いた。

「そうそう、晩ご飯はどうなさいます? ここにいらっしゃるまえに、どこかでお済ませになった?」

「腹は減ってません。だけど、そう言ってくださってありがとう」彼は言った。「ぼく、もう寝た方がいいんです。明日、早起きして会社に出て、報告しなきゃならないことがいろいろあるから」

「わかりました。それじゃわたしは失礼しますから、荷ほどきをなさってくださいね。ただ、おやすみになるまえに、一階の居間で宿帳にご記入をお願いできません? ここじゃ法律があって、こんなことで法律を破るわけにはいかなくて、だからみなさんにそうしていただいてるんです」女主人は小さく手を振って足早に部屋を出ると、ドアを閉めた。

 たとえ女主人の頭のネジが少々ゆるんでいるにせよ、ビリーはたいして気にもならなかった。ともかく、あの人は無害だし――これはもう疑問の余地もないことだ――どう見ても親切で、けちとはほど遠いにちがいない。たぶん、戦争で息子を亡くしたかどうかしたんだろう。それで、あんなふうになっちゃったんだ。

 数分後、スーツケースの中身を取り出してから手を洗うと、足取りも軽く一階へ下り、居間に入っていった。女主人はそこにはいなかったが、暖炉の火はあかあかと燃え、相変わらずその前には小さなダックスフントがぐっすりと眠っている。部屋は暖かく、すばらしい居心地だ。ぼくはツイてるぞ、と思いながら、両手をこすり合わせた。まったくなかなかのところじゃないか。

 ピアノの上に宿帳が広げてあったので、彼はペンを取り上げ、住所と名前を書き込んだ。そのページには、彼の名前の上に、ふたつだけ、名前が記されていた。誰でも宿帳に記入するときにそうするように、彼もその名前をしげしげと眺めた。ひとつはカーディフから来たキリストファー・マルホランド、とある。もうひとつはグレゴリー・W・テンプル、こちらはブリストルからだ。

 変だぞ。不意に彼の胸にそんな思いが兆した。クリストファー・マルホランド。何か引っかかる。

 一体全体どこで、こんな名前を聞いたんだろう。どこにでもあるような名前じゃない。

 学校にいた? いいや。じゃ、姉貴の何人もいた彼氏のひとりだったんだろうか。いや、親父の友だちか。いや、ちがう、そんな関係ではない。

クリストファー・マルホランド
カーディフ カテドラル通り 231

グレゴリー・W・テンプル
ブリストル サイカモアドライヴ 27

 いまでは二番目の名前にも、最初の名前同様、心あたりがあるような気がしてきた。

「グレゴリー・テンプルだって?」声に出して言うと、記憶をさぐった。「クリストファー・マルホランド……?」

「それはもう、ステキな青年でした」背後で声が聞こえた。振り返ると、女主人が大きな銀製のお盆にお茶の用意をして、部屋に入ってきていた。お盆を体の正面のやや高い位置で、まるではね回る馬の手綱であるかのように、しっかりと捧げ持っている。

「この名前、聞いたことがあるような気がするんです」彼は言った。

「そうなんですの? おもしろいこともあるものね」

「絶対前にどこかで聞いたはずだ。変ですよね。たぶん、新聞で読んだんだ。ともかく、有名人の名前じゃありませんよね。有名なクリケットの選手や、サッカー選手みたいな、そんな関係の人じゃない」

「有名ねえ」彼女はそう言って、お茶の盆をソファの前の低いテーブルにおろした。「いいえ、ちがうと思うわ。あの方たちは有名人ではありませんでした。でも、ほんとうにきれいな顔立ちの人でね、ふたりとも。それだけは確か。背の高い、若くてハンサムな人たちでしたよ、ちょうどあなたみたいにね」

 もう一度、ビリーは宿帳に目を落とした。「ここ、見てください」日付けを指さしながら言った。「最後の日付は二年前だ」

「そうでしたかしら?」

「ええ、そう書いてある。クリストファー・マルホランドはそれより一年近く前だ――いまから三年以上経ってる」

「あらまあ」頭をふりながら、ため息を静かに品良くつきながら、彼女は言った。「そんなこと、考えたこともありませんでした。光陰矢の如しって、ほんとうなんですね、ウィルキンスさん」

