プロジェクト○川

学生に本を読んでもらおうという,ただそれだけのはずでした

フィリップ・K・ディック 『暗闇のスキャナー』

2006年09月20日 | 本の話
何でとつぜん本屋に平積みなのかと思ったら,キアヌ・リーブスで映画化されたのか.

『暗闇のスキャナー』はディック後期の傑作.
ドラッグというところだけを取り上げると,教師としては口ごもってしまうけれど,
世界認識をひっくりかえされるようなディックの小説を読まずに,
映画だけで名前を知っているというのでは,あまりにもったいない.

ディックはSF作家というよりも,現代文学の重要な作家.
特に最晩年の『ヴァリス』『聖なる侵入』『ティモシー・アーチャーの転生』はすごい.

ただ,ディック入門としては,後期のものはちょっときついかも.
創元SF文庫の『虚空の眼』(SFが嫌いでなければ,これがいちばんオススメ)や,
ハヤカワ文庫SFの『パーマーエルドリッチの三つの聖痕』,
『火星のタイム・スリップ』あたりをお薦めします.
『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』(ブレードランナーの原作)でもいいし.

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この『暗闇のスキャナー』に関しては強烈な思い出がある.

むかし,サンリオ(SF)文庫というすごい文庫があった.20年くらい前の話.
いまのサンリオのイメージからは信じられない,ぶっ飛んだラインナップで,
他社で再刊されていない本は,いまでも古本屋で高値がついている.

僕が最初にこの作品を読んだのはそのサンリオ版.で,面白かったけれど,難解だった.
後期ディックは難解と相場が決まったし,当時はそういうもんだろうと納得していた.

その後,サンリオは文庫から撤退(あせって本屋を回り,残っている本を買い漁った).
ディックの作品の多くが入手困難になる.

数年後,『暗闇のスキャナー』は創元社から山形浩生訳で再登場した.
山形訳を読んで驚いたのは,わかりやすいこと.旧訳がひどかっただとようやく気付いた.

たとえば,最初の頁に出てくる,
「こっちが絶え間なくムシに咬まれて苦しんでいるのに,連中はそんなことを言うのだった」(山形訳)が
旧訳では「たえず虫に咬まれて苦しんでいたからこそ人はそういったのだった」となっている.

ここだけ引用してもわかにくいと思うけれど,「のに」と「からこそ」じゃあ意味が逆でしょ?
なんで苦しんでいたから『こそ』なのか?
憶えてはいないが,たぶん当時は悩んだと思う(深い,とか思っていたかもね).

翻訳者としての山形浩生への信頼は,それ以来揺るいだことがない.

でも,本の装丁だけはサンリオ版の方が好きだな.
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