【社説①】:引きこもり 偏見持たず支援の手を
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:引きこもり 偏見持たず支援の手を
引きこもりという言葉でひとくくりにして、誤解と偏見を助長してはならない。
元農林水産事務次官(76)が44歳の長男を刺殺したとして殺人容疑で逮捕、送検された。
「(長男は)引きこもりがちで家庭内暴力もあった」「川崎の20人殺傷事件を知り、人に危害を加えるかもしれないとも思った」などと述べているという。
川崎の51歳の容疑者も引きこもり傾向にあったとされる。
立て続けに起きた事件で引きこもりが注目されたが、短絡的に結びつけるのは非常に危険だ。
「引きこもりへのイメージがゆがめられ続ければ、当事者や家族は追いつめられ、社会とつながることへの不安や絶望を深めてしまいかねない」
当事者らでつくる一般社団法人「ひきこもりUX会議」の訴えに耳を傾けてほしい。
正しい情報を共有し、当事者や家族が孤立しないよう支援の手を差し伸べる必要がある。
厚生労働省によると、引きこもりは「仕事や学校に行かず、家族以外の人と交流をほとんどせずに、6カ月以上続けて自宅に引きこもっている状態」を指す。
内閣府の推計では、40~64歳の中高年で引きこもりの人は約61万人おり、39歳以下を合わせると100万人を超える。
80代の親が、50代の引きこもりの子を養い続けて困窮する「8050問題」も深刻だ。
引きこもりの原因は、就職氷河期で安定した仕事に就けなかったり、職場での人間関係のつまずきや病気などさまざまだろう。
誰でも引きこもりになる可能性がある。家族だけで抱え込んでしまわないように、社会全体で問題に取り組むべきだ。
札幌市の調査では、当事者が引きこもり状態を変えるのに役立ったこととして、「相談窓口」や「同じ悩みを持つ人が集まる居場所」を挙げた回答が多かった。
自治体には「ひきこもり地域支援センター」などの相談窓口があり、民間の支援団体も活動している。こうした組織と本人や家族をつなげることが重要だ。
ひたすら就労や自立を促せば、かえって圧力になりかねない。
大切なのは、当事者や家族に寄り添って希望を聞き、息長く支えていくことだ。
地域に安心できる居場所があり、信頼できる人もいる。そんな身近なところから、きめ細かく支援態勢を築いていきたい。
元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2019年06月09日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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