世相を斬る あいば達也

民主主義や資本主義及びグローバル経済や金融資本主義の異様さについて
定常で質実な国家像を考える

●富裕層の儲けは滴り落ちない 累進課税強化に舵を切れ

2016年07月01日 | 日記
これから始まる「新しい世界経済」の教科書: スティグリッツ教授の
クリエーター情報なし
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●富裕層の儲けは滴り落ちない 累進課税強化に舵を切れ

個人的には、税の支払いが増えるだろうなと思うが、以下のコラムを読んでいくうちに、世界各地で、21世紀革命などが勃発して、地球規模でギロチン処刑の蔓延が起きるくらいなら、一割ほど納税額を増やされても痛くも痒くもない。富裕層の底辺に位置する筆者でさえ、そう思うのだから、ホンマ者の富裕層の人間も、内心そのように思っているに違いない。棲んでいる社会が荒み、拳銃か仕込み杖でもステッキ代りにしなければならない社会になるのであれば、転ばぬ先の杖ではないかと思う。

アメリカ世論(イデオロギーと言っても構わな水準)は、完全に四分五裂状態で、二大政党制と云う枠組みが炉心溶融してきている。グローバル金融経済世界に、何らかの再構築が起きない限り、この傾向は、一段と鮮明になるだろう。EUも、英国離脱によって、危うい構築物であったEUそのものの、危機も視野に入ってきている。このグローバル経済構造は、システムとして世界中で組み立てられ、稼働しているわけだから、どこの誰かの制御で、簡単に止めることは不可能な状況になっている。将来的に、英国がどのようになるのか明確ではないが、グローバル経済構造と云う大きな枠組みから抜け出すことはない。

世界は、グローバル経済構造と云う「蟻地獄」に嵌ってしまい、だれ一人抜け出せない状況になっている。少なくとも、カッコつきの「国際社会」と「普遍的価値」を標榜する限り、この地獄と最後までつき合う羽目になるだろう。無論、その枠組みから抜け出す決心を、国または、国民がするのであれば、「孤立主義」を特段責め立てる第三者もいないだろう。「自分のことは、自分で決める」「世界とは、許される範囲で友好につき合う」そう云う条件付きで可能だろうが、孤立主義状態の北朝鮮の例があるだけに、二の足を踏む国や国民が多いだろうから、全世界が、行きつくところまで行かないと、“自ら足抜け”する可能性は殆どない。

そうなると、不寛容社会は益々激化し、極右、極左、イデオロギー・テロリズム、そして管理国家的政府と云う構図の対立は激化する。四者が四様の行動を起こすわけだから、その帰結が、国家や国連が制御する範囲を簡単に超越してしまうだろう。国家と国民の闘争、庶民と金持ちの闘争、白人と移民の闘争、漂流する難民‥等、一定の富を有している人間であれば、このままの世の中が、徐々に変化を遂げることを望むだろう。しかし、意外に、国家や政府と云うものは臆病で、既得の流れに待ったをかける勇気がないものだ。正直、坐して死を待つのが、国家の体質なのではないかと思う。

そのようなテーマに、超一流の富裕層が先手を打って、高額所得が、高額所得者に、「正義のある課税をすべき」と主張しはじめている。かなり前から、このような意見はアメリカで散見しているが、今年になって、あらためて表面化している。(*注:但し、これら富裕層は、革命的累進税率になるのを忌避する意味合いも含まれている点は留意すべきだ。)日本では、パロマ文書事件を契機に、OECD方式など、まだまだ、効果があるとは言えない状況で足踏みしている。資産の捕捉率を上げるなど論理的にして、役人の増える政策も主張されるが、素朴に累進課税を強化することで、相当の改善は期待できる。

