「神奈備の磐瀬の森の 呼子鳥。いたくな鳴きそ。わが恋まさる(巻8・1419)
「かむなび」とは神の山ということで、神霊の依る木をたてて、その山に神を招いて祀ったところである。大和では、飛鳥の神奈備、竜田の神奈備、三輪の神奈備が有名だった。
神奈備山のそばの逢瀬の森で、鳴いている呼子鳥よ。そんなにひどく鳴いてくれるな。わたしの焦がれ心がいっそう強くなることよーということ。
これは呼子鳥に呼びかけた歌で、長く訪れて来ない恋人を恨む心が裏に籠っていよう。磐瀬の森の時鳥は外にも歌われ、神域の幽すいさの中に鳥の声を聞くことが、ひどく身にしみて感銘されたのである。ことにそれが晩春・初夏の季節に、含み声で鳴く呼子鳥だったことが、いっそう感傷をそそったのであろう。「わが恋まさる」の結句は、恋心がいっそうひたひたと胸にみなぎってくるということで、はなはだ率直の語気である。
鏡大王は鏡王の娘ということで、額田王の姉であり、姉妹そろって中大兄にめされた。もっとも彼女の墓が忍阪(おつさか)の舒明天皇陵の城内にあるので、天皇の皇女か皇妹であるという説もあるが、そうだとすれば鏡女王とあるのが普通である。日本紀には鏡姫王とある。懐妊中、鎌足に下され、その正妻となった。そのとき生まれた不比等(ふひら)は、だから皇胤だったことになる。
この歌は中大兄と鎌足と、どちらへの思いを述べたものか分からない。」
(36-38頁より引用)
有間皇子に次ぐ悲劇は、天武天皇の死後、謀反のかどで死を賜った大津皇子。天智天皇の娘で、天武天皇のもとに嫁いだ大田皇女(『あかねさす紫の花』の舞台では華優希さんが演じていました)が産んだ皇子です。この物語は、いわさきちひろさんの『万葉のうた』から書きたいなと思っています。
断捨離してすっきりしたら残りの人生のなかで万葉集をゆっくり味わうのもわたしの願いのひとつ。
「かむなび」とは神の山ということで、神霊の依る木をたてて、その山に神を招いて祀ったところである。大和では、飛鳥の神奈備、竜田の神奈備、三輪の神奈備が有名だった。
神奈備山のそばの逢瀬の森で、鳴いている呼子鳥よ。そんなにひどく鳴いてくれるな。わたしの焦がれ心がいっそう強くなることよーということ。
これは呼子鳥に呼びかけた歌で、長く訪れて来ない恋人を恨む心が裏に籠っていよう。磐瀬の森の時鳥は外にも歌われ、神域の幽すいさの中に鳥の声を聞くことが、ひどく身にしみて感銘されたのである。ことにそれが晩春・初夏の季節に、含み声で鳴く呼子鳥だったことが、いっそう感傷をそそったのであろう。「わが恋まさる」の結句は、恋心がいっそうひたひたと胸にみなぎってくるということで、はなはだ率直の語気である。
鏡大王は鏡王の娘ということで、額田王の姉であり、姉妹そろって中大兄にめされた。もっとも彼女の墓が忍阪(おつさか)の舒明天皇陵の城内にあるので、天皇の皇女か皇妹であるという説もあるが、そうだとすれば鏡女王とあるのが普通である。日本紀には鏡姫王とある。懐妊中、鎌足に下され、その正妻となった。そのとき生まれた不比等(ふひら)は、だから皇胤だったことになる。
この歌は中大兄と鎌足と、どちらへの思いを述べたものか分からない。」
(36-38頁より引用)
有間皇子に次ぐ悲劇は、天武天皇の死後、謀反のかどで死を賜った大津皇子。天智天皇の娘で、天武天皇のもとに嫁いだ大田皇女(『あかねさす紫の花』の舞台では華優希さんが演じていました)が産んだ皇子です。この物語は、いわさきちひろさんの『万葉のうた』から書きたいなと思っています。
断捨離してすっきりしたら残りの人生のなかで万葉集をゆっくり味わうのもわたしの願いのひとつ。
万葉百歌 (1963年) (中公新書) | |
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