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●自衛隊配備・ミサイル基地建設…『沖縄スパイ戦史』「自衛隊…昔と同じく住民を顧みない軍隊の本質」暴露

2018年08月16日 00時00分22秒 | Weblog

[※ 『沖縄スパイ戦史』(三上智恵大矢英代共同監督) (LOFT)↑]



レイバーネット(http://www.labornetjp.org/)のコラム【<木下昌明の映画の部屋 243回> 三上智恵大矢英代監督『沖縄スパイ戦史』/住民500人を死に追いやった犯罪】(http://www.labornetjp.org/news/2018/0721eiga)。

 


 《市川雷蔵主演の『陸軍中野学校』(1966年)をみて、日本の戦時にスパイ学校があったと知った。印象に残ったのは、主人公が国家に忠実を尽くすために恋人さえも殺す冷血漢となるシーンだった。三上智恵(ちえ)大矢英代(はなよ)の両監督の『沖縄スパイ戦史』は、中野学校を出たスパイが戦地で何をしたか――その実態の一面を見事に切りとっている》。

 《スパイに仕立てられた少年兵を仲間に銃殺させたり》…。《記憶の澱》…《軍隊というものが持つ狂気性》。

   『●現在進行形の「身代わり」: 「反省と不戦の誓いを…
             沖縄を二度と、身代わりにしてはならない」
    《宮古島には七百人規模、石垣島には六百人規模のミサイル部隊と
     警備部隊を配備する計画です。地元では、過疎化対策や抑止力強化の
     観点から配備を歓迎する人たちもいますが住民の意見は割れている
     のが実情です。
       島の主要産業である観光への影響を懸念する意見のほか、有事には
     自衛隊が標的にされ、周辺住民が巻き込まれると心配する声が
     聞こえてきます。底流にあるのは先の戦争の悲惨な記憶です。
       大戦末期、米軍の攻撃を避けるため、この地域の住民はマラリア発生
     地帯への疎開を軍部によって強制され、多くの人が罹患(りかん)して
     亡くなりました。患者数は当時の人口の約半数とも言われています。
       同じく大戦末期には、軍命により石垣島から台湾に疎開する際、
     船が米軍に攻撃され、多くの犠牲者が出ました。
     自衛隊配備でこうした戦争の記憶が蘇るのです》

   『●「防波堤」としての全ての「日本全土がアメリカの「風かたか」」…
                  米中の「新たな戦争の「防波堤」に」(その1)
    《『標的の島 風かたか三上智恵監督…とくに石垣島の場合は
     地上戦がなく、空襲で178人が亡くなっているのですが、一方で、
     日本軍の命令によって住民たちがマラリアが蔓延する山奥に
     押し込められ、しかも日本軍は特効薬を大量に持っていたにも
     かかわらず住民に使うことはなく、結果3647人も亡くなっています。
     これは米軍が上陸してきたときに住民が捕虜となり、情報が筒抜けに
     なることを避けるため、ゆるやかな集団自決を住民に強制した、
     ということでしょう。じつは沖縄でも、この一件は「たまたま疎開した先に
     マラリア蚊がいて、マラリアが蔓延してしまった」というくらいにしか
     捉えていない人が多い。映画のなかで山奥に押し込められた体験を
     証言してくださった方が出てきますが、この映画での新証言なんです。
     この部分は、どうしても映画のなかに残しておきたかった。
     軍隊がいたから、石垣島ではマラリア地獄が起きた。
     軍隊の論理で死ななきゃいけない人が出てきてしまった、ということですから》


 そして、現代の、アベ様の《我が軍》も、自衛隊の配備やミサイル基地建設など、《昔と同じく住民を顧みない軍隊の本質》を発揮しようてしてはいないか? 
 《ゆるやかな集団自決を住民に強制》。《一方の大矢は、波照間島の住民約500人を死に追いやった犯罪を追及している。…米軍は現れず、彼も姿を消した。スパイだったのだ。…今日、沖縄南西諸島自衛隊が配備され、ミサイル基地が建設されつつある。三上と大矢は、自衛隊が当時の法規を踏襲し、昔と同じく住民を顧みない軍隊の本質を暴いている》。

   『●加害者性と被害者性…「私たち一人一人が被害者となり、
              加害者となり得る戦争。戦争はどこかで今も…」
    「【記憶の澱/NNNドキュメント’17】…。
     《先の大戦の記憶を、今だからこそ「語り、残したい」という人々がいます。
     …心の奥底にまるで「」のようにこびりついた記憶には「被害」と「加害」、
     その両方が存在しました》」

   『●「戦争のためにカメラを回しません。
      戦争のためにペンを持ちません。戦争のために輪転機を回しません」
   『●『沖縄スパイ戦史』(三上智恵・大矢英代共同監督): 
           「「スパイリスト」…歪んだ論理が生み出す殺人」
   『●三上智恵・大矢英代監督映画『沖縄スパイ戦史』…
       「戦争というシステムに巻き込まれていった人たちの姿」

   『●中山きくさん「戦争は体験してからでは遅い」、
       城山三郎さん「平和の有難さは失ってみないとわからない」

   『●「改めて身に迫るのは、軍隊というものが持つ
      狂気性」(高野孟さん)と、いまも続く沖縄での不条理の連鎖
    《マガジン9連載コラム「沖縄〈辺野古・高江〉撮影日誌」でおなじみの
     三上智恵さんが、大矢英代さんとの共同監督で制作した
     映画『沖縄スパイ戦史』が7月下旬からいよいよ公開…
     「軍隊は住民を守らない」…「戦争や軍隊の本質を伝えたい」》。

