たんぽぽの心の旅のアルバム

旅日記・観劇日記・美術館めぐり・日々の想いなどを綴るブログでしたが、最近の投稿は長引くコロナ騒動からの気づきが中心です。

第1章_性別職務分離の状況_③M字型雇用

2016年02月28日 14時04分35秒 | 卒業論文
 ここでも『平成9年版 就業構造基本調査の解説』を参照して、男性と女性の労働力率を比較したい。1997(平成9)年の有業率を年齢階級別にみると、男性は30歳代前半から50歳代前半まで各年齢層とも95%と高く、若年層及び高齢層では低くなっており、いわゆる台形型を示している。男性に対して、女性の労働力率は20歳代前半と40歳代とを頂点として、20歳代後半から30歳代ぐらいを底辺とするM字型を描いている。(図1-1)(表1-7) 特に「30-34歳」の女性の落ち込みが大きいのは、出産・育児のためにいったん労働市場から撤退する率が高いからである。子育てが終わりに近づく30歳代後半から再び労働力率は高くなり、40代後半を頂点として再び低下していく。ライフサイクルに沿った女性の就業率は、M字型を描いている。

 このように、日本の女性の労働力率は男性との差異がかなり大きいのが特徴である。このM字型にはいうまでもなく日本型企業社会の性別役割分業構造が投影されている。学校卒業後数年間は、男女共に自分の食いぶちぐらいは稼ぐことが期待されているが、結婚あるいは出産を機に、「男は仕事、女は家庭」とそれぞれ異なる活動に専念することを良しとする社会通念があり、女性は、育児期によって労働時間を二分されることが多いのである。

 年齢階級別に男女で求職者率(無業者に占める休職者の割合)を比較してみると、男性は就業希望率と水準は異なるがほぼ同様の傾向となっている。女性で求職率が高いのは「20-24歳」、次いで「40-44歳」となっており、「30-34歳」を底辺とするM字型をやはり示している。M字型の底である「30-34歳」の女性は、無業者の約6割が就業を希望しているのに対し、実際に仕事を探している人は約2割にとどまり、就業希望率と求職者率の差異が最も大きくなっている。(図1-2)

 ここで、M字型の二つの山では雇用形態が異なることに注目したい。年齢階級別に女性の有業率を15歳以上に占める「正規の職員・従業員」及び「パート」の割合をみると、15~34歳までは、「正規の職員・従業員」の割合は有業率とほぼ同様の動きを示しているが、「正規の職員・従業員」の割合は「30~34歳」を谷とするM字型のカーブを示す有業率とは異なり、年齢層が高くなるに従い低下している。一方、「パート」の割合は「45~49歳」まで上昇し続けており、有業率のM字型カーブの年齢層の高い方の頂点に影響している。有配偶女性について同様にみると、「正規の職員・従業員」の割合は20~59歳まで大きな変化は見られず、有業率の30~44歳までの上昇は「パート」の割合の増加によるものとみられる。(図1-3) 

 このようにM字型の二つの山では雇用形態が異なる背景には、育児期にいったん労働市場から撤退した女性の職は、その前後では大幅に異なること、そして、主婦と無償労働との関連に注目しないわけにはいかない。女性の多くは若い未婚期には、大企業においてOLをし、結婚・出産によって退職して育児に専念し、子育て終了後再就職する。しかし、再就職を望む中高年女性に正規雇用の道は閉ざされている。5年ブランクがあったら、派遣会社に登録することもできないのである。 1)
 
 税制上専業主婦優遇策がとられていることも主婦のパートタイム労働者化を促進している。日本社会全体が性別役割分業を推進する構造になっているのである。税金の配偶者控除を受けることができ、また企業からは扶養手当が支給されるなどの便宜がはかられている。この専業主婦優遇策は、女性が子育て後に再就職した場合も、家庭責任と被扶養の地位と接触しない限りで働くパートタイムジョブという日本社会に特徴的な働き方を家庭責任は依然自分にあると考え短時間労働を女性自らが望むという状況を促進している。有配偶女性の就業希望者の希望する仕事の形態別の構成比をみると「パート・アルバイトの仕事をしたい」が69.3%と最も高くなっている。(図1-4) こうした主婦のニーズと、石油ショック以降雇用調整面で弾力的なパート労働を求める企業のニーズが一致した結果が日本のパートタイムジョブなのである。パートタイム労働者は、1997(平成9)年時点で女性の雇用労働者の3割を占めている。有配偶者がパートタイム労働者に占める割合は約4割である。(表1-8) 
 
