心にうつりゆくよしなしごと / 小嶋基弘建築アトリエ

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おっかけ③

2005年11月20日 | うんちく・小ネタ

接合部の名称で、【鎌継ぎ】と【金輪継ぎ】を引き合いに出したので、こちらを参考までに。
それぞれいつか、ブログで記事を書いてみます。

さて、今回は、この9寸角の梁の材端部、一階柱とこの梁がどう組まれているかの木組みの紹介。

”おっかけ”は継ぎ手つまり【-接合】であるのに対して、この部位は仕口つまり【T接合】なので、タイトルとはちょっと話題が異なりますけど、ま、9寸角の部材の木組みアラカルトということで。



まず、木口。木の年輪が見える断面を『こぐち』といいますが、画像の木口に光沢が見えますでしょ。これが、何回か前のブログで紹介した、耐久性を出す為に柱の木口に塗った割れ止め・防水剤と同じもので、それが固まったもの。

構造材の中でも柱と梁とでは木材の置かれた環境がかなり異なりますから、それに応じた技術を施す訳ですが、仕口を材端に設ける際には細心の注意を払う必要があるのです。

薪を斧で割ったことがありますか?経験がある方ならすぐにピーンときた事と思います。そう、木は繊維と平行方向のズレを生じさせる加力に一番弱いのです。専門的には『繊維方向のせん断』といいます。この時の力は、斧でいとも簡単に木を真っ二つに割ることが出来る事からも分かるように、大変小さいものです。

杉を柱として木口立てした場合の圧縮許容応力度が1平方センチにつき60㎏に対して、その1/10、何と1平方センチにつき6㎏しか許容応力度が出ないんですよね(-’‘-;)《建築基準法施行令第89条第1項 注:一般の人は新単位であるSI単位だと全くピンと来ないので、あえて旧単位で掲載》

このせん断破壊というのは、一気にスパーンと破壊が起こります。それは最も怖い破壊性状を示す壊れ方なのです。つまり序々に耐力が低下するような壊れ方なのではなく、一気に耐力ゼロまで急降下する壊れ方。木造では、このせん断破壊を発生させないようにすることが大変重要なんですね。その為に木組みの方法、木材の扱い方、そして金物補強が欠かせません。

【木組み】か【金物】かといった”all or nothing”はナンセンスで、必要であれば全てを総動員して耐力と耐久性を確保しなければいけません。ただ、どうしても木組みだけというのであれば、材の”伸び”が確保出来る意匠設計、つまり【T接合】ではなくて【+接合】が伏図で出来ればメドが立つのですが、【T接合】では木組みだけで耐力を出そうとするのは難しいですね。

つまり【+接合】になる【渡り腮】が出来ればいいのだけれど、現在の住宅は外壁がフラットで壁の外に材の”伸び”を出すのが意匠上許されないので、どうしても外壁の胴差しと床梁の仕口は【T接合】にならざるを得ず、金物が必須になる訳です。

古民家等では平気で外壁から飛び出ている梁を見かけることが出来ますが、あれは構造的に【+接合】になるようにしているのですよ。汎用金物がなかった時代の、木造の理に適った木組みになっているんですね。それに、まぁ、大工としては、”蟻”を作るよりも”かませ+ダボ”の方が簡単なんですよねー。♪~( ̄ε ̄)

その様な、木口に近い、大変デリケートに扱うことを要求される部位に1階の柱の上ほぞ(凸)のほぞ穴(凹)をあける訳です。ちなみに、9寸角といった大断面材を下木に、胴差しを上木に伏図をつくる【茶臼】という技法でこの部位を構造設計しています。【茶臼】にしなければ木口近くにほぞ穴をあける必然性はなくなるのですが、そうすると、この9寸角が相手材に対して巨大すぎて荷重の検討から危険側に傾くといった問題が発生するのです。

うーん、今私が書いていることをもし住宅の設計士が読んで、一体どれ位の人が理解出来るのだろうか?

