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ブラック企業も住めば都

2014年05月16日 23時29分48秒 | 福島の犠牲の上に胡坐をかくな
いちえふ 福島第一原子力発電所労働記(1) (モーニングKC)
クリエーター情報なし
講談社


 福島原発を扱った漫画のうちで「美味しんぼ」を先日取り上げました。次に、私が読んだもう一つの漫画「いちえふ」の方を取り上げようと思います。「いちえふ」を書いたのは、竜田一人(たつた・かずと)という仮名の、福島第一原発(通称:1F=いちえふ)で収束作業に携わっていた原発作業員です。漫画では彼が働いていた福島の現場労働の描写から始まります。それによると、作業員はまず早朝に前進拠点のJビレッジに集まり、タイベックというつなぎの防護服に着替え、二重の靴下に靴カバー、全面マスクの完全装備で、そこから会社のバスや車に便乗して原発の各作業現場に向かいます。その着替えの様子や、作業員のIDカードや車両通行証、APD(放射線線量計)やガラスバッジなどの携行品の扱いなどの説明が、作業員目線で詳しく描かれています。
 いわく、休憩室や免震棟の扉は、外気の侵入を防ぐ為に二重扉になっており、係員によって開け閉めされる。中の空気も空気清浄機によって安全に保たれている。それらの建物から一旦外に出たら、休憩時間や急病人搬送などの緊急時以外は、勝手に中には戻れないようになっている。トイレも勝手には行けないので、必ず作業に入る前に済ませておかなければならない。
 また、それぞれの現場に合わせて放射線量の上限が決められ、その5分の1の線量に達するたびにAPDのアラームが鳴る仕組みになっている。5回のアラームで上限に達してしまうので、作業チームのうち誰か一人でも4回目のアラームが鳴れば、もうそこで次のチームと交代しなければならない。それに加え重装備なので、作業はなかなかはかどらない。作業員にとっては、放射能よりも熱中症の危険の方が、より身近な脅威となっている。全面マスクなぞも、余りきつく締めると頭痛に見舞われたりするので、締める際はほどほどのきつさに抑えなければならない・・・といった事が詳細に描かれています。
 そういう意味では、外からはなかなか分からない「いちえふ」の作業を知る上では、非常によく出来た漫画だと思います。絵のタッチなぞも、とても素人とは思えないほど上手く描けているように感じました。

 しかし、その一方で、反原発運動に対する作者の反感がそこかしこに現れているのも如実に感じました。いわく、「今回の事故について放射線について自分なりに調べてみれば 一部のマスコミや「市民団体」が騒ぐ程のものではないと分かったし」(24ページ)とか、「休憩所にはスポーツドリンクなどの冷蔵庫もある」「昨年(2012年)夏にどこかの週刊誌が「冷たい水が飲めるのは東電社員だけ」なんて書いてたが意図的な誇張だ」(32ページ)とか、休憩室で作業員が心筋梗塞で一人亡くなった時も、休憩中の作業員総出で救護に当たったのに、一方的に被曝や救急体制の不備のせいにされた(33ページ)とか、そういう表現が随所に登場します。
 もちろん、興味本位で作業員をまるで3Kのルンペンのように差別するのは論外ですが、ではこの作者も、何の根拠も示さず「放射線の影響は騒ぐ程ではない」と一方的に決めつけ、「一部のマスコミや「市民団体」」という表現で、反原発運動をまるで偏った特殊なものであるかのように差別的な目で見ているという意味では、「どっちもどっち」だと思いました。
 その後の「冷たい水」云々の件も、確かに冷たい水は東電社員も下請け作業員も飲めますが、賃金は圧倒的に前者の方が高く、被曝の危険も後者の方が圧倒的に高いのに、その決定的な差を見ずに表面的な事象だけで「差別なぞ存在しない」と言い張った所で、ただ単に自分で自分を慰めているだけではないですか。
 心筋梗塞の件も、被曝との因果関係が現時点で完全に立証された訳ではありませんが、広島・長崎やチェルノブイリの例からも、それがガンや白血病と並んで死因の多くを占める事が経験的に知られています。そういう面も含めて総合的に観る事をせずに、自分の思い込みだけで話を進めています。

