ADONISの手記

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新たなる体制(シドゥリ暦2030年)

2013年08月18日 13時14分41秒 | 小説

『陛下、あのような計画を了承して本当によろしかったのですか?』

 余の忠実なるスーパーAIのカグヤが確認してきた。

「カグヤそれは仕方がないわ。余とていつまでも健在とは限らんのだ。それにこのブリタニア帝国が存続しているかも保証はできまい。現に第一次ベヅァー戦争ではかなり危うかったからな」
『……そうかもしれません』

 余とカグヤの付き合いは古い、それこそブリタニア建国前のベルカ時代まで遡るほどだ。そんな両者が問題としていたのが、三千世界監察軍のトレーズが提出してきた計画だった。

 それは、大雑把に言えばトリッパーの、トリッパーによる、トリッパーのための国を二つ建国するというもので、一つは理想の日本を作り上げる計画で、もう一つは全く新しい新国家の建設する計画だった。

「確かにこの計画はブリタニア一国の国益だけをみるなら不利益だ」

 ブリタニアはこれまで数多の異世界から多くの知識や技術を収集発展させて文明を発達させてきた。またそれらの成果を独占して他国に漏らさないようにしてきた事で、圧倒的に有利な立場を確保できていたのだ。

 そうした独占主義によって監察軍をブリタニア本国で囲い込んでいたが、これが第一次ベヅァー戦争で大いに裏目に出た。なまじトリッパーたちがブリタニアに集中していた為にまとめて壊滅させられてしまった。

 またベヅァーの強さがシドゥリの想定を遥かに上回っていたのも痛かった。ベヅァーは最終兵器として期待していた超16号を瞬殺し、超サイヤ人4のミズナですら圧倒したのだ。

 何とかベヅァーに対抗しうる戦力を得ようとするが、そんなもの容易に手に入るものではない。おまけにベヅァーを押さえつける役割を担うトリッパー達の人員補填にはかなりの手間がかかっている。

「でも、またベヅァーが出現したら監察軍というシステムだけではなく、それを支える国家体制すらも、本当にすべてが終わりかねない。それだけは何としても防がないといけない。だから速やかにトリッパーを大量増員する体制に入らないといけないわ」

 再び現れるであろうベヅァーという脅威、そしてそれがもたらす被害に対する保険を用意するには、従来の独占主義を捨てて監察軍というシステムとそれを支える国家を分散させるしかなかった。

 勿論、それはブリタニアに対抗しうる国家を作るという事であり、最悪の場合その二ヵ国がブリタニアの敵対国家になってしまうという恐れもあるが、背に腹を変えられない。

「ブリタニアが国家として国益を追求できるのも世界が安定していなければ意味がない。世界そもそもがベヅァーに破壊されてしまったら国益も糞もない。ここで優先順位を間違えてはいけない」

 目先の国益よりもベヅァー対策をしっかりして足場を固めておかないと後々痛い目にあうだろう。

『なるほど国という単位ではなく数多の下位世界全体を考えれば有効ですね。監察軍を分散させておけば例えベヅァーが再び現れても一度に殲滅させられることもないでしょうし』
「そういうことよ。最悪の場合に備えて保険は用意しないとね」

 現在ブリタニアは大いに発展している。そんな時にブリタニアが滅亡してしまう事を考えないといけないのは誰しも嫌な事だろう。しかし、君主として君臨しているシドゥリはそれを避けるワケにはいかなかった。

 真に不老不死の人間が存在しないように不滅の国家も存在しない。あのベルカでさえ滅びたのだ。ブリタニアが滅びないという保証など何処にもないのだ。

「まぁこの三ヵ国体制が有効に機能するのは最低でも数千年はかかるわね」
『そうですか?』
「カグヤ考えても見なさい。我がブリタニアも順調に発展を続けているわ。監察軍が全面的に支援してもブリタニアに追いつくにはかなりの時間がかかるわよ」
『そうですね。支援を受けても国家を発展させるには時間がかかるでしょう』
「そう、だからある程度追いついてまともに国交を持てるようになったら、現在のブリタニア一極体制から三ヵ国の列強の協力体制に移行するというワケね」

 このシドゥリの予想通り、ブリタニア帝国の一極支配が終焉を迎え、列強三ヵ国による三千世界の管理体制に移行するのは約一万年後のことであった。

 

解説

■シドゥリ・エルデルト・フォン・ヴァーブル
 身長162㎝、体重48㎏、スリーサイズ88/58/86(17歳の時に覚醒して、それ以来変化なし)金色の髪を膝の辺りまで伸ばしたオッドアイの美少女。

転生特典
①魔力値SSS+
 赤子の状態ではS+で、成長と共に魔力が増加するようにしており、16歳の時にはSSS+になった。
②IQ400(究極の生命体になったカーズと同じ)
 この頭脳で石仮面の解析に成功して、これを改良した魔法を編み出した。
③聖王の鎧の強化(吸血鬼時)
 聖王の鎧の異常なほどのパワーアップは当初は吸血鬼化の影響と思われていたが、実は吸血鬼になるという条件を満たすと発動する隠し特典だった。事実シドゥリの娘たちは吸血鬼化しても聖王の鎧が強化されていない。

 このSSのオリジナル主人公。死神によって古代ベルカに転生して、後に石仮面を入手するように仕組まれていた。これによってDIOのように石仮面の吸血鬼となって古代ベルカで大暴れするという死神の予想に反して、石仮面の仕組みを解析して改良した吸血鬼になる方法を編み出した上に、古代ベルカを出て遠く離れた未開世界で自らの帝国を築き上げるという想像の斜め上を遥かに突き抜けた行動をした。その後、彼女が作り上げたブリタニア帝国が高度な文明を有する星間国家に成長した事で、構想段階であったトリッパー支援組織の母体として使えると判断した死神がシドゥリと接触して、三千世界監察軍が結成させる事になった。巨大帝国の皇帝という強大な権力を有する上に、吸血鬼としての卓越した能力に、膨大な魔力とIQ400という優れた頭脳によって様々な魔法を編み出しており〝ブリタニアの魔法皇帝″と言う肩書に相応しい実力者である。とはいえ、あくまでそれはリリカル世界の基準であり、化け物揃いな監察軍の基準ではおせじでも中堅級辺りの能力でしかないだろう。

 


トレーズの挑戦(シドゥリ暦2008年)

2013年08月18日 13時14分26秒 | 小説

 ブリタニア帝国において無人戦力は軍の補助として大いに用いられている。それは無人艦から無人戦闘機だけでなく、軍医、生活班、整備班などまでアンドロイドで賄っている。

 こうした存在を採用したのは、軍事費における人件費の削減と、軍に人材を取られ過ぎて民間に悪影響が出るのを避けるためだ。これは時空管理局崩壊後のブリタニアにおいて、明確な仮想敵が存在しなかった事が大きかった。

 外敵がいない以上、軍備は極わずかですむという意見が支配的であり、軍部においてもこれに反論する明確な根拠を持ち合わせていなかった。こうして帝国軍は少ない人員、少ない予算でやりくりするために無人化省力化が進められていた。つまり当時のブリタニア帝国軍にとって、無人戦力は戦力確保と経費削減の為の手段に過ぎなかった。
 
 しかし、2000年代になると帝国の人口は二兆人を超えるまでに増加しており、その国力も強化された為、ある程度の軍拡をシドゥリは考えていた。その方針としては、駆逐艦以外の艦艇の有人化であった。つまりこれまで無人艦であった重巡洋艦と軽巡洋艦を有人艦にして、艦載機においても無人機を削減するという方針を出した。

 これにはトレーズの賛同も大きかっただろう。彼は無人戦力の削減を考えていたシドゥリに異常なまでに協力的だった。
 
 しかし、これに異を唱えたのがツバロフ准将であった。彼は無人戦闘機ゴーストに傾倒していた。その新型無人戦闘機ゴーストは、ゴーストV9(マクロスF)を改良した無人戦闘機で、実際かなりの高性能を誇っていた。

 彼はこのゴーストの優秀さを知らしめる為に精力的に動き、帝国軍上層部もこれを支持したために演習に用いられることになった。

 しかし、この演習にシドゥリが飛び入りで視察することにした。これには軍部も動揺した。シドゥリは各領地の視察はしても、演習の視察などしない。それだけ睨まれていると思ったのだろう。
 
 実は軍部のこの動きは、シドゥリにとっては迷惑なものだった。彼らは無人戦力に頼るあまり、それに傾倒しすぎてしまったのだ。それは「有人戦力など無用で、無人戦力こそが国防の主役となるべき」という主張だった。確かに効率だけでいえば、それは理にかなっているだろう。

 しかし、プロトカルチャー(マクロス7)やムー(超時空世紀オーガス)などを見ても分かるように、国防を異種族やロボットといった自分たち以外の存在に過度に依存する体制を取れば、国の基盤が砂上の楼閣となってしまう危険性があった。実際、プロトカルチャーもムーもそれで滅亡している。その二の舞にならないためにも、国防はブリタニア人が主体となって手綱を握っておかないといけない。
 
 演習でのゴーストの動きは、ツバロフが自信を持って主張するだけあってたいしたものだった。熟練パイロットが操縦する可変戦闘機メサイアすら圧倒している。おまけに無人戦闘機は、生産すればいくらでも戦力化できる。有人機とは違って、パイロット育成に費用と時間がかかるといった問題もない。
 
「ふむ、この無人戦闘機は戦力補充に使えるな」
「いえ、いずれはこのゴーストが戦場を支配することになるでしょう。最早時代遅れの有人機などいらなくなるのです」
 
 ゴーストの能力に軍人たちが興味を示し、ツバロフが自慢げに話している。やれやれですね。
 
「ツバロフ准将、未確認機が急速接近してきます」
「何! 何処の馬鹿だ?」
「機種照合、トールギスです」
 
 オペレーターの操作によって、スクリーンに映し出されるトールギスの映像。それを見てシドゥリは微笑を浮かべる。
 
「所属不明機、進路を変更しろ。ここは帝国軍演習エリアだ。」
「警告する。進路を変更しろ。ダメです。応答しません」
「敵か! 応戦準備をしろ!」
 
 軍高官が大騒ぎだ。軍事演習中に部外者が乗り込んでくるなど前代未聞だからな。そんな馬鹿は普通いない。
 
「トールギスから通信が来ました。これはトレーズ閣下!」

 スクリーンに出されたのは、監察軍総司令官トレーズ・クシュリナーダだった。トレーズは帝国貴族だけでなく帝国軍でもそれなりに知名度があった。
 
『ツバロフ准将、私は人間のパイロットを代表して、この無人機に戦いを挑もうと思います』
「なんだと! トレーズどういうつもりだ!」
「乱心したかトレーズ!」

 周りがざわめく。
 
「ほう、面白い。トレーズ、お前が自分でゴーストの実戦テストをするというのだな?」
『その通りです。シドゥリ陛下』
「よかろう。やりたければやってみるがいい。実戦テストを許可する」
『ありがとうございます』
「皇帝陛下!」
 
 軍人たちが慌てる。このアクシデントと急展開する状況に付いていけないのだろう。
 
「実戦テストをやりたまえ」
 
 軍人たちはシドゥリの駄目押しを受けて、しぶしぶ実戦テストの為に12機のゴーストにトールギスを攻撃目標に設定した。無人戦闘機ならではの凄まじい機動で、トールギスの向かうゴーストたち。しかし、トールギスはそれを楽々と撃破していく。

 ゴーストは、メガキャノンでディストーション・フィールドごと貫かれ、ピンポイント・バリアーを纏ったヒートロッドにフィールドごと引き裂かれる。
 
「どういうことだ。なぜゴーストは攻撃をしない?」
 
 そう、ゴーストはトールギスに一切攻撃していない。トールギスの攻撃を一方的に受けているだけだ。
 
「原因がわかりました。ゴーストのプログラムが書き換えられていて、トールギスを攻撃できないように設定されています」
「何だと、急いで解除しろ」
「やっていますが、時間がかかりすぎます!」
「くそっ!?」
 
 そして、最後のゴーストがトールギスに破壊された。
 
「ゴースト中隊、全滅しました」
「ば、馬鹿な……」
 
 そこにトレーズが再びスクリーンに映る。
 
『ツバロフ准将、無人機も兵器も扱うのは人間です。もう少し人間を思いやり、もう少し人間を大切にして下さい。では失礼します』
 
 スクリーンが消えて、トールギスが宙域から飛び去っていく。周りは未だに騒然としている。
 
「ツバロフ准将」
「へ、陛下!?」
 
 ツバロフ准将は、予に呼ばれたことで表情を引きつらせた。何しろ皇帝の目の前でこんな失態を犯しているのだ。そりゃ、顔色も変わるだろう。
 
「無人兵器は、確かに強力で便利な物だ。しかし、所詮はプログラムしたことしか実行できない人形にすぎん。いざというときは人間が頼りになるのだよ」
「……」
 
 返す言葉もないツバロフ准将は何も言えない。
 
「まぁ余興としてはそれなりに楽しめた。諸君等もこれを教訓にしたまえ。よいな」
「「「はっ!」」」
 
 その場の軍人たちは一斉に敬礼した。こうして、演習は終了した。
 
 
 
「まったく、とんだ茶番ね」
 
 シドゥリは自嘲する。今回のトールギス乱入というハプニングは最初から仕組まれていたことだ。役者はトレーズとシドゥリで、ハッキング能力に長けたトリッパーが予めゴーストのプログラムを弄っていたのだ。
 
『しかし、これで無人機の欠点も浮き彫りになりました。これで無人機推進派は勢いを失うでしょう』
「そうでなくては、こんな芝居をした甲斐がないというものよ。トレーズ」
『シドゥリ陛下此度の事、ご協力頂き誠に有り難うございます』
 
 トレーズの今回の行動は下手をすれば大問題になりかねない。だからこそ皇帝の許可の元で実戦テストを行ったという形式を整えることにしたのだ。これなら何ら問題にならない。感情的には納得いかなくても表だって文句は言えない。
 
「まぁこれで帝国軍の再編成に弾みがつくわね」
 
 
 
解説

■トールギスⅢ
 武装:メガキャノン、ビームサーベル、シールド(ヒートロッド)、バルカン。トールギスⅢ(新機動戦記ガンダムW Endless Waltz)を原型に監察軍で開発されたMS。一般兵士にも使用できるように改良されたゼロシステムVer2.5(新機動戦記ガンダムW~ティエルの衝動~)を更に改良したゼロシステムVer3.0を搭載している。また動力を核融合炉からトロニウム・エンジンにして、装甲やフレームにガンダニュウム合金を採用することで性能を飛躍的に向上させている。武装においてもガンダニュウム合金の採用と動力の向上によって攻撃力が飛躍的に向上している。特にヒートロットをピンポイント・バリアーで覆う事で、ディストーション・フィールドごと敵機を容易く引き裂けるようになった。この機体はパイロットの腕次第では、帝国軍の次世代型可変戦闘機ルシファーにも勝る戦闘力を発揮出来る。
 
■ゴースト
 ゴーストV9(マクロスF)を改良した無人戦闘機。従来の無人可変戦闘機ナイトメアに代わって帝国軍で採用された無人機。ベテランパイロットが操縦する可変戦闘機メサイアに匹敵するほどの高性能を誇るが、無人機故の問題も付きまとっている。

 


ブリタニア帝国軍の軍備(シドゥリ暦1500年)

2013年08月18日 13時13分34秒 | 小説

 ブリタニア軍は実戦が少ないが、監察軍の活躍で様々な下位世界の技術や戦訓を手に入れている。当然それは軍にフィードバックされており、それらの事から監察軍と帝国の関係はかなり密接である。

■軍の階級と軍服
 帝国軍の階級と軍服は、『銀河英雄伝説』のゴールデンバウム王朝銀河帝国を参考にしている。(軍の階級は合計18階級)

元帥
 帝国軍の最上位階級で、帝国では平民がなることができる最高の役職である三長官、すなわち軍務大臣、統合作戦本部長、連合艦隊司令長官にしか与えられない。かつてのナチスドイツなどは将官の為に元帥を連発するなどしていたが、それでは逆に元帥の価値が低下してしまうので、現役の三長官でないと元帥になれないと制限をかけている。

上級大将、大将、中将、少将、准将
 将官は、帝国では将官は六階級存在する。

大佐、中佐、少佐、大尉、中尉、少尉
 佐官と尉官は共に三階級。

曹長、軍曹、伍長、上等兵、一等兵、二等兵
 下士官と兵は三階級。

■帝国軍艦隊
 帝国軍では艦隊は戦艦、巡洋艦、駆逐艦、ミサイル艦、空母などで構成されている。
 一個戦隊が625隻ほどで、八個戦隊で一個分艦隊(5,000隻)となり、四個分艦隊で一個艦隊(20,000隻)となる。また二個以上の正規艦隊が集まると連合艦隊と呼び、その連合艦隊の指揮は連合艦隊司令長官または臨時の司令官が行う。帝国軍では正規艦隊が十八個(合計360,000隻)存在しているが、それ以外にもイゼルローン要塞とガイウスブルク要塞に駐留する二個艦隊、各星系の警備隊、星間警備隊、各種の独立艦隊なども数多く存在する。

