観測指定星系ブエン。有人惑星(人間が居住するのに適した惑星、またはある程度の惑星改造で居住可能となる惑星)が存在せず、更にこれという重要な資源もない星系だ。
そんな場所なので無人地帯あり、一応ブリタニアにある星系なので帝国の領土としているだけで、前世における日本の無人島以下な扱い。ハッキリいって領土といってもほとんど価値がない場所であった。
宇宙進出を果たして銀河にその勢力を大拡張したブリタニア帝国であったが、保有する有人惑星は数が限られていた。そもそも、そのまま居住可能な惑星や、大規模なテラフォーミングができる惑星がそれほど多くないのだ。
最大のネックは太陽と重力だろう。大気成分などは惑星改造で何とかなるが、重力は大規模な重力操作装置が必要となり、太陽の問題で日射不足の場合は、太陽光照射衛星などの大規模施設が必要になり、採算が悪くなる。
そして、有人惑星であっても、重力だけでなく自転と公転の速度が異なり、一日や一年の長さが異なるというのが当たり前だった。だから有人惑星ごとの時間と帝国の標準時間という異なる時間が存在する。
ちなみに不思議なことに惑星ヴァーブルと地球、ミッドチルダ、ベルカ、その他の無人世界など、『魔法少女リリカルなのは』で、物語で登場するそれぞれの世界の惑星だけは重力、公転速度、自転速度が一致していた。あまりにも都合が良すぎるから、これはそういう風に創造されたと思う。
この星系には一つだけ大気成分が地球とほとんど同じ惑星があった。ただし重力は約1.5Gで、普通の人間では少々きつい重力で、それゆえ大気成分が良いにも関わらず惑星開発すらされていなかった。だが、ここにいるのは覚醒者と古代地底人、そして究極の生命体ジュラ。いずれも三倍の重力など気にもとめないほどの剛の者で、覚醒者は修行の一環で対G訓練を受けている。
そして有人惑星としては使えないこの惑星も演習場、訓練場所としては使い道があった。
ブリタニアでは人が居住可能な場所は封建貴族の所領となっているし、惑星開発の途上の惑星は開発の邪魔になるので魔法戦は禁止されている。
しかし、封建貴族の所領で大規模な魔法戦をやるのはそこの領主は嫌がる。何故なら、訓練を行うのは強大な力を持つ貴族たちだからだ。なまじ強大な力を有する彼女たちが暴れると、下手をすると領地に甚大な被害が出かねない。そうなると派手に暴れても問題ない惑星で行うことになる。
「ほう、重力が強いとはこういう事か」
カーズが感心したようだ。地球と惑星ヴァーブルの重力は同じであったので、彼にとってこの星の強い重力は初めての事だ。だが流石にこの程度の重力では苦ともしない。
「ええ、ここは貴族ならばともかく普通の人間には少々環境が厳しいんです。だから有人惑星からは外されています」
この星の問題点は重力だけなので、仮に大都市を丸々カバーできるほどの重力操作装置を用いれば、生活はできる。でもそんなことをしなくても生活できる惑星が多くあるので、わざわざ多額の予算を投じてまでそれをする必要はない。第一、そんな造られた不安定な環境では宇宙コロニーと変わらない。帝国が有人惑星の開拓に力を入れているのは、安定した大地が欲しいからだ。
テラフォーミングには人間が手を加えなければならないが、開発が終われば人間が管理しなくても自然と地球と同じ環境が維持される惑星である事というのが有人惑星としての最低条件。だからこの星は帝国に見向きもされない。
「では早速訓練をしましょう。それと料理の準備はしておくように」
「はい!」
部下の貴族に命令しておく。貴族達は普段は料理などしない。それぞれが使用人を持っているが、ここでは使用人を用意できないので、自分でやるしかない。まぁ簡単な料理なので気分転換にちょうどいいだろう。それに女性の嗜みとして最低限の家事ぐらいはできる。
現地では既に日没により夜となっていた。到着時刻が夜なのは、カーズ達に対する配慮もあるが、シドゥリ達自身の活動時間だからだ。
貴族は、騎士甲冑や科学製品で紫外線を防げるとはいえ、昼に活動するのは、嫌がる者が多い。覚醒者は日光を克服している訳ではない、魔法や科学の力で防いでいるだけで、相変わらず日光は天敵なのだ。だから非常時を除けば、昼は休み、夜に活動するというのが覚醒者達の常識であった。
「ではやりますか」
