深海生物研究者の日常

思いついたときに思いついたことを書きます

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しんかい6500第1375回潜航

2013-11-20 21:44:17 | 研究
11月16日にしんかい6500第1375回潜航で,赤道付近の水深4200mくらいに潜ってきました.
今年はカリブ海に続いて2回目の潜航です.

今回は深海平原と呼ばれる,平坦な場所での調査です.
本航海の最初の潜航だったのですが,イケメン首席研究者にトップバッターとして指名されました.というのも実は1ヶ月半前にしんかいがトンガ・ケルマディックに行く途中に立ち寄って,海底にいろいろと仕掛けてきた場所なのです.イケメンはそのときに潜っていたのです.本潜航の目的は,そのときに設置したものを回収するのと,そのた目についた生物や巣穴などを採ってくるというものでした.

9時に潜航開始して,約1時間半かけて海底にたどり着きました.底質は白っぽいふわふわの泥で,すぐに巻上って視界が悪くなってしまいました.
私の初めての潜航も砂泥底だったのですが,そのときに比べ,生物はとてもすくない場所でした.赤道直下は,表層が貧栄養であるためか,深海底への有機物の沈降も少ないのでしょう.大型のナマコがちらほらいて,あとは大型の有孔虫ゼノフィオフォアやユムシの巣穴がところどころにあるだけでした.堆積速度も非常に遅そうで,かなり古そうな巣穴や這い痕がたくさんありました.

一度訪れたことがある場所ということや前回信号を出してくれるホーマーも一緒に設置しておいたということもあって,目標の設置物はすぐに見つかりました.
設置物の回収はちょっとややこしい操作が必要だったのですが,そこはさすがの腕前で回収は順調に進みました.しかし,しんかいが動くたびに泥が舞い上がってしまい,曇りが晴れるのを待つのに時間を結構取られてしましました.おそらく合計で30-45分くらいロスしたと思います.そのためもあってか,予定していた作業は9割くらいしか達成できませんでした.
研究者は基本的に状況に応じてパイロットに指示をするわけですが,別の作業を先にやっておいた方がよかったかな?ということがありました.
しんかいでの潜航は3回目で多少は慣れてきた感があったのですが,なかなか難しいものです.

潜るたびに深海底は異なる姿を見せてくれます.前回のような激しい熱水も迫力があっていいですし,今回のような静かな深海底もまた趣があります.(特にギボシムシを見つけたい私に取っては砂泥底の方が魅力的です)

本日イケメン首席が北緯12度地点に潜航し,本航海の調査は終わりです.
後は日本まで11日間かけて帰るだけです.まだ長旅が残っていますが,ひとまず海況の不安定な海域で2潜航とも予定通りに行なえたことに安心しています.
帰ってからのサンプル処理で,この海域の深海生態系に関して新しいことがわかることでしょう.
(まぁ僕のサンプルは採れなかったので,もうやることはないんですがね...あれっす.残りの1割は僕のサンプリングだったんです)

しんかいチームのレポートもよろしく!
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論文解説

2013-11-09 15:25:30 | 研究
先日出版された論文の解説をします.

簡単にまとめると,脊索動物の脊索ー神経管の関係と半索動物の前方背側内胚葉ー襟神経索の関係が似ている.両者の相同性は要検討であるが,近接する組織からのシグナルで管状の神経を形成するというメカニズムは,新口動物の共通祖先まで遡れる,という内容です.

脊索動物は,私たちヒトを含む動物門であり,その起源を明らかとすることは進化生物学における一大テーマの一つです.
脊索動物には,脊椎動物,ホヤ,ナメクジウオが含まれます.

脊索動物の特徴は,脊索と神経管を持っていることです.
これまで脊索動物の起源に関してはこれまで多くの研究がなされ,様々な仮説が提唱されています.その一つ一つの説について説明すると,本が1冊書ける勢いなのでここでは割愛します.
しかし,脊索動物の最も重要な特徴である脊索と神経管の起源は不明のままでした.