   『●「安倍政権が旗をふる「極右プロパガンダ映画」が 
      世界中に発信されるという恥ずかしい事態が現実に」!?
   『●『沖縄スパイ戦史』と《記憶の澱》…
     「護郷隊…中高生の年頃の少年たち…スパイと疑われた仲間の処刑…」

    《▼日本軍第32軍の周辺で起きた本島中南部の激戦を「表の沖縄戦」と
     すれば、映画が描くのは北部の少年ゲリラ兵部隊護郷隊」や八重山
     戦争マラリアなどの「裏の沖縄戦」。綿密な取材による証言と資料映像で、
     6月23日以降も続いた遊撃戦の実相をつづる》

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http://www.labornetjp.org/news/2018/0721eiga

木下昌明の映画の部屋 : 三上智恵・大矢英代監督『沖縄スパイ戦史』

木下昌明の映画の部屋 243回> 三上智恵大矢英代監督『沖縄スパイ戦史
住民500人を死に追いやった犯罪

 市川雷蔵主演の『陸軍中野学校』(1966年)をみて、日本の戦時にスパイ学校があったと知った。印象に残ったのは、主人公が国家に忠実を尽くすために恋人さえも殺す冷血漢となるシーンだった。  三上智恵(ちえ)大矢英代(はなよ)の両監督の『沖縄スパイ戦史』は、中野学校を出たスパイが戦地で何をしたか――その実態の一面を見事に切りとっている。

 三上は『標的の村』(2012年)など基地反対の住民に焦点を当てたドキュメンタリーでよく知られている。大矢は若きドキュメンタリストで『テロリストは僕だった~沖縄・基地建設反対に立ち上がった元米兵たち~』(2016年)がある。この2人が共同で沖縄戦の埋もれた戦史を掘り起こしている。

 戦時下、42人の中野学校出身者が沖縄全島に派遣された。このうち「護郷隊」という秘密部隊を作り、少年兵らにゲリラ訓練をさせていた2人のスパイに、三上は光を当てる。米軍が撮った少年兵らの写真の数々と生き残った元少年兵の証言を重ねて、戦場の無残さを伝えている。スパイに仕立てられた少年兵を仲間に銃殺させたり、仲間に見捨てられた元少年兵の話などに唖然(あぜん)となる。

 一方の大矢は、波照間島の住民約500人を死に追いやった犯罪を追及している。

 1944年暮れごろ、一人の教師が島にやってくる。彼は住民に優しく慕われた。だが米軍が攻めてくると噂(うわさ)が立つや彼は隠していた軍刀で人々を脅し、隣の西表島に強制疎開させた。2000頭の家畜は処分し、軍隊が食用に持ち去った。着のみ着のままの住民は、マラリアと飢えで亡くなった米軍は現れず、彼も姿を消した。スパイだったのだ。彼は戦後どうしたか。

 今日、沖縄南西諸島自衛隊が配備され、ミサイル基地が建設されつつある。三上と大矢は、自衛隊が当時の法規を踏襲し、昔と同じく住民を顧みない軍隊の本質を暴いている。必見。

(『サンデー毎日』2018年7月29号)


※7月21日より沖縄・桜坂劇場、28日より東京・ポレポレ東中野ほか全国順次公開

〔追記〕この映画をみると、日本兵は中国ばかりでなく沖縄からも食料を現地調達していたことがわかる。
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●三上智恵さん「結局は止められなかった」という現実…でも、《人々は分断されている》ことを止めなければ

2017年08月27日 00時00分20秒 | Weblog

三上智恵監督『標的の島 風かたか』公式ページ(http://hyotekinoshima.com)より↑]



マガジン9の記事【三上智恵の沖縄〈辺野古・高江〉撮影日誌 第71回:高江から宮古島へ~雪音さんと育子さんからのエール~】(http://maga9.jp/mikami170802/)。

 《『標的の村』の主人公、高江の安次嶺雪音さんと伊佐育子さんだ。…そう思って特集を連打し、放送用ドキュメンタリーの限界を超えようと映画にまでして突っ走ってきた私は、「結局は止められなかった」という現実に、正直に言ってまだ向き合えていない。…でも、ひしゃげている私にもわかることがある。これから自衛隊のミサイル基地建設着手、という局面を迎える宮古島石垣島で、何とかそれを止めようともがく人々にとって、高江の人たちは大事な存在になるということだ》。


 沖縄の先島諸島や鹿児島の奄美など、自衛隊基地配備やミサイル基地建設などで、《いずれの島でも人々は分断されている》(半田滋さん)ようです。番犬様や自衛隊基地により人々は分断され、「統合エアシーバトル構想」により「防波堤」にされる島々。

   『●『DAYS JAPAN』(2015,APR,Vol.12,No.04)の
                         最新号についてのつぶやき
    「丸井春さん【自衛隊基地配備の与那国島 宙に浮く住民の不安】、
     「日本最西端の「国境の島」は、島の活性化を自衛隊誘致にかける形に
     なった」」

   『●中学生を「青田買い」する自衛隊: 
     「体験入隊や防衛・防災講話」という「総合的な学習の時間」も
   『●自衛隊配備で「住民分断」: 
     「自衛隊の配備計画…いずれの島でも人々は分断されている」
    「東京新聞の半田滋さんによるコラム【【私説・論説室から】
     島を分断する自衛隊配備】…。《「賛成派が新たな職を得て
     優遇される一方、反対した人は干され、島を出ている」という。
     …自衛隊の配備計画は与那国に続き、奄美大島、宮古島、
     石垣島でも急速に進む。いずれの島でも人々は分断されている》」