 そのくせ、「いちえふ」の下請け作業員として今の会社に採用されるまでは、内定は形だけで会社自体がドロンしてしまっていたり、いざ福島まで来ても仕事を全然紹介してもらえず、タコ部屋みたいな所に押し込められて寮費や食事代だけ天引きされたり、6次下請けでどんどん賃金が間でピンハネされ自分たちは日給8千円程度にしかならなかったり・・・といったエピソードが次から次へと出てきます。私なぞは、これらの問題の方が、むしろ「わしらも冷たい水が飲める」事よりもはるかに重大だと思いますが。
 結局、この漫画で言わんとしているのは、「ブラック企業も住めば都」という事でしかない。何の事はない。「奴隷根性」や「諦め」を煽っているだけではないですか。

 

 確かに、原発とは全然無関係の、私のバイト先の職場でも、こういう事はありますよ。
 給料は安いし、社員もボンクラだし、まともに考えたらとてもやっとれんが、でも、どうにか食べて行けるだけの給料はもらえて、食堂の飯もそこそこ旨い。休みも一応週二日はあるし、残業もそんなには無い。上を見たらキリがない。
 また、俺らは俺らなりに一生懸命仕事しているのに、外から「ド底辺企業」みたいに言われたら腹も立つ。
 そういう意味では、この竜田一人の職場は、私の職場の問題でもあるのです。私が当初「美味しんぼ」よりも先にこの「いちえふ」の方を取り上げようと思ったのも、正しくそんな理由からでした。

 でも、そこだけに止まっていたら、もう人間としてお終いではないでしょうか。この際はっきり言いますが。
 仕事を一生懸命するのは当たり前の事です。別に「いちえふ」だけに限った事ではありません。しかし、「上から言われた事をただ言われた通りにするだけが仕事だ」と言うのであれば、その程度の事ならサルでもします。ただ「上から言われた事をただ言われた通りにする」だけでなく、「ド底辺」な現状も同時に変えようとする所にこそ、サルにはない人間としての値打ちがあるのに。
 賃金ピンハネや労災、被曝労働を減らそう。農漁業や観光、その他の産業も興して、危険な原発にばかり頼らなくても良いようにしよう。そうして、もうこれ以上、第二、第三の「いちえふ」を生まない様にしよう・・・そう考えてこそ、人間としての値打ちがあるのではないでしょうか。

 この漫画を読んで真っ先に思い浮かんだのが、黒井勇人の「ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かも知れない」(新潮文庫)です。あの話のあらすじも、「ブラック企業も住めば都」という点ではこの「いちえふ」と同じです。でも、「ブラック会社に」云々の方では、少なくとも主人公のマ男は最後には引きこもりから抜け出す事が出来ました。そこから、やがて会社もいつかは変える事が出来るかも知れないという希望も、かすかではあるが同時に感じ取る事も出来ました。しかし、「いちえふ」では誰も何も変わらない。事故の責任を取らない政府・東電の体質も、その東電の言いなりでしかない下請け企業の体質も、それに何ら疑問を持たずギャンブルや酒に明け暮れるだけの作業員の体質も。竜田一人から仕事とギャンブルを取ったら、後はもう何も残らないのじゃないですかね。
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3 コメント

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ツイート不可になっているようです。 (ワハハ・ワハ)
2014-05-22 01:04:12
初めまして。
ブログの内容が大変興味深い物だったためツイートボタンを押させていただいたのですが、「ツイートに含まれているURLのリンク先ページはスパム、または安全でないコンテンツが掲載されている可能性があります」と表示されてしまいます。
エラーメッセージを検索したところ、どうも何でもないような理由で自動的にスパム認定されてしまうことがあるようです。
お手数ですが、手の空いた時にでもご確認願います。
ワハハ・ワハさんへ (プレカリアート)
2014-05-23 12:02:11
 ご指摘の件ですが、私も自宅とネットカフェのPCから、この記事のツイートボタンを押して試してみたところ、私の場合は別に問題なくツイートできました。ワハハ・ワハさんも、試しにもう一度ツイートボタンを押してみて貰えませんでしょうか。
 しかし、自分の書いた記事に自分でツイートするのも、何か変な気分ですね・・・。
 
ありがとうございます。 (ワハハ・ワハ)
2014-05-27 00:08:20
ご対応、有難うございます。
この日近辺、ほかのgooブログのツイートボタンでも
同様の症状になっていたようです。
現在は問題ないようです。何かの巻き添えにでもなっていたのでしょうか…
お手数をおかけして、申し訳ありませんでした。

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