【岸田政権】:「定額減税8万円」のススメ…庶民に厳しく、政治家に甘い宰相ができる「罪滅ぼし」
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【岸田政権】:「定額減税8万円」のススメ…庶民に厳しく、政治家に甘い宰相ができる「罪滅ぼし」
◆とにかく腹立たしい
先週土曜日放送のABC「正義のミカタ」で、6月に予定されている定額減税の話があった。筆者は、「減税は去年12月にやるべき。そのミスの罪滅ぼしなら額は3倍必要」 とコメントした。
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政治資金は「非課税かつ領収書なし」なのに、定額減税は給与明細に減税額を明記することが義務付けられた。民間ではインボイスでも1円もきっちり書くし、もちろん領収書なしでは経費扱いされない。かなりの事務負担になっているが、それに加えて給与明細に減税額を書けとなると、民間会社の給与担当者はかなり頭に来るだろう。
政治家と民間との格差は、なぜこんなに大きいのか。
政治資金が非課税とは、正確に言えば政治団体が政治活動に使用する資金が非課税ということだ。政治家個人では政治活動に関して受けた政治資金については、雑所得となり、他の所得と合算して課税対象になる。
ただし、この雑所得の計算では、政治活動のために支出した経費は控除する。もっとも、このあたりは、民間企業は領収証がないと経費にならないが、政治家では政治資金で領収書なしでも構わないとされ、それほど厳格に経費認定されていないようだ。 こうした政治と民間の格差にも腹立たしい。
さらに、「子ども子育て支援金」については、税金ではないという立て付けにより、しれっと徴収されるが、定額減税では給与明細に明記されるというのも、合点がいかない。
◆恨み節に尽くすのではなく…
いずれにしても、今回定額減税について減税額を給与明細に明記しなければならないが、その義務の根拠は何か。給与明細を従業員に交付しなければならないというのは所得税法231条に規定されているが、その中身は財務省令である所得税施行規則だ。
その財務省令はこの3月31日に出された。さすがに、財務省令は国会ではなく財務省だけの判断だけで発出できるので、林芳正官房長官も「お願いしている」体で低姿勢だ。
しかし、もし総選挙があれば、ということで仕組まれた話であるのはミエミエで、事務負担を課した上に国民をいらだたせている。
もっとも、本コラムではこうした恨み節に尽くすではなく、政策論を提示したい。
筆者は、今回の定額減税について、決定された昨年10月の段階で、「規模が小さく、遅い」と断じ、昨年12月にすべきだったとしていた。これは、2023年10月30日付け本コラム〈「増税メガネ」岸田首相も財務省に「毒されている」…頑なに消費税減税しないワケ〉に書いた。
その当時から、今通常国会の解散・総選挙があり得るので、昨年12月に実施すべきものを、政治的理由で今年6月に後回しするとも噂されていた。
◆昨年末に所得減税しておけば…
結論を先に言えば、筆者としては、昨年12月に定額減税しておけば、今1-3月期のGDP速報で、民間消費を含む民間経済需要が総崩れになり、全体でも前期比年率2.0%減という惨めな数字にならなかったと思っている。政策タイミングにおいて完全な失敗である。
今年1-3月期GDPを見てみよう。5月16日より公表された一次速報では2四半期ぶりのマイナス成長となった。ダイハツの認証不正の影響もあるとされているが、マイナス成長は一時的にとどまるのか、どのような経済政策が必要とされるのか。
今期実質GDP(年率換算)は▲2.0%。その内訳は民間消費▲2.7%、住宅投資▲9.8%、設備投資▲3.2%、政府消費0.8%、公共投資13.1%、輸出▲18.7%、輸入▲12.8%だった。
民間の予測値を下回る低調な数字だった。政府部門を除くと、民間経済は全滅に近い状況だ。特にGDPの半分以上を占める個人消費は酷く、前期比0.7%減で4四半期連続のマイナスだった。4四半期連続での減少はリーマン・ショックに見舞われた2009年1-3月期まで以来で15年ぶりとなる。
こうした状況だったから、筆者は、上述の通り昨年11月に景気対策をしたのに目玉であったはずの所得税減税を昨年年末にやらずに、今年6月に後回ししたことを批判していた。
タラレバであるが、昨年年末に所得税を減税しておけば、ここまで消費の落込みはなかっただろう。経済政策はタイミングが命である。いいタイミングを逃すと、効くものも効かなくなってしまう。今さらながら、岸田政権が景気対策に本気でなかったことが残念だ。
ダイハツの認証不正による生産停止という特殊要因もあり、2次速報で上方修正される可能性もあるものの、予想以上の景気低迷だ。
◆タイミングを失したツケ
特殊要因と言えば、元日の能登半島震災もあったが、本コラムで再三指摘したように災害復旧費の補正予算がなかったことも痛かった。震度7クラスの震災では、これまで例外なく補正予算が震災後1ヶ月程度で組まれてきており景気の下支えに貢献してきたが今回は補正予算がなかった。
予備費による財政支出はあるものの、予備費は各省管理簿などで事後承認手続きがあるために、補正予算でまとまった歳出権をとる方法に比べて財政支出が抑えられる傾向は否めない。これも今回のGDP速報に影響しているのではないか。能登半島では、いまだにガレキが片付かず復旧・復興が順調とはいえない。
財務省はどうみているのか。4月9日、財政制度等審議会(財務相の諮問機関)の分科会を開き、能登半島地震の被災地の復旧・復興について、将来の需要減少や維持管理コストも念頭に置き、住民の意向を踏まえ検討が必要としている。震災復興についてコスト論を持ち出したのかと、元財務官僚の筆者は呆れてしまった。能登半島のような過疎地では、復興のための財政支出を無駄と財政当局は認識しているのではないかと邪推してしまいそうだ。
経済政策としてみれば、かつて本コラムで主張したように、本来であれば昨年12月にやるべき対策だ。
1年前の2023年4-6月期には、筆者試算によるGDPギャップは10兆円程度であった。なお、筆者の試算は、失業率が最低水準になるまでの必要な有効需要を算出しているので、内閣府のものよりGDP2%程度厳しめだ。いずれにしても、今回の景気低迷でそれが20兆円程度まで拡大してしまった。
経済政策はタイミングが命である。いいタイミングを逃すと、GDPギャップが拡大し効くものも効かなくなってしまう。先週のテレビでも言ったが、傷口が小さいうちに手当すれば良かったものの、やらなかったので、傷口がパックと大きくなって、その手当てには余計に大掛かりな措置が必要になるのだ。
今回の定額減税が生み出す有効需要はせいぜい5兆円程度だ。今のGDPギャップ20兆円から見たら力不足と言わざるを得ない。要するに、タイミングを失したので、効果も少なくなってしまったのだ。しかも、効果が少なくなったのに、岸田首相は恩恵を感じろといい、給与明細をみろと、言わんばかりだ。
タイミングを失したツケを挽回するには、現在のGDPギャップなどから考えると、4万円の定額減税を12万円程度にする必要がある。そうであれば、多くの国民は恩恵を感じるはずだ。経済政策としては、追加経済対策として補正予算を打ち、罪滅ぼしの「追加定額減税8万円」を実施してみたらどうだろうか。
■髙橋 洋一(経済学者)
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元稿:講談社 現代ビジネス 主要ニュース 政治 【政策・岸田政権・6月に予定されている定額減税・担当:髙橋 洋一(経済学者)】 2024年05月27日 07:03:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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