 ブリタニア帝国では、時空管理局崩壊後は明確な外敵と呼べる存在はいなくなった。その為、この下位世界の勢力に対しては、念のために次元空間と虚数空間からの侵攻を防ぐ為の要塞と駐留艦隊を配備するに止めた。変わりに未知の下位世界から外敵の侵攻してくることを警戒して、下位世界での活動を行うために艦隊を正規艦隊とした。つまり、下位世界に存在する外敵の撲滅を想定していて、いうならば他の下位世界に侵攻するための艦隊だ。

 

■ブリタニア帝国軍の軍艦
 帝国軍の艦艇は有人艦と無人艦があり、少数の有人艦が無人艦を指揮するという形をとっており、これによって人件費と戦死者の削減を目指している。
 艦艇ドクトリンはそれぞれの艦種の性能を分けること。戦艦は砲撃能力、空母は艦載機の運用能力、駆逐艦は防空を重視する。

『機動戦士ガンダム』などでは空母や強襲揚陸艦が何故か砲撃能力を持っているが、軍事常識で考えれば、空母や強襲揚陸艦が単独で行動することはないので、砲撃は周囲の戦艦や巡洋艦に任せればいいのだ。下手にあれこれ機能を付けると中途半端な艦になってしまう。

 ミサイル艦と空母は弾薬の補充のために超高効率原子変換による弾薬製造機構を備えており弾薬切れが起きない様になっている。また、艦隊のミサイル戦はミサイル艦に任せているので、戦艦や巡洋艦はミサイルを搭載していないというか、弾薬製造機構を持たない艦艇はなるべく弾薬を使用しない設計になっている。

 ブリタニア帝国正規艦隊の戦隊編成は、

 有人艦 計75隻
 ユーチャリス級有人戦艦 10隻    
 ユメミヅキ級有人ミサイル艦 30隻
 ゴンドワナ級有人空母 35隻

 無人艦 計550隻
 リアトリス級無人巡洋艦 400隻
 メネラオス級無人駆逐艦 150隻

 とこうなります。(合計625隻)

 正規艦隊は様々な下位世界で活動できるように汎用性を持たせているが、イゼルローン要塞駐留艦隊は次元空間での戦闘に特化しており、ガイエスブルク要塞は虚数空間での戦闘に特化している。その他の守備隊は、ブリタニア内での戦闘を想定しているなど様々な外敵を想定して国防を整えている。

 

■ブリタニア帝国の要塞

イゼルローン要塞
 元ネタ『銀河英雄伝説』のイゼルローン要塞
 直径:70㎞
 装甲材質:ネオ・チタニュウム合金、液体金属
 主機関:大型縮退炉
 武装:超大型グラビティブラスト、高出力ビーム砲台
 機能:多重ディストーション・フィールド、エネルギー転換装甲、弾薬製造プラント
 説明
 次元空間から侵攻してくる敵からブリタニアを防衛するために帝国が次元空間に配置している軍事要塞。
 表面は耐ビーム用鏡面処理を施したネオ・チタニュウム合金で作られており更にそれを液体金属で覆っている。
 25,000隻もの艦艇を収容可能で、同時に艦艇500隻の修理が可能な整備ドック、超高効率原子変換による弾薬製造機構を備えており、艦内で弾薬類の自給自足が可能になっている。
 多重DFにより相転移砲の直撃にもビクともしないという驚異的な防御力を持っている。

 

ガイエスブルク要塞
 元ネタ『銀河英雄伝説』のガイエスブルク要塞
 直径:65㎞
 装甲材質:ネオ・チタニュウム合金、液体金属
 主機関:大型縮退炉
 武装:超大型グラビティブラスト、高出力ビーム砲台
 機能:多重ディストーション・フィールド、エネルギー転換装甲、弾薬製造プラント
 説明
 虚数空間から侵攻してくる敵からブリタニアを防衛するために帝国が虚数空間に配置している軍事要塞。
 表面は耐ビーム用鏡面処理を施したネオ・チタニュウム合金で作られており更にそれを液体金属で覆っている。
 25,000隻もの艦艇を収容可能で、同時に艦艇400隻の修理が可能な整備ドック、超高効率原子変換による弾薬製造機構を備えており、艦内で弾薬類の自給自足が可能になっている。
 多重DFにより相転移砲の直撃にもビクともしないという驚異的な防御力を持っている。

 

■ブリタニア帝国の艦艇

ユーチャリス級有人戦艦
 元ネタ『機動戦艦ナデシコ -The prince of darkness-』ユーチャリス、『トップをねらえ!』ヱクセリヲン
 全長:1080m
 装甲材質:ネオ・チタニュウム合金
 主機関:大型縮退炉×1
 補助機関:対消滅機関×1
 武装:大型クラビティブラスト四門、相転移砲一門、対空パルスレーザー
 機能:ワープ機関、エネルギー転換装甲、無人艦の制御、ディストーション・フィールド
 解説
 帝国軍の標準型戦艦。
 監察軍の活動によって入手できたいろんな世界や時代の技術を取り込んでおり、凄まじく強力。

リアトリス級無人巡洋艦
 元ネタ『機動戦艦ナデシコ -The prince of darkness-』の新リアトリス級戦艦
 全長:320m
 装甲材質:ネオ・チタニュウム合金
 主機関:縮退炉×1
 補助機関:対消滅機関×1
 武装:艦首に中型グラビティブラスト二基
 機能:ワープ機関、エネルギー転換装甲、ディストーション・フィールド
 解説
 帝国軍の標準型巡洋艦。
 帝国軍の戦闘艦では最も数が多い。
 帝国軍では人員削減の為に、巡洋艦を無人にしている。

メネラオス級無人駆逐艦
 元ネタ『機動戦士ガンダムSEED』のメネラオス
 全長:130m
 装甲材質:ネオ・チタニュウム合金
 主機関:対消滅機関×1
 武装:対空レーザー砲二基
 機能:ワープ機関、エネルギー転換装甲、ディストーション・フィールド
 解説
 帝国軍の標準型防空駆逐艦。
 基本的に艦隊の防空、つまり敵機動兵器やミサイルの迎撃を主目的とした艦。

ユメミヅキ級有人ミサイル艦
 元ネタ『機動戦艦ナデシコ』のゆめみづき木連式戦艦
 全長:1580m
 装甲材質:ネオ・チタニュウム合金
 主機関:大型縮退炉×2
 補助機関:対消滅機関×1
 武装:レールカノン、光子魚雷、対空ミサイル、56mm対空単装レールガン二十四基、406mm二連装レールガンに二基
 機能:ワープ機関、エネルギー転換装甲、ディストーション・フィールド、弾薬製造プラント
 説明
 超高効率原子変換による弾薬製造機構を備えており、艦内で弾薬類の自給自足が可能になっている。

ゴンドワナ級有人空母
 元ネタ『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』
 全長:1200m
 装甲材質:ネオ・チタニュウム合金
 主機関:大型縮退炉×1
 補助機関:対消滅機関×1
 武装:対空レーザー
 機能:リニアカタパルト十六基、ワープ機関、エネルギー転換装甲、ディストーション・フィールド、弾薬製造プラント
 説明
 超高効率原子変換による弾薬製造機構を備えており、艦内で弾薬類の自給自足が可能になっている。

 

■ブリタニア帝国の戦闘機と攻撃機

可変戦闘機メサイア
 形式番号:VF-01
 元ネタ:『マクロスF』のVF-25メサイア
 武装:50㎜ビームマシンガン(変形させるとトロニウムバスターキャノンを打てる)、レールガン、小型ミサイル
 機関:トロニウム・エンジン×1
 機能:ディストーション・フィールド、エネルギー転換装甲、ピンポイント・バリアー、IFS(イメージ・フィードバック・システム)
 解説
 基本的に原作機よりも武装を減らしているがその変わり主力部にディストーション・フィールドを装備するなど防御力を向上させている。
 初期は核融合炉であったが、エネルギー不足からトロニウム・エンジンに変更している。

汎用攻撃機ストライク
 型式番号:A-01
 武装:対艦ミサイル
 機関:トロニウム・エンジン×1
 機能:ディストーション・フィールド、IFS(イメージ・フィードバック・システム)、ピンポイント・バリアー
 解説
 ディストーション・フィールドを利用して加速してから敵艦に対艦ミサイルを叩き込むというコンセフトの攻撃機。
 元々はメサイアと同じく可変機にという案もあったが「攻撃機が人型に変形しても意味ないね」というもっともな意見により、大気圏内外で使える汎用性を持たせるのみに止めている。
 初期のストライクは核融合炉であったが、エネルギー向上のためにトロニウム・エンジンに変更している。

 

■用語解説(ウィキペディア参照)

ネオ・チタニュウム合金:『新機動戦記ガンダムW Endless Waltz』
 ガンダニュウム合金に近い防御力を持つ新素材。
 ガンダムWの世界の装甲素材は軽量で固いという特性があり、特にネオ・チタニュウム合金はコストと性能のバランスがいいので帝国軍では広く使われている。

エネルギー転換装甲:『超時空要塞マクロス』
 エネルギーを「装甲表面に電流のように流し込む事で素材の分子構造を強化し、装甲強度が向上する」という装甲表面を物理構造的に強化するという類のもの。

ピンポイント・バリアー:『マクロス・フロンティア』
 PPBとは、「Pinpoint barrier system」 の略で、意図的に次元断層(時空連続体の歪み)を発生させ、左記によって発生した力場を展開する。
 腕部に展開して、防御手段として使用するほか、格闘戦が必要になった際には、マニピュレータ部に展開して手甲(しゅこう。英語ではナックル・ガード)のようにして目標の装甲に打撃を与える攻撃手段としても使用可能である。

トロニウム・エンジン:『スーパーロボット大戦α』『スーパーロボット大戦OG』
 トロニウムを用いる動力機関で莫大な出力を誇るが、発生するエネルギーにエンジンの構成素材が耐えられず、また、制御が極めて難しく暴走状態で爆発すると半径50キロの範囲が消滅するといわれている。
 最大出力での稼動限界時間は3分間が限度とされているため、普段はリミッターが設けられ半分以下の出力で使用される。
 監察軍では戦闘機や攻撃機などに使用されている。

縮退炉:『トップをねらえ!』
 アイス・セカンドの重力崩壊を利用する動力機関。
 暴走するとボイド効果により人工ブラックホールとなる。

常温対消滅機関:『ふしぎの海のナディア』
 対消滅機関は対消滅で発生するエネルギーを取り出すエンジン。

 


黒歴史(シドゥリ暦1500年=西暦2979年)

2013年08月18日 13時12分49秒 | 小説

 廃墟の中を二人の男女が歩いている。彼等がここにいるのは遺跡探索のためだった。

「しかし、ここも老朽化が酷いですね殿下」
「仕方ないわ。何百年も前に捨てられた施設跡だしね。でも掘り出し物があるかもしれないよ」
「そうですね。なくても暇つぶしにはなりますし」

 二人は、この世界、現地惑星名『地球』の住民ではない。異世界からの旅人だった。一人は金色の髪を肩口で切りそろえた少女。特徴的なのはオッドアイの瞳だろう。それは古代ベルカにおいては聖王家の証であり、ブリタニア帝国においては皇族の証だった。

 彼女の名は、クリスティーナ・フォン・ヴァーブル。ブリタニア帝国皇帝シドゥリと第一皇妃ナノハとの間に生まれた第一皇女で、彼女の他にも第二皇妃フェイトを母とする第二皇女の妹が存在する。そんな彼女は侍従長の男と共に母の故郷を観光していた。

 ちなみにシドゥリの故郷とも言えるベルカは、人が生活できる環境ではないので旅行先からは外しておいた。人もおらず廃墟だけの世界などわざわざ行くまでもない。

「かつてはそれなりの文明を持っていたというのに、この有様とはね」

 クリスティーナが憂鬱そうにいう。

「道を誤ればこうなるということでしょう。我がブリタニアもこうないようにしないといけません」
「そうね」

 

 かつてこの世界とブリタニアは交流を持っていたが、当時この世界を統一していた地球連邦は暴走してブリタニア帝国との関係が悪化し国交が途絶する。(シドゥリ暦618年)

 地球連邦はその直前に魔法文明が存在する旧管理世界に侵攻していた。これは地球連邦の暴走であったが、攻め込まれた世界からすれば脅威だ。何しろ地球軍は女子供を問わず魔導師を尽く虐殺し、それに抵抗する者の躊躇なく殺していったのだ。これには内部対立を起こしていた次元世界群も脅威と捕らえて、反地球同盟を結成することとなった。

 地球連邦と反地球同盟。次元の海を渡って二つの巨大勢力が激突していく。ここで地球連邦は戦争を止める事は可能であっただろう。分裂して抗争を繰り返していく世界を一つ一つ攻め込むという当初の計画は破綻してしまい大同団結した同盟という存在が登場してしまった以上、そう簡単に勝てないのは分かりきっていた。

 しかし、彼等は同盟と全面戦争を決意した。以降、百年以上にも渡る戦争が続くことになった。

 戦争は軍備拡張を呼び、連邦の経済を圧迫して、貧困層、戦死者遺族を量産していく。戦争に人手を取られて社会は弱体化、地方惑星と地球との格差などによる不平不満が起こる。最早連邦は末期状態となっていた。

 一方敵手たる反地球同盟も内部対立を起こして混乱、長く続く戦争に社会が破綻した。結果として、地球連邦と旧管理世界群である反地球同盟は自壊してしまった。(シドゥリ暦725年)

 この破綻は決定的なもので、両勢力とも次元航行技術と恒星間航行技術を喪失してしまう。それぞれの世界の惑星は一つの世界、一つの惑星に孤立していった。

 それぞれの世界は文明を維持できずに文明は大きく後退し、人類が混乱期をようやく乗り越えた時には文明レベルは中世ヨーロッパ辺りまで低下していた。

 地球とかつての植民惑星は、多数の王国が群雄闊歩しており、民主共和制という思想もなくなっていた。まぁ民主共和制はある程度の文明レベルや民度が要求されるので崩壊後の世界ではどう考えても無理だった。

 人々は、車ではなく馬で移動し、人々は銃ではなく剣、槍、弓矢などで争った。かつての文明が古代文明と呼ばれ、もはや理解も再生産もかなわぬ遺失技術の工芸品は、『ロストロギア』と呼ばれることになる。

 

「文明の後退か。かつては恒星間航行技術まで提供して上げたというのに」

 ブリタニア帝国はミッドチルダと同レベルの魔法技術と核融合炉、ワープ技術などを提供していた。技術提供は管理局に漏れても技術革新が起きないように制限していたが、それでも地球の文明を大きく加速させたのは間違いなかったのだが、それも台無しになってしまった。

「結局、彼等では安定した秩序は構築できなかった」

 人の限界を超えた優秀な支配者が民を正しく導くべき、というのがクリスティーナの考えだった。これは別に特別な物ではなく帝国では常識で、むしろ民主共和制という思想の方が帝国では異端であり排除される物だった。

「まぁいいでしょう。今となってはどうでも良いことです」
「そうですね。帝国も地球は現状のままがいいと考えているようですし」

 クリスティーナの言葉を侍従長が肯定する。

 現在のブリタニア帝国は地球に関しては不干渉の態度をとっていた。かつては技術支援や軍事支援など様々な手助けをしていたのに、彼等の暴走で関係が悪化したのをふまえて、地球の文明が停滞した現状の方が好都合だと考えたからだ。下手に高度な文明になると自滅しかねないし、最悪の場合ブリタニアの方にまで進出してきかねない。

 そもそも高度に発達しすぎた文明は自滅の危険性も大きい。かつて管理世界でロストロギアと呼ばれた物の多くは、そうして滅亡した高度な文明の遺産だった。文明レベルが高くない方がそうした意味では安全である。元々、安全保障上の問題で、ブリタニアの正確な位置は極秘としているから問題ないとは思うが念には念を押しておく。

 実は地球も管理局も結局最後までブリタニアの位置は知らなかった。
 帝国がそれを隠したのは、そうすれば本国に攻め込まれる危険性を低く出来るからだ。この世界はロストロギア一つで近隣の宇宙ごと一気に滅びることさえありえるので、ブリタニアの位置を知られて何か仕掛けられたら厄介な事になる。

「さてと、老朽化が酷いから倒壊に注意して下さいね」
「ええ」

 クリスティーナは、辺りを探索している。彼女にとって今回の地球訪問は観光だった。母のルーツでありシドゥリ教において特別な存在として扱われている世界。それに興味を抱くのはある意味当然とも言えた。とはいえ今の地球は中世ヨーロッパ程度で魔法文明も存在しない世界である。下位世界の中でも最高級の文明レベルを誇るブリタニア帝国との落差には戸惑いも大きい。

