世相を斬る あいば達也

民主主義や資本主義及びグローバル経済や金融資本主義の異様さについて
定常で質実な国家像を考える

●一個人の裁判官の良識か 最高裁の意識改革が動き出したのか?

2015年03月10日 | 日記
虚構の法治国家
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●一個人の裁判官の良識か 最高裁の意識改革が動き出したのか?

日本司法の劣化が叫ばれて久しい。今回の岐阜県美濃加茂市の藤井浩人市長の贈収賄事件の裁判において、「無罪」が言い渡されたことで、日本の裁判所に良識も残っていた、と判断するのは早計だろう。郷原弁護士がツイッターを駆使し、ビデオニュースドットコムに出演、事件の詳細を語っていた内容から考えて、「有罪」の判決を出すこと自体が勇気を必要とするような、極めて狂気的逮捕起訴であり、日本の刑事司法体質の悪しき慣例を総まとめにしたような好例事件で、起訴した方こそが犯罪集団のような様相を呈していた。

民間人の詐欺事件などは10億円でも、警察、検察の人々にとって、大きな獲物とはいえない体質がある。ところが、彼らの組織にとって、政治家、それも目立つ政治家の贈収賄立件は、警察、検察人生において勲章になる不文律が存在する。当然、プライドも満足できるし、人事考課も大きく影響するし、内内の世界におけるポジションが総体的に上がるように出来ている。一概なことは言い切れないが、日本の司法制度とは、その制度を運用する連中が、すべて法の理念を忠実に守る存在ではないと云うことである。

司法に無謬性があると云うのは、「原発安全神話」と同じもので「司法の正義神話」が存在する。しかし、我が国にあるシステムの多くは、人間が運営しているわけで、無機質なロボットが感情移入することなく、正確に運営しているものでないことを理解する必要がある。日本は「神話」が好きだが、古代の神話には、ロマンもあれば、憧れや、願望が含まれていても、あまり害はない。しかし、現実に、出鱈目の動物と言える人間様が操るシステムなのだから、根本に誤謬はつきものなので、疑ってかかるのは、正しい対応姿勢なのである。

だからと云って、人間は蔑むべきものかと言えば、そうではない。人間は誤謬の連続で生きている生き物。しかし、その誤謬の連続を乗り越えてでも、正義であるとか、気高さであるとか、優しさであるとか、そう云うものを身に着けていく生き物だと理解することだと思う。そういう意味では、政治家とか、官僚とか、司法関係者とかは、誤謬があってはならないと云う、人間性無視が運命づけられている職業人のジレンマでもあるのだろう。無論、全員がジレンマを持っているわけではなく、多くは自ら虚構の神話の中に潜り込んで惰眠を貪っているのだろう。ゆえに、霞が関文学のようなものが編み出され、立場主義に徹して、立場において過ちは許されないと云う「神話」が組み込まれて行く。ゆえに、詭弁や強弁、時には開き直りを含めてでも、無謬性に拘泥する。政治家では菅官房長官と云うのが好例だ(笑)。

今回の美濃加茂市長贈収賄事件が、地裁の判事たちの良識でなされた個別の判決なのか、それとも最高裁事務総局も関与した、刑事裁判における、裁判所と検察のもたれ合いの是正に動き出したのか、判断するのは早計なのだろう。当該公判があまりにも検事らの、稚拙な手法が明白だっただけに、無罪判決を出すしかなかったのか、或いは、市民や市役所の「空気」が市長側についていたことなど、特別の雰囲気を持っていた点を考慮「有罪」は禍根を残すと思ったのか、その辺は今後の裁判所の全体的な動きを見ないと判断しずらい。

希望的観測で考えるなら、刑事裁判における有罪率が99.9%と云うことは、判事が裁判をまともに行っていない数値であり、検察が裁判官を兼ねているのと同義なのだから、よく考えれば、裁判所の権威が世間的に低下してもおかしくないのが現状なのだ。秩序が乱れることへの配慮から、自分たちの権威を失墜させている事実に目が向き始めても良い頃である。世間一般にはそういう「空気」はかなり出来上がっている。警察や検察の横着な捜査手法を助長したのが、実は日本の裁判所なのだ、と云う「空気」を払拭したくなっても良い頃合いである。

インターネット時代に入り、郷原弁護士らの奮闘や大阪地検特捜部の証拠改ざん事件や、その収拾策への疑惑。また、小沢陸山会事件における、霞が関全体の意思表示のような事件。袴田冤罪事件など、警察、検察の正義への疑念は世間的に高まっていた。瀬木比呂志氏の「絶望の裁判所」のインパクトは相当だったし、他にも「ニッポンの裁判」「虚構の法治国家」「検証法治国家崩壊」など、世間の裁判所や裁判官に対する目が懐疑的になっている「空気」は、彼ら自身、痛切に感じているに違いないので、幾ばくかの希望は持っておくことにする。ありきたりだが、多くのマスメディアも、この裁判では警察検察を社説等で叩いている。日頃から、彼らのリーク情報に頼る犯罪記事を書いている自己反省の意を示している社はない(笑)。