≪「税金をもっと払いたい」 ニューヨークの富豪らが州知事に要望書
 米国ニューヨーク州の富豪たちが貧困層を助けるため、自分たちが納める税金を引き上げてほしいと要望したと話題になっている。
 3月21日、米ニューヨークの富豪40人余りが、自ら「金持ち増税」を要求した。経済活性化と貧困層救済、社会基盤施設拡充のために、より多くの税金を納めることが自分たちの義務であり責任だというのだ。
 富豪らは、ニューヨーク州のアンドリュー・クオモ知事とニューヨーク議会議員に送った書簡で「ニューヨーク州内の一部の都市では貧困児童の割合が 50%を超え、ホームレスが8万人を越える現実が、私たちは恥ずかしい。まだ多くの人たちが21世紀に必要な技術を持っていないまま、経済的な苦痛を受けている」と明かした。
 さらに、「上位1%所得者たちが、もっと多くの税金を負担し、その金で貧困児童とホームレスたちを助け、必ず必要な社会基盤施設を拡充してほしい。人と社会基盤施設に対する投資が新しい雇用を創出して、深刻な所得不平等を解消できるだろう」と話した。
 彼らは「公正な税率のため、上位1%の税金計画(1%Plan for New York Tax Fairness)を提案する」、「私たちのような上位1%の富裕層に、さらに高い所得限界税率を賦課してもよい。私たちはもっと多くの税金を納める能力もある」と強調した。
 この書簡には、ロックフェラー家のスティーブン・ロックフェラーやウォルト・ディズニーの孫娘で平和運動に関心を傾けている、アビゲイル・ディズ ニー、慈善事業家であるエルスペス・ギルモアなど年間所得が66万5000ドル(約7422万円)を超える所得上位1%の金持ち40人余りが署名した。
 彼らが提案した税率は、富裕層増税を推進する民主党の法案よりずっと破格的だ。米国の上位1%に当る年間66万5000ドルの所得を上げる人には 7.65%の税率が適用される。続いて、年間所得が100万ドル(約1億1161万円)、200万ドル(約2億2322万円)、1000万ドル(約11億 円)、1億ドル(約111億円)以上に該当する区間の税率は8.82%、9.35%、9.65%、9.99%に上昇する。このような増税案が可決されれば、22億ドル(約2456億円)の追加税収を確保できると推定される。
 ニューヨーク州の現在所得税率は2017年に満了されるため、新しい州所得税法案をまとめている。
※1ドル=111.61円で換算  ≫( NEWSALT>未分類>「税金をもっと払いたい」)

我が国でも、国税当局が、富裕層2万人に対して、10項目課税強化基準の設定に乗り出している。日経新聞は、≪大口資産家の選定基準が将来下がる可能性もある。締め付けの厳しい日本から税率の 低い新興国などに脱出する富裕層は今後も増えるだろう」≫と最後に締め括り、富裕層への課税強化は、富裕層の海外流出に繋がると警鐘を鳴らしているが、予定調和な言いぐさである。日本の住み易さを充分にわきまえ、それを満喫している高齢富裕層が、おいそれと、日本語の通用しない国にヨタヨタと出ていく可能性は、実は僅かに過ぎないだろう。