伏図を作成すること、つまり木造の構造設計とは、平たく言えば、『木と木をどう組むか?』ということな訳でして、はっきり申し上げて、現在の住宅の設計は構造設計というか、構造計画の出来ない人だらけなんですよ~(;_;)。

でもね、木造2階建てくらいであれば構造計算なんて必要ないんです、構造計画さえまともに出来るのであれば!もっと、比喩的に最上級に簡単に言えば、上階の柱の直下に下階の柱を計画しさえすれば良いんです!それすらも構造計画上意識されていない今の住宅の構造実情を、いつかご紹介しましょう。

私は2000棟を超える住宅の間取りと構造チェックをしてきた実績から、背筋が凍るような気持ちで、今の無知な木造建築の現実を嘆かわしく思っています。生意気な事を申し上げるようですが、何とかしてあげたいんですけどね…

話を材端付近の仕口の木組みに戻しますが、そういうことで、梁の材端に割れが生じにくくする為に画像の割れ止め剤を私は塗るのです。

そして、ほぞ穴にも注意して見て下さい。正四角形ではないでしょ。実は台形をしています。これを【扇ほぞ】といいます。こうすることでほぞが蟻状になり、割れ止め剤と合わせて、木口に近い部位で発生し易い【せん断破壊】を起こしにくく木組みを作っているのです。

伝統の木組みは芸が細かいんですね。伝統大工は見えない所でここまで配慮して家作りをしているのです。全自動構造材プレカットは9寸角はもちろんですが、茶臼、おっかけ、渡り腮、扇ほぞ、木口の割れ止め剤、と、紹介してきた全てに対応出来ていません。

適材適所と適切な技術が組み合わされたものでなければ、木造の理に適うことは出来ません。理に適わないことをすれば何処かに歪みが現われて、何かに不具合が発生するのが自然の摂理というものです。

理に適う納まりを学習することの難しさは、設計士が実際の重くて長くて太くてクセのある木材に対して身体を張ってさしがねと玄翁と鑿とで対峙することが無いのだから、どうしようもありませんね。

CADで簡単に指先だけで修正出来てしまう設計士には、だから生きた技術というものは宿りません。幅12センチ×高さ30センチ×長さ3.64メートルの梁を持ったことも無い人が設計すること自体、何か負の連鎖で、これからもますます木造の理からかけ離れていくものといえます。

それに「木組み、木組み」と言うけれど、グリーン材(未乾燥材)でいくら【鎌継ぎ】よりも耐力の出る【おっかけ】をしたところで、材自体が2年も経てば5~6ミリは確実に痩せるのだから、本末転倒ですよ。

設計士として基本がなっていない人達や会社組織が多すぎる。「台持ち継ぎを跳ね出してやってくれ」とか、「跳ね出し梁を出1に対してふところ1の割合、しかもその間隔が2間」とかいった具合に。木造の基本も分からない設計士が多すぎますね。

まぁ、今や本当に大切な構造の技術は完全に後ろに引っ込んでしまって、「営業」や「プランナー」やら「インテリアコーディネーター」とかいった客受けする方達が建築主と設計関連の仕事を進めていく訳だから、どうしようもないですね。人間心理として、華やかで見栄えのする設備や内装・外装の仕様にどうしても眼がいきますよ。

ですけど、今問題の構造設計の耐震設計偽造事件ではないですが、日本は地震、台風の国なんですね。まずはじめに構造ありき、という考えを是非建築主の方に持っていただきたいと思います。設備は10年もすればボロボロにくたびれていますが、取替えが容易です。しかし構造がもしボロボロであれば、どうですか?即、あなたの生命と財産が一瞬のうちに地震に奪われるかも知れないのですよ。

『自宅を木造で』とお考えの方には、木造をもっとご覧になって、知って頂きたいと思います。
私もまだまだ精進して、もっともっと勉強です。

おっかけ③終り