   『●「しかし、沖縄にはいまだ“戦後”は 
     一度たりとも訪れていない」…安倍昭恵氏には理解できたのだろうか?
   『●現在進行形の「身代わり」: 「反省と不戦の誓いを…
             沖縄を二度と、身代わりにしてはならない」
   『●「防波堤」としての全ての「日本全土がアメリカの「風かたか」」
                …米中の「新たな戦争の「防波堤」に」(その1)
    《しかし、三上監督は最新作『標的の島 風かたか』で、さらに切迫した
     問題を沖縄から日本全国へ提起する。それは現在、安倍政権が
     進めている石垣島、宮古島、奄美大島、与那国島への
     大規模な自衛隊とミサイル基地の配備についてだ。政府は南西諸島の
     防衛強化を謳うが、その実態はアメリカが中国の軍事的脅威に
     対抗すべく打ち出した「統合エアシーバトル構想」にある》

   『●「防波堤」としての全ての「日本全土がアメリカの「風かたか」」
                …米中の「新たな戦争の「防波堤」に」(その2)
    《現在、安倍政権が進めている石垣島、宮古島、奄美大島、
     与那国島への大規模な自衛隊とミサイル基地の配備。政府は
     南西諸島の防衛強化を謳うが、実際は、米中の“新たな戦争”の
     「防波堤」にするのが目的だ──。この衝撃的な事実と、石垣島や
     宮古島、そして辺野古、高江で子どもの未来を守ろうと必死に
     抵抗する市民たちの姿を描いた三上智恵監督の最新作
     『標的の島 風かたか』》

   『●米中戦争の「防波堤」:
     与那国駐屯地による「活性化」? 「島民との融和」か分断か?

    「《安倍政権が進めている石垣島、宮古島、奄美大島、与那国島への
     大規模な自衛隊とミサイル基地の配備》は「統合エアシーバトル構想
     へとつながる。《政府は南西諸島の防衛強化を謳うが、実際は、
     米中の“新たな戦争”の「防波堤」にするのが目的》。米中戦争の
     「防波堤」であり、そのための「捨て石」…。
     「島おこし」「活性化」とはほど遠い」

   『●島袋文子さん「基地を置くから戦争が起こる。
      戦争をしたいなら、血の泥水を飲んでからにしてほしい」


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http://maga9.jp/mikami170802/

三上智恵の沖縄〈辺野古・高江〉撮影日誌
第71回:高江から宮古島へ~雪音さんと育子さんからのエール~
By 三上智恵 2017年8月2日

 変な言い方かもしれないが、私は自分の映画のファンだと思う。自分で散々編集した映像なのに、ただの観客のように心を躍らせて見入る場面がある。正確には作品のファンと言うより、登場人物のファンなのだ。相手に惚れ込んで惚れ込んで撮影し、大事に大事に編集したのだから、観客より監督がまず一番のファンであるのは、ある意味当たり前でもある。だから一つの作品が完成し、過去のものになっても、登場人物たちのその後がもっと見たいという気持ちは、実は観客以上にあるのかもしれない。

 しかし政治家や芸能人ならいざ知らず、被写体になり日常をカメラで追い回されるのはほとんどの人にとって心地よいはずがない。たとえば高江や辺野古の闘争現場でも、世の中に伝えてほしいと思うからこそ多くの人は私たちがカメラを向けても我慢して下さる。でも主人公格だと私に魅入られくっつかれた人は、たぶんいい迷惑でしかない。また来た、と戸惑う表情を向けられる。

 「三上さんが伝えてくれるのは嬉しいし、協力したい。でも、ここまで映すのは…」。敬遠の眼差しはひしひしと伝わってくる。だからこそ、一つの作品が終わったら解放してあげないといけないと自覚している。魅力的な人々だからとずっと追いかけていったら、それこそストーカーだ。もう負荷をかけてはいけない、と自分にブレーキをかけるのも必要だ。わかっている。でもそう言いつつ、今回また二人の女性のその後を映像でお届けする矛盾を許して欲しい。『標的の村』の主人公、高江の安次嶺雪音さんと伊佐育子さんだ。

 彼女たちに出会ったのは2006年、もう11年も前になる。まだ誰も本格的な取材に乗り出していない頃の高江で、ヘリパッドに反対する住民のゲンさんこと安次嶺現達さんと伊佐真次さんの二人を私は主人公に選んだ。その伴侶としてお会いしたのが雪音さんと育子さん。特に育子さんはカメラが嫌いで、いつもインタビューは嫌がっていた。もし育子さんが月並みな女性であれば、嫌がる中で二度三度とカメラを向けたりしなかっただろう。でも彼女は全く気取らない素朴で控えめな女性で、多弁ではないのだが、いつもハッとすることを言う。戻って映像を見ながら、なんて素敵な女性なんだろう、と毎回ため息をつく。育子さんを知る女性なら、私が言う意味をわかって下さると思う。内面から輝くような美人とは育子さんのことだと私は常々思っている。

 そして6人の子どもを育てている雪音さん。下の二人は髙江の自宅で、自力で出産したという肝っ玉母さんで、独自の歌唱ワールドを持つシンガーでもあり、何よりいつも輝くように笑っている。辛かったことも笑って話す才能がすごい。どんなしんどいことでも雪音さんと一緒なら乗り越えて行けそうだと、周りを明るく照らしてくれる太陽のような女性だ。私は母性本能が乏しいほうで、めったに人の子までかわいいと思うことはないのだが、雪音さんの6人の子どもたちは破格にかわいい。目が輝いていて、ちゃんと話ができて、幼いうちから人間力がハンパない。雪音さんとゲンさんに育てられればこうなるのかと納得の家族である。