 夕暮れ時となり作業を中断する。クリスティーナ自身は覚醒者であるので当然夜目がきくというか夜の方が何かと都合が良いが、共の男は人間なので夜は活動できない。
 一旦遺跡から出てホイポイカプセルで家を出した。このホイポイカプセルは『ドラゴンボール』の世界で入手した技術で、中身を粒子状にしてカプセルに閉じこめておく物だ。この様に帝国は監察軍が入手した技術を積極的に取り入れていた。

「殿下何か見つかりましたか?」
「つまらないものしかなかったわ」

 クリスティーナはボロボロのライターを男に見せる。

「でも、ここじゃこんな物でもロストロギア扱いされているわね」

 クリスティーナは呆れた表情だ。

 それは年月の経過で最早使い物にならなくなっている。この程度の小物でもここでは再生産できない。そんな遺失技術の数々を見れば文明の後退ぶりがよく分かる。

「それにしても殿下は何故貴重な時間を割いてまでこの世界に来られたのですか?」

 クリスティーナは、帝国で五人しかいない皇族の一人だ。そのうち皇位継承権を持つ者は彼女を含めて二人しかいない。

 ちなみに皇帝と二人の皇妃は共に覚醒者にして女性なので自然な形で子供を作ることはできないが、科学技術を用いて人工的に作ることはできるので問題なかった。勿論、二人といわずもっと子供を作れるのだが、あまり皇位継承者を増やしすぎると後々問題になるので二人で止めていた。

 皇女たる彼女の役割は来るべき時つまり現皇帝が死去あるいは退位したときに皇位につくことにある。逆を言うと皇帝が健在でいる間は候補者に過ぎず、やるべき事がない。

 むしろ問題となったのが長い年月を生き続ける事による精神の摩耗であった。帝国の皇族と貴族は不老長寿であるが精神まではそれに対応し切れていない。だから生きるのにあきてしまい、死を選ぶ者も多い。だから百年ほど人口冬眠を行うと、数ヶ月ほど活動して、また百年ほど人口冬眠するという事を繰り返していた。これはシドゥリが『∀ガンダム』のディアナ・ソレルの真似をさせることで、皇女たちの活動時間を短縮して精神の摩耗を抑える為だった。

 クリスティーナは徹底的に教育を受けて育ち、十七歳のときに覚醒者となった。そして二十歳までは普通に過ごしていたが、それ以降は人口冬眠と短期間の活動のサイクルを行う生活を繰り返していた。人口冬眠が長いことから、帝国では皇女たちのことを『眠り姫』と呼ばれている。それだけに活動期の数ヶ月というのは貴重な筈であり、こんな文明の停滞した世界を観光して過ごすというのは勿体ないと侍従長が思うのは無理もないだろう。

「確かに文明レベルが低いのは認めますが、『地球』には興味があったので一度きたかったのよ」

 皇位継承者であるクリスティーナは上位世界と下位世界、そして死神とトリッパーの秘密も知っている。皇帝となる可能性があるのでそれらを知っておく必要があるからだ。だからこそ『地球』の特異性には注目していた。

 監察軍の調査では多くの下位世界で『地球』が存在している。上位世界の地球をコピーした下位世界が多いのだ。

 しかし、それらの世界の地球ではベルカ式魔法が使えない。だから魔法が使えないという問題を我慢して文明の高い地球に行くよりも、この『魔法少女リリカルなのは』の地球にいくことにした。

「まぁ明日も発掘するので早く休みましょう」
 クリスティーナは寝間着に着替えるとさっさとベッドに向かっていった。

 

後書き

 ブリタニア帝国記はこれで粗方終わりの予定です。ADONISは、If編で地球連邦と時空管理局の戦争や、未来の地球で新地球連邦が成立する話などの構想があったのですが、そこまで書けないのでここで打ち切りにしました。今後は監察軍に関係しているトリッパー達の話に集中したいと思っています。

 


時効(シドゥリ暦1206年)

2013年08月18日 13時11分35秒 | 小説

「まったく物語に出てくるような王国ね」

 アーリィの目の前に広がっている光景は、そう思わずにはいられなかった。まるで物語に登場するかのようなファンタジーな城を中心に模型のような印象すら与える城下町。

「どうなさいますか主アーリィ」
「監察軍の報告通り、特に問題はないようね」
 少女アーリィ・フォン・プリヴィアは当代の夜天の主である。そんな彼女に付き従うのは、四人の守護騎士(ヴォルケンリッター)と夜天の書の管制人格にしてユニゾンデバイスであるリィンフォースだった。
 
 夜天の書は、古代ベルカ時代の遺産であるため、ブリタニアにおける考古学的価値はかなり高い。

 かつての夜天の書の主であった八神はやて(憑依型トリッパー)が、ブリタニアに移住した際に夜天の書もブリタニアに来たわけであるが、はやての晩年になるとある問題が浮上した。それは夜天の書に備わる主が死ぬとランダムに転生するという無限転生機能だった。

 つまり転生先がブリタニアとは限らないので、下手をするとブリタニアの技術が異世界に流出する可能性があった。その為、シドゥリがプログラムを弄って、夜天の書が転生する場所をブリタニア帝国内に制限させた。こうして、夜天の書ははやての死後様々なブリタニア人の元に転生することになった。
 
 ルシタニア王国。それは先日ブリタニア帝国にその存在が確認された、遠く離れた次元世界にある王国である。この王国が問題となったのは、そもそもこの王国を建国したのがブリタニア人であったからだ。
 
 そもそもの始まりは、四百年前にブリタニアで活動していた宇宙海賊が次元航行船で余所の次元世界に逃げたことだった。

 ブリタニアでは次元航行は一般的ではないが、技術的にはローテクもいいところであったので、やろうと思えば出来ることなのだ。

 ブリタニアは銀河に幅広く展開していたが、余所の次元世界に対しては進出をやっていなかったので、案外上手くいき海賊船ルシタニア号は帝国軍の討伐の手からまんまと抜け出した。

 こうして辺境世界に逃れた宇宙海賊たちは、そこで原住民を支配下において王国を築いた。海賊の首領は王に、その部下たちは貴族となった。
 
 これが発覚したのは、監察軍に所属するトリッパーが保有していたアカシックレコードというチート能力のおかげであった。同時にこのルシタニア王国は、大した脅威にはならない事も報告された。

 確かに技術は流出していたが、それは中世欧州程度の物でしかなく、産業革命すら迎えていない未開文明国家でしかない。しかし、念の為にブリタニア帝国は調査員を派遣していた。
 
「言葉はベルカ語ですし、一部ではベルカ式魔法が使われているようですね。最もデバイスを作る技術もないのでかなり原始的ですが」

 アーリィはシャマルの報告を受ける。
 
 このルシタニア王国の一部ではベルカ式魔法が使われている。それも近代ベルカ式の様な紛い物ではなく、ブリタニアが改良を進めていたベルカ式だ。とはいえデバイスがなければたいした事はできない。一々長々と詠唱しないといけないし、効率も悪い。勿論、デバイスがなくても訓練すればそれなりに魔法は使える。シールドやらバインドなどはそこまで難しくないのだ。
 
 現在、このルシタニア王国の対応で帝国では討論されている。勿論、このルシタニア王国を支配していた宇宙海賊たちは皆ブリタニアの犯罪者であるから摘発する権利がある。

 しかし、それは四百年前の話である。当然ながら現在では当時の犯罪者たちは皆死亡している。今の王国に彼らの子孫がいるのだが、まさか「宇宙海賊の子孫も犯罪者だ」と主張して摘発するわけにもいかない。

 ここでルシタニア王国の技術力が帝国の脅威になりうる物であれば強硬論もあっただろうが、これではね。

 おまけに海賊船もとっくに故障して修理も不可能で、ブリタニア帝国の位置情報も失伝している。恐らく帝国はこのルシタニア王国に不干渉を貫くでしょうね。
 
「まさに時効としかいえないわ」

 流れゆく時があらゆる罪を押し流してしまったのだから。アーリィは苦笑いをした。
 
 
 
解説
 
■アーリィ・フォン・プリヴィア
 シドゥリ暦1206年時点での夜天の主。ブリタニア帝国宮廷貴族にして爵位は男爵。内務省に所属する新米貴族で今回の任務を受けていた。
 
 
 
あとがき

 今回はブリタニアから勝手に抜け出して新国家を建国した海賊たちの話でした。この一件からブリタニアは異世界からの防衛だけでなく、ブリタニア人の不法出国にも警戒するようになり、次元空間に要塞を配置して鉄壁の防衛網を構築します。

 


ブリタニア神話の考察(シドゥリ暦802年)

2013年08月18日 13時10分30秒 | 小説

 神話とは民族の数だけ存在するという。実際地球では多種多様な神話が存在する。それらは自然現象や過去の出来事を元に神話として構成されていることが多い。一節によると神話というものは国家を形成するにあたって重要な役割をはたすという。そして、ブリタニア帝国にも同然ながら神話は存在していた。

 このブリタニア神話というのは、シドゥリ教が布教と共にブリタニアで広められている。但しそれは日本神話と同じように、ときの為政者の都合の良いように造られた物であり、ブリタニア神話はシドゥリとそれに連なる貴族による統治を正当化するのが目的の極めて政治色の強い神話であった。

 

 1.世界の創造

 世界の初めは高位次元世界に住んでいる神々が、自分たちの世界に似せて造った一つの世界を中心に膨大な数の宇宙を内包した次元世界を作り上げた。その次元世界の中心点とも言える世界が地球であった。

 しかし、この時神々はあまりにも世界を造りすぎてしまい、それゆえ世界は不安定になり次元災害が起こるようになった。現在の我々の世界があまりにも容易く滅びてしまうのはその為である。

 そしてその不安定さから次元間の壁が薄く、容易く次元間の移動ができるようになった。

 神々はその後、様々な世界で動物たちが自分たちに似た生物(人間)に進化するように調整を施し、この次元世界を見守るようになった。こうして次元世界の様々な世界で人間達が現れた。

 それぞれ違う世界で進化した人間にも関わらず彼等が異世界人との間で子を作れるのは神々が意図的に調整したからなのだ。

 こうして誕生した人間であったが、彼等は次第に人間同士で醜く争いあうようになった。文明が発達して、次元世界を渡るようになると人々の争いは世界間に拡大していく。人が人を支配して、戦乱と混乱が次元世界を覆った。

 そんな人間のあまりの愚かさに失望した神々は次元世界を見守るのを止めて、別の世界へと旅立っていった。こうしてこの次元世界は神々に見捨てられた世界となった。

 

 2.ベルカの聖王女

 神々に見捨てられても尚、人々は醜い争いを繰り返していた。次元世界の一つベルカもそんな戦乱の世界だった。

 当時のベルカは次元世界でも有数の文明を持つ世界であったが、当時の人間の王達は争いを繰り返し、世は混沌としていた。

 そんな中でベルカ聖王家に一人の天才が生まれる。

『シドゥリ・エルデルト・フォン・ヴァーブル』

 彼女は時の聖王とその側室『ヒルデガルド・フォン・ヴァーブル』との間に生まれた。シドゥリは並はずれた魔力資質の持ち主であり、歴代最強を誇り、聡明であった。シドゥリは幼くして戦場で大きな武勲を立てて、騎士たちからも尊敬を集めた。だがそんなシドゥリを兄であるクリードは妬み、嫌っていった。

 クリードは、聖王家の一員としては能力がそれほど高くなく、優秀な妹に劣等感を抱いていた。周囲からも優秀すぎる妹と比較される事が多く、次第に彼の心はねじ曲がっていった。そんな中で、父であった当代の聖王が崩御してしまい、後継者争いが起こった。これは聖王が正式な王位継承者を決めていなかったのが大きな原因だった。

 当時、聖王には二人の子供がいた。王妃との間に生まれた兄と、側室との間に生まれた妹。

 通常であれば、ゼーゲブレヒトの性を名乗る事もない側室との間に生まれた王女ではなく、王妃の子で長男である兄が聖王になるべきだ。

 しかし、クリードは遺伝子操作に不具合があってか、聖王家の人間としては平均を大きく下回っていた。それでも並のベルカの騎士よりは強かったが、聖王家始まって以来の天才と呼ばれたシドゥリとはあまりにも能力に差が有りすぎてしまったのだ。聖王は最強でなくてはならないというのにこれでは大問題だった。それ故、どちらを後継者に指名すべきか判断できなかった。

 そうこうする内に聖王が死んでしまい、この事態を招いてしまったのだ。

 望めば次元世界有数の国家の王として君臨できる状況であったが、シドゥリは聖王の地位には興味を持ってはいなかった。彼女は人を人間以上の存在にする技術を開発しており、これを用いて理想国家の建国を目指していた。

 かねてよりシドゥリは現在の次元世界の現状に嫌気が差しており、それを変えたいと願っていた。その方法として現在の人が人を支配するという体制から、人を超えた者が人を管理して秩序を構築するという構想を持っていて、その為に手段を確保して、更にその計画の為に念入りに準備を整えた。

 その時に起きた出来事であったので、後継者争いで国内が混乱して内乱に発展するのを嫌ったシドゥリは王籍離脱を行い、ベルカを去っていった。

 こうして彼女は未開世界であったブリタニアにたどり着くこととなる。

 

 

 シドゥリ暦802年10月2日 ブリタニア帝国 首都星ヒルデガルド
 
「ブリタニア神話の前半においては、このように次元世界を創造した神々の創世と、神々が去った事による神代の時代の終わり、そして人間同士の争いによる混乱が主に占められています」

「現在でもブリタニア帝国以外では人間国家の争いが絶えていません。これは人間による統治の限界を示しているといえましょう」

「このブリタニア帝国は、魔法皇帝シドゥリ様の試みの結果として、人を超えた覚醒者による秩序の構築という他に類を見ない方法で世界の安定に成功しました。現在我々が秩序を保った社会を作れているのも全てシドゥリ陛下の功績の賜物なのです」

「かの地球とて有史以来数千年にも渡り、紛争と混乱が絶え間なく続いていた事を考えると正に未曽有の偉業といえます」

「このシドゥリ陛下の功績により、私達の先祖は原始的な生活から解放され、近代化を果たすことができたのです。私達はその御恩を決して忘れてはいけません」

「そしてブリタニア神話の後半では、この惑星ヒルデガルドに降臨なされたシドゥリ陛下のブリタニア建国と発展の話となります」

「またブリタニア神話では、神々はこの次元世界だけでなく他にも様々な世界を創造していますが、その際神々は自らの世界に似せて世界を創造することが多かったのです」

「つまり神々が存在している『地球』は、現在私達に知っている地球と地理、歴史、文化と様々な点で共通点があり、地球人は神の似姿ともいえます」

「このブリタニアを含めて次元世界に存在する全ての世界は地球のバリエーションであり、その世界で進化した人類も地球人を元にした亜種に過ぎません」

「地球とその他の世界との違い、そして地球人と他の世界の人間の違いなどは現在でも明確になっていませんが、少なくとも次元世界を創造した神々にとって地球や地球人は他とは一線をかくす存在であった事は間違いないでしょう」

「一説によるとシドゥリ陛下が地球を優遇していたのは、これが原因ではといわれています」

「つまりシドゥリ陛下が地球人のナノハ陛下を第一皇妃に選んだのは、皇室に神々により近い地球人の血を取り入れるのが目的だったのではという物です」

「しかし、地球がブリタニアよりも格上だとも取れるため、この事はブリタニア至上主義者の一部で異論が有ったそうですが、監察軍による三千世界の調査が進んで多くの『地球』が発見されて、三千世界における地球の特異性が証明されました」

「さて時間もきましたし、今日の授業はここまでです。続きは次の授業で行います。それと、この辺りは重要なのでしっかり復習しましょう」

 

後書き

 この話ではブリタニア帝国記独自の設定を盛り込んでいます。ブリタニア帝国では、次元世界の成り立ち、第97管理外世界『地球』の定義などは、この話のようになっていて、ブリタニア帝国では地球というのはある意味特別な物になっています。

 


究極の生命体 第六話(シドゥリ暦788年)

2013年08月18日 13時09分41秒 | 小説

 結局、あれから一進一退の攻防が続き、時間切れでなし崩しに終わった。そんなわけで訓練に一区切りつき、食事にすることになった。

 ここは、訓練場所に活用されているだけあって宿泊施設や訓練施設も十分に存在している。

 しかしここで出される料理は宮廷料理ではなく、キャンプ料理となる。豪華な宮廷料理も悪くないが、カレーや焼き肉などのキャンプ料理も良い物だ。

 ちなみに余は料理に関しては割と質素だ。皇帝であるから御馳走などいくらでも味あえるが、毎日そうだとさすがにあきる。そんなわけで、余は普段はあきにくい料理を好んで食べるが、今回は部下が用意した焼き肉を黙々と食べている。

 カーズはワインを飲んでいる。彼はワインが気に入ったのか、帝国に来てからよく飲む様になった。

 元々彼等の生活は自然のままという物だったので、加工品自体が珍しいのだろう。というか水ばかり飲んでいたんじゃないの? あの人達わざわざ自分でお酒とか作りそうにないしね。