「ウィーヴァーです」ビリーは言った。「ぼくはウィーヴァーです」

「ごめんなさい、そうでしたわね!」大きな声を出すと、ソファにすわりこんだ。「わたし、ぼうっとしてしまって。ほんとにごめんなさい。こっちの耳から入っても、反対側から出ていってしまうんですのよ、ウィーヴァーさん」

 「あのですね」ビリーが口を開いた。「これって何だかほんとうに、とてつもなくへんてこなことのような気がするんです」

「そんなはずはないと思いますけれど」

「そうだなあ。どっちの名前も――マルホランドもテンプルも、単に別々の名前として記憶しているっていうだけじゃなくて、言ってみたら、どういうのかな、奇妙な具合に関連しているような気もするんです。ちょうど、ふたりとも同じ種類のことに関して、名前が知られているみたいに。ああ……そうだな……たとえばデンプシーとタニー(※アメリカのプロボクサージャック・デンプシーとジーン・タニーのこと。1926年と27年に対戦した)とか、チャーチルとルーズヴェルトみたいに」

「なんておもしろいお話なんでしょう」女主人は言った。「でもね、もうこちらへいらっしゃって、わたしの隣りにおかけになって。おやすみになる前に、お茶とジンジャー・ビスケットを召し上がってくださいな」

「どうぞおかまいなく」ビリーは言った。「こんなことをしていただくにはおよびません」ビリーはピアノの脇に立ったまま、カップだの皿だのと忙しく準備する手をじっと眺めた。小さく、色白で、爪の赤い手が、めまぐるしく動き回っている。

「きっとその名前をぼくは新聞で見たんだ」ビリーは言った。「あとちょっとなんだけどな。あとちょっとで思い出せそうなのに」

 記憶の鳥羽口まで来て、中に入れないというときほど、いらいらが募ることはない。絶対、あきらめるもんか。

「ちょっと待ってくださいよ」と彼は言った。「ちょっと待って。マルホランドですよね……クリストファー・マルホランド……イギリス西部を徒歩旅行してたイートン校の生徒の名前じゃなかったっけ。ある日突然……」

「ミルクは入れてかまいません?」女主人は言った。「お砂糖はどうしましょう?」

「お願いします。それで、あるとき急に……」

「イートン校の生徒ですって?」女主人は割り込んだ。「いいえ、ちがいますよ。絶対にそれはありません。マルホランドさんがわたしのところへいらしたときは、確かにイートンの生徒さんじゃありませんでした。ケンブリッジの学生さんでしたから。ねえ、こちらへいらっしゃって、わたしの横で、気持ちの良い火で温まってくださいな。ね。お茶の用意もできてますから」女主人は自分の横の空いた場所をぽんぽんと叩き、坐ったままビリーに笑いかけると、彼がそこに来るのを待った。

 ビリーはのろのろと部屋を横切り、ソファの縁に腰を載せた。テーブルの目の前に、ティーカップが置かれる。

「さあ、遠慮なさらないで」彼女は言った。「ここ、気持ちがいいでしょう?」

 ビリーはお茶を口にした。彼女も同じことをした。三十秒ほど、ふたりとも口を利かなかった。だがビリーには、彼女が自分をじっと見つめていることがわかっていた。半身をひねって彼の方を向き、カップの縁越しに視線をじっと自分の顔顔に注いでいるのが、はっきりと感じられる。ときどき何か奇妙なにおい、彼女の体から発散される、独特なにおいが鼻先をかすめた。少しも不快な臭いではなく、何かを彷彿とさせるようなにおいだ――だが、一体何を彷彿とさせるのだろう? わからない。クルミのピクルスか。真新しい皮のにおいか。それとも病院の廊下のにおいだろうか。

 しばらくのち、女主人がふたたび口を開いた。「マルホランドさんはお茶が大好きだった。あんなにお茶をたくさん飲んだ人を、わたしはこれまで見たことがなかったわ。あのかわいいマルホランドさんは」

「つい最近、ここをお出になったんでしょう?」ビリーは言った。頭の中では、ふたつの名前が引っかかったままでいる。いまでは、新聞で読んだことまで思い出していた――見出しで読んだのだ。