 高江に住む人たちのこういう人間力がなければ、この10年、ここまで全国の人たちの連帯の輪を拡げることはできなかっただろう。高江の輝く自然と笑顔溢れる人々。それは最初からそこにあり、描くのにあまり苦労はなかった。国家の暴力と向き合う150人ほどの小さな村が「戦後民主主義を守る最後の砦」と言われるほど重視され、彼らと共にありたいと高江を訪ねる人が増え続けているのは、土地と人と、そこに宿る志がシンプルに人を惹きつけて止まなかったからだ。

 しかし、高江のヘリパッド建設に反対して10年も頑張ってきた結果が、去年後半の工事強行であり、6つのヘリパッドがすべて完成という現実である。国が住民を裁判にかけ地形や集落ごと訓練に取り込んでオスプレイを飛ばそうという人権無視の基地計画は、とてもじゃないが容認できない。絶対に止めなければならない。そう思って特集を連打し、放送用ドキュメンタリーの限界を超えようと映画にまでして突っ走ってきた私は、「結局は止められなかったという現実に、正直に言ってまだ向き合えていない

 「この事実を白日の下にさらすことで、絶対に軍隊の好き勝手にはさせない、だから撮影に協力してくれ」。そう啖呵を切っていろんな人に付きまとってきたのに、結局私たちの報道や映画ではこの基地建設を止められなかった。カメラで追い回して人に迷惑をかけただけだった。影響力も訴求力も足りなかったのだ。ベトナム村の話はしたくないと言う住民たちを一人ひとり探し出してマイクを向けたくせに、その負荷は高江のためにならなかった。「今は迷惑に思うかもしれないけど、必ず全国の人たちの力を揺り起こす作品を作るから、待っていて!」と自分を信じて走っていたのは、思いあがりだった。止められなかった。改めて申し訳ない気持ちでいっぱいだ。これからどの面下げて高江にいけるのだ? どうやって高江を語るのだ? そこから私はまだ全然立ち直っちゃいない

 でも、ひしゃげている私にもわかることがある。これから自衛隊のミサイル基地建設着手、という局面を迎える宮古島石垣島で、何とかそれを止めようともがく人々にとって、高江の人たちは大事な存在になるということだ。座り込みもしたことがなく、運動などとは程遠い生活者であった高江の住民たちが、どうやって声を上げ、分断されつつも仲間を増やし、権力に立ち向かっていく体制を作り上げていったか。私もゼロからそれを見てきたからこそ、宮古や石垣に必要な知恵は10年前の高江であり、20年前の辺野古であるということがわかる。彼ら経験者と離島の人々を結ぶことくらいは私でもできる。

 そう思って去年の秋、山里節子さんら石垣のおばあたちと、宮古島の石嶺香織さんや楚南有香子さんを辺野古と高江に案内して住民たちと出会うチャンスを作った。高江の人たちは特に、これから防衛局を相手する先島の人たちにどんな場面が待っているのか手に取るようにわかるだけに、彼らの不安を丁寧に受け止めて「一緒に頑張りましょうと先島の女性たちの手を強く握ってくれた

 そして7月15、16日、ついに雪音さんと育子さんが宮古島に行く機会がやってきた。私はとっても嬉しかった。何より、すでに航空自衛隊の基地と共存しながら、さらにミサイル基地ができたら挟み込まれてしまう運命の野原(のばる)集落の人々と直接ひざを交えて話す機会が作れたのが大きい。野原出身で、自衛隊配備に反対する上里樹宮古島市議の妻でもある上里清美さんが受け入れ態勢を作って下さったおかげで、雪音さんたちは不安の渦中にある野原の人々に、高江が通過してきた具体的な体験の数々を直に伝えることができた。

 夕方、野原公民館で始まった交流会。

   「宮古島で今、どれだけの人たちが反対の声を上げているのかは
    わからないけど、その人たちに、一人じゃないんだよ、
    私たちもいるから一緒に頑張ろう、と伝えたかった」

 雪音さんは来島の動機をそう話した。

 そして高江の座り込み当初の映像を少し紹介した後で、育子さんはこう切り出した。

   「これが10年前、私たちが始めて座り込みをしたとき、
    道路に座ったときの様子です。私たちははじめ、
    ガタガタ震えていました。普通にこれができたわけではありません」

   「私たち区民は、高江区として反対決議をしているので
    工事はできないだろうと思っていた。でも村長が容認している
    ということで2007年の7月に着工されてしまいました」

 宮古島では、座り込んで反対する住民運動というのはあまり経験がない。自衛隊基地は反対でもそこまではやれない、という消極的な声も上がっている。そして野原は地区として反対の声を上げている。それも、かつての高江とよく似ているのだ。しかも、集落の規模も同じ。野原は自衛隊基地と、高江は米軍北部訓練場と戦後を生きてきたという歴史も共通している。地域の声を黙殺して市町村長が容認してしまっているという点まで全く同じなのだ。

 去年の夏からオスプレイの訓練が本格化し、ヘリパッドに最も近い雪音さんの家では昼夜を問わずとどろく轟音と低周波で子どもたちが体調を壊し、避難を余儀なくされた。その現状を繰り返し訴えても、容認している東村としては何も手を差し伸べてはくれない現実防音工事も、引越しの費用も、何の補償もなく黙殺されたままの残酷な状況を説明しながら、雪音さんは「とにかく、作られてしまったら終わりです。その前に止めましょう」と呼びかけた。