≪ 「富裕層2万人」 課税強化で10の選定基準(真相深層)
国税当局が富裕層の課税強化に乗り出している。1月に所得税や相続税の最高税率を引き上げ、7月には有価証券1億円以上の保有者の海外移住による課税逃れを防ぐ「出国税」を導入した。国の借金が1000兆円を超えるなか、「取れるところから取る」という強い姿勢が垣間見える。国税当局が注視する富裕層(大口資産家)とは。その選定基準が取材で明らかになった。 国税庁は、職員向けに税務調査の事務マニュアルに当たる「個人課税事務提要(事務手続編)」という文書を作成している。日本経済新聞の「税金考」取材班が情報公開請求したところ、開示された文書にある大口資産家の選定基準の部分は、「正確な事実の把握を困難にする恐れがある」との理由から「黒塗り」 にされ、非開示だった。
 このため、複数の国税OBらに取材した結果、国税当局による大口資産家の「10の選定基準」が判明した。
■「7年一巡」目安
 主な基準は「経常所得の合計金額1億円以上」「相続(遺贈)財産5億円以上」「有価証券の年間配当等の収入金額4千万円以上」「所有株式800万株(口)以上」「貸金の貸付元本1億円以上」など。
  「継2(けいに)」。税務署では大口資産家の資産状況などの資料を「継続2管理事案」という区分で管理するため、大口資産家はそう呼ばれている。ある国税 OBは「各税務署は継2の『個人調査ファイル』を作り、資産状況や資金の流れを厳密に管理している。東京都心なら1税務署当たり500件以上はあるはずだ」と明かす。
 税務署の調査官は、「確定申告書」 や所得2千万円超の納税者に提出を義務づける「財産債務明細書」、金融機関などが個人との取引内容を報告する「支払調書」などの資料を基に対象者を抽出。 その中から保有資産の収益性や流動性が高い人物を重点対象としてリストアップし、「7年一巡」を目安に税務調査しているという。 別の国税OBは「富裕層の多い東京では対象者を絞り込むため設定金額を高く設定している。地方では東京の半額程度でも対象者になる可能性が大きい」と指摘する。今回明らかになった選定基準などについて、国税庁は「コメントは差し控える」としている。
 では、大口資産家は国内に何人いるのか。正確な統計はないが、2013年の国税庁の申告所得税標本調査によると、申告納税者のうち所得1億円超は約1万6千人。高額の財産を相続した人などを合わせれば、国内の大口資産家は「少なくとも2万人は超えている」というのが国税OBらの共通した見解だ。
 ■納税額の18%
 所得1億円超の納税者は、約623万人の納税者全体のわずか0.3%にすぎないが、納めた所得税額は全体の18.3%に当たる9820億円に上った。富裕層は国内外に資産を持ち、高度な節税対策を講じているケースが多いため、国税当局は税務調査の体制も強化している。
  各税務署では約10年前まで所得税などを担当する「個人課税部門」と、相続税などを担う「資産課税部門」が別々に大口資産家を調査し、選定基準もバラバラだったとされる。しかし、個人の資産運用の国際化と多様化が進むなかで縦割りの弊害を防ごうと、今は選定基準を統一し、資料は一元管理している。
 国内外に数十億円規模の資産を持つ「超富裕層」については、昨年7月から東京、大阪、名古屋の各国税局に専門チームを設置し、部門を横断して情報を収集している。
  富裕層の節税対策などを手掛ける田辺国際税務事務所の田辺政行税理士は「大口資産家の選定基準が将来下がる可能性もある。締め付けの厳しい日本から税率の 低い新興国などに脱出する富裕層は今後も増えるだろう」とみる。国税当局と富裕層の「にらみ合い」は始まったばかりだ。
 ≫(日経新聞:(真相深層・高岡憲人)


パナマ文書が一時日本中を騒がしたが、サミットでも重大のテーマとはならず、有耶無耶なテーマ羅列の一つに埋もれた。国税当局の富裕層課税強化も、氷山の一角過ぎる。資産に注目するだけでは不足で、年収基準で、累進税を引き上げることで、税収の30%水準が実現するだろう。消費税の数%の引き上げなどは、「課税の正義」を完了してからで充分だ。また、肥大した霞が関官僚組織の解体も重要なテーマであり、それこそ、「増税する前のやるべきことがある」なのだ。パロマ文書によると、日本からケイマンに2015年現在の証券投資残高は「60~70兆円」に達している。この金が、金をタックスヘイブンの地で利益を積み重ね、税は無税だ。


