たんぽぽの心の旅のアルバム

旅日記・観劇日記・美術館めぐり・日々の想いなどを綴るブログでしたが、最近の投稿は長引くコロナ騒動からの気づきが中心です。

アガサ・クリスティー『愛の重さ』-第二部シャーリー-第三章より

2022年01月27日 01時18分03秒 | 本あれこれ


「ポールドック氏は人差指を尽きだして振った。
「シャーリーはすぐ、まるっきり同じタイプの別な若僧と一緒になって帰ってくるよ。人間は自分のほしいものについてはよく承知しておる。シャーリーはヘンリーがほしいんだよ。もしも、彼という男が手にはいらなければ、あたりを見廻して、なるべくヘンリーと似たような男を探しだす。わしはそういう例を何度も見てきた。わしの親友がひどいあばずれと結婚した。細君のおかげで奴さんの生活は地獄も同然。さんさんに悩まされ、いじめられ、顎で使われて、いっとこも心の安まるときがなかった。なぜ、斧でも振りあげてぶっ殺してしまわないかと、はたでふしぎに思うくらいの悪妻だった。ところが思わぬ幸運が舞いこんだ。細君が両側肺炎にかかって死んだんだ!六か月後には奴さん、生まれかわったように見えたものだった。人柄のいい女性で、やつに関心を示すむきも二、三あった。ところが一年半のちにどういうことが起ったと思うね?前のに和をかけたひどい女と再婚したのさ。人間性というやつはまったく不可解だて」と大きく息を吸いこんで続けた。

「だからローラ、悲劇の女王のようなそんな顔をして歩きまわるのは、やめた方がいい。あんたは前にもいったように、人生を大真面目にとりすぎる。ほかの人間の人生を肩代わりするわけにはいかない。シャーリーは自分の畝を自分で耕すほかないんだ。それにわしにいわせれば、あの子だって、自分のことを自分で始末するぐらいの能力はもっているよ。おそらくあんたが手を出すより、はるかに有能にやっていくだろう。わしが心配しているのは、むしろあんた自身のことだ、ローラ。これまでもそうだったが・・・」」

(アガサ・クリスティー、中村妙子訳『愛の重さ』早川書房、昭和62年4月30日第七刷、126頁より)
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