   「胸が詰まる。高江は、宮古島の縮図なんですね。
    私たちは二の舞をしようとしている」

 話を聞いていた野原の女性は涙声になった。会場からは深いため息が漏れた。

 育子さんは言った。

   「高江のヘリパッドはできてしまいました。でもこの壊された自然を
    元に戻すのが私たちの使命です。沖縄の闘いというのは、
    こんな4つのヘリパッドどころではありませんでした。
    戦後ずっと人権を勝ち取っていく闘いが沖縄にあったということを、
    この10年間で先輩たちに教わりました。どうしておじいおばあたちが、
    あの炎天下座り込むのか。私たちは学びました。そしてそれを
    次に伝えていく役割がある。ヘリパッドが4つできてしまったから
    もうやめよう、というような問題ではないということを沖縄の皆さんから
    習ったわけです。まだ始まったばかりなんです

 なんて強くなったんだろう。育子さんは、私たちは学んだ、だから次の役割が見えているのだとさらりと言った。

 オスプレイが沖縄に飛来した2012年10月1日。普天間基地のゲートで肩を震わせていた育子さん。「日本はもう、平和ではないね。平和が崩れ落ちていく」そういって泣いていた育子さんが、同じ日、夕方になってもオスプレイ反対のプラカードを掲げて県道で手を振り続けていた姿を昨日のことのように思い出す。私は目の前に次々に着陸するオスプレイを見て、心が折れ、尻尾を巻いて帰りたい一心だったあの夕方、育子さんは「私はこれであきらめたりはしない」と自らを叱咤激励するように道に立っていた。ドライバーに向かって頭を下げ、一緒に反対しましょうと手を振ることで自分を保っているように見えた。あの時に、彼女の並外れた精神力を垣間見た気がしたのだが、あれからの5年で、育子さんはさらに揺らがない大きな存在に昇華していた。5年前と同じように現状にへこたれている私と、えらい差がついてしまった。

 雪音さんだってそうだ。自分のことのように宮古の人たちの不安を背負う覚悟で乗り込んできた。自然体で。笑顔で。だから、こういう魅力のある人たちだからこそ私は彼女たちのファンがやめられないし、その続きや変化を見たいし、それが私以外の多くの人たちの心を揺さぶる場面になるのだということがわかるから撮りたいのだ。もう撮影はいいでしょ? と苦笑されるのはつらいけど、私以外にも『標的の村』以降の住民たちがどうなっていったのか、自分のことのように気になっているファンがいっぱいいることを私は知っている。それが次の高江を止める力=辺野古や先島の自衛隊配備を止める力に直結すると思うからこそ、結局また同行取材を申し込んでしまうのだ。

 「宮古島では関心は高くはない。みんな犠牲が出てはじめてびっくりするのではないか。そうならないうちに声を上げたいと思います」。参加した女性は最後にそう言って、「反対ののぼりを立てましょう!」と元気よく呼びかけた。

 集落に迫りくる運命がどんなに過酷であるのか、高江の経験を聞くと確かに戦慄する。でも、ヘリパッドがほぼ出来上がった今も、以前より堂々と前を向いて闘い、離島まで応援に駆けつけてくれた彼女たちの笑顔を見て、野原の人たちが受け取ったものは単なる絶望ではなかったはずだ。

 まだ、止められる。敵を知ること。連帯することで、私たちはまだ強くなれるし、頑張れる。これから始まる奮闘は、決して孤独な戦いにはならないことを確認できた夜になった。

………。

三上智恵(みかみ・ちえ): ジャーナリスト、映画監督/東京生まれ。大学卒業後の1987年、毎日放送にアナウンサーとして入社。95年、琉球朝日放送(QAB)の開局と共に沖縄に移り住む。夕方のローカルワイドニュース「ステーションQ」のメインキャスターを務めながら、「海にすわる〜沖縄・辺野古 反基地600日の闘い」「1945〜島は戦場だった オキナワ365日」「英霊か犬死か〜沖縄から問う靖国裁判」など多数の番組を制作。2010年には、女性放送者懇談会 放送ウーマン賞を受賞。初監督映画『標的の村~国に訴えられた沖縄・高江の住民たち~』は、ギャラクシー賞テレビ部門優秀賞、キネマ旬報文化映画部門1位、山形国際ドキュメンタリー映画祭監督協会賞・市民賞ダブル受賞など17の賞を獲得。現在も全国での自主上映会が続く。15年には辺野古新基地建設に反対する人々の闘いを追った映画『戦場ぬ止み』を公開。ジャーナリスト、映画監督として活動するほか、沖縄国際大学で非常勤講師として沖縄民俗学を講じる。『戦場ぬ止み 辺野古・高江からの祈り』(大月書店)を上梓。 (プロフィール写真/吉崎貴幸)
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●「防波堤」としての全ての「日本全土がアメリカの「風かたか」」…米中の「新たな戦争の「防波堤」に」(その2)

2017年04月03日 00時00分34秒 | Weblog

三上智恵監督『標的の島 風かたか』公式ページ(http://hyotekinoshima.com)より↑]


