宇宙航空MBAブログ

Aerospace MBA(フランス・トゥールーズ)が考える宇宙航空マネジメントの進化系ブログ

環境にやさしい航空機

2007年06月19日 | 宇宙航空産業
 
地球環境問題に対する関心の高まりを背景に、最近、「環境にやさしい航空機」なるものの開発が盛んに進められている。単に燃費性能に優れているだけでなく、新技術の導入によって騒音を極力抑えたり、環境への負荷が少ない素材をたくさん用いたりと、とにかく”環境へのやさしさ”を最大のウリにした航空機だ。

環境にやさしい航空機の開発に積極的なのは、何も航空機製造メーカーばかりではない。消費者に一番近い存在である航空会社も、この機体デザインやコンセプトの開発にかなり主導的な役割を果たしている。

例えば、イギリスのEasyJet社は、先日Eco Jet(エコ・ジェット)と呼ばれる新機体のコンセプトを発表した。航空機製造メーカーの既存保有技術をベースに、航空会社として独自に機体デザインの検討を進め、航空機製造メーカーに逆に提案できるレベルにまでまとめ上げたのだ。

同じくイギリスのバージン・アトランティック航空も、新型航空機グリーン・ジャンボの検討を進めている。これは燃料に環境負荷の少ないバイオ燃料を使った航空機のコンセプトで、既存のジェット燃料を使う航空機に比べ、CO2の排出量を格段に抑えることのできる航空機だ。

航空会社がここまで環境にやさしい航空機の開発に熱心なのには理由がある。ヨーロッパ委員会は、2012年頃をメドとして、CO2排出量規制の新たな対象の中に航空輸送ビジネスを含めようとしているのだ。すなわち、航空機がそのフライト中に大気中に排出する二酸化炭素や窒素酸化物の量に応じて、新たな税金のようなものが導入されようとしているのだ。

毎日のフライトを主な収入源としている航空会社にとって、飛べば飛ぶほど支払う税金額が多くなるこの新規制は、当然に見過ごすことができない経営上の重要課題だ。ただでさえ利益率の低い航空輸送ビジネスでは、数%のコスト上昇がそのまま競争力の低下、しいては、航空会社としての経営危機に直結する。今のうちになんとか対策を立てておかないと、後でとんでもない状況に陥るのだ。

そのため、逆に航空会社の側からイニシアティブをとってまで、「環境にやさしい航空機」の開発に躍起になっているのだ。もちろん、航空会社としての会社のイメージアップ戦略やCorporate Social Responsibility(企業の社会的責任)といった側面もあるだろうけれど、一番の理由はますます環境規制が厳しくなるであろう将来に備えたリクスヘッジにあると僕は思う。

Technology Driven(技術志向)ではなく、Market Driven(マーケット志向)、もっと言えば、Society Driven(ソサエティ志向)な航空機開発。こういった開発のあり方こそが、僕は21世紀の宇宙航空ビジネスの主流になると確信している。

社会が今後どういう方向に変化していくのか。その潮流を読むことなくして、未来でのビジネスの成功はあり得ない。

(写真はEasyJet社が提案するEcoJet。テレグラフ誌のHPより。)
 


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2 コメント

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Unknown (Gontran)
2007-06-19 14:05:59
The Economistの最新号でait travelに関する特集があったのですが、飛行機の二酸化炭素排出量は全世界の2%を占める、と書いてありました。その後は需要の高まりを受けて、さらに伸びるとか。ただ、プリウスが強烈に支持されたように、環境性能の高い航空機が本当に支持されるのかな、というのが気になるところです。あとは機体以外にも、管制塔の支持があるまで、空港の上でぐるぐる飛びながら二酸化炭素を撒き散らすのも問題だ、と書いてありました。技術以外にもサポート面で環境改善の余地があるのかな。

・・・と色々と思うところを書き連ねてしまいましたが、とても興味のある産業なので、なるべくチェックするようにしています。
Eco (AerospaceMBA)
2007-06-19 23:42:19
>Gontran さん
コメントありがとうございます。
航空機は製品としてとらえるのではなく、地上の空港マネジメントや航空管制、メンテナンスやトレーニングなども含めた、一連のシステムとして捉えることが大事です。その中の一プロセスだけに着目して二酸化炭素排出量の削減を図るのではなく、全体を通して排出量を最小化できるようなベストな組み合わせは何かを追求する。それが環境に配慮した今後の航空輸送ビジネスのあり方だと僕は考えています。

中国やインドといったBRICs諸国において航空需要がうなぎ昇りに今後増加していくと予測されている今日、トータルシステムとしての「環境にやさしい航空輸送」を検討することが世界中で求められています。航空機の軽量化に伴う燃費改善にだけ注目する今の日本のやり方には、僕は疑問を感じずにはいられません。

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