≪ 富裕層の「税金逃れ」を封じれば消費増税は不要になる

■広く、浅く、取り易い徴税の惰性 から脱却し
「強い者に強い徴税」へ
6月冒頭、安倍首相は2017年4月に予定していた消費税率10%への引き上げを、2019年10月へと再度延期することを決めた。安倍首相は記者会見で「財政健全化の旗は降ろさない」と明言し、改めて「19年10月には必ず引き上げる」ことを強調した。
 安倍首相は2年半、30ヵ月間の再々延長で、引き続き消費税増税への執念を見せている。しかし、それよりも最優先すべき政策課題は富裕層の野放図な「税金逃れ」の実態にメスを入れることではないか。「税金逃れ」には厳罰をもって重税を課すなど、富裕層の「税金逃れ」を徹底的に封じて、それを税収の新たな有力財源に育て上げていく発想の転換により、懸案の租税負担の公正化とともに、平準化を期するための法整備を急ぐことが先決ではないのか。
 先に公表された「パナマ文書」で、富裕層の「税金逃れ」の呆れた実態と共に、歴代の行政府が中長期にわたって税金のかからない海外のタックスヘイ ブン(租税回避地)の大がかりなからくりの存在を知りながら、有効な対抗策を打てずに結果として放置してきたという事実は、この機にもう一度検証されるべきであろう。行政府のそうした怠慢が、皮肉にも日本に発想の転換を迫り、その緊急性を示唆しているとも言える状況だ。
 増税延期に伴い、ならば代わる財源を何に求めるべきかの議論が本来あって然るべきであったが、その後に続いた舛添要一・前東京都知事の辞任騒動、 世界の金融市場を混乱に陥れた英国のEU離脱騒動、そして目前に迫っている参院選といった重大ニュースの陰に隠れて、素通りしてしまったかのように見える。
今回は、改めてこの点に焦点を当てて考えたい。
 考えてみれば、これまで税務当局が見逃してきた富裕層の「税金逃れ」封じを徹底し、とりわけ目にあまる相続税の捕捉率の低水準を抜本的に改善し、 向上策を図るだけでも、日本の税収は一挙に、大幅に潤うはずだ。そうすれば、消費増税はもとより中長期的には消費税そのものが不要になる、ということも決して夢物語ではなく、不可能ではない。
 長年の懸案であった「社会保障と税の一体」改革が目指す恒久財源の確保が期待できるだけでなく、租税負担の不公正、悪平等に伴う深刻な格差拡大の是正にも大いに貢献できるため、行政府は不退転の決意で直ちに取り組んでほしい。 税務当局をはじめ、行政府が中長期にわたり、「パナマ文書」が公表したような富裕層の「税金逃れ」の呆れた実態を掌握していながら、手を拱くだけ で、ほとんど放置してきた社会的な責任は重大である。これを機会に、行政府は国家百年の計に立って、安易に取り易い非富裕層から広く浅く徴税する、現行の 「弱い者いじめ徴税」の惰性から脱却すべきだ。
 富裕層の「税金逃れ」を決して見逃さない、強い者にも強い徴税を行う体系を根本的に組み直し、本来の所得再分配機能を取り戻せるよう、租税負担の公正化と平準化へ向けた抜本改革に、真剣に取り組んでほしい。
 ■富裕層の税金逃れを炙り出せば
 消費増税の数倍の効果が出る?
 行政府の試算によると、消費税率を8%から10%へ増税するのに伴い、期待されている税収の増額分はわずか5.8兆円に過ぎない。元国税調査官の 証言によると、「海外に資産や所得を移せるレベルの富裕層の『税金逃れ』の実態は計り知れず、行政府のやる気次第では、それを炙り出す効果は5.8兆円の 数倍に及ぶ」という。
 そんな宝の山を見逃がしたままで、その穴埋めをより安易に一網打尽で捕捉できる消費税とその増税に求めることは、「経国済民」の根幹であり社会基盤でもある徴税体系の本来の趣旨と狙いに相反する、反社会的な愚策であると言わざるを得ない。
 国内外の経済情勢はなお不透明で、2年半となる30ヵ月先であれば、日本が懸案のデフレを脱却し、消費税の増税を受け入れるだけの客観情勢が整ってくると思うのは単なる願望であり、その保証は何もない。
そんななかで近い将来、消費増税を断行する政治的な判断は決して「新しい判断」とは言えず、無謀な蛮勇に過ぎない。GDP(国内総生産)の屋台骨である個人消費が伸び悩むなかでの消費増税は、より多くの善良な国民を委縮させ、国力を劣化させて、アベノミクスの第3の矢である成長戦略に水を差し、足を引っ張るだけで、経済の歯車を悪循環させかねない。
 パナマ文書によると、「海外に資産や所得を移せる」レベルの富裕層は税金のかからない海外のタックスヘイブン(租税回避地)を利用して「払うべき 税金を払わずに、いわゆる税金逃れ」をするだけではない。各国の税務当局が富裕層の「税金逃れ」を未然に防ぐためとして、富裕層に課税する税率を大幅に引き下げ、租税の負担は「税金逃れ」のできないレベルの非富裕層に押し付け、しわ寄せを強いているという、二重、三重に不公正で悪平等な徴税実態が、同文書から明らかになってきた。