[その1]へ戻る

   『●新作『標的の島~風かたか~』の監督・三上智恵さん、 
          「あなたが穴をあけた森はもう元には戻らない」!
   『●映画タイトルは、稲嶺進さんが「我々は、
      また命を救う《風かたか》になれなかった」という嘆きの言葉」から
    《三上智恵監督の新作映画『標的の島 風かたか』の試写に行ってきました。
     前作の『戦場ぬ止み』から2年近く。その2年の沖縄の状況が、
     あますことなく描かれた映画》。
    「《稲嶺進・名護市長が口にした「我々は、また命を救う風かたか
     なれなかったという嘆きの言葉から》映画のタイトルは採られたそうだ。
     《沖縄のことばで「風よけ」のこと》だそうです。
      番犬様には何も言えないアベ様ら。一方で、番犬様にシッポを
      振るために沖縄でやっていることは、「沖縄イジメ」そのもの」

   『●「なぜ巨大な権力にあらがえるのか。
      人々は「世代の責任」を語る」「子を守る「風かたか」になる」


   『●中学生を「青田買い」する自衛隊: 
     「体験入隊や防衛・防災講話」という「総合的な学習の時間」も
   『●自衛隊配備で「住民分断」: 
     「自衛隊の配備計画…いずれの島でも人々は分断されている」
    「東京新聞の半田滋さんによるコラム【【私説・論説室から】
     島を分断する自衛隊配備】…。《「賛成派が新たな職を得て
     優遇される一方、反対した人は干され、島を出ている」という。
     …自衛隊の配備計画は与那国に続き、奄美大島、宮古島、
     石垣島でも急速に進む。いずれの島でも人々は分断されている》」

   『●「しかし、沖縄にはいまだ“戦後”は 
     一度たりとも訪れていない」…安倍昭恵氏には理解できたのだろうか?
   『●現在進行形の「身代わり」: 「反省と不戦の誓いを…
             沖縄を二度と、身代わりにしてはならない」

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http://lite-ra.com/2017/03/post-3023.html

標的の島 風かたか三上智恵インタビュー(後編) 
『標的の島』監督が問う『ニュース女子』問題、「土人」発言…なぜ沖縄ヘイトデマが生み出されるのか?
2017.03.25

     (沖縄をめぐる報道問題について語る三上智恵監督)

 現在、安倍政権が進めている石垣島、宮古島、奄美大島、与那国島への大規模な自衛隊とミサイル基地の配備。政府は南西諸島の防衛強化を謳うが、実際は、米中の“新たな戦争”の「防波堤」にするのが目的だ──。この衝撃的な事実と、石垣島や宮古島、そして辺野古、高江で子どもの未来を守ろうと必死に抵抗する市民たちの姿を描いた三上智恵監督の最新作『標的の島 風かたか』。
 今回お届けする三上智恵監督のインタビュー後編では、『ニュース女子』デマ報道や「土人」発言など、沖縄をめぐる問題について話を伺った。

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──映画タイトルにもある「風(かじ)かたか」ですが、これは「風よけ」「防波堤」という意味だそうですね。
三上 はい。映画でも最初に出てきますが、昨年6月19日に那覇市で行われた、米軍属によって暴行され殺されてしまった被害者女性を追悼する県民大会で、この言葉が出てきました。
 いままでいろんな県民大会がありましたが、いちばん悲しい県民大会でした。アメリカ軍に対する怒りや日本政府に対する怒りではなくて、自分に対する怒りを、みなさんもって集まっていたと思う。1995年に米軍人による少女暴行事件があって、あのとき沖縄県民は「もう二度と同じような事件はごめんだ」と立ち上がった。けれども、また同じことが起こった。なぜ守れなかったんだろう、私は何を報道してきたんだろう、と。
 県民大会では、古謝美佐子さんが「童神(わらびがみ)」という歌を歌われたんですが、そのなかに「風かたかなとてぃ 産子 花咲かさ」(私が風よけになって この子の花を咲かせてやりたい)という歌詞があります。これは子どもを思う母の歌で、それをこの日に聴くというのは耐えがたくて辛かった。でも、そのあとに名護市長の稲嶺進さんが古謝さんの歌詞を引き、こうスピーチしたんですね。「我々行政にある者、政治の場にいる者、多くの県民、今回もまた、ひとつの命を救う風かたかになれなかった」。
 この言葉に、私だけではなく周りの女性たち全員が号泣しました。日米両政府が決めて、押し付けてくるさまざまな負担、オスプレイが落ち、ヘリが学校に落ち、歩いていたら後ろから殴られて暴行されて殺されてしまう。そんな島で、どうやって大人たちは風かたかになれるのかなれるわけがないでしょう?と。

──しかし、あんな痛ましい事件が起こったにもかかわらず、安倍政権のみならず「本土」の世論も「沖縄は日本の風かたかであれ」と声を強めているように感じます。そればかりか、『ニュース女子』(TOKYO MX)のようなデマ報道まで起こりました。基地反対運動にかかわる市民の人びとと向かい合ってきた三上監督にとっては、許せないものだったのではないかと思うのですが。
三上 いや、そんなに驚きはしなかったですよ。なぜかと言うと、このバッシングは、ずっとずっとずーっと私たちに向けられてきたものですから。もちろん、これまではネットのなかだけだったのが、地上波のテレビにまで浸食してきたという違いはありますが、以前から読売テレビさんとかはそういう番組をつくっていますよね(苦笑)。MXはそのあとの問題で、「ついに東京まで行ったか」と思いましたけど、『ニュース女子』をつくっているプロダクションは大阪なんですよね。

──それこそ沖縄デマを繰り返し流してきた『そこまで言って委員会NP』と同じ制作プロダクションです。
三上 ただ思うのは、沖縄の反対運動に対するデマというのは、ネットのなかの、すごくどす黒い人たちがつくった言説だけど、みんなが「その話、大好き」「おいしい」と思わなければ、こんなに広がらないですよね。「その話大好き。もっとちょうだい」と言って、ネット右翼がつくり出すその話を面白がってきた。でもね、ほんとうはそこに逃げ込んでいるし、そこにすがりついているんだと思います。