ギボシムシにはかつて脊索と相同であると考えれていた器官,口盲管,があります.口盲管は消化管の背側前端がさらに前方に陥入した構造です.口盲管は液胞に富んだ細胞から構成され,さらにその外側が線維性の結合組織で覆われていることなどから,脊索との相同性がWilliam Batesonによって指摘されていました.半索の名は,口盲管が脊索と相同であるということからBatesonによって付けられたものです.
しかし,近年の分子生物学的研究により,口盲管では脊索のマスターコントロール遺伝子であるbrachyuryが発現しないということがわかり (Peterson 1999, Development) ,その相同性には疑問がもたれています.さらに,Loweら (2006, Plos Biology) の研究から脊索動物の系統で体軸の背腹が逆転していることがわかりました.(背腹逆転仮説はGeoffroy–St Hilaireがオリジナルの大変古くからある仮説です.背腹逆転仮説を信じていない研究者もいます)口盲管も脊索も背側にあるために,背腹逆転仮説と矛盾することも相同性を否定する材料となっています.さらに口盲管は内胚葉であること,体の前後軸のごく限られた場所にしかないことなど,様々な理由で相同性は否定されています.

ギボシムシには神経管と相同と考えられていた器官も存在します.それが襟神経索です.ギボシムシは体の背腹正中に神経索を持っています.その神経索は表皮中に神経細胞の密集した場所があるという構造をしているのですが,ギボシムシの襟という領域でのみ,その神経索が体の中に落ち込み管状の神経索を作ります.それが襟神経索です.
襟神経索の形成過程は,William BatesonとThomas Hunt Morganによって観察され,その形成過程が脊索動物の神経管形成と類似していることがわかり,相同であると提唱されました.しかしながら,この相同性も,襟神経索と神経管がともに背側に存在すること(背腹逆転仮説に矛盾),体のごく一部にしか存在しないことなどから否定されています.

以上のように,脊索と口盲管,神経管と襟神経索に関しては,相同性を否定する証拠ばかりが見つかってきていました.しかし,新奇な形質の起源を解明するのに,相同であるかどうかが重要なのでしょうか?そもそも動物門というのは比較が不可能なほど形態的な隔たりがあるために分けられた訳です.それらを特徴づける形質に,他の動物における相同な形質が存在しないのはいわば必然でしょう.それなら,もっと踏み込んで,細胞の性質や,細胞同士の関係性という意味での類似性を探し,そこで使いまわされている分子メカニズムを探すことが必要でしょう.

そういうわけで,ギボシムシの口盲管と神経索の発生の再観察,そこでどのような遺伝子が発現しているかに注目して研究を開始しました.

口盲管と襟神経索はともに変態期の同じタイミングで形成され,そして,その発生初期においては隣接しています.襟神経索は神経細胞前駆体のマーカーであるelavポジティブな細胞が体の内側に陥入していくことで形成されます.その過程で,脊索動物において神経管と表皮の境界を決めているpax3/7やsoxEが同様に,襟神経索と表皮の境界で発現していました.さらに神経管の背腹軸を決定している遺伝子が,襟神経索においてほぼ同様のパターンで発現していたことから,管形成と管の領域化において,同様の分子メカニズムが使われていることが示唆されました.
また神経管形成や領域化において,脊索からのhedgehogなどの分泌因子が重要な役割を果たしているのです.ギボシムシの襟神経索形成期において,隣接する口盲管や口盲管の後方にある襟背側内胚葉においてhedgehogが発現しており,その受容体であるpatchedが襟神経索で発現していることがわかりました.このことは,前方背側内胚葉(口盲管+襟背側内胚葉)が出すシグナルを襟神経索細胞が受け取ることが出来ることを示しています.
また脊索が支持組織として機能する為に分泌している線維性コラーゲンをコードする遺伝子が,ギボシムシの前方背側内胚葉でも発現しており,細胞の性質が類似しているました.