PS:
富山県氷見市で起きた強姦冤罪事件の損害賠償訴訟で、富山地裁は9日、県に1970万円の賠償を命じる判決を出した。一見、冤罪被害者となった元タクシー運転手だった柳原さんの勝訴なのだが、違法な取り調べをした警察官、安易に起訴した検察官への個人賠償は棄却された。しかし、冤罪事件に対しての反省、そして冤罪を繰り返さない司法の自浄作用は期待を裏切っているようだ。

そもそも、柳原さんを犯人ではない方向を示している証拠(犯人の足跡の大きさ、柳原さんの同時間における固定電話の通信記録)、を無視して取り調べをした警察、その逮捕を支持し起訴した検察に、法治国家ではペナルティーと云うものがないのだろうか。「はいはいゴメンね」悪かったから県が金払うからでは、警察や検察の組織的自浄作用は絶対に起きないことになる。たまたま、真犯人が自供したから判った冤罪事件だが、こんなに簡単に冤罪捜査が行われ、否定的証拠を隠ぺいして、自供をさせ、供述調書を作り、流れ作業のように検察が起訴する。

こういうことが何度でも繰り返されても、日本の法治を司る連中には、本当の反省という言葉は皆無のようだ。犯人ではない証拠を無視して、犯人ではない人間を自供させると云うことは、そこに強制的取り調べがあったのは、充分に推認できる話だ。なにもやっていないのに、ハイ強姦しました、と言う奴がいる筈もない。法律以前の常識じゃないのだろうか。こういう場合、法律で、担当警察官、それを指示した上司。また不用意に起訴した検察官、並びに検察に、何らかのペナルティーがつくようにしないと、幾らでも冤罪は度重なるのだろう。特に、犯行を否定する証拠の無視は、精神的に考えると罪悪だ。罪悪が裁かれない法治国など糞喰らえだ。


 ≪ 市長無罪判決―捜査の過程を検証せよ 2015年3月7日02時04分 朝日新聞社説
 捜査機関はどのように供述を引き出し、その内容を吟味してきたのか。大きな疑問符がつく事件である。
 事前収賄などの罪に問われた岐阜県美濃加茂市の藤井浩人市長に、裁判所が無罪を言い渡した。判決は、市長に現金を渡したという男性の証言の信用性に疑いを投げかけ、検察官の意向に沿ってウソの供述をした可能性にまで踏み込んでいる。
 現職市長を逮捕し、法廷に立たせた責任は重い。控訴の有無にかかわらず、警察・検察は捜査過程を綿密に検証すべきだ。
 事件には現金のやりとりがあったことを示す直接の証拠はなく、「贈賄」側の男性の「自白」に大きく頼っていた。
 自らも贈賄の罪に問われるのに、渡していない金を渡したと証言する人は、ふつうであればいないだろう。このケースが特異なのは、男性が自白した当時、別の大型融資詐欺事件の捜査を受けていたことだ。  融資詐欺事件の捜査を止めたい、また捜査関係者からよく見られたい。そんな理由から男性が捜査機関に迎合し、意向に沿う行動をとった可能性がある。判決はそう指摘した。
 巻き込まれた市長にとっては、身の潔白を証明する負担は並大抵のものではない。深刻な人権問題にもなりかねない。
 密室での取り調べでは、捜査機関側の見立てに沿った供述の強要や、保釈などをちらつかせる利益誘導がおきやすいことがかねて指摘されてきた。物証が乏しく、贈賄側の供述が重要証拠になることが多い贈収賄事件では特にその傾向が強い。
 今回のケースでは、贈収賄立証のカギを握る「贈賄」側がどのような状況に置かれて出てきた供述だったのか、捜査機関側は客観的にふまえていただろうか。立件に直結する重要証拠だからこそ、飛びつくことなく、信用に値するものか厳しく吟味すべきではなかったか。
 取り調べの過程では、供述の見返りに別の事件の訴追の手を緩めるといった司法取引的な要素が入り込むことで、真相から遠のき、ときには冤罪(えんざい)をうみだす可能性さえあることを忘れるべきではない。
 警察・検察の取り調べの録音・録画(可視化)を義務づける刑事訴訟法改正案が今国会に提出される予定になっている。だが、法案が対象とするのは裁判員裁判で扱う殺人・放火などの重大犯罪が中心で、今回の贈収賄事件も対象にならない。
 適正な取り調べを裏打ちするためにも、国会で可視化の範囲を広げる議論をすべきだ。 ≫(朝日新聞社説)

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