 パナマ文書とは、パナマの法律事務所であるモサック・フォンセカの膨大なデータが、南ドイツ新聞社に持ち込まれたもの。同新聞社がデータを分析する ため、ICIJ(国際調査報道ジャーナリスト連合)に協力を呼びかけ、世界76ヵ国、107の報道機関から約400人の新聞記者が参加して、1年前から調 査、分析を進めている秘密文書である。日本からも共同通信と朝日新聞の記者が各1名ずつ参加して、分析作業は今も続いている。
 ファイル数にして1150万件に及ぶ膨大なデータには、過去40年間にわたる21万件のタックスヘイブンでの取引データが記録されている。その中 には、ロシアのプーチン大統領をはじめ、英国のキャメロン首相ら現役の政治家や経済人、アスリート、芸能人など、世界中の著名人が含まれている。アイスラ ンドのグンロイグソン首相が辞任に追い込まれるなど、パナマ文書の公表に伴う波紋も広がっている。
 ■パナマ文書で暴き出された
 合法的な「租税回避指南」の実態
 そもそも、タックスヘイブンとは何か。税金がかからないか、ほとんどかからない国や地域のことであり、一般に「租税回避地」と訳されている。登録 された口座情報などを秘匿して、他国には開示しない「秘匿性」が利用する者にとっては大きな利点になっている。このため、法人であれ個人であれ、その区別 なくタックスヘイブンに住所さえ登記すれば、誰にも知られずにその恩恵を享受できる仕組みである。  各国に子会社を置く多国籍企業をはじめ、ヘッジファンドなど国際金融市場で活躍する投資会社の多くは、タックスヘイブンに本籍を置いて、法人税の 節税やその回避に布石を打っている。個人にしても今や「資産や所得を海外に移せる」レベルの富裕層は「税金逃れ」のため、タックスヘイブンの積極的な利活用が常態化しつつある。
 ただ、情報の秘匿性を悪用すれば、法人、個人を問わず、誰もが租税回避のための資産隠しや所得隠しがいとも簡単にできるため、合法的に租税を回 避、脱税することが可能で、乱用されないとも限らない。その意味で、各国の税務当局としては誠にありがた迷惑であり、見過ごすことができない抜け穴であるため、対策に頭を痛めており、手を拱いている。
 特に、タックスヘイブンが合法的な租税回避を指南し、ほう助するコンサルティング機能を備えているため、お手上げ状態である。当然のことながら、 犯罪がらみや汚職がらみの資金、さらにはロンダリング狙いのアングラマネーなどの逃げ場としても利活用され、いわばダーティマネーの吹き溜まりとも言われている。
■世界中の富が吸い寄せられ
 出口の見えない私的な「埋蔵金」へ
 しかも、公表されたパナマ文書は、氷山のごく一角に過ぎない。タックスヘイブンは今や主な国・地域だけでもケイマン諸島、ヴァージン諸島、香港、 シンガポール、ルクセンブルグなど、国際金融市場の隅々へ浸透し、深く根を下ろしている。そのため、世界中の大企業をはじめ、個人でも「資産や所得を海外に移せる」レベル以上の富裕層にとっては、決して非合法ではなく、合法的な節税スキームとして利活用されている。
 しかし、「非合法ではなく、合法的」であるからこそ、問題なのである。企業が大きくなり、本社をタックスヘイブンに移すと、母国では税金が取れな くなるため、それだけ母国の税収は減り、不足する。所得や資産が増えた個人についても、タックスヘイブンにそれらを移して隠されると、母国での課税が難しくなる。世界経済の成長と発展とともに、国際社会はどれだけの大企業や富裕層を次々と誕生させてきたか、その数は計り知れないが、その多くがタックスヘイブンを直接的・間接的に利活用してきたことは間違いなかろう。
 本来は母国の税収を潤沢にするはずであった莫大な所得や資産の多くが雪崩を打ってタックスヘイブンに流れ、隠されて、そのほとんどが出口の見えない私的な「埋蔵金」と化して、迷宮入りしていく実態は看過できず、公益に反する反社会的な経済行為と言える。
 タックスヘイブンの起源は古く、19世紀にまで遡るが、国際社会の中でその存在と利活用が世界各国の税収を圧迫し、世界経済に悪影響を広げ、直接の被害が表面化してから半世紀余。IMF(国際通貨基金)によると、今や世界の銀行資産のうち半分以上が、また多国籍企業の海外投資のうち3分の1以上 が、タックスヘイブンを経由していると見られている。
 IMFの2010年の発表では、南太平洋の島嶼地域におけるタックスヘイブンに限っても約18兆ドル(当時の円換算で1944兆円)もの資金が吸い寄せられていた、と見られている。これは、世界のGDP(国内総生産)のおよそ3分の1に相当する巨額な資金量である。国際NGO(非政府組織)の税公正ネットワークは、全世界のタックスヘイブンには2010年末時点で、およそ21兆ドル(同2270兆円)から32兆ドル(同3450兆円)もの金融資産 が保有されていると分析している。
 さらに、欧州の大企業の99%がタックスヘイブンに子会社を保有している、とも報告している。米会計検査院も、アメリカの大企業の83%がタックスヘイブンに子会社を保有している、と発表している。世界経済にいかに多大な影響を与えていることか、想像に難くない。
■海外資産保有申告者はわずか約8000人、
 相続総資産に対する相続税はたった2%