──すがりつく?
三上 たとえば、高江の問題ひとつとって見ても、ヘリパッド建設の反対運動を当初から取り上げていたのは私のいた放送局(琉球朝日放送)だけだったんですよね。ほかの放送局はやらないし、当時は琉球新報も沖縄タイムスも、ほとんどまともな報道はなかった。そんななかで、記者仲間からは「なんで三上さん高江ばっかり行ってるの? 反対運動とデキてるんじゃないの?」と言われたりしていたんですよ(笑)。「あそこはヒッピーたちが住んでいる、反対運動をするために行っている人たちがいるところで、よそ者ばっかりなんだって」とか。いま起こっている1つの現実に対して、そうやって同業者だって全部報道できないジレンマもあるし、それを「選ばない、報道しない」理由を100も探しているんです。
 高江という地域に暮らす人びとは北部訓練所に囲まれながら生き、そして60年代には米軍がベトナム戦争のゲリラ戦の訓練のために「ベトナム村」というものをつくり、高江の住民はゲリラ訓練に現地民の代わりとして動員させられていた。こんなにも屈辱的なことがあって、いままた違うかたちで訓練の標的にされようとしていることに対して、「本土から移り住んでいる人が多いでしょ」と言うことは、まったく道理が合わない。だってその人は県民だし住民なんですよ。
 記者のみならず、一般の人もそう。「沖縄の人がやってるなら同情できるけど、そうじゃないんだってよ」という言説は、ものすごく安易に受け入れやすいと思います。自分がその問題にかかわらない言い訳、知識のなさや意識の低ささえも、そうした言説が洗い流してくれるから。

──とくに「土人」発言後に松井一郎・大阪府知事が「ご苦労様」とTwitterで労いの言葉をかけたことは、事実上、差別を肯定したも同然でした。そうやって為政者が差別を認めてしまうことで、今後、基地の問題だけではなく差別的な言辞が激化していくのではないかという不安があります。
三上 あの松井府知事の擁護があって、大阪では高江の問題を面白可笑しく取り上げる関西の芸人たちが出ている番組が出てきたんですよね。でも、その元祖というか、音を立ててバッシング社会になったいちばんのきっかけは、イラクの人質事件だったと思うんです。あのとき小泉純一郎首相はじめ政治家がみんな「自己責任」と合唱して、自分が何もやらない理由を正当化してしまった。そうしたら今度は日本中の人がバッシングをはじめた。志をもって外国に行きがんばっている若者を「自己責任だ」と言っていじめるなんて、恥も外聞もないですよ。そうやってまともに考えて行動する人たちをみんなで揶揄して足を引っ張っていると、正しいことを言えなくなる、空気を読んで何も言わないという人たちばっかりになっていくでしょう。それは言論が認められないという社会なのだから、恐ろしいことですよね。
 でもね、「土人」発言でひとつ考えなくてはいけないことは、20代の若い人がそう言わざるを得ないくらい、つらい仕事をさせられていたということです。機動隊として対ゲリラのフォーメーションをさまざま学んでいくなかで、彼らは実践として高江や辺野古に来ている。つまり、「治安を乱す人たちがいる」という想定で彼らはやってきているから、沖縄で反対運動をやっている人たちをそういうふうに扱おうとする。でも、実際に自分の目の前にいる反対派の「治安を乱す人たち」であるおじさんやおばさん、若い子たちは、決してそういうふうには見えない

──映画でも、高江の反対現場で無抵抗で立っている若い女性と、若い機動隊員が相対する場面がありました。悲しげな、不安げな目で感情を語りかけようとしているように見える女性に対し、機動隊員は目を下に逸らす。……あのシーンは見ていて苦しかったです。
三上 苦しいですよね。どこから見ても普通の人たちを「悪者」として扱い、向かい合わなくちゃならないんですから、あんな現場にいたら心が折れてもおかしくない。しかも上司に「この仕事は機動隊がやるべきじゃないです。僕は帰ります」って、そんなこと100人に1人も言えないでしょうし。でも、心が壊れるのも嫌でしょ。そうしたら、「あいつらシナ人なんだぜ。何やってもいいんだぜ」と言われたら、それに乗っかりますよ。差別主義者になって乗り切ろうと思うでしょうそういう人たちをいま、量産しちゃっている。でもね、それが軍隊なんです自分の意志は関係ない、自分の正義だとか感性だとかに照らし合わせて考えることを求められていない、それはもう軍隊ですよね