場所を移した余は部下に模擬戦開始の合図を送る。既に対戦表はできているので後は実行あるのみだ。
「これは派手だな」
「そうでしょうね」
ブリタニア貴族の戦いはただの対人戦闘ではない。高ランクのベルカの騎士の能力と覚醒者としての超人的な能力を組み合わせて行われる模擬戦は、空と陸と、めまぐるしく場所を変えていく。
空戦魔導師というのは空戦しかできないわけではなく、陸戦もできる。彼女たちはその場の状況に合わせて空陸を選択して闘う。
「さて丁度良いので私も体を動かすとしましょう。ここ最近本格的な模擬戦はしていませんからね」
「ふん、お前とまともに戦える貴族などいないだろう」
ジュラが呆れている。そう、余は覚醒者としては最高級だ。元が古代ベルカ聖王家の一員で、最高の魔力資質をもっている。最も長く生き、経験をつんだ最古にして最強の覚醒者。並の貴族では束になってもかなわない。
「そうだ。ジュラ、余と模擬戦をしてみない? 余も君がどれぐらいの能力を手に入れたか興味があるわ」
「……能力の確認か? まぁいいだろう」
やはりジュラも能力の限界には興味があったようだ。
「それじゃカーズとエシデッシは見学していてね」
「ああ」
カーズが軽く頷く。
余はジュラが覚醒する前に一度だけ模擬戦をしたことがある。その時はジュラを撃墜して予が勝利した。
しかし、ジュラの能力はあれから大幅に上昇している筈だ。何より究極の生物の能力というのは原作でも未知数だったから不確定要素があるうえ、スタンド能力まである。
ともかく、あのときは私が勝利したが、脳の潜在能力を目覚めさせて完全体となったジュラに勝てるかは分からない。だからこそ面白い。勝つと分かりきっている模擬戦ばかりではマンネリになりかねず、たまには勝てるかどうか分からないというのが良い刺激だ。
「いくよ!」
余とジュラが開始の合図と共に飛び出した。
余のリッパーとジュラの剣がぶつかる。ジュラの琉法は雷。琉法とは、柱の男の多くが持っている個別の能力で、カーズが光、エシデッシが炎、ワムウが風だった。最も柱の男ならば誰でも琉法を持っているわけでなく平均を大きく下回る者は琉法を保有していない場合もある。
その能力の使い方は『とある魔術の禁書目録』の電撃使いを参考にしているらしい。トリッパーが能力を得た場合、創作物のやり方を参考にするものだ。その剣は周囲の砂鉄を集めた物で、明らかに『超電磁砲』御坂美琴の技を真似ていた。
その切れ味は凄まじく鋼鉄でも容易く切断できるだろう。切れ味だけなら、光の琉法のカーズの刃にも劣らない。
しかし余のデバイスは普通の素材ではないし、強力無比な魔力で強化されていてジュラの剣とも打ち合えた。だがジュラとの接近戦は避けた方がいいだろう。不用意に触れれば吸収されてしまう。
もちろん吸血鬼なので他人から生命力を吸収するというのは予にもできるが、ジュラとは大きく見劣りしてしまう。覚醒者と究極の生命体とでは生物としてのスペックが違いすぎる。
しかし、覚醒者には魔法という力がある。それも最高級といっても良いほどの能力で、そこいらの低ランク魔導師など比べ物にならない。
余の場合は、聖王の鎧と騎士甲冑その他の防御魔法があるので、ジュラに直接触れることはないだろうが、用心はしておくべきだ。
やはり強化されている。デバイスにかかる負荷が前回よりも増加している。進化したことで、ジュラの能力が強化されているようだ。
一旦距離を離すとジュラが砂鉄の剣を鞭状に伸ばしてきた。余はそれを空に飛び上がることで回避した。
そのまま上空からジュラを射撃魔法で攻撃する。空戦スキルを持つので何も陸で戦う必要はない。少し卑怯だけど上空から一方的に攻撃するが、ジュラは両腕を鳥の翼に変形させて飛び上がった。
そういえば鳥類の能力もあったな。原作知識を思い出しつつも舌打ちするが、空戦魔導師は空中戦において圧倒的に有利だ。何しろ空戦魔導師は物理法則を無視したかのようなデタラメな動きができる。鳥とは運動性が違うのだ。
空中での攻撃。それがジュラを圧倒する。空中戦は私の方が強いが、ジュラは羽根を弾丸の様に射出してきた。当然誘導もされず直線しかされないそれを容易く回避するが、すぐに予想外の邪魔が入った。
「鳥!?」
いつの間にか数十もの鳥が私に襲いかかってきた。どういうことだ。ジュラがこの鳥達を操っているのか?