 エシデッシは書物などに興味を示した。たしか原作でも中国で孫子の兵法を読んでいたから、帝国の文献が興味深いのだろう。なんせ様々な下位世界の資料などがあり、あまりの数に整理に困る程だ。

 勿論、帝国には本だけでなく電子書籍もある。というよりも、かさばらない電子書籍は重宝されていて、皮肉にもこれが帝国で図書館の利用者が減少してしまう原因となっている。

 そしてジュラは、というと黙々と焼き肉を食っていた。

 あれからジュラと模擬戦を続けたが、予が優勢だった。余の聖王の鎧が進化する前であれば、ジュラはスタンド能力で勝利を収めることができただろう。

 このスタンドというものはかなり厄介で、これを使われると普通の騎士は分が悪くなる。なんせスタンドは幽霊のような物だから物質を通過することができる。シールドやバリアなどが役に立たない。

 防御魔法はあくまで科学サイドにおける防御で、神秘、呪い、幽霊などのオカルト面からの攻撃では対応できない。

 これは『魔法少女リリカルなのは』の世界では、魔法も科学技術の一部に過ぎず、オカルトに関して無知であったことが大きいだろう。その手の攻撃を想定自体していないのだ。おまけにスタンド使いではないとスタンドを見ることができないのが大きい。

 しかし、私の場合は聖王の鎧が進化しているために、オカルト面からの攻撃まで防いでしまう。従来の聖王の鎧では防げない筈の攻撃を防げるのは、覚醒の法の副作用だと思われるが詳しいことはよく分からない。ただ覚醒者になった時に聖王の鎧の防御力が上がっただけでなく、その性質まで変化したのは間違いないが、私にとって好都合なので気にしていなかった。

 反則じみた防御力をもっていた余は完全にチートと化していた。これをやぶるには力業で鎧を破るしかない。というと無理難題に思えるだろうが『ドラゴンボール』の戦士たちなら簡単に予の鎧をもぶち抜ける。あの世界の戦士は強すぎるよ(泣)。

「しかし、シドゥリに勝てないとはな」

 ジュラがぼやいた。強力な力を手にしてもなお余を圧倒できないことに不満なようだが、帝国貴族がいる前で皇帝を呼び捨てにするのは良くないよ。部下達がジュラを不愉快そうに見ている。

 余は監察軍の者には、特に一般的に特殊認識能力者という隠語で呼ばれているトリッパー達には、無礼講で接することは貴族の間では有名だから、余程の無礼でないと口を出さない。とはいえ貴族や臣民には面白いはずもないので、監察軍では自粛するように通達されていた。ジュラはその辺りは頓着していないけどね。でも堅苦しい者は、そのことで余に諌言してくる。

 この辺りは結構面倒であったが、帝国は民主共和制ではなく、専制君主制なので部下達の言うことは正論であった。彼等にとって、身分というのは帝国にあって当たり前の物で、それをあまりにも蔑ろにする者は排除されるべきなのだ。だからといってブリタニア人でもない者、特に同じトリッパーに皇帝の権威に従えといっても反発をまねくだけだろう。この辺りのさじ加減が面倒だ。しくじると問題になるからね。

 

「でも、この世界ぐらいしか魔法が使えないから、余所の世界では負けていたでしょうね」

 魔法というのは存外不便だ。様々な下位世界を渡り歩くようになると、そういう声が良く聞こえる。

 特にミッドチルダ式魔法とベルカ式魔法は、とらいあんぐるハートシリーズと魔法少女リリカルなのはシリーズの世界でしか使えない。とらいあんぐるハートシリーズの世界でこちらの魔法が使えるのは、恐らく『魔法少女リリカルなのは』が『とらいあんぐるハート3』のスピンオフ作品だからだろう。だから二つの作品は親和性が高く、世界法則でも融通が効いていると思われる。

 しかし、『魔法少女リリカルなのは』の魔法が使用可能である下位世界があまりに少なすぎる。監察軍ではこのあまりの使えなさにこちらの魔法の評価が低い。

 そもそも下位世界を渡り歩く者達にとっては、できるだけ多くの世界で使うことができる力が重宝される。時空管理局が危険だと唱えて禁止した質量兵器はその筆頭である。というかあれほど便利な力を禁止するなんてどうかしている。

 帝国と地球が管理局と敵対することになった理由はいろいろあるが、その最たる物が質量兵器の禁止であることは間違いない。多くの下位世界で問題なく使えて、戦力を揃えることも容易。帝国軍が質量兵器を主力とするのも当然である。

 貴族達が、別の下位世界に行きたがらないのも、リスクが高いからだ。さすがに太陽を克服していない身で、魔法が使えなくなる下位世界に行くのはごめんなのだろう。

 食事を取り、暫く休んで腹ごなしを終えると、宿泊施設に入り就寝する。そろそろ現地では日の出になる。覚醒者となってからはすっかり夜型生活となった予と貴族達は睡眠に入ることになる。ただ今日は予の寝室にジュラを伴っていた。

 これは極めて珍しいことだ。シドゥリは同性愛者なので寝室に男性を入れるなど普通はない。それだけ聞かれたくない話があるからだが。

「それで、シドゥリ。お前はカーズ達に関してはどうするつもりだ?」

 それはカーズ達を覚醒させるのか、という質問だろう。

「そうね。原作のカーズの暴走ぶりを見ると危険でしょうね。まぁあいつはプライドが高いから、人間風情に協力を求めることはできないと思うし、それなら放っておけばいいわ」

 適当にあしらって、カーズ達を元の世界に返す。後はあの世界には関わらず放置すればいい。

「うむ、それが無難かもな。だがそれだと原作と同じように一族内で抗争が起きるかもしれないな」

 やはり、その可能性に気付くか。ジュラという成功例を見たから原作以上に究極の生命体に執着する可能性があり、将来的に一族間で内部対立が起こるのは否定できない。

「そうね。でもそれは仕方がないわ。それよりジュラはあの世界の地球から離れるつもりかしら?」

 原作で究極の生命体となったカーズは宇宙空間へと追放された。それはまるで地球が自らの意志によって、カーズを追放したかのようにも思えた。

『ジョジョの奇妙な冒険』の地球に、型月世界のガイアのような防衛意識があるのかは不明であるが、あるかもしれないと考えておく方がいいかもしれない。その場合、地球がジュラを危険視して、ジュラを排除しようと動く可能性は否定できない。それを避けるには、あの世界の地球から離れるというのが一番確実な方法だ。

「ああ、そのつもりだ。いい加減文明がない世界にはウンザリしているからな」

 ジュラが吐き捨てるように言う。現代日本人にとっては、あの世界はつまらないだろうね。原作開始から数万年は時間があるわけだし。

「なら監察軍で、いろいろな下位世界を旅してみるといいでしょう」
「そうだな」

 これで話は終わり、ジュラは予の寝室から出ていった。一人になった余はベッドの上で休む。

 ジュラが監察軍で活動するか。ジュラの能力は余の魔法と違って、下位世界の世界法則の影響を受けないので、多くの下位世界で問題なく活動できるだろう。本当に羨ましいかぎりだ。

 数多く存在する創作物を具現化した下位世界は面白い。余の好奇心を満たしてくれる。余も下位世界を気ままに旅してみたくなるが、太陽を克服しておらず、魔法も使えない余の場合はリスクが大きい。それ以前に、ブリタニア帝国の魔法皇帝という立場上、簡単に旅に出ることはできない。地位と権力を手に入れたが、それが予を縛っている。

「ままならぬものね」

 余は皮肉下に笑いつつもベッドで眠りについた。

 

解説

■ジュラ
『ジョジョの奇妙な冒険』の世界に転生したトリッパー。外見は20代前半の男性で、額の角は一本。雷の琉法を持ち、潜在能力を引きだした事でパワーアップしている。転生特典としてスタンド能力を貰っている。その能力は本体を鎧のように多い、雷の増幅と防御力の向上という攻防一体の物。強力な力を持つが、それだけにより多くのカロリーを必要としているので食事が大変である。出身世界では原作開始の数万年前であり、文明自体が存在しないヒマな世界であるので、監察軍に入り様々な下位世界を旅するようになる。

 

後書き

 今回は『ジョジョの奇妙な冒険』のトリッパー、ジュラを登場させました。実はジュラは超戦士伝説でゲスト出演させる予定のキャラだったので、先にブリタニア帝国記外伝に出演させました。とりあえずブリタニア帝国記の話を進めてから他の作品を書くつもりなので、その話は結構後になるかもしれません(笑)

 


究極の生命体 第五話(シドゥリ暦788年)

2013年08月18日 13時08分48秒 | 小説

 観測指定星系ブエン。有人惑星(人間が居住するのに適した惑星、またはある程度の惑星改造で居住可能となる惑星)が存在せず、更にこれという重要な資源もない星系だ。

 そんな場所なので無人地帯あり、一応ブリタニアにある星系なので帝国の領土としているだけで、前世における日本の無人島以下な扱い。ハッキリいって領土といってもほとんど価値がない場所であった。

 宇宙進出を果たして銀河にその勢力を大拡張したブリタニア帝国であったが、保有する有人惑星は数が限られていた。そもそも、そのまま居住可能な惑星や、大規模なテラフォーミングができる惑星がそれほど多くないのだ。

 最大のネックは太陽と重力だろう。大気成分などは惑星改造で何とかなるが、重力は大規模な重力操作装置が必要となり、太陽の問題で日射不足の場合は、太陽光照射衛星などの大規模施設が必要になり、採算が悪くなる。

 そして、有人惑星であっても、重力だけでなく自転と公転の速度が異なり、一日や一年の長さが異なるというのが当たり前だった。だから有人惑星ごとの時間と帝国の標準時間という異なる時間が存在する。

 ちなみに不思議なことに惑星ヴァーブルと地球、ミッドチルダ、ベルカ、その他の無人世界など、『魔法少女リリカルなのは』で、物語で登場するそれぞれの世界の惑星だけは重力、公転速度、自転速度が一致していた。あまりにも都合が良すぎるから、これはそういう風に創造されたと思う。

 この星系には一つだけ大気成分が地球とほとんど同じ惑星があった。ただし重力は約1.5Gで、普通の人間では少々きつい重力で、それゆえ大気成分が良いにも関わらず惑星開発すらされていなかった。だが、ここにいるのは覚醒者と古代地底人、そして究極の生命体ジュラ。いずれも三倍の重力など気にもとめないほどの剛の者で、覚醒者は修行の一環で対G訓練を受けている。

 そして有人惑星としては使えないこの惑星も演習場、訓練場所としては使い道があった。

 ブリタニアでは人が居住可能な場所は封建貴族の所領となっているし、惑星開発の途上の惑星は開発の邪魔になるので魔法戦は禁止されている。

 しかし、封建貴族の所領で大規模な魔法戦をやるのはそこの領主は嫌がる。何故なら、訓練を行うのは強大な力を持つ貴族たちだからだ。なまじ強大な力を有する彼女たちが暴れると、下手をすると領地に甚大な被害が出かねない。そうなると派手に暴れても問題ない惑星で行うことになる。

「ほう、重力が強いとはこういう事か」

 カーズが感心したようだ。地球と惑星ヴァーブルの重力は同じであったので、彼にとってこの星の強い重力は初めての事だ。だが流石にこの程度の重力では苦ともしない。

「ええ、ここは貴族ならばともかく普通の人間には少々環境が厳しいんです。だから有人惑星からは外されています」

 この星の問題点は重力だけなので、仮に大都市を丸々カバーできるほどの重力操作装置を用いれば、生活はできる。でもそんなことをしなくても生活できる惑星が多くあるので、わざわざ多額の予算を投じてまでそれをする必要はない。第一、そんな造られた不安定な環境では宇宙コロニーと変わらない。帝国が有人惑星の開拓に力を入れているのは、安定した大地が欲しいからだ。

 テラフォーミングには人間が手を加えなければならないが、開発が終われば人間が管理しなくても自然と地球と同じ環境が維持される惑星である事というのが有人惑星としての最低条件。だからこの星は帝国に見向きもされない。

「では早速訓練をしましょう。それと料理の準備はしておくように」
「はい!」

 部下の貴族に命令しておく。貴族達は普段は料理などしない。それぞれが使用人を持っているが、ここでは使用人を用意できないので、自分でやるしかない。まぁ簡単な料理なので気分転換にちょうどいいだろう。それに女性の嗜みとして最低限の家事ぐらいはできる。

 現地では既に日没により夜となっていた。到着時刻が夜なのは、カーズ達に対する配慮もあるが、シドゥリ達自身の活動時間だからだ。

 貴族は、騎士甲冑や科学製品で紫外線を防げるとはいえ、昼に活動するのは、嫌がる者が多い。覚醒者は日光を克服している訳ではない、魔法や科学の力で防いでいるだけで、相変わらず日光は天敵なのだ。だから非常時を除けば、昼は休み、夜に活動するというのが覚醒者達の常識であった。

 

「ではやりますか」

 場所を移した余は部下に模擬戦開始の合図を送る。既に対戦表はできているので後は実行あるのみだ。

 

「これは派手だな」
「そうでしょうね」

 ブリタニア貴族の戦いはただの対人戦闘ではない。高ランクのベルカの騎士の能力と覚醒者としての超人的な能力を組み合わせて行われる模擬戦は、空と陸と、めまぐるしく場所を変えていく。

 空戦魔導師というのは空戦しかできないわけではなく、陸戦もできる。彼女たちはその場の状況に合わせて空陸を選択して闘う。

「さて丁度良いので私も体を動かすとしましょう。ここ最近本格的な模擬戦はしていませんからね」
「ふん、お前とまともに戦える貴族などいないだろう」

 ジュラが呆れている。そう、余は覚醒者としては最高級だ。元が古代ベルカ聖王家の一員で、最高の魔力資質をもっている。最も長く生き、経験をつんだ最古にして最強の覚醒者。並の貴族では束になってもかなわない。

「そうだ。ジュラ、余と模擬戦をしてみない? 余も君がどれぐらいの能力を手に入れたか興味があるわ」
「……能力の確認か? まぁいいだろう」

 やはりジュラも能力の限界には興味があったようだ。

「それじゃカーズとエシデッシは見学していてね」
「ああ」

 カーズが軽く頷く。

 

 余はジュラが覚醒する前に一度だけ模擬戦をしたことがある。その時はジュラを撃墜して予が勝利した。

 しかし、ジュラの能力はあれから大幅に上昇している筈だ。何より究極の生物の能力というのは原作でも未知数だったから不確定要素があるうえ、スタンド能力まである。

 ともかく、あのときは私が勝利したが、脳の潜在能力を目覚めさせて完全体となったジュラに勝てるかは分からない。だからこそ面白い。勝つと分かりきっている模擬戦ばかりではマンネリになりかねず、たまには勝てるかどうか分からないというのが良い刺激だ。

「いくよ!」

 余とジュラが開始の合図と共に飛び出した。

 

 余のリッパーとジュラの剣がぶつかる。ジュラの琉法は雷。琉法とは、柱の男の多くが持っている個別の能力で、カーズが光、エシデッシが炎、ワムウが風だった。最も柱の男ならば誰でも琉法を持っているわけでなく平均を大きく下回る者は琉法を保有していない場合もある。

 その能力の使い方は『とある魔術の禁書目録』の電撃使いを参考にしているらしい。トリッパーが能力を得た場合、創作物のやり方を参考にするものだ。その剣は周囲の砂鉄を集めた物で、明らかに『超電磁砲』御坂美琴の技を真似ていた。

 その切れ味は凄まじく鋼鉄でも容易く切断できるだろう。切れ味だけなら、光の琉法のカーズの刃にも劣らない。

 しかし余のデバイスは普通の素材ではないし、強力無比な魔力で強化されていてジュラの剣とも打ち合えた。だがジュラとの接近戦は避けた方がいいだろう。不用意に触れれば吸収されてしまう。

 もちろん吸血鬼なので他人から生命力を吸収するというのは予にもできるが、ジュラとは大きく見劣りしてしまう。覚醒者と究極の生命体とでは生物としてのスペックが違いすぎる。

 しかし、覚醒者には魔法という力がある。それも最高級といっても良いほどの能力で、そこいらの低ランク魔導師など比べ物にならない。

 余の場合は、聖王の鎧と騎士甲冑その他の防御魔法があるので、ジュラに直接触れることはないだろうが、用心はしておくべきだ。

 やはり強化されている。デバイスにかかる負荷が前回よりも増加している。進化したことで、ジュラの能力が強化されているようだ。

 一旦距離を離すとジュラが砂鉄の剣を鞭状に伸ばしてきた。余はそれを空に飛び上がることで回避した。

 そのまま上空からジュラを射撃魔法で攻撃する。空戦スキルを持つので何も陸で戦う必要はない。少し卑怯だけど上空から一方的に攻撃するが、ジュラは両腕を鳥の翼に変形させて飛び上がった。

 そういえば鳥類の能力もあったな。原作知識を思い出しつつも舌打ちするが、空戦魔導師は空中戦において圧倒的に有利だ。何しろ空戦魔導師は物理法則を無視したかのようなデタラメな動きができる。鳥とは運動性が違うのだ。

 空中での攻撃。それがジュラを圧倒する。空中戦は私の方が強いが、ジュラは羽根を弾丸の様に射出してきた。当然誘導もされず直線しかされないそれを容易く回避するが、すぐに予想外の邪魔が入った。

「鳥!?」

 いつの間にか数十もの鳥が私に襲いかかってきた。どういうことだ。ジュラがこの鳥達を操っているのか?