 パナマ文書に登場する日本の企業や富裕層の個人名はわずか400余に過ぎないが、これは日本の企業や富裕層の多くが、タックスヘイブンとしては免税の面で「最強」であり、秘匿性の面で「本丸」とされているカリブ海上のケイマン諸島を利活用しているためである。BIS(国際決済銀行)の発表による と、2015年の時点で同諸島に投じられた日本の資金量は63兆円に及んでいるが、これは日本の国税総収入にも匹敵する巨額な資金量であり、無視はできな い。
 日本には、億万長者がおよそ100万人以上はいるとされており、5000万円以上の海外資産を保有する者には申告する義務を負わせているが、正直に毎年申告している者は、今のところわずかに約8000人しかいない、とされている。仮に、100万人の億万長者が全員海外資産を保有していたとして、申告者がそのうちの約8000人なら1%以下だ。これはあまりにも少なく、非現実的な数字である。実際には、申告者のおおよそ10倍から数十倍はいるものと見られている。しかし、これらの富裕層の海外資産には、タックスヘイブンの秘匿性の厚い壁に阻まれて、日本の税務当局が接近し、介入できる余地はない。
 このため、所得や資産を海外に移せるレベルの富裕層の99%以上がまともに税金を払わずに済んでおり、それができないレベルの非富裕層に租税の負担が押し付けられ、しわ寄せが起きているのが現実である。日本の徴税体系が長い間、国際的な大がかりなからくりに絡め取られ、ほとんど野放し状態で続いて きていることの方が不思議ではないか。
 相続税逃れがその典型例である。パナマ文書で明かされた安全保障会社セコムの創業者・飯田亮最高顧問とその親族をはじめ、5年前にマスコミを賑わせた消費者金融の武富士の創業者・武井保雄元会長夫妻などは、タックスヘイブンを利活用して、相続税などの「税金逃れ」に成功した億万長者の事例である。 武富士に至っては、当時の贈与に関する「海外の財産は、海外在住の人に贈与する場合は贈与税がかからない」という特例の抜け道を利活用して、無税ですり抜けた強者である。長男へ贈与した株式の時価総額は、推定2600億円。普通に贈与していれば、1300億円の贈与税を支払わなければならないところを無税で済まされては、税務当局としても無念であったに違いない。
  タックスヘイブンによる相続税逃れがいかに急増しているか。その実態はおおよそ把握できていないが、相続税の税収が全く伸びず、年間で総額1兆円が やっとのペースで低迷しているとは驚きである。日本には現在、およそ1700兆円に及ぶ個人資産があり、少子高齢化の下で相続は引きも切らずに続いているにもかかわらず、だ。全国の相続資産に対する相続税の割合はわずか2%に過ぎず、98%はそのまま相続した遺族の手に渡ることになる。その主因がタックス ヘイブンにあることは、言うまでもない。
 ■「焼石に水」では意味がない
 OECDの制裁ルール導入は奏功するか?
 OECD(経済協力開発機構)が国際的な「税金逃れ」を防ぐため、悪質なタックスヘイブンに対する制裁を検討することになったが、これは一歩前進とはいえ、どこまで国際的な連携体制を組めるか、課題は多い。
 タックスヘイブンに開いた口座などの情報提供に非協力的な国や地域を「悪質」と認定するルールを構築して、各国が制裁措置を発動できる体制を整えることが狙いで、差し当たり20ヵ国・地域が対象になる見込みである。
 OECDでは、悪質かどうかを判断するため、複数の基準を設ける予定である。1つには、各国の税務当局が富裕層らの口座情報を年に1回ずつ自動的に交換する国際ルールを構築し、2017年から運用・実施するが、これに参加しない場合は悪質と認定する。
 2つには、海外の税務当局から特定の口座情報の提供を要請された際、非協力的な場合も悪質と認定する。これは、税の透明性を審査する国際組織の評 価基準を満たせるかどうかで判断する。2015年の評価では、パナマをはじめミクロネシア連邦、インドネシアなどが悪質とされている。
 事業実態のないペーパーカンパニーの取り扱いも焦点の1つであるが、当初は実質的な所有者の情報開示は努力義務にするなど、個人情報の保護に配慮 しながら開示方法を検討し、数年後には制裁基準に含める予定である。すでに欧州には、富裕層がタックスヘイブンに資産や所得を移しても母国並みの税金を課すなど、未然の防止策で独自の制裁を設定している国・地域もあるが、これらの取り組みも国際連携を強化して、効果を上げていく必要がある。
 OECDでは、6月30日から京都で開催する租税委員会で悪質行為を認定するルールづくりの協議に入る。7月には中国・成都で開催する G20(20ヵ国・地域財務相・中央銀行総裁会議)でも採りあげ、さしあたり日米欧や中国など40を超える国・地域でタックスヘイブンのブラックリストの共有を目指すとしている。
 果たして、効果のほどはどうか。これらの取り組みを「焼け石に水」で終わらせてはならない。日本国民は、消費増税延期騒動の陰に隠れてしまった富裕層の「税金逃れ」封じの是非を、国を挙げて議論していかなければならない。  
≫(ダイアモンドONLINE:経済・時事>DOL特別レポート・嶋矢志郎 (ジャーナリスト) )