「出た、ですって?」彼女はそう言うと、目を丸くした。「あらあら、あの方はどこにもいらっしゃったりしてませんよ。ずっとここにいらっしゃるんです。テンプルさんもね。おふたりとも四階にいらっしゃるんですよ、ご一緒に」

 ビリーはカップをゆっくりとテーブルに戻し、相手をまじまじと見つめた。女主人はそれに笑顔で応えると、白い手を延ばして、彼のひざを、心配しなくて大丈夫、とでもいうように軽く叩いた。「あなた、おいくつでいらっしゃるの?」

「十七です」

「十七歳ですって!」声が高くなった。「おやまあ、理想的な歳じゃないの! マルホランドさんも十七だったわ。だけど、あの方、あなたよりちょっと小柄だったわね。ええ、確かにそうだったわ。それに、歯がそんなに白くなくて。あなたはほんとにきれいな歯をお持ちね、ウィーヴァーさん。気づいてらした?」

「見かけほどしっかりした歯じゃないんです」ビリーは答えた。「奥は詰め物だらけで」

「テンプルさんは、もちろん、もう少しお年が上でした」女主人はビリーの返事を意に介さず、言葉を続けた。「テンプルさんは、ほんとうは二十八歳になってらしたんです。でも、全然わかりませんでしたよ。ご自分でそうおっしゃるまでは、ちっともそんなふうに思わなかった。体には傷跡ひとつなくて」

「何ですって?」ビリーは聞き返した。

「あの方の肌は、まるで赤ちゃんの肌みたいでしたよ」

 しばらく沈黙が続いた。ビリーはティーカップを取り上げ、もう一口お茶を飲む。そうして受け皿にそっと戻した。相手が何か他の話をするのだろうと待っていたが、女主人はしんと押し黙ったままだ。彼はそこに坐って、自分の正面にあたる部屋の隅をじっと見つめたまま、下唇を噛んだ。

「あのオウムですけど」とうとう彼は口にした。「あれ……最初に窓から見たときは、ぼく、完全にだまされちゃいました。本気で生きてると思っちゃってましたから」

「残念ながら、もう生きてはおりませんのよ」

「あんなことができるなんて、さぞかし器用なんでしょうね」と彼は言った。「生きちゃいないだなんて、ちっともわからないですよ。どこでやってもらったんですか」

「わたしがやりました」

「あなたが?」

「ええ、そうです。わたしのベイジルちゃんにも会ってくださいました?」そう言うと、あごをしゃくって、暖炉の前で気持ちよさそうに丸まっているダックスフントを示した。ビリーはそちらに目をやった。そこで初めて、その犬がオウム同様、静かなまま身じろぎもしないでいることに気がついた。ビリーは手を延ばして、背中にそっとさわってみた。背中は固く、冷たい。指先で毛を一方になでてみると、その下の灰味がかった黒い膚が見えてきた。完全な状態で保存されている。

「これはまたすごい話だな」彼は言った。「見事な手際ですよ」犬から目を離すと、自分の隣りに坐っている小柄な婦人に、賛嘆のまなざしを向けた。「ここまで仕上げるのは、ずいぶん大変だったでしょうね」

「とんでもない。うちのかわいいペットが死んでしまったら、わたし、詰め物をして剥製にするんです。お茶をもう一杯いかが」

「いいえ、結構です」ビリーは答えた。お茶はかすかに苦く、アーモンドのようなにおいがしたが、彼はたいして気にも留めなかった。

「宿帳に記入してくださいましたわね?」

「ええ。書きましたよ」

「それはよかった。だって、あとでもし、わたしがあなたのお名前を忘れてしまっても、ここに来て見てみれば、いつだって思い出せますものね。いまだにわたし、毎日のように忘れてしまって、そうしてるんです。あのマルホランドさんと、それから、それから……」

「テンプル」ビリーは言った。「グレゴリー・テンプル。つかぬことをうかがいますが、この二、三年のあいだ、ここにはあのふたり以外の客はいなかったんですか」

 片手でティーカップを高く掲げ、小首を心持ち左に傾けて、目の隅でビリーを見上げると、また優しい微笑を見せた。

「いいえ」彼女は言った。「あなただけ」



The End