 そういえば、原作でもカーズの射出した羽根が、魚やタコの足になっていたりしていた。ということは、これはジュラが射出した羽根が変形したジュラの一部で、いわば本体から切り離されていたトカゲの尻尾のようなものだろう。

「邪魔よ!」

 即座に数十の誘導弾を生成して鳥を撃ち落とす。鳥を迎撃するために、ジュラから注意がそれたのをチャンスと思ったのだろうジュラが襲いかかってきたが、それは甘い!

「なっ、バインドだと! いつのまに」

 ジュラが、余がばらまいたバインドにかかる。誘導弾を生成と同時に予とジュラの間にバインドを設置して置いたのだ。余がそう簡単にスキを見せるわけがないでしょう?

「ディバイン・バスター!」

 バインドされたジュラに砲撃魔法が打ち込む。〝バインドで拘束→砲撃魔法を打ち込む″というリリカルなのはではオーソドックスな攻撃法。うん、我ながらえぐいね。だがジュラはそれを回避した。なんと骨を分解して体を変形してバインドから抜けたのだ。

「ちっ!」

 明らかに人間では不可能な回避法だ。こんな方法でバインドを抜けるとは。「お前は可変型モビルスーツか?」と内心で悪態をつきたくなるほど非常識だ。

 反撃とばかりにジュラが雷撃を放つが、それを耐雷撃に優れたバリア系の防御魔法『ライトニングプロテクション』で防ぐ。ジュラの琉法は雷。能力が分かっているために対応もとりやすい。

 最も聖王の鎧があるので一々防御しなくてもいいのだが、こういう攻撃に的確に対応するのも訓練になる。

 さて、一発狙い大技はジュラには通用しないならば数で当てるべきだろう。誘導弾を数十作り、ジュラを攻撃する。流石にこれは回避できず、めった打ちになりジュラは墜落していく。

 しかし、余に撃墜された筈のジュラが、地面に倒れて数秒も経たないうちに再び起きあがった。

 非殺傷設定であったので、怪我をしていないとはいえ、かなりの魔力ダメージを受けていたのに、あっさりと回復した。普通はあれだけ攻撃を受ければ二、三日は動けないはずだが、やはり規格外な奴だ。というか、あいつは不死身に近いから、ビーム砲とかで全身を根こそぎ消し去らないと死なないんじゃないかな?

「流石に空戦魔導師相手では分が悪いな」

 淡々と呟くジュラ。ジュラにとって、高ランクの空戦魔導師と戦うのは初めてではない。だから、その能力は大雑把には把握している。ならば、次の手は何か?

 その答えとばかりにジュラの体が一瞬のうちに何かに覆われた。それは、どことなく『GS美神 極楽大作戦!!』の魔装術を連想させる、ジュラの装着型のスタンド〝インドラ″だ。インドラは、鎧としての役割と、ジュラの雷の琉法の威力を増幅する働きがある。

「落雷!」

 ジュラが雨雲を呼び寄せ、強力な雷を私に落としてきた。

「無駄よ!」

 余はそれを聖王の鎧で防ぐ。

 ジュラの雷は、究極の生命体となったことによるバワーアップとスタンドによる増幅でかなりの威力となっていたが、私の鎧を突破できるほどではない。というよりも余の防御が固すぎるだけだが。

「ちっ、やはり無理か。相変わらず貴様の防御力は反則だな」

 余の聖王の鎧は、ブリタニア帝国軍主力戦艦の重力波砲にも耐えられるほどなので、並大抵の攻撃では通用しない。本気で余の鎧を突破したかったら、『ドラゴンボール』の戦士たちのように、地球を破壊してあまりあるほどのキチガイじみた攻撃でないといけないだろう。

 しかし、これでは長期戦になるな。ジュラのスタンドは本体を守る鎧としても強力で、正に攻守一体のスタンドなので、先程のような誘導弾では弾かれてしまうだろう。かといって大技狙いでいくとさけられるのは目に見えている。まぁ訓練なのでそれでも構わないか。

 


究極の生命体 第四話(シドゥリ暦788年)

2013年08月18日 13時07分56秒 | 小説

 ブリタニア帝国 ヴァーブル星系 惑星ヒルデガルド。『魔法少女リリカルなのは』が具現化された下位世界の並行世界の一つで、その次元世界の一つブリタニアに私の帝国を築き上げた。

 ブリタニアはほんの800年前までは文明どころか名すらない未開世界だった。しかし、いまでは下位世界有数の星間国家となっている。

 このヴァーブル星系は、恒星ヴァーブルを中心に首都星ヒルデガルドを含めて幾つかの惑星が存在する星系。このブリタニアに来た私はこの世界はブリタニアと名付けて、居住する惑星に母の名前を付け、その惑星が存在する星系に自分の家名ヴァーブルと名付けた。

 その後、大規模宇宙進出の大航海時代の到来で、様々な星系の名前が貴族の家名となった。

 この星系は予のお膝元だから、下手に貴族に任せることはできず、新たに守護獣のウズメを造り管理させることにした。自分の守護獣ならば謀反をおこす心配はないし、他の封建貴族との不均等を気にしなくていい。また首都である以上、必要な時はヴァーブル星系で権力を振るわなければならないし、そうなると、主の物は主の物、守護獣の物は主の物、というジャイアニズムが可能な主と守護獣という立場は好都合だった。

 上位世界の日本で例えるなら、封建貴族は地方の県知事で、予の守護獣ウズメが東京都知事に近い。それだけにヴァーブル星系の統治者は、都合が良くて信頼できる者でないといけない。予は、シドゥリ教会とヴァーブル星系、帝国を支える二つの要職は守護獣が握ることで盤石の体勢を築いた。

 ブリタニアは次元世界でもドが付くほどの辺境地帯だった。その辺境ブリタニア近隣の世界は、人の住んでいない無人世界ばかりであった。

 地球、ベルカ、ミッドチルダなど『魔法少女リリカルなのは』の有名どころの世界からかけ離れており、古代ベルカ全盛期の次元航行船でも航行には三ヶ月もかかるほどだ。
 古代ベルカに比べて技術レベルが大きく遅れている新暦75年の時空管理局ならば、ゆうに一年以上はかかる。

 そして古代ベルカ時代の文明を継承して爆発的に発達させた今の帝国でも次元航行では地球からミッドチルダに移動するには一ヶ月はかかる。

 帝国が地球との間を問題なく行き来できるのは、帝国が独占している虚数空間航行技術の賜物であった。時間がかかる次元航行ではなく、次元世界の距離を無視できる虚数空間航行こそが帝国の優位を保っていた。当然ながらこの技術は管理世界だけでなく友好国であった地球連邦にすら秘匿していた。技術の流出は安全保障にも影響するから当然の処置だった。

 

 ヒルデガルド レーゲンブルク宮殿

「ふむ、帝国の知識は興味深いな」

 カーズが感心していた。彼は帝国の科学技術、魔法技術、芸術、文化など様々な知識や技術を調べていた。

「そうでしょうね」

 原始的に生活をしていた彼等からすれば珍しいだろう。まぁ彼等からすれば文明はそれほど必要ではない。カーズにしても知的好奇心が満たされる程度の意味しかないだろう。

 ブリタニア帝国は、膨大な知識と技術の集結地。ブリタニア帝国自体が元々『魔法少女リリカルなのは』の中でも極めて高度な魔法文明を築いた古代ベルカをベースとして、それを継承して更に発展させた文明だ。更に監察軍の下位世界の調査により様々な知識と技術が蒐集されていた。

 

 ここはブリタニア帝国首都星ヒルデガルドにあるレーゲンブルク宮殿。ジュラ、カーズ、エシデッシの三人は現在ブリタニア帝国の国賓として扱われていた。正確には余の客という扱いだ。

 こうした余の客というのは監察軍絡みが多い。この世界では余は最高権力者だし、ここの地球とは交流が途絶していた。だから予の客は監察軍に所属するトリッパーや、他の下位世界の住民ばかり。特にトリッパーは、何かと余に気安く接するので臣下から反感を買っているらしい。

 トリッパーの大半は民主主義国の日本出身者であり、彼等は身分制度とは馴染みが薄かった。いくら皇帝といっても平伏することはしない。ましてや同族ともなれば尚更だ。彼等から見れば余は他より成功しただけのトリッパーに過ぎないのだろう。そういう事情もあり監察軍関係の客は貴族たちの間でもあまり評判はよくない。

 その中でもジュラたちの評判は特に悪い。貴族からは未開世界の亜人として見られていた。確かにジュラ達のいる地球は四大文明が発祥する遥か昔なので、原始時代というしかない。だがそれで原始人と見るのは良くないと思うのだが、ブリタニアはなまじ高度な文明を持つだけに文明レベルを目安にしがちなのだ。

 極めつけが、彼等が来た理由だろう。〝覚醒者の危険の有無を確認する″まるで格下の者を見るかのような扱いだ。例えブリタニア至上主義者でなくても、覚醒者として誇りを持つ貴族には我慢ならないだろう。

 さすがに拙いので貴族たちにはジュラたちには関わらないように命令した。反感を持った貴族にもめ事を起こされてはたまらない。

 そんな彼等だが高度な学習能力でベルカ語をさっさと覚えると書物がデータを見始めた。原作でも描かれていたが、彼等の学習能力は人間を遥かに凌駕している。

 ちなみにシドゥリが彼等と会話が出来たのも、彼等がベルカ語をあっさりと修得したからだ。彼等の能力には驚かされる。ベルカ聖王家出身のシドゥリも高度な学習能力を有するが、言語習得能力は彼等には及ばない。

 シドゥリの能力は生体強化、つまり遺伝子操作技術の賜物だが、彼等の場合は種族として人間よりも優れていた。

『この様に空戦時においては……』

 カーズが空間ディスプレイに表示された騎士教導の資料を鑑賞していた。

「ふむ、魔法とは変わった技術だな。しかし、この世界の魔法は余所の世界では使えないようだな」

 カーズは『魔法少女リリカルなのは』の魔法に感心する一方で呆れてもいたが、カーズはブリタニア帝国の魔法に並々ならぬ関心を抱いていた。それはジュラが魔法によって究極の生命体になったことと無関係ではないだろう。

 恐らくカーズはジュラと同じように太陽を克服したいと思っているはず。その為には余の協力を得ることが一番良いのだろうが、プライドの高いカーズが予に頭を下げて頼んでくるとは思えない。下げてきても、困るけどね。余はカーズやエシデッシを究極の生命体にするつもりはない。適当に煙にまいておくに限る。

 取り敢えず余はカーズとエシデッシを名目通りに畜産業の関連する場所を案内した。牧場、精肉加工場など。更に帝国の国家体制や政治、経済の仕組みなども教えて置いた。

 当初彼等は想像を遥かに上回るブリタニア帝国に規模に驚愕していた。それはそうだろう。建国してから800年近くたったこの時期の帝国では10,025もの有人惑星と各地の資源惑星、資源衛星等を領地としており、総人口は7,059億人にたっしている。

 帝国は既に銀河の大部分に進出していた。未だに帝国はブリタニア以外では領地を持たないが、それでも他を圧倒している。ここまでの規模となると他の下位世界でも早々存在しないだろう。

 ちなみに帝国は、時空管理局が崩壊した今でも次元世界に積極的に進出していない。理由はコストが釣り合わないからだ。次元世界よりも宇宙に進出して惑星開発をした方が採算はいい。

 勿論、帝国政府は次元航行船を少数ながらも保有していたが、民間で次元航行船を保有している者は余程の物好きだけだろう。

 帝国が並行世界や余所の下位世界に進出しないのも同様の理由だった。リスクとコストが釣り合わないのだ。
 
 実はこの世界の魔法は余所の世界では案外役に立たなかった。世界法則が違いすぎて魔法の術式が対応できなかったし、魔力素子自体が見つからなかった。今でも監察軍が様々な世界を調査をしているが、『魔法少女リリカルなのは』と『とらいあんぐるハート』の世界以外では使用不可能だった。

 この結果は、貴族たちを大いにガッカリさせ、なまじ高ランクの騎士であるため彼女たちは他の下位世界を敬遠して興味を持たなくなった。

 これは余にとって好都合だ。下位世界の調査と各世界のトリッパーの支援は、その仕事の内容から貴族たちに関わらせたくなかったからだ。

「できれば映像ではなく実際にいろいろな魔法を見ておきたいのだがな」
「それなら、今度の強化合宿に見学に来ますか?」
「合宿?」

 カーズたちが尋ねる。

「ええ、宮殿で働いている宮廷貴族や、領主として地方星系を統治している封建貴族は、軍人貴族と違って政治で忙しいから、騎士としての能力を腐らせかねない。だからそれを防ぐためにも強化合宿みたいなイベントも用意しているわ」

 宮廷貴族も封建貴族も最低限の自主トレーニングぐらいはしている。それでもまとまって訓練を受けている訳ではないから、戦闘力の低下は否めない。それを防ぐために軍人貴族の特殊戦技教導隊に教導を依頼するか、数日の強化合宿を行うという方法が主流だ。

「面白そうだな、見学しよう」

 カーズが面白そうにいった。

 それじゃ他の宮廷貴族も呼ぶとしますか。どうせやるなら派手にやろう。

 


究極の生命体 第三話(シドゥリ暦788年)

2013年08月18日 13時07分06秒 | 小説

 柱の男。『ジョジョの奇妙な冒険』でそう呼称された種族は、地球の生物の進化の過程で誕生した。彼等は比較的人間に近い姿をしておりながらもその能力は他の種族を圧倒しており、また彼等の一族に近い能力を持つ生物が存在しない。

 ダーウィン進化論では「自然は跳躍しない」とされている。種の進化とは階段を一歩ずつ上り詰める物。それを考えれば彼等のあまりにも特異な生体は疑問が尽きない。本当に地球上で発生した種族なのか?と疑いたくもなる。

 しかし、これは下位世界の世界設定という面で見れば説明できる。そもそも下位世界は創作物が具現化した世界だ。つまり人の想像を現実にした世界とも言える。ならば上位世界の常識を覆しても不思議ではない。

 理論上は、人の想像できることならば何でもありというデタラメな物。故に彼等は下位世界において想像を具現化したために、常識を超えて存在している。

 そんな彼等は『ジョジョの奇妙な冒険』では古代人、柱の男、闇の柱の一族などと呼ばれていたが、原作ではその正式な名称は知られていない。一応、監察軍では彼等が地底に住んでいることから、暫定的に古代地底人という名称を使っていた。

 そして、私は彼等の住む地下にジュラと共に向かっていた。この世界は『ジョジョの奇妙な冒険』の並行世界の一つ。原作開始の数万年前の相対過去にあたる。分かりやすくいうと、原作開始から数万年前の過去に極めて似た世界。

 厄介な事に、この世界では『魔法少女リリカルなのは』の魔法は使用できないので私の能力は大幅に落ちる。

 いくら魔法皇帝と呼ばれている大魔導師でも自らの魔法形式が使用不能ならば意味がない。魔法なしで覚醒者としての能力だけだと古代地底人に対抗できないのだ。その為、この世界で古代地底人と接触するのは好ましくないが、ジュラの一件を説明するには私が来ないといけないのでやむえず同行していた。

「ジュラ、ここでいいの?」
「ああ」

 月明かりもない夜の闇の中で私とジュラは進んでいる。ここは古代地底人が住処としている地底の道で、私はジュラに案内されて彼等の住む場所を目指していた。この世界では魔法が使えないが、紫外線遮断装置で紫外線を防ぐことができる。

 しかし、万が一その機械が故障した状態で紫外線を浴びれば死んでしまうだろう。現在の私は通常よりも無防備な状態といえた。その為、日中での活動は控えて夜になってから活動した。

「……人間をここにつれてくるとは、どういうつもりだジュラ」
「エシデッシか」

 エシデッシ、炎の琉法を持つ男。原作ではカーズの思想に共鳴して共に一族を滅ぼした後で、究極の生命体を目指してジョセフ達と闘うことになる。

 エシデッシはジュラが居住区に私を連れていくのを見て不信に思っているようだ。それは当然だろう。彼等の住む地底は古代地底人しか住んでおらず、人間などいない。そして、これまで人間をわざわざ連れてきた者もいなかった筈。

「この女は俺の客だ。皆に話さなければならない事があってな。そのために彼女を連れてきたのだ」
「客だと! どういうことだ? それにこの女は他の人間と随分毛色と恰好が違うな」

 私はベルカ人で、外見は白人に似ている。だからこの辺りにいる人間とはかなり違うのだろうし、私は仮にも皇帝であるのでそれなりの服装をしている。原始人のように裸や動物の毛皮を着込んでいるわけではない。そりゃ、変わって見えるだろう。

「その辺りも含めて皆に説明する」

 ジュラは二度手間を避けるために彼等にまとめて話すつもりだ。私も二度手間は嫌だから異論はない。

 私とジュラは再び進む。エシデッシは黙ってついてきた。さすがに私に危害を加えてくるほど短絡的ではないようだ。

「なんでここに人間なんかがいる?」
 と、やはり言われた。

「悪いが皆を集めてくれ。大切な話があるんだ」
「……いいだろう」

 カーズがジュラの頼みを受け入れた。後で聞いたがジュラは、カーズとエシデッシとは同世代で割と親しいらしい。

「カクカクジカジカ。……というわけでシドゥリによって俺は太陽を克服する事ができた」

 異世界の存在、ブリタニア帝国、そして脳の眠っている能力の覚醒、太陽の克服。衝撃的な内容の連続にその場はざわめく。彼等は皆驚いていた。特にカーズとエシデッシは反応が大きかった。ジュラは皆に大切な話があるといって集めて説明したのだった。

 古代地底人はこれが全てとは限らない、中には休眠期に入っている者もいるかもしれないが、それを含めても彼等の数は少なかった。元々、カーズとエシデッシの二人だけで、一族を滅ぼしたから、それほど数はいなかったのは間違いないだろう。

「俺は太陽を克服した。だから太陽を恐れて地底に暮らす必要がなくなった」

 ジュラが淡々という。それは地底から離れるという意味だ。

「そうか、ここから出ていくのか?」

 古代地底人の中でもかなりの年輩なのだろうと思われる男。恐らく、彼等の長老の様な存在なのだろう。

「ああ、いろんな世界を見て回って見たい。何しろずっと地底暮らしだったからな」
「そうか。ところでシドゥリとか申したな。異世界の人間よ。そなたに尋ねたい事がある」

 男が俺に視線を向ける。なんだろう?