そういえば、原作でもカーズの射出した羽根が、魚やタコの足になっていたりしていた。ということは、これはジュラが射出した羽根が変形したジュラの一部で、いわば本体から切り離されていたトカゲの尻尾のようなものだろう。
「邪魔よ!」
即座に数十の誘導弾を生成して鳥を撃ち落とす。鳥を迎撃するために、ジュラから注意がそれたのをチャンスと思ったのだろうジュラが襲いかかってきたが、それは甘い!
「なっ、バインドだと! いつのまに」
ジュラが、余がばらまいたバインドにかかる。誘導弾を生成と同時に予とジュラの間にバインドを設置して置いたのだ。余がそう簡単にスキを見せるわけがないでしょう?
「ディバイン・バスター!」
バインドされたジュラに砲撃魔法が打ち込む。〝バインドで拘束→砲撃魔法を打ち込む″というリリカルなのはではオーソドックスな攻撃法。うん、我ながらえぐいね。だがジュラはそれを回避した。なんと骨を分解して体を変形してバインドから抜けたのだ。
「ちっ!」
明らかに人間では不可能な回避法だ。こんな方法でバインドを抜けるとは。「お前は可変型モビルスーツか?」と内心で悪態をつきたくなるほど非常識だ。
反撃とばかりにジュラが雷撃を放つが、それを耐雷撃に優れたバリア系の防御魔法『ライトニングプロテクション』で防ぐ。ジュラの琉法は雷。能力が分かっているために対応もとりやすい。
最も聖王の鎧があるので一々防御しなくてもいいのだが、こういう攻撃に的確に対応するのも訓練になる。
さて、一発狙い大技はジュラには通用しないならば数で当てるべきだろう。誘導弾を数十作り、ジュラを攻撃する。流石にこれは回避できず、めった打ちになりジュラは墜落していく。
しかし、余に撃墜された筈のジュラが、地面に倒れて数秒も経たないうちに再び起きあがった。
非殺傷設定であったので、怪我をしていないとはいえ、かなりの魔力ダメージを受けていたのに、あっさりと回復した。普通はあれだけ攻撃を受ければ二、三日は動けないはずだが、やはり規格外な奴だ。というか、あいつは不死身に近いから、ビーム砲とかで全身を根こそぎ消し去らないと死なないんじゃないかな?
「流石に空戦魔導師相手では分が悪いな」
淡々と呟くジュラ。ジュラにとって、高ランクの空戦魔導師と戦うのは初めてではない。だから、その能力は大雑把には把握している。ならば、次の手は何か?
その答えとばかりにジュラの体が一瞬のうちに何かに覆われた。それは、どことなく『GS美神 極楽大作戦!!』の魔装術を連想させる、ジュラの装着型のスタンド〝インドラ″だ。インドラは、鎧としての役割と、ジュラの雷の琉法の威力を増幅する働きがある。
「落雷!」
ジュラが雨雲を呼び寄せ、強力な雷を私に落としてきた。
「無駄よ!」
余はそれを聖王の鎧で防ぐ。
ジュラの雷は、究極の生命体となったことによるバワーアップとスタンドによる増幅でかなりの威力となっていたが、私の鎧を突破できるほどではない。というよりも余の防御が固すぎるだけだが。
「ちっ、やはり無理か。相変わらず貴様の防御力は反則だな」
余の聖王の鎧は、ブリタニア帝国軍主力戦艦の重力波砲にも耐えられるほどなので、並大抵の攻撃では通用しない。本気で余の鎧を突破したかったら、『ドラゴンボール』の戦士たちのように、地球を破壊してあまりあるほどのキチガイじみた攻撃でないといけないだろう。
しかし、これでは長期戦になるな。ジュラのスタンドは本体を守る鎧としても強力で、正に攻守一体のスタンドなので、先程のような誘導弾では弾かれてしまうだろう。かといって大技狙いでいくとさけられるのは目に見えている。まぁ訓練なのでそれでも構わないか。