マイナス金利
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日本の富裕層は金に埋もれて底辺を味わえ! (とおりすがり)
2016-07-01 20:28:28
増税するたびに、外食はじめ食い物がどんどんまずくて高くなってくる。
日本の食が他国に比べ良かったのは、食に金を出す舌の肥えた分厚い中間層が居たから。
いまや貧困層ばかりで食に金を掛ける層が居なくなった。
そうなると美味い食い物を出す料理屋もなくなる。
何故なら、金持ちも貧乏人も一日に食べる量は変わらない。
百倍金持ってる金持ちが百倍食べてくれる訳ではない。
となれば、外食に金を掛けない貧困層ばかりになると、客が来なくなるから大半の料理屋は潰れるしかない。
料理屋がつぶれて数が少なくなれば、料理屋同士の競争も、切磋琢磨も無くなる。
すると、食のレベル全体が下がる。
そうなると、金持ちが幾ら金を出しても、この国では美味い物が食えなくなる。
格差社会になった国では、金持ちでも不味いものしか食えない。
イギリス、そしてアメリカしかり。
日本も中間層が消えつつある。
日本から美味い物が絶滅するのも時間の問題だ。
もしも金持ちが美味い物を食い続けたいなら、この国の中間層を、もとに戻して太らせないと駄目だ。
だが日本の金持ちは、それに気が付くレベルにまだ到達して居ないから駄目だ。
アメリカの富裕層は、流石に自分達が不味いものしか食えなくなってるのに気が付いてきた。
それでサンダースとかが支持される余地が出て来た。
少しは中間層に厚みが無いと、富裕層の生活レベルも一緒に下がって金を持っている意味がなくなる。
それに気が付かない日本の富裕層はアホだ。
不味いものしか食えなくなって、失望すれば良い。
金なんか幾ら持ってても、無いものは手に入らないし永遠に食えないと知れ!
Unknown ( 武尊)
2016-07-02 00:12:27
アハ(;^_^A我が家も相続税払わなかった、、。その替わり時価が下がってた、、。
Unknown (中間層)
2016-07-02 02:48:50
アベノミクスが始まってから租税回避金額はうなぎのぼり。
日本政府は裏社会のいいなりだから本気では規制しないだろう。

タックスヘイブン規制は21世紀資本主義につきつけられた重大な問題。

参議院選ではタックスヘイブン規制を発表した共産党議員に入れます。
ねじれにして好き勝手な売国をさせないようにする。

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