「そなた達が開発した覚醒の法とやらは本当に大丈夫なのか? 聞けば覚醒者となった者はより多くのエネルギーを必要としているらしいが?」

 覚醒者は、脳の眠っている力を引き出す事によって不死身の力を得ているが、より多くのエネルギーを必要とした。つまり、それだけ多くの動物を殺さないといけない。それでは大地の動物たちを殺し尽くしてしまうのでは?

 これは原作でも彼等がカーズを危険視して敵対することになった原因。

「……確かに、予を含めた覚醒者はより多くのエネルギーを必要としているので動物を殺す必要があります。しかし、殺す以上に動物を増やしているので問題ありません」
「動物を増やす?」

 彼等は私の言葉に不思議そうにしていたが、それも無理はない。今は原作の十万年近く前で、四大文明よりも遥か昔だ。文明という概念自体がなく、原始人しかいない。つまり、この時期は畜産業の原型となる物自体が存在しない。

 当時の人類にとって動物は狩猟する対象でしかない。だから動物を増やすという発想がなかったのだろう。仕方ないので、私は彼等に畜産業の仕組みを細かく説明していく。存在しないから一から説明しないといけないのだ。

「……なるほど、だから問題ないという訳か」

 呆れた顔だ。どうやらわざわざ手間暇をかけて動物を養殖するというやり方に呆れているのだろう。だが、これは必要な業種だ。これがないと肉や卵にも事欠く事になってしまう。もちろん農業や漁業などもあるが、畜産業があるのと、ないのとでは雲泥の差がある。

「ええ帝国は国家としての規模が大きい。それ為畜産業を営む者も多くおり、エネルギーの補充には事欠きませんし、動物の数も安定しています」

 増え過ぎもせず、減り過ぎもしない。そうなるようにちゃんと調整している。

「なんなら何人か帝国を直接見に行かないか?」

 不意にジュラが口を出してきた。……余計なことを! こいつ等は原作ではカーズの石仮面を恐れてカーズを殺そうとしたのだ。余を危険視する可能性は十分にあるだろう。彼等はジュラの意見を一理あるなどと言って検討している。そうくるか。ならば……。

「それもそうですね。ならカーズ殿とエシデッシ殿は如何ですか?」
「俺達か?」

 余に指名されたカーズとエシデッシは顔を見合わせる。

「ええ、お二人は帝国を直接見ませんか、我々が招待いたしますわ」

 この二人ならば覚醒者を危険視しないだろう。なんせ原作では石仮面の吸血鬼をバンバン作っていたし。

「ふむ、いいだろう」

 カーズが乗ってきた。やはり興味を持ったか。同族であるジュラが太陽を克服して更なる能力を手に入れたのだ。自分もと内心では思っているのだろう。これはこれで危険かもしれないね。

 


究極の生命体 第二話

2013年08月18日 13時06分07秒 | 小説

『ガギッ!!』

 その場には凄まじい衝撃音が響き渡る。少女の放った剣撃と俺の剣がぶつかった音だ。

 俺の持っている武器は黒色の剣。これは俺の琉法で周囲の砂鉄を集めて振動させてたもので、厳密には剣状の物にすぎない。

 しかし、その切れ味は凄まじい。今まで俺の砂鉄の剣で切れないかった物は存在しなかった(過去形)。だが彼女の持つ剣は切り裂く事が出来なかった。

 それも仕方がない。彼女の持つ赤い大剣もただの剣ではない。『魔法少女リリカルなのは』で登場するデバイスだ。

 一介の騎士が振るうアームドデバイスであっても凄まじい力を発揮するというのに、あのブリタニア帝国特注の高性能アームドデバイス『リッパー』のソードフォルムに、それを扱うのは魔法皇帝と称される稀代の騎士だ。

 少女との距離が離れると、少女が俺に砲撃を打ち込んできた。一応、非殺傷設定にされているとはいえ、大容量の魔力で打ち込まれた砲撃の威力は凄まじい。

 少女は両手にグローブ型のアームドデバイス『シーカー』を装備しており、それで射砲撃魔法などの遠距離、広域攻撃魔法のサポートをしている。

 俺は砲撃を何とか回避した。『魔法少女リリカルなのは』の砲撃魔法は、一見すると個人携帯型のビーム砲という感じであるが速度の面では著しく劣っている。電磁加速砲はおろか通常の炸薬式砲弾よりも遅く、目で追える砲撃など避けるのはそれほど難しくない。もちろん少女もその位は知っている。

 今の砲撃は、威力と射程距離の犠牲にしつつも発射速度を向上させた〝ショートバスター″で、あくまで牽制に放ったに過ぎない。

 ここで満月の光が夜空を照らす中、俺は少女と距離を保ったままで対峙した。相手は17歳ほどの美少女で、端から見ると俺の相手になる存在ではない。

 しかし、彼女は普通の少女ではない。シドゥリ・エルデルト・フォン・ヴァーブル。始まりの、そして最古にして最強の覚醒者。カーズ以外で初めて石仮面の秘密を解き明かし、それを改良した人物。そして俺を究極の生命体へと進化させた少女。

 数多の下位世界の中でも最大最強級の大帝国の皇帝。今のブリタニア帝国に比肩する国家など俺の知識の中には存在しない。当然ながら前世の地球各国が束になっても対抗できる国でなない。けして侮ってはならない。

 そもそも何故、俺とシドゥリが対峙する羽目になるかというと時間を少し巻き戻さないといけない。

 

 俺の名はジュラ、最近はやりのトリッパーだ。
 ①トラックに引かれる。
 ②死神に会う。
 ③能力を貰って転生
 ④突然地面に穴が空いて落下

 とまぁテンプレコンボで転生した。転生先は『ジョジョの奇妙な冒険』の世界で、転生特典としてスタンド能力を貰っておいた。

 あの世界も悪くないと思っていたが、転生した世界は文明が存在しない未開の世界で、とどめに地下生活。ここは『ジョジョの奇妙な冒険』の地球に間違いなかった。

 しかし原作開始の十万年前の時代に、おれは柱の男の一人として転生した事が分かった。なんで十万年かというとカーズやエシデッシが俺と同時期に生まれたからだ。あの二人は大体十万年ぐらい生きていたらしいから、原作の十万年前となる。

 ちなみに今の人類は文明がなく野人の様な生活をしていた。四大文明が誕生するよりも遥か昔なのだから仕方ないだろう。

 問題なのは、柱の男の一族が一万二千年前にカーズによって滅ぼされている事だ。いきなり死亡フラグ満載な状態。

 それに色々と問題がある。柱の男の一族になったために前世とは比べ物にならないほどの能力を手に入れたが、太陽の元で活動できなくなってしまった。おかげで地下生活をよぎなくされた。なまじ人間としての記憶があるだけに不便だったがこれは仕方ない。太陽から身を守らないといけないから、どうしても地下でということになる。

 ならばカーズのように究極の生命体になればいいと思うが、それを主張すると仲間と殺し合いになりかねない。そもそも石仮面は不死身の力を与えるが、より多くのエネルギーを必要とする。つまりより多くの動物を殺さないといけない。

 畜産業という分野すら存在しないこの時代では、それは地球の動物たちを殺し尽くしてしまうと多くの同族達が恐れたのも当然だった。

 要は殺す分だけ動物を増やせばいいのだが、そうそう上手くいくとは思えない。となるとやはり危険と判断するしかないか。

 カーズに殺されるのは嫌だが、かといってカーズに与して同族と殺し合いはしたくない。どうするか大いに悩むところであった。

 幸いにもカーズはまだ石仮面を研究していなかった。時間は割と残っている。だからそれまでに何かいい方法を見つけないといけない。とそんな事を考えているうちに俺と同じトリッパーに遭遇した。

 監察軍との接触は俺にとっても大いなる幸運だった。俺が抱えていたいきづまりを解消する事ができるからだ。最悪の場合は、いざというときの避難先にもなるしな。

 監察軍には様々な世界の知識が集結していた。だから俺の脳に眠っている力を呼び覚ます事ができるかと思ったが、それは監察軍でも未知の分野だった。

 シドゥリはこの手の石仮面や覚醒者に関する技術だけは監察軍に提供しておらず、監察軍もブリタニア帝国の国情を考慮してあえてこの分野の技術には手を出さなかったのも大きかった。

 ただ監察軍の創設者にしてスポンサーのブリタニア帝国皇帝シドゥリが石仮面の原理を解析してそれを改良した魔法を編み出したという情報が手に入った。
 シドゥリは俺と同じトリッパー。親しみやすい存在だったので、何かと頼りやすかった。

 ブリタニア帝国では石仮面の吸血鬼の改良型である覚醒者という存在がいるため、そのノウハウがあれば不可能ではない。だから監察軍を通してシドゥリに依頼を出した。

 紆余曲折を経てようやくシドゥリの協力を得られた俺は覚醒に取りかかった。

 しかし、それはシドゥリをしても手こずるものであった。覚醒の法を元に改造を施した術式であったが、そもそも我々は人間とは違う存在だ。カーズが馬に骨針を打ち込んで吸血馬をつくりだしたのとはわけが違う。手こずるのも無理はない。

 現在、監察軍というか、トリッパーで石仮面の秘密を解き明かしている者はシドゥリただ一人のみ。他のトリッパーは石仮面や覚醒の法に関係する技術は知らないし、政治的な問題からそれに関わることができないでいた。

 石仮面や覚醒の法はブリタニア帝国の皇族が秘伝として独占しており、また帝国の基盤とも言っていい技術だ。それに手を出すことは、ブリタニア帝国を敵にまわす事と同義であった。帝国にとって、それの流出は死活問題なだけに神経質になっている。

 だからこそ問題が起きないようにシドゥリに依頼していたのだが、そのシドゥリが手こずると困ったことになる。

 そもそも俺は二千年周期で眠りにつく一族で、活動期と休眠期があり、一旦休眠すると二千年は活動できない。つまり俺が活動できる期限があと数十年程度しかない。それがすぎると次は二千年後となる。二千年後には、シドゥリが生きているだろうか?

 いや、そもそも監察軍が存続しているかも怪しい。その場合、俺が究極の生命体になるのに手を貸してくれる者が見つかる可能性は低い。だから俺は焦っていた。何としても俺が休眠期に入る前に成功させたい。

 その為、シドゥリを急かした。シドゥリは迷惑そうであったが休眠期に入る前にやらねばならないというのは理解してくれたので、開発を急いでくれた。

 その魔法は高度な魔法文明を誇るブリタニア帝国を統べる魔法皇帝シドゥリをして魔法行使に苦労するほどで、並の魔導師では絶対に使えないだろう。

『魔法少女リリカルなのは』の魔法においてはシドゥリは第一人者といえるし、石仮面に関してもカーズを除けばシドゥリに及ぶ者はいない。

 そして、シドゥリの数年にも及ぶ研究の果てに何とか魔法の実用化に成功した。こうして、俺は念願の究極の進化を遂げた究極の生命体となった。

 太陽を克服しただけでなく、生物としての強さは他を圧倒する。通常、生物とはその種を存続させることが目的であるが、究極の生命体は違う。生態系の頂点に君臨して、自分の思うままで造り替える事が目的となる。

 最もそれ故に究極の生命体となったカーズは、地球から追放されるはめになった。『ジョジョの奇妙な冒険』の地球に、型月世界の地球のように抑止があるのかは不明であるが、原作を見るに何らかの抑止がある可能性も否定できない。となると地球から離れて別の世界に移動するのも選択に含まないといけない。

 しかし、まず転生先の世界にいる同族達にどう説明するかという問題がある。
 何しろ太陽を克服してしまった以上地下に住む必要がない。堂々と太陽の下で生活できるのだ。今更地下になど住みたくない。

 しかし、「実は俺は太陽を克服したんだ」などとぶっちゃけると、当然ながら色々追求されるだろう。特に、カーズとかエシデッシとか…。って、あの二人がやっぱり反応するな。ふむ、一応シドゥリに相談しておくか。

 


究極の生命体 第一話(シドゥリ暦788年)

2013年08月18日 13時05分21秒 | 小説

「ふふふ、この世界に転生して800年。とうとう究極の生命体を誕生させる域にまで到着するとはね。自分でもこの才能が怖いわ」

 その場に少女の美声が伝わる。その声には隠しきれない喜びが含まれていた。そう、これから行うことは少女をもっていても偉業と呼べる物であったから。

 ここは少女が自分の研究の為に作り上げた魔法研究所。それは彼女個人の研究所であった。少女は生粋の研究者ではないが、その能力は他を圧倒していた。ここでは彼女の個人的な研究をしていた。

 少女の見た目は精々17歳あたりであろう。白をベースとしたレースをふんだんに取り入れた豪華なドレスに包まれた均整の取れた素晴らしいスタイル。ドレスに包まれて見えないが、黒子はおろかシミ一つない美しい白い肌に、膝裏まで伸びた美しい金髪を靡かせている。そしてその顔立ちは見惚れるほどに整っており、少女は如何にも高貴な貴婦人という印象を周りに抱かせる。そして右目が緑、左目が赤の虹彩異色の瞳は、人間というよりも妖精じみているが、それは古代ベルカにて聖王家の証であった。つまり彼女は古代ベルカ聖王家に連なる者であった。

『シドゥリ・エルデルト・フォン・ヴァーブル』

 それが少女の名であった。シドゥリは外見こそ年若い少女であったが、この世界にトリップしてから既に800年以上生きていた。ここでトリップしたと言ったが、それは彼女の前世に関係していた。

 シドゥリの前世は上位世界の日本人男性で、予定外の死により下位世界にトリップすることになった性転換というおまけ付きの転生型トリッパーであった。ただシドゥリの場合は、不親切な死神が何も告げずに転生させたので、シドゥリは元来の事情を知ることなく行動することとなった。これは事情を説明することなく転生特典を与えたトリッパーがどうなるか死神が興味を持ったからだ。

 シドゥリの転生先はベルカ聖王家の王女(側室の娘)であり、元来の能力として聖王の鎧という固有スキルに加えて、高度な学習能力さらには聖王のゆりかごとのバックアップを受ける事ができるなどの能力があった。

 これに転生特典として、初期魔力値S+ランクで最終的にはEXランクになれる魔力資質と、カーズ(ジョジョの奇妙な冒険)の知能と知識が与えられた。その上でシドゥリが石仮面を入手できるように工作しておいた。

 ちなみに死神にとって石仮面は小道具に過ぎず、それを手に入れたシドゥリがどうなるかに興味があった。カーズの知能と知識を与えたのは石仮面の仕組みをシドゥリに把握させるためであった。死神は、石仮面を手に入れたシドゥリはディオのように暴走して自滅するのではないかと予想していたが、シドゥリは自滅することなく自らの勢力圏を築き上げる事に成功してしまった。