以上の結果から,脊索と前方背側内胚葉,神経管と襟神経索はその細胞のタイプと,両者の関係という点において類似していることがわかりました.
しかし上記のような観点から,それらが相同である結論づけることは難しいでしょう.実際に何が起ったのかは,今後さらに多くの遺伝子の発現や機能解析を通して解明していく必要があります.ただ,今回の結果から少なくとも隣接する(おそらく起源は内胚葉)から外胚葉へのシグナルによって管状の中枢神経をつくるというメカニズムは,新口動物の共通祖先まで遡ることが出来るということが強く支持されることとなりました.
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僕とギボシムシ①

2013-11-02 22:27:30 | 研究
11月1日にギボシムシの論文が Nature Communications に出版されました.
論文はこちら

また,解説記事をあげますが,簡単に話をすると,ギボシムシの前方内胚葉(消化管の先端)ー神経索の関係性が,我々脊索動物の脊索ー神経管の関係に似ている.少なくともコアになっている遺伝的メカニズムは共通のものを使っているだろう.つまり,近接する組織からの誘導により管状の中枢神経を作るというメカニズムは,後口動物の共通祖先まで遡れるという内容です.

僕の博士論文のメインパートがようやく出版されて,ほっとしました.初投稿から2年半かかりました.


「なぜギボシムシをやってるの?」

とよく聞かれます.そのとき大体
・なんでギボシムシと出会ったの?
・ギボシムシの何が面白いの?
の2つの意味が込められています.

特に僕の所属してきたラボはギボシムシの研究をしていたわけではないので,出会いに興味を持つ方が多いのです.

始まりは,フサカツギでした.
フサカツギはギボシムシと同じ半索動物門に属する動物で,主に深海にヒドロ虫やコケムシのようなキチン質の棲管をつくって暮らしている動物です.

これまで,日本近海からフサカツギが報告された回数はたったの4回です.
その4回目が僕だったのです.

学部2年のとき,科博でドレッヂサンプルのソーティングのアルバイトをしていたときに,小さな糸くずのような生き物の固まりを見つけました.
それがフサカツギだったのです.で,なぜ僕がギボシムシをやり始めたのかは,昔の恥ずかしい記事を参照してください.ギボシムシ続ける(クワッ とか書いてあって草不可避ですね.まぁまた身分が落ち着いたら復活させます.まずは自分の生存を.

ギボシムシの勉強を始めると,やはりその系統的位置,進化生物学における重要性を実感するようになりました.
分子系統だと棘皮動物と近縁であり,幼生形態も棘皮動物と似ている.しかし,鰓裂など半索動物と脊索動物にしかない特徴もある.
さらに,口盲管という脊索と相同と考えられていた器官(かの William Batesonがその相同性を指摘し,Hemichordataと命名し,さらに脊索動物の中に含めました)や神経管と相同かもしれない背側の神経系を持っている(こちらは Tomas Hunt Morgan による研究)など,興味深い特徴がたくさん.特に脊索や神経管は我々脊索動物と特徴付ける形質であり,その起源を明らかとすることは進化生物学の中でもっともほっとなテーマの一つです.

僕が研究を始めた2005年当時,進化発生学の進展とともに動物門間の比較がなされるようになってきました.そして脊索動物の起源を求めギボシムシが注目を集め,日本やアメリカで研究が進んでいました.
しかし,脊索や神経管の起源に関する研究をしようにも,日本で扱いやすい種類がいなかったのです.日本で使われていた種類は2種.ヒメギボシムシは,初期発生は見れるが,幼生期間が長過ぎ(6ヶ月),着底変態させることができなかった.ミサキギボシムシは採集地が限られていたり,1個体が大きく,採集や飼育,維持が難しかったのです.口盲管や神経索は,変態期に発生するので,発生させ,幼生を飼育し,着底させるというのがクリティカルだったのです.

