【社説】:五輪観客「1万人」 リスクをもっと顧みよ/06.20
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説】:五輪観客「1万人」 リスクをもっと顧みよ/06.20
政府は、東京五輪・パラリンピックの会場に入れる観客数を上限1万人とする方針だという。新型コロナウイルスの感染拡大リスクをどれほど考慮した上の数字なのか。
「無観客が望ましい」。政府の新型コロナ対策分科会の尾身茂会長らが、そんな提言を提出したばかりでもある。
五輪成功を政権浮揚につなげたい思惑が、菅義偉首相にはあるのかもしれない。感染リスクと、てんびんにかけるようなことではあるまい。
きょう、緊急事態宣言が解除される。しかし、感染の「第5波」が到来し、五輪開催中に再宣言を出す事態になるという専門家の試算もある。すでに首都圏では人の流れが増加しており、7月に感染が再拡大する恐れもあるという。
五輪の開催、観客の有無や規模が、国民の生命を脅かしかねない。専門家の指摘を重く受け止め、考え直すべきだ。
観客数の上限はあす、政府や東京都、国際オリンピック委員会などの5者協議で正式決定される。宣言とまん延防止等重点措置の解除後は1カ月程度、大規模イベントの観客数は定員の50%以内であれば1万人が上限となる。その目安に合わせた決定ということらしい。
無観客としないことについて、政府はプロ野球やJリーグの事例を挙げ、クラスターが発生していないことを強調する。だが専門家の提言にあるように、五輪は規模が全く違う。
多くの会場で一斉に競技がある上、夏休みやお盆の時期とも重なる。観客を入れるにしても、「より厳しい基準が必要」とする専門家の指摘はうなずける。ほかにも、観客は開催地の人に限り、感染拡大の予兆があればすぐ無観客にすることなどを求めている。いずれも、耳を傾けて当然の内容である。
専門家の提言は当初、開催の有無も含めて検討を求めるはずだったという。ところが、先進7カ国首脳会議(G7サミット)で菅首相が開催を表明したため、開催を前提とする内容にせざるを得なくなった。
開催ありき、観客ありきで進めてきた菅政権の姿勢には、不信感が拭えない。なぜG7サミットよりも先に、国民に対して開催の理由や感染抑止策を説明しなかったのか。
都合のいい時だけ、専門家に助言を求める姿勢も疑問である。提言を出すという尾身氏の意向に閣僚は冷ややかな反応を示し、提言の前日には首相が観客を入れることを明言した。五輪開催に水を差されることへの警戒感から、動きをけん制し、機先を制したようだ。
パンデミック(世界的大流行)という異常な状況下の五輪となる。専門家を政治利用している場合ではない。万が一、国民の生命や健康を危険にさらし、国内外で感染再拡大を招けば、誰が、どう責任を取るのか。
最悪の事態を避けるため、提言を尊重し、早急に対策を練り上げる必要がある。
「復興五輪」「コロナに打ち勝った証し」と、うたい文句を安倍晋三前首相と菅首相は掲げてきた。今となっては、むなしく響く。世論調査では中止や延期を望む声が半数近い。コロナ禍の中、五輪の意義とは何か。感染拡大時の対応策とともに、内外への説明が欠かせない。
元稿:中國新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2021年06月20日 06:47:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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