 シドゥリは石仮面の有効性を認めていたが、それが現在の国家では受け入れられないことも見抜いていた。だからこそ、石仮面の能力を応用して、覚醒の法を編み出して、覚醒者という新たなる存在を作り出せる魔法を手に入れた。その上で、覚醒者たちを取り入れた国家を新たに建国する。その後、その国家は凄まじい発展を遂げることとなる。

 このシドゥリの成果は死神をしても驚くべきものであったが、同時に好都合でもあった。当時、死神たちは下位世界の安定のために、数多の下位世界で活動するトリッパー達の支援組織の構想を立てていたのだ。これはあくまで構想段階に過ぎなかったが、この組織を創設できるだけの文明水準や権力等を備えたトリッパーは当時シドゥリを除けば皆無であった。

 他のトリッパーは個人戦闘能力が高い者はそれなりにいたが、権力という視点でみると一市民でしかない者ばかりで、中には王侯貴族という身分の者もいたが、彼等は『ゼロの使い魔』の世界のように技術水準と国力が極めて低い世界にいた。これではとてもではないがトリッパー支援組織など創設できるわけはない。

 その点シドゥリは、ブリタニア帝国皇帝という絶対王政の最高権力者という立場にあり、帝国自体もシドゥリ暦600年の段階で星間文明を築き上げている高度な文明と絶大な国力を有する超大国となっていた。組織の創設者として不足はなく、シドゥリにその話が行くのは当然であった。

 交渉という形で下位世界に干渉する技術とトリッパー支援組織創設の依頼をシドゥリは意外なことに快く了承した。『魔法少女リリカルなのは』の世界で確固たる地位を築き上げたシドゥリにとって、他の下位世界は冒険心をくすぐられる物であった。何百年という年月により生きることに飽きはじめていたシドゥリにとって、それは必須の物と言えた。

 確かにシドゥリは強い。元々、ベルカ最強の生物兵器といえる聖王の能力に反則じみた魔力資質と知能が加わり、原作知識と上位世界人としての経験と知識まで揃えている。更に覚醒者となったことで、聖王の鎧が著しく強化されるなど、凄まじい吸血鬼としての能力まで手に入れたのだ。

 これだけでも手に負えないのに数百年にも及ぶ時間を利用しての修練が加わり、トリッパーとしても相当な実力者となっていた。まぁ上には上がいるという言葉の通り、フリーザ(ドラゴンボール)にはいくらシドゥリでも歯が立たないが。

 しかし、精神はそうではない。長き時を生きるうちに歪みがでてきたのだ。このままでは精神的に死にかねない。

 覚醒者となったシドゥリは死ににくいとはいえ、不死身ではない。何の防御処置もせずに紫外線を浴びればそれだけで死に至る不完全な存在。事実、生きるのに飽きてワザと紫外線を浴びて自殺する貴族も多い。シドゥリがそうならないという保証はなかった。その為、他の下位世界という魅力的な存在を放置出来なかった。

 結果として死神の構想を元に帝国独自の改良を行い、トリッパー支援組織『三千世界監察軍』が創設された。

 

 現在では、監察軍が様々な下位世界を調査しており、それらはシドゥリの好奇心を大いに満たした。そんな中で一つの依頼がシドゥリの元に届く。〝究極の生命体を作り出すこと″それが依頼内容で、これは柱の男(ジョジョの奇妙な冒険)に転生したトリッパーが、カーズのようにより強力な存在になることを望んでシドゥリに出した依頼だった。依頼に対してシドゥリは即答を避けた。

 そもそも柱の男は、吸血鬼たる覚醒者にとって天敵で、原作でも彼等の手下兼食料として扱われていた。そんな彼等が、眠っている能力を目覚めさせて究極の生命体になれば、覚醒者にとって脅威となるのではないか?

 しかし、魔法という力を手に入れているし、強大な軍事力を有しているので、『ジョジョの奇妙な冒険』とは条件が違うという事もあって、トリッパーのその者だけに限定してそれを実行することにした。

 しかし、柱の男を覚醒させるのは、一筋縄ではいかなかった。そもそも覚醒者とは覚醒の法という魔法によって、脳に眠っている潜在能力を覚醒させた者だ。これは元々転生型トリッパーのシドゥリが『ジョジョの奇妙な冒険』で登場する石仮面を解析して実用化した物で、これはカーズが究極の生命体になるために作りだした技術が大元となっている。ではカーズが目指した究極の生命体とは何か?

 究極の生命体となったカーズは、あらゆる生物の能力を有し、それを凌駕した。更に太陽の光を克服して人間の波紋使いの数百倍もの波紋を錬るまでに至った。生物としてはかなり強力な存在。

 ちなみにシドゥリは当初から人間を素体に究極の生命体になるという事は放棄していた。それは無理だと考えたのだ。

 石仮面の吸血鬼の力と高ランクのベルカの騎士の力を組み合わせることで、十分な能力が手に入るという計算もあったが、人間というお世辞にも強いとは言えない種族の限界から、いくら潜在能力を引き出しても、完全体カーズのようにはいかないと判断したからだ。だからブリタニア帝国の皇帝と貴族達は、吸血鬼の王、ヴァンパイア・ロードのような存在であったものの、種族的に見ればあくまで潜在能力を覚醒させた元人間という存在にすぎなかった。

 シドゥリにしても、ブリタニア帝国が拡大して貴族制度が安定してきてからは国家の内政に力を入れることになり、究極の生命体の事は忘れていた。

 しかし、監察軍からあるトリッパーの存在が伝わり、その事が再び脚光を浴びることになった。とはいえ石仮面を作り出したカーズでさえこれには散々手こずり、エイジャの赤石を利用してやっと実現できたという曰く付きの物。

 これに対してシドゥリは、覚醒の法をベースに理性の保持というリソースを省き、更に魔力の消費を度外視して魔法を構成した。

 これまでの失敗の原因は純粋なバワー不足だ。魔法の効力が柱の男の脳を覚醒させるには足りなかった。だから安全装置ともいえる理性の保持を放棄したうえ膨大な魔力をつぎ込むことにした。

 自前の強大な魔力と強力な魔力バックアップによる魔力行使によってはじめて実行できることだった。ぶっちゃけると効率が悪いことこの上ない魔法。

「それで、その魔法なら可能なのか?」

 その場にいる一人の男が確認するようにシドゥリに尋ねる。

「ええ、理論は完璧、後は実行あるのみよ」
「ならば、やってくれ」
「ええ、分かったわ」

 シドゥリは魔法を展開する。シドゥリの足下に展開される魔法陣。虹色に光り輝くその魔力光は、古代ベルカにてカイゼル・ファルベと呼ばれた物。しかし、その術式は極めて複雑な物だった。

 それも当然だった。これから発動する魔法はSSS+ランクなど足下にも及ばない、凄まじい魔法。人の領域を超えた魔力を用いた大魔法だ。

「ぐうっ!」

 凄まじい魔力に流石のシドゥリも負荷がかかる。伊達にコスト度外視の魔法ではない。しかし想定以上の負荷だった。

 まさか覚醒者たる自分にここまで負担がかかるとは。これでは人間では一溜まりもあるまい。シドゥリはマルチタスクの一つで思わずそう考えたが、すぐに思考を魔力制御につぎ込む。

 この魔法はマルチタスクなどと言っていられない。全ての思考を魔力制御に使わないと暴走する。

 この魔法はなまじ膨大な魔力を使うために制御が難しく、暴走しやすい。あまりの負担、体から抜け出す魔力に膝を屈しそうになる。
 通常個人が使う魔力量は多くて数百万だが、しかし既に数億もの魔力が使われている。

「うあああっ!!」

 外部から魔力バックアップを受けて尚、体中から膨大な魔力が抜けていくのと、この膨大な魔力の制御に手こずる。シドゥリはそれでも気合いで魔法を発動させた。

 


封建貴族 第四話(シドゥリ暦665年)

2013年08月18日 13時04分34秒 | 小説

「男爵、わざわざすみません」
「いえ、かまいません」

 案内された公爵邸の一室にて、パルディー公爵の他にもルードリッヒ子爵までいた。

「それで話とは?」

 前置きを省いておく、リリカは無意味な挨拶など好まない。

「ええ、実は監察軍の事です」
「監察軍ですか」

 リリカは眉を顰める。

 監察軍とは三千世界を調査するための組織。元々帝国はこの次元世界の並行世界に干渉する技術を持っていたが、五十年ほど前にこの次元世界とは全く異なる異世界とそこの並行世界に移動できるようになった。普通ならば政府主導で調査機関が造られるはずだが、皇帝陛下は何故か監察軍という組織を造り、三千世界を任せていた。

 ここで問題となるのが監察軍を幹部達の多くが、ブリタニア人ではなく異世界人達であるということだった。

 名目上は皇帝直轄ということになっているが、彼等は一つの星系を自治区として構築していた。とはいえ彼等のいる星系は、有人惑星も有力な資源もないので任せても問題ない場所だった。

 だが三千世界にも問題があった。この次元世界の並行世界を除いた世界では魔法が一切使えなかったのだ。これはこちらの魔法が次元世界という他の世界と比べても特異すぎる特性に特化していた為と考えられている。魔法や魔術は汎用性がない使い勝手が悪い技術であるが、貴族の魔法との相性は特に酷かった。その為、貴族は三千世界に関わるのを嫌がり、監察軍が三千世界を担当させて自分たちはスポンサーとして知識、技術、情報を手に入れる事に対する反発が少なかった。

 帝国の役職は軍部を除くと貴族が独占しているとはいえ例外もある。社会秩序維持局の局長がそうである。

 社会秩序維持局は、国内の反乱分子や他国のスパイの対応を専門に行う秘密警察だ。それだけに平民から嫌われており、政府からも汚れ仕事と思われていた。だが必要であるから、貴族ではなく平民にやらせていた。

 監察軍は汚れ仕事ではない。いくら三千世界は貴族には不便とはいえ異世界人に任せて良いのか?と疑問に思う者もいる。まぁこれは皇帝のごり押しで決まったようなものだ。

「私が知りたいのは何故皇帝陛下が監察軍などという組織を作って異世界人に任せているかです」
「私もそれは知らないのよ」

 子爵がそれを補填する。

 しかし、封建貴族の公爵が知らないのはわかりますが、宮廷貴族の子爵まで知らないとはね。

「陛下の寵姫である貴女なら何か知っているのではなくて?」

 寵姫。皇帝陛下は女性であるが同性愛者であったので二人の皇妃がいるが、それ以外にも複数の妾がいる。そうした者は寵姫と呼ばれていた。帝国宰相ローデス公爵もそうだし私もそうだ。

 貴族の中には皇帝陛下の寵愛を求めて自ら寵姫となることを望む者もいる。リリカの場合は、若い頃のはやてが髪を伸ばしてスタイルを良くした感じなので、割と気に入ったのか陛下の方から伽に誘われていた。だからリリカは陛下の寵愛を受けていると周囲かも認識されていた。

「監察軍のトップや幹部に異世界人を用いているのは理由があります」
「理由ですか?」
「ええ、実は……」

 

 この世界を含めて様々な世界は神々によって造られた世界。そして、それらの世界が創造された時の反作用が存在していた。

 創造の反作用、すなわち『破壊』。『破壊』はある程度蓄積されると様々な世界をその並行世界ごと破壊してしまう。だから反作用を中和する必要がある。

 シドゥリ陛下は調査の結果、特殊なレアスキルを持つ者だけが、それを中和できると分かった。

 そのレアスキル所有者たちは様々な世界に存在する。彼等が効率よく、反作用を中和できる様に様々な支援を行う。監察軍とはその為の組織であり、いわばレアスキル所有者たちが協力し合うための物だ。その為、監察軍の上層部はレアスキル所有者で構成する。この次元世界では、シドゥリ陛下と私の母の八神はやての二人が該当する。

 シドゥリ陛下は監察軍のスポンサーとなりその者たちの支援をするが、勿論スポンサーとなる帝国もただ支援するだけではなく、監察軍が手に入れた知識、技術、情報を手に入れるというシステムになっている。なお破壊の件は民に余計な心配させないために極秘事項とする。

「……というわけね」
「そ、それは本当なのですか?」

 私の話を聞いた公爵と子爵は動揺していた。どうやら初耳だったらしい。まぁ私も初めて聞いた時は驚いた物だが。

「ええ、私が陛下から直接聞いた事です」とハッキリという。

 最も陛下が私にすべてを言っているとは限らない。まだ何か隠している様な気がするが、それを検索するのは危険なのでやっていない。

「そ、そんなことが…」
「ついでに陛下はこうも言っていました『彼らが足りなくなると世界が危うくなる』と」
「つまり、彼らがある程度いないといけないので、様々な支援をしているというわけですね?」

 質問をしつつも公爵が何か考え込んでいるようだ。

 もしかして監察軍とそれによって優遇されている監察軍のメンバーを苦々しく思っていたのだろうか? だが好き嫌いは別にして彼等は必要なのだ。排除などと主張されたらたまらない。

 しかし、監察軍は帝国と密接に協力関係にある。軍部、情報省、総合技術省など関係は決して浅くはない。簡単に切れないし、切ったら切ったで問題になる。破壊によって次元世界その物が消滅させられたら目も当てられない。

 陛下が言うには『破壊』は帝国軍でも歯が立たないほどの強さらしい。そんなに強いのか? 一体どんな化け物だよ、と突っ込みたくなる。

「いずれにしても監察軍は、この次元世界だけではなく数多の世界にも重大な影響を与えるため慎重に対応した方がいいでしょう」

 念の為に釘を刺しておきます。ここまで言えば二人も慎重になるでしょうから。リリカの言葉に二人は頷いた。ふう、これで一安心ですね。

 

おまけ

 監察軍本部の一室、特殊認識能力者こと、トリッパーたちが秘密の会合をしていた。ここで話されることはトリッパー以外には秘密である。

「そういえばさ。破壊神ベヅァーって、どれぐらい強いの?」

 何気ない一言。

「ゴールデンフリーザの100億倍ぐらいかな」
「えっ、マジ!?」

 トリッパー達の表情が強張る。

『ドラゴンボール』は格闘漫画であるが、その文明レベルは下位世界の中でもかなり高い。そんな世界にあって生物の能力が文明の技術力を凌駕しているのだ。

 例えば宇宙の帝王フリーザさんも個人戦闘能力の高さで頂点に君臨していました。あの世界では兵器は戦士の前ではおもちゃ扱い。そんな中でもゴールデンフリーザは戦闘力1垓(10の20乗)というキチガイ染みた強さを誇る。その100億倍の強さ。うん、手に負えないね。

「それじゃ対応は無理ね」

 トリッパーの一人が匙を投げる。まぁどう考えても対応できないのだから仕方がない。

「幸い、トリッパーが下位世界にいれば反作用を中和できるし、ベヅァーを出現も阻止できる」
「結局それしかないわね」

 消極的な方法だが他に手がないから仕方ない。まぁ何とか出来るならとっくに死神たちが何とかしているだろう。

「なら私達の活躍が重要になるね」と気張るように言う。

 私達トリッパーの使命は重いが、そもそも、この世界は私達上位世界人が創造した物だが、同時に破壊をも作り出してしまった。ならば私達がなんとかしないと。

 

後書き

 今回は貴族の話です。監察軍に対して貴族たちがどう思っているか書いてみました。そしてトリッパーの役割に付いてもふれています。監察軍に関しては色々と極秘事項が多いので、貴族も知らないことが多く、リリカにしても実は肝心なことは知りません。

 ちなみにレアスキル所有者というはのトリッパーの隠語ですね。トリッパーの存在を隠すために、彼等は世界を安定させる特殊なレアスキルを保有する能力者と説明しています。これならトリッパーや上位世界の事を伏せているだけで嘘はいっていないから辻褄があいます。

 ちなみにドラゴンボールの戦闘力に関してはフリーザ編以降は公式発表がないのでADONISが自分で決めています。
 戦闘力比較表
 完全体セル:800億
 魔人ブウ(デブ):1兆
 ゴールデンフリーザ:1垓(1垓=10の20乗)
 破壊神ベヅァー(フルパワー):100穣(1穣=10の28乗)

 


封建貴族 第三話(シドゥリ暦665年)

2013年08月18日 13時03分38秒 | 小説

 そもそも貴族とは何か?

