たんぽぽの心の旅のアルバム

旅日記・観劇日記・美術館めぐり・日々の想いなどを綴るブログでしたが、最近の投稿は長引くコロナ騒動からの気づきが中心です。

河合隼雄・小川洋子 『生きるとは、自分の物語をつくること』より_西欧一新教の人生観

2014年01月22日 16時26分30秒 | 河合隼雄・小川洋子 『生きるとは、自分の

河合隼雄・小川洋子『生きるとは、自分の物語をつくること』96-98頁より抜粋(平成23年3月1日、新潮文庫)

小川:『源氏物語』のなかにも「物の径」みたいなものが出てきます。

河合:そうですね。物の径なんていうのは実体があるわけじゃない。近代的解釈をすれば、見た人の心の中にあるんです。夕顔の心の中にも、源氏の心の中にも物の径がいて、それが実体化して見えてくるというわけやね。

小川:その物の径が死の世界へ導く水先案内人になっている。でも彼らの暮らしぶりを見ていると、引っ張って行かれるみたいな雰囲気がありますよね。

河合:今はそういうのがない分、大量殺人とか大量の死亡事件とかが起こるわけですよ。昔は何百人もの人が一挙に死ぬなんて、天変地異でもなければなかった。戦さだってほとんど死んでない。

小川:昔は一対一の死ですよね。

河合:ところが今は1人の人間が一度に大勢の人を殺せる。飛行機なら何百人死ぬ。


小川:私は、人が大勢一度に死ぬということに対してどうしても素通りできないものを感じるんです。自分でも理屈がつかないんですが、人が大勢死んだ場所に、つい吸い寄せられて、アウシュビッツにも行きました。去年(2005年)の夏は、御巣鷹山の日航機事故から20年でした。関連本が書店に出たのですが、あの一日朝日新聞がどういうふうに事故を伝えたかというドキュメントの本があったんです。(『日航ジャンボ機墜落―朝日新聞の24時』1990年、朝日文庫)。その巻末に、乗客乗員の氏名・年齢・住所、乗っていた目的が、それぞれ一行で書いてありました。今だったらたぶん、個人情報保護法で出せないと思うのですが、それを、一日中でも読んでいられるんです。

河合:いや、そうでしょうね。

小川:そこには何の感情も込められていない。たとえば「何の何某(四十幾つ)、会社員、東京での出張の帰り」というように書いてあるだけなんです。

河合:でもその一行は、全部一つ一つの物語を持っているんですね。

小川:そうなんです。何冊もの本を読んだような気分になりました。

河合:それぞれそれまでの人生の物語がある。亡くなった五百二十人それぞれの物語の終着点が一致して、一緒に命を失ったわけです。昔はこんなことはなかった。なぜ最近は起こるかというと、それは神様がコンピュータを導入したためじゃないかと思いますよ。

小川:神様も技術を進歩させてるわけですね。

河合:ええ、そうとしか考えられないですね。

小川:墜落機に1人で乗っていた小学生の男の子がいました。夏休みに、甲子園に桑田と清原の試合を観に行くというので、お母さんがその子を1人で乗せたんです。

河合:堪りませんね。

小川:そういう事実を、一行一行読んでいくと、抜け出せなくなります。


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一年前のちょうど今ごろ、たまたま本屋さんの平積みの中から手に取った一冊でした。
このあと、わたしはとりつかれたように、美谷島邦子さんが書かれた『御巣鷹山と生きる』(新潮社)、『日航ジャンボ機墜落-朝日新聞の24時』と立てつづけに読むことになります。その時の日記は後日書ければと思いますが、母の一周忌を前に、わたしの心の中の大きな転機となりました。


今を生きる私たちは亡くなった命の重さを真摯に受けとめてつないでいく責任があると思う。
うまくいえないが、目先の利益だけに捉われて動くのもういい加減やめてほしい。
人が人じゃなくなる。悲し過ぎる。

ひとりひとりかけがえのない命。

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『日航ジャンボ機墜落-朝日新聞の24時』297頁より

 事故から三日後の8月15日午後、墜落現場の生存者救出地点の近くで見つかったボイスレコーダーは、次のように機内の会話を記録している。それは操縦不能に陥った日航123便を、何とか立て直そうとする乗務員の32分間に及ぶ苦闘の記録であった。
(ボイスレコーダーは、約30分間のエンドレステープで録音されている。以下の記録のうち・・・は判断不能部分、」””は人口合成音を示す。なおパーサー、スチュワーデスら
客室向けのアナウンスも、録音されている部分を再現したが、地上との交信部分は、一部を除き省略した)


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涙が止まりません。
1人でも多くの方が読まれるといいなと思います。
ようやくこのことを書かせていただきました。

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