 主婦のパートタイムジョブを促進している現行の税制上の専業主婦優遇策とは、具体的に以下のような内容である。家族を単位とする日本型企業社会の考え方が基礎となっている。
配偶者控除とは、 配偶者がパートタイムなどで給与をもらっている場合で他の所得がないときは、年間の収入金額が103万円以下であれば、給与所得控除(65万円)後の所得金額が38万円以下となるので、扶養家族として配偶者控除(38万円)が受けられる。さらに、パート収入が103万円以下の場合、配偶者特別控除(38万円)が加算される。配偶者特別控除は、所得がない、もしくは一定以下の配偶者が対象となるもので、高度経済成長期に「サラリーマン+専業主婦」という家族形態が一般化したため、専業主婦を持つ家庭への税制優遇を目的に1987年に創設された比較的新しい制度(創設当初は35万円、その後1995年に38万円へ引き上げ)である。妻は自分に税金がかからない上に、夫の税金から配偶者控除が引かれるという二重の税制上優遇策がとられている。また、パート収入が103万円を超える場合でも、141万円未満で夫の収入が1千万以下であれば、段階的に配偶者特別控除が受けられる。2)

 配偶者の給与収入金額による配偶者控除額及と配偶者特別控除額はそれぞれ次の表のとおりである。 3)
                                              (単位:万円)
  配偶者の合計所得金額 配 偶 者 控 除 額 配偶者特別控除額 合        計
              5万円未満 38 38 76
  5万円以上     10万円未満 38 33 71
  10万円以上    15万円未満 38 28 66
  15万円以上    20万円未満 38 23 61
  20万円以上    25万円未満 38 18 56
  25万円以上    30万円未満 38 13 51
  30万円以上     35万円未満  38 8 46
  35万円以上     38万円未満   38 3 41
                 38万円 38 - 38
  38万円超      40万円未満 - 38 38
  40万円以上    45万円未満 - 36 36
  45万円以上    50万円未満 - 31 31
  50万円以上    55万円未満 - 26 26
  55万円以上    60万円未満 - 21 21
  60万円以上    65万円未満 - 16 16
  65万円以上    70万円未満 - 11 11
  70万円以上    75万円未満  - 6 6
  75万円以上    76万円未満 - 3 3
  76万円以上 - - -

 ※ 給与所得だけの場合は、収入金額の合計から給与所得控除(最低65万円)を差し引
   いた後で判定します。

 女性のM字型カーブのボトムは、上昇する傾向にある。先の表1-7でも、「30-34歳」の女性の有業率が、0.8ポイント上昇しているが、『平成13年版 女性労働白書』にみる女性の年齢階級別労働力率の 2001(平成13)年と 1991(平成3)年との比較では、M字型のボトムである30-34歳層で52.9%から58.8%と5.9%上昇し、M字型のボトムがさらに浅くM字がなだらかになっているのが特徴的である。(図1-5) 

 なかでも、25-39歳の有配偶者女性の労働力率が大きく上昇していることが、既婚女性の年齢階級別労働力率の推移でわかる。25-39歳の有配偶者の就業者に占める雇用者の割合も大きく上昇し、既婚者の職場進出の進んでいることがわかる。(図1-6、1-7) 子育て中の女性の労働市場への進出が、M字の底上げをもたらしているのである。

 家庭をもち育児をしながら雇用労働の場で働き続けることは、多くの女性たちにとってもうふつうの選択肢となりつつある。専業主婦はすでに相対的に少数派なのである。しかし、男性のような、あるいは近年の欧米諸国のような20歳代から50歳代まで労働力率がほぼ一定の台形型(図1-7)には至らない。 男性がすべての年齢層で有業率が低下していること、女性ではM字の底があがっていることは、「男は仕事、女は家庭」という性別役割分業に基礎を置く社会システムが崩れつつあることを示してはいる。

 しかし、数の上では働く女性が増えたといっても既婚女性のパートタイム労働者化は、直接差別に代わる間接差別を生み、実質的な男女平等には至らない。さらに、主婦の賃労働者化は、「男は仕事、女は家事と仕事」という新性別役割分業を生んでいる。直接差別と間接差別については雇用形態の多様化のパートタイム労働者のところで述べたい。ここでは、新性別役割分業について考察してみたい。

 近年、「アンペイド・ワーク」への注目が高まっている。日本では「無償労働」と訳されているが、会社で給料をもらったり、商店でモノを売ったり、農家で生産した作物を売ったりする「有償労働」に対して、お金が支払われていない労働を意味する。 4) この社会的労働・有償労働にはふつう計算されない家事、育児、介護、そして教育や環境保全にかかわる無償労働は、圧倒的に女性によってのみ担われている。