■「沖縄だけじゃなく、日本列島が“標的の島”なんです」

──しかし、三上監督のように沖縄から現実を伝えようとしても、それを「偏向報道だ」と決め付ける声もあります。
三上 「偏向だ」と言う人には、沖縄に74%も基地を集中させていることは偏っていませんか?と聞きたいですね。そして、この偏った環境のなかで「これでは生きていけないんだ」と言っている人が現実に8割いるんです。そんななかで「そう言っている人もいるけれど、そう言っていない人もいます」というふうに報道することが、果たして公平でしょうか?
 よく「公平」とか「政治的である/ない」とか、そんな話をするときに、「沖縄のなかで反対運動をしている人を出すんだったら、賛成している人も出しなさい」っていうアホみたいな話をする人がいますよね。でも、沖縄の放送局はキー局からこれをずっと言われ続けているんですよ。「辺野古沖にコンクリートブロックが投下されて、反対派の人たちが抗議しています」といったような50秒のニュースをつくっても、「賛成している人たちが出てこないから中央のニュースには乗せられない」なんて言ってくる。じゃあ、どこに賛成している人がいるのか教えてくださいよ、と。
 私は22年、沖縄で生きていますけど、沖縄に置かれている米軍基地に賛成している人なんてひとりもいないと思います。基地を「容認」していると言われている人たちはいますけど、その人たちだって、基地が出来たときに「やったー!」と喜んだような人は誰ひとりいないんですよ。無理やり土地を奪われて、無理やり基地をつくられて、そんななかで「反対」と言ってたら何の生活もできない。アメリカがつくったシステムのなかで、折り合いをつけるしかない。折り合いをつけて、学校をつくってもらったり、道をつくってもらったりしてきた。そうやって折り合いをつけた自分のお父さんやおじいちゃんたちの選択を「あのとき間違っていたんだ」なんて言えないですよ。
 つまり、「基地に反対していない人たちは基地に賛成している人なのか?」ということなんです。「折り合いを付けている人たち」は、いる。「いまさら反対する気なんてまったく起きない人たち」も、いる。でも、それよりもいちばん多いのは「思考停止したほうがいいと思って思考停止した人」と「沈黙するのがいちばんだと思って沈黙した人」です。「容認している人」は一部ですよ。なのに中央のメディアは「賛成派を出せ」というわけですよね。
 だいたい、本当に沖縄に基地をつくりたいと思っている人は沖縄にはいないどこにいるかと言えば、本土にいるわけでしょう。

──そして「本土」は、基地を認めない沖縄を「中国の脅威が迫っているのに平和ボケしている」と責め立てる……。
三上 平和ボケしているのは中国脅威論を振りかざしている人たちのほうなんですよね。もしも中国が攻めてきたとして、日本が戦って勝てますか? 絶対勝てないですよ。だから戦争をしないように外交で努力することが政府の仕事です。こう話すと、「アメリカが守ってくれるから」「アメリカと組めば勝てる!」と言う人がいますが、そんなことを考えているのが平和ボケです
 尖閣が安保条約のなかに入っているといっても、米軍が兵を出すかどうかはアメリカの議会でものすごく面倒臭い手続きをしなければ出せない。しかも、尖閣にアメリカが兵を投入しても、何もいいことなんてないですよ。だからこそアメリカは、中国を抑え込むために第一列島線を使おうと考えているわけで、中国からの初期攻撃に対応するのは日本軍と韓国軍とフィリピン軍。いま、そこから「いち抜けた」と言っているのがドゥテルテ大統領ですよ。
 一方、日本と韓国には地位協定も軍事同盟もある。現状はアメリカの言うことを聞くしかないというかたちですから、戦場になるのは日本か韓国であり、先に死ぬのは日本兵か韓国兵です。そんな状態になっているのに、「アメリカが守ってくれる」と信じているなんて……。
 しかも忘れてはいけないのは、第一列島線というのは、南西諸島だけではなく日本列島を含んでいるということです。戦闘が起こるのは南西諸島でしょうが、日本全土がアメリカの「風かたか」になっている

──つまり、「標的の島」にされつつあるのは、「本土にとっての南西諸島」であり、さらには「アメリカにとっての日本列島」だと。
三上 そうです。「標的の島」というタイトルも「風かたか」という言葉も、何重もの入れ子構造になっているんです。

──てっきり『標的の村』がヒットしたので、二番煎じで『標的の島』になったかと思っていましたが、かなり深いタイトルですね(笑)。
三上 やっぱり、そう思いますよね。私は『風かたか』だけにしたかったんですが、配給側の説得もありまして(笑)。

──ただ、この映画を観れば、軍事要塞にされ、さらには捨石にされようとしている島々には、とても豊かな自然や伝統文化が息づき、当たり前ですがおじいさんおばあさんから赤ちゃんまで、多くの人が日々の暮らしを営んでいるんだということがよくわかると思います。
三上 そう。ここには人が住んでいるんだ!ということをわかってもらえるだけでもいいんです。細かい事情がわからなくても、この島には人が住んでいて、親子の情があって、収穫の喜びがあって、死んでいく人の悲しみや先祖になる喜びや、そういうものがあるんだとわかってくれるだけでいいんです。

──南西諸島のミサイル基地問題は報道がほとんどされていませんから、ぜひテレビでも流してほしい内容ですが……。
三上 テレビでは無理です(苦笑)。でもテレビではないけれど、それを知らせるのが私の仕事ですから、この映画が広がっていけばいいなと思っています。

(取材・構成/編集部)


■『標的の島 風かたか』
3月11日(土)より那覇・桜坂劇場、3月25日(土)より東京・ポレポレ東中野にて公開。ほか、全国順次公開(公式サイトhttp://hyotekinoshima.com)。
辺野古の新基地建設と、高江でのオスプレイのヘリパッド建設。現場では多くの負傷者・逮捕者を出しながら激しい抵抗が続く。そんななか、さらに宮古島、石垣島でミサイル基地建設と自衛隊配備が進行していた。なぜ、先島諸島を軍事要塞化するのか? それは日本列島と南西諸島を防波堤として中国を軍事的に封じ込めるアメリカの戦略「エアシーバトル構想」の一環であり、日本を守るためではない。基地があれば標的になる、軍隊は市民の命を守らない──沖縄戦で歴史が証明したことだ。だからこそ、この抵抗は止まない。この国は、いま、何を失おうとしているのか。映画は、伝えきれない現実を観るものに突きつける。
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[その1]に戻る) 

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