 ブリタニア帝国建国初期には貴族は存在しておらず、帝国は皇帝シドゥリと平民たちの国だった。だが、帝国の規模が拡大して安定すると、皇帝を支える貴族を造ることになった。

 元々、シドゥリは人を超越した覚醒者が人間を統治する国家を建国するという目標を持っており、自分以外の人間も覚醒者に変えて貴族として特権階級にするというのは当たり前の行動だった。むしろ貴族を用意する準備が整ったからだとも言えた。

 最初の貴族が現れたのはシドゥリ暦47年だった。この時に五人の平民の少女が覚醒の法により覚醒者となった。この五人はまず軍人として従軍した。軍人貴族の登場である。

 彼女たちは騎士にして覚醒者という強大な力を持って帝国の治安維持に大きく貢献した。その後、政界に入り、政治に携わるようになった。これが宮廷貴族の始まりで、彼女たちは徐々に中央で地位を占めていった。

 当時の中央政府の高官は多くが貴族ではなく平民であったが、この時期から徐々に権力が宮廷貴族に移っていった。シドゥリは、当時の平民の重臣を無理やり辞職させたわけではないが彼等は老いなどで徐々に引退していき、その穴を貴族が埋めるという形で緩やかに移行していった。三十年も経てば帝国は宮廷貴族が政治を動かすようになり、貴族も緩やかに増えていたが貴族がむやみに増えても困るので、その状況は頭打ちとなっていた。

 しかし、シドゥリ暦150年代になると状況がかわった。それまで惑星ヴァーブルの内政で帝国の地盤を造るのに集中していたが、国家が安定してきたので宇宙進出に乗り出してきた。

 大航海時代の到来。次々に移民可能な惑星が見つかり領地が広がる。ここで中央集権の限界が来る。元々、惑星ヴァーブルで地方の惑星まで完璧に統治するのには無理がある。だから地方分権が必要とされた。つまり皇帝に変わって地方の星系を統治する権力者。これが封建貴族の誕生だった。

 封建貴族は各地の領地を治める。領地の説明として、人間が住める惑星がある星系で、星系の人口が一千万人以下の場合は男爵が統治をします。

 人口が一千万人以上で一億人以下の星系は子爵、一億人以上で十億人以下では伯爵、十億人以上で五十億人以下では侯爵、五十億人以上は公爵と、領地の人口によって封建貴族の爵位が変わります。

 宮廷貴族の爵位はその役職で決まるが、封建貴族の場合は所領の人口で爵位が決まる。つまり所領の人口が封建貴族のステータスとして扱われている。もちろん封建貴族の力は何も人口だけで測れるわけではない。領地の環境、市場、税収、資源、人材、治安、産業など様々な要素が絡んでいるだろうが、それを考えても人口は重要であるし、それで決めた方が分かり易いという点もあった。

 更に言えば、これは封建貴族が領民を虐げるのを抑止する効果もある。
 帝国は国内であればどこの星系でも居住が許されているので、酷い領主だと領民に逃げられるのだ。そうなると領地の運営が上手くいかなくなる上に爵位が下がる。

 こういう問題は昔の徳川幕府の場合は、それぞれの領地を勝手に出たら死罪にするという厳罰でそれを取り締まっていた。しかし、帝国の場合は次々に惑星開発を行い、入植を行うことで領地拡大と国力の増強に励んでいるので規制したくてもできない。

 そして法律で宮廷貴族と封建貴族にはいくつかの規制がある。
 ①政府で要職となっている宮廷貴族は所領を持ってはならない。
 ②地方に所領を持つ封建貴族は政府で要職についてはならない。
 ③封建貴族一人が所領出来る領地は星系が一つだけである。
 ④貴族は帝国の首都がある星系を所領としてはならない。

 これらの規制の理由はとしては、
 ①特定の貴族に過剰な力を持たせない。
 ②封建貴族が保有できる領地を制限することで、他の貴族の領地を奪う事で勢力を拡大させる事を抑止する。
 ③封建貴族が政府で働いて、領地の統治が代理人任せになってしまうのを防ぐ。
 ④首都を特定の貴族に牛耳られるのを抑止する。
 などがある。

 この様にシドゥリは貴族と平民の力のバランスを上手く取って帝国を安定させようとしていた。この政策は大体上手くいき、帝国は大いに栄えることとなった。

 

 パルディー公爵邸のパーティ会場は予想以上に豪勢だ。そこには公爵領の有力者や他の封建貴族とその執事が出席していた。伯爵以上の爵位を持つ封建貴族は他の貴族をパーティに招待することが多い。

 主役たる公爵が出席者に囲まれている。今回は公爵自身の誕生日祝いという名目でのパーティで、公爵の家族は出席していない。

 ちなみに帝国では、貴族本人は特権階級として扱うが、その親兄妹、配偶者、子供などの親類は一介の平民として扱われる。だから彼等がパーティなどの公式の場面にでることは慣例で良くない事とされている。

 これは貴族の親類縁者が増長するのを抑止するためである。罰則はないものの、帝国では非常識な行動となるので余程のバカ以外は出席しないし出席させない。

 リリカとセバスチャンは会場を歩く。他にも貴族の姿があるが、彼女たちも執事を伴っていた。

 リリカや他の貴族が執事を伴っているのは理由があった。帝国の貴族は全員女性なので女性同士で踊るわけにもいかず、こうした舞踏会となるとダンスの相手が問題になる。そこで、貴族をエスコート出来る十分に教育された男性が必要となり、それが執事の仕事となったのだ。

 帝国では貴族に仕える執事は、貴族の秘書から地上車の運転手、ダンスの相手を含めた礼儀作法などの色々な分野の能力が要求される。それだけに専用の執事免許を取得した優秀な男性しかなれない職業であったが、給与がよい所謂エリート職だ。

「お久しぶりですねアークライン男爵」
「ええ、お久しぶりですルードリッヒ子爵」

 シルビア・フォン・ルードリッヒ。かつては総合技術省で帝国軍の並行世界研究の総責任者をつとめていたが、例の一件で役を解かれてからというもの爵位も伯爵から子爵となり落ち目な宮廷貴族だった。シルビアの外見は長い銀色を持つ美少女であるが、実年齢はリリカよりもかなり高い。

「子爵が公爵のパーティにでられるとは珍しいですね」

 通常、封建貴族のパーティにはその領地の有力者か他の封建貴族が出席するものだ。つまり中央で役職に付いている宮廷貴族はわざわざ地方のパーティにはでない。宮廷貴族は中央で何かとパーティをやる物だ。

 陛下の誕生日、陛下が覚醒者となった日、帝国が建国された日など名目はいくらでもあるのだ。それに、一応戦勝パーティとかも過去にあったらしく、管理局をボコったときとか、管理局が潰れたときも祝いにパーティをした。

 まぁシドゥリ様がこの世界に降臨された日を祝う降臨祭のパーティには、中央も地方も関係なく多くの貴族がヴァーブルに集まり、それを盛大に祝う物だが、それは年に一度しかない。

 帝国にとっては、パーティもダンスも社交として重要なので、あまりにも宮廷貴族と封建貴族の交流がないというのも問題と言うことでこの年に一度の降臨祭パーティには宮廷貴族と封建貴族が一緒に参加するように求めていた。

「ええ、男爵がでられると聞いたもので出席しました」

 彼女は自分に思う所があるのだろう。まぁ娘のシンシアを殺したわけですから内心複雑でしょうね。

 しかし、あれだけのことをしでかしただけにシンシアが抹殺されるのは当然だった。リリカが抹殺したからといって、それを攻めるのは筋違いだ。以前はその一件で関係がギクシャクしていたが、時間と共に回復している。昔のことだし、何時までも蒸し返されてもお互い迷惑だろう。

「まぁ今日は楽しみましょう」
「そうですね」

 子爵の言葉にリリカは賛同する。

「アークライン男爵閣下、私は子爵に仕える執事で御座います。一曲踊って貰えないでしょうか?」

 子爵が隣のいた若い執事に視線を送ると、執事が前に出てリリカにダンスを申し込んできた。

「ええ、喜んで」

 リリカは執事に手を差しだすと、セバスチャンに視線を送る。私の意志を酌み取ったセバスチャンは子爵をダンスに誘った。舞踏会での貴族同士の交流の場合、お互いの執事を相手の貴族のダンスの相手をさえるというのは一般的だ。

 目の前の若い執事は、リリカをエスコートしていく。若いながらもダンスの腕は悪くない。というか執事ならダンスは上手だろう。曲のリズムに合わせてステップを踏む。覚醒者に選ばれた者は当然ながら魔力が強いし運動神経も良い。どこぞの魔力はあるけど運動音痴という者は少ないし、覚醒者になれば身体能力が劇的に高まる。

 リリカもダンスは嗜みとして覚えていたし、貴族となって日が浅いわけでもない。危なげなく踊っていく。

 考えてみると執事というのも結構大した者である。彼は自分が手を繋いで踊っている女性が、その気になれば容易く自分を引き裂ける存在であることを知っている。絶大な権力を持ち、宗教的にも聖なる存在として敬われている貴族。そんな女性を腕に抱き緊張も見せずに自然体で踊っている。

 貴族を前にすると萎縮する平民が多い。だがこの執事に関しては問題ない。いやそうでなければ執事など勤まらぬか。

 やがて曲が終わり、執事と離れていく。向こうも終わったのでセバスチャンがこちらに戻ってきた。

「さてと、次はと」

 リリカは主催者のパルディー公爵を見る。公爵は主催者なだけあって先程まで多くの人に囲まれていたが、今では人数が少なくなっている。挨拶にいくにはちょうどいいだろう。リリカは公爵の元に向かう。

「公爵、本日は招待していただき有り難う御座います」
「ええ、男爵もお元気そうでなりよりです。それとパーティが終わった後でお時間はありますか?」
「はい、時間は空いています」

 時間?おかしなことを聞くな。まぁ時間は空いてはいるが。

「そうですかよかった。実は男爵に話しておきたいことがあるのです」
「そうですか」

 話しておきたいことか。自分の招待したのはそれが本当の理由か。何だろうか? もめ事はいやなので、問題がなければいいけどね。

 


封建貴族 第二話(シドゥリ暦665年)

2013年08月18日 13時02分58秒 | 小説

 パルディー星系は、五つの有人惑星が存在していて総人口82億人にも上る帝国有数の星系だ。パルディー星系自体は、シドゥリ歴187年に入植が始まり、500年には人口が50億人を超えていた。そのため、パルディー星系は公爵領に格上げされたが、初代パルディー公爵は生きるのにあきて自殺してしまう。

 そのため一旦は皇帝領星系になり、星系開拓省が代官を派遣して管理していたが、次の領主として貴族に選ばれたばかりの彼女にパルディー星系を与えられて、パルディー星系の二代目領主となった。だから彼女は軍を退役したら、いきなり公爵となった。正直、アークライン星系なんか与えられた私とは雲泥の差だ。

 

 宇宙港についた。帝国の物流システムは、同じ星系領地内部の都市間を機械式の転送魔法のネットワークで繋げ、人と物の物流をほとんどタイムラグなしに大量に捌けるようになっていた。このシステムは大型化されており、それなりの規模施設で、現在でいえば小規模な空港の様な構成となっている。

 以前も言ったが帝国では小型の転送装置は規制されている。特に厳しく規制されているのが個人携帯用の転送装置だ。船などに搭載されているワープエンジンは民間でも使用が許可されているが、テレポートドライバーの様な戦闘機サイズでも使える転移装置は軍以外では規制されている。もちろん帝国がその気になれば大がかりな施設などなくても個人レベルで転送技術を使い人や物を好きな場所にリアルタイムで送り込める。

 しかし、それでは必ず悪用されてしまう。だから帝国は不便を我慢してそれを規制していた。

 更に恒星間の物流は一般的に転送魔法のネットワークではなく、宇宙船で運搬していた。その理由としては、領地を繋げることを貴族達が嫌がったことと、技術的に問題あったことが上げられる。

 当然、そうなると各星系間の物流は宇宙船で運ぶということになる。だから宇宙港が栄えることとなった。

 ちなみに宇宙港は『銀河英雄伝説』のフェザーンみたいに軌道エレベータ方式で、この方式ならオゾン層に対して被害が少ない。

 その宇宙港はパーティの出席者で賑わっていた。さすがに五つも有人惑星を抱えているだけに、領内の要人を呼ぶにしても宇宙船を使わないといけない。大変な事ですね、と私は人事として受け止めていた。

 実は、私は宇宙船を使ってはいない。個人レベルの転移魔法を使ってこちらに来ていた。もちろん宇宙船を使うという方法もあるだろうが、私の場合はそれが出来なかった。なぜなら私は宇宙船を保有していないからだ。

 プラズマのおかげで私の領地は普通の宇宙船が使えない。下手に上空に上がるとプラズマの猛威を受ける。だからアークライン星系に存在する有人惑星のラグランジュポイントにはスペースコロニー『ヘラクレス』が存在しており、そこが宇宙港として機能していた。

 ヘラクレスから転送魔法で領地の各都市に人と物を転送していた。幸いヘラクレスは有人惑星から近いこともあり魔導炉も問題なく使えた。

 

 転送技術の規制は、魔導師や騎士に対しては穴がある。とはいえ帝国で魔法の使用を認められた魔法資格者でも、平民は転送魔法を非常時以外は無許可で使用ができないというか、そもそも貴族以外は転送魔法を教えて貰えない。これも悪用されないためである。転移魔法を無許可で使用できるというのも貴族が持つ特権の一つであった。

 それに魔法資格者の場合は魔力波長が登録されるから、魔法を使えば観測されて使用者が特定される。だからすぐにばれるので、貴族以外は誰も使わない。

 ちなみに未登録者の反応がでたら犯罪者として即座に治安担当者が動く。ここで、なぜ貴族が特権でそれが認められているかというと、貴族ならばテロを起こす危険がないからだ。いうまでもなく貴族は特権階級で皇帝を守る※1『藩屏(はんぺい)』だ。

 ※1守護するもの。特に王家を守護するもの。

 貴族達にとって皇帝と帝国は絶対的なもので、反乱を起こしたりはしない。仮に反旗を翻したとしても部下が付いてこないし、仮に帝国を簒奪したとしても他の貴族や平民達をまとめるための権威がないと帝国を統治できない。

 そもそも貴族が特権を与えられ領地と領民を治める権利を得ている大義名分は、皇帝を守護する藩屏という理由と、皇帝に仕える特別な巫女として面が大きく、魔法皇帝シドゥリという強力無比な権威によって特権階級として君臨していた。そんなことはバカでも分かるので、貴族達にとってテロや反乱を起こす理由は存在しないのだ。

 事実これまで貴族による反乱は一度も起きていないので、認めても問題なかった。(ただし、領民による反乱や、共和主義者などが起こした騒動はおきたことがある)

 

「さすがに帝国有数の領地なだけはありますね」

 目の前に広がる大都市、それはパルディー公爵領の豊かさを示していた。セバスチャンの言葉は最もで、リリカもこれまで何度となく来てはいるが、その度にそう思う。

「別に構わないわ」

 リリカはさらりと流す。

 今のリリカは美しいパーティドレスに身を包んでいた。リリカのドレスは、薄いピンク色の飾り気の少ないシンプルなもので、派手さはないが清楚さが醸し出していた。

 ちなみに大概の封建貴族は普段からドレスを着ることが多いが、パーティの時はパーティ用のドレスを着る。ついでに装飾品を付けて化粧もしているので補正効果もバッチリ!

 リリカはあまり着飾るのを好まないが見栄えも重視される貴族社会では、ある程度は着飾る必要もあるので仕方がない。リリカも貴族だけあって元は良いのだ。(容姿やプロポーションが悪い者は貴族には選ばれない)

 リリカは封建貴族の中では貧しい方だが、それでもアークライン星系の領地経営はそれなりに上手く行っているので余計な贅沢をしなければなんとかなる。(領地の税収ではなく囚人の管理報酬が主な収入源)

 セバスチャンに地上車の運転をして貰いパルディー公爵邸に向かう。地上車は宇宙港でレンタルしたレンタカーである。どうせ今日しか使わないからレンタカーで十分だ。

 宇宙港から30分ほどでパルディー公爵邸についた。門を通って車を進めるが庭が広すぎて館が見えない。

 しかし、相変わらずバカみたいに広い庭である。ここまで庭が広いと維持管理も大変だろうに、と下らないことを考えてしまう。

 そしてやっと公爵邸が見えてきた。相変わらずの豪邸である。まぁ豪邸と言うよりも城、それも戦争のための物ではなく華やかさを追求した優雅な城だろう。リリカは地上車から降りて公爵邸に向かう。

 

 封建貴族はいずれも一つの星系を領地としていて最低でも一つの有人惑星を保有しているのだ。つまり地球型惑星を一つ、もしくは二つ三つと存在する太陽系を丸ごと領地として持っているわけで、その領地の規模は地球の王侯貴族とは桁が違う。それだけ広いと庭の広さだけでは貴族の裕福さは分かりにくい。

 かつての地球とは異なり人口に対する土地は有り余っている。だから土地の広さ=富とはならない。

 しかし、そこは帝国貴族でも高位の公爵。その豊かさは相当なものだ。まぁそれはこの公爵邸に飾れている装飾品を見れば一目瞭然だった。ハッキリ言って凄くリッチだよ。

 どれもかなり金がかかっているのが分かる。私も仮にも貴族なので、その手の目利きは出来る。もちろん私の男爵邸もそれなりに豪勢であるが、ここに比べればかなり質素な方だろう。私はセバスチャンと共に公爵邸にて招待状を見せて入場した。