《社説②》:激動期の日本外交 政府の構想力が試される
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説②》:激動期の日本外交 政府の構想力が試される
世界が激動し、先の読めない時代が続く。いまほど外交力が試されているときもないだろう。
茂木敏充外相が10日間の中南米、アフリカ訪問を終えた。一連の会談では新型コロナウイルス対策での協力を打ち出した。
アフリカ訪問は昨年12月に続くものだ。毎年、年初にアフリカを訪れる中国の王毅外相を意識し、けん制する狙いもあるようだ。
インド洋と太平洋をまたぐ広範な地域は世界の成長センターで、日中ともに重視している。
王氏はアフリカの後、今は東南アジアでワクチン支援を呼び掛ける。「コロナ後」をにらんだ途上国支援の競争といえよう。
今年も中国が国際政治の動向のカギを握るのは間違いない。だが、中国の出方は読みにくい。
昨夏の香港デモでは香港国家安全維持法が施行直後に適用された。強硬な姿勢に日本は虚を突かれたという。
中国海警局に武器使用を認める海警法が今春審議される。尖閣諸島周辺での中国側の活動が緊張をより高めることも否定できない。
米国では同盟重視を表明するバイデン新政権が近く発足する。菅義偉首相はできる限り早く訪米したい意向だ。
バイデン次期政権の対中政策は、一貫性のない現政権とは異なるものになるだろう。重要なのは策定にあたって日本の懸念を共有し、政策に反映させることだ。
中国への警告は必要だが、敵対心を不要にあおれば関係悪化が進む。対中対立でも対米追随でもない独自の戦略が必要になる。
欧州も転換期を迎える。英国が欧州連合(EU)を離脱し、ドイツのメルケル首相が退任する。結束の乱れが加速する恐れもある。
不透明な時代にあって、地域や国際社会をどう安定に導くか。求められるのは、包括的な構想力とそれを実現する指導力だろう。
菅首相は外交の足場を安倍前政権時の官邸から外務省に移したとされる。「外交のプロ」への期待からとみられるが、「菅外交」のビジョンは見えてこない。
コロナ禍の今年、戦後日本の針路を決めたサンフランシスコ講和条約調印から70年を迎える。戦後の総決算につながる骨太な外交戦略が求められる。
元稿:毎日新聞社 東京朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2021年01月14日 02:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。