 NHKの『日本人の生活時間・2000』の家事(「炊事・掃除・洗濯」「買い物」「子供の世話」「家庭雑事」の4つを合わせて家事とする)にかける時間を男女年齢層別に比較下図をみると、10代を除いて女性が男性を大幅に上回っていることがわかる。とりわけ、30代女性の家事時間が長い。(図1-8) 経済企画庁の算出によれば、1996年、GDPに対する無償労働の比率は約23%に及んだが、その84.5%は女性の働きによるもの、また女性一人当りの無償労働時間は一日平均3時間50分になるけれども、男性のそれはわずか29分弱にとどまっている(『朝日新聞』1998年5月2日)。広い意味での「不可欠な営み」においては、女は男以上に働いているのである。「自由な時間」の欠乏感は、有配偶フルタイムの女性労働者を筆頭に、どちらかといえば女性のほうにより切実であろう。5)  

 『現代日本人の意識調査』から、男性はまだまだ家事・育児は女性の仕事という性別役割分業意識が根強いことがわかる。男女のズレを示す結果として、女性では、「家庭と仕事の両立」意識が1973年から1998年の25年間に24%から51%へと2倍になっている。他方「家庭専念」は10%と少数派となった。子どもができるまでは仕事をもつという「育児優先」も「両立」を下回っている。(図1-10) また、ライフステージ別にみても、女性はいずれも「両立」支持が半数を超えている。さらに1998年の調査で有職女性ほど子どもが生まれても働き続けることを支持しているという結果も出ている。 6)

 女性に対して、男性の変化のスピードは緩やかである。女性では88年に39%に達した「両立」が男性では98年になってようやく同じ率に達している。また、「家庭専念」と「育児優先」が拮抗している。(図1-10) さらに、男性が家事・育児を手伝うのは当然であるとの意識は、25年間の間に国民全体では大幅に変化しているが、男女別にみると女性の意識が男性を上回っている。(図1-11)。男性も家事・育児を手伝うのが当たり前との意識になってきてはいるが、その変化は女性に比して緩やかなのである。では、夫も妻も同じように会社に勤めている場合、夫の協力は「手伝い」程度で十分なのだろうか。NHK「勤め人の仕事と家庭の両立についての調査」(1995年、全国20歳以上)によれば、共働きの夫婦では家事を「夫も妻も平等に分担するのがよい」という分担賛成派の男性は33%で、「女性がおもに行い、男性は手伝う程度でよい」という男性は60%にのぼっている。妻も夫も同じように会社に勤めている場合であっても、男性はお手伝い程度でよいという意識にとどまっていて「分担する」という意識までには至っていないのである。7)

 女性が職業の継続を望む背景には、家計を助けるという経済的理由のほかに、自分自身が社会とのつながりをもちたいという気持ちや社会とのつながりをもちたいという気持ちや、自立や自己実現をしたいという欲求などがある。朝日新聞社の世論調査(「家族像」世論調査 1999年全国の有権者)によれば、「専業主婦でいたい」と思わないという否定的な回答が、女性全体では60%、女性の事務職・技術職では75%と多く、主婦層でも50%を占めている。

 家庭だけの人生という閉塞感が、男性よりも「家庭と仕事の両立」を固定する意識の背景にあるのではないだろうか。女性の「両立」意識は、「男は仕事、女は家庭」という性別役割分業からの開放を求める意識なのである。8) しかし、既婚女性の就業希望者(在学者を含む)の非求職の理由をみると、「家事・育児や通学などで忙しい」が46.8%と最も高く(図1-12)、年齢階級別では、20-44歳の各層で「家事・育児や通学などで忙しい」ために就業を希望しながら求職活動を行っていない者の率が高い。(図1-13) 以上のことから本当はもっと働きたいけれど、家庭責任と被扶養の地位と接触しない限りで働けるパート労働を選択せざるを得ない「専業主婦」の姿が浮かび上がってくる。

 日本型企業社会に特徴的な女性のM字型雇用について少し長く概観したが、次に労働市場が性によって分断されていることの論理的な裏づけを検討してみたい。



引用文献

1)『Yomiuri Weekly 2002年10月20日号』14頁、読売新聞社。

2)与党税制調査会は、12月13日に2003年度税制改正大綱を決定した。その中のひとつに、配偶者特別控除の所得控除廃止を盛り込んでいる。実施時期は、2004年1月からで、所得税及び個人住民税(平成17年度徴収)が影響を受けることになる。


3) HPよりダウンロード。アドレス://www.calley.co.jp/ogawa/nencho/parto.3htm

4) 久場嬉子・竹信三恵子『家事の値段とは何か アンペイドワークを測る』2頁、岩波ブックレット、1999年。

5)熊沢誠『女性労働と企業社会』6頁、岩波新書、2000年。

6) NHK放送文化研究所編『現代日本人の意識構造[第5版]』47頁、日本放送出版協会、2000年。

7)NHK放送文化研究所編、前掲書、55頁。

8)NHK放送文化研究所編前掲書、47頁。

この記事についてブログを書く
« 今日は土曜日か・・・ | トップ | 「大草原の小さな家」への旅_... »

卒業論文」カテゴリの最新記事