そこで,卒研では実験に使うのに適した種類を探そうということで,しばらくは分類,飼育,発生観察などの基礎的な情報を蓄積していくことにしました.それまで日本からは7種しかギボシムシが知られていませんでしたが,14種の採集に成功しました.そして1種なかなか使いやすそうなのを見つけたので,それをシモダギボシムシ Balanoglossus simodensisとして記載しました.

その後,幼生の大規模な飼育方法なども確立し,世界で唯一,幼生から着底し変態するステージのサンプルを大量に得ることが出来るようになりました.
神経の基本的な記載など地味なこともやり,そして今回一つの区切りになるような論文を出すことができました.今回の結果はやはり不十分で,遺伝子の機能解析とか,解析する遺伝子の数とかまだまだです.そして今回の論文をもとに新たに検証すべきことも出てきました.

でもまぁ,自分で探して,記載した生物で博士の間にここまで出来たということで,少し自分をほめてあげたい気分です.

次回は,脊索動物の進化の問題点と今回の論文の解説をします.
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NGS現場の会!!

2013-09-06 23:12:18 | 日常,つぶやき
ブログに書くまでがNGS現場の会,ということでブログにしました.

NGSとは,next-generation sequencing 次世代シークエンシングのことです.2000年代中頃から市場に登場した超出力のシーケンサーを使った様々な研究を行う人々が集まって,情報交換をするのが,NGS現場の会の目的です.

今回で3回目となる研究会ですが,2年前の第1回は100名強,前回は400名,そして今回は700名弱が集まり,参加者がどんどん増えています.それだけ,この技術の応用範囲が様々な研究分野に及んでいて,新たに利用したい,利用している人が増えているということですね.

そしてシーケンサーの技術も日進月歩ですね.Mi-seqは更新によって8Gbpくらいをたたき出すようになっているようですし,IonPGMもチップや試薬の改良で出力が上がっています.ロングリードが売りのPacBioも精度が上がっているようです.そしてそれらのデータを解析するソフトもどんどん改良されています.正直全然フォロー出来てないですが,この会に参加するとそのあたりの空気に触れることが出来るので助かります.

私は前回から参加しました.もともとべとべとのウェットな人間で,そして大量のデータを扱うのも苦手な人間なので,学ぶ立場として参加しました.前回はデータがなくて,「こんなこんなことしたいです!」ってポスターを出したのですが,今年はまだまだ途中ながらデータを出すことができました.まさにこの会の存在によって手法が身近になったおかげです.

NGSは様々な研究に使われていますが,僕たちのような非モデル生物を使っている研究者は特に恩恵を得ることが出来ているのではないでしょうか.かつては大型プロジェクトでしか決定出来なかったゲノムもラボ単位で決定出来るようになり,発現している遺伝子も網羅的に解析出来るようになりました.
そういうわけで,今回は「非モデル生物シーケンスから変わる生命観」というセッションが開かれました.従来のモデル生物ではない,カメ,アブラムシ,食虫植物,アゲハチョウのシーケンスから得られた最新の知見を聞くことが出来,大変刺激になりました.

他にもいろいろと面白いセッションがたくさんありました.参加者が遠慮なくデータについて議論するために,ポジティブな意味でクローズドな会ですので具体的なことは言えませんが,本当にいろいろな研究で,いろいろな方法で,それぞれが工夫しながら使っているんだなという印象を受けました.そしてどれも魅力的で,開催時間が重なっているために聞けない演題がたくさんあってとても残念でした.

ポスター会場も,活気にあふれ,企業ブースではお酒が振る舞われたりなど,お祭りのようでとても楽しかったです.スポンサーも増え,参加者もあれだけ増えた中であの雰囲気を維持しているというのはすごいなと思いました.

夜ゼミも非モデルチームに参戦したのですが,マウスを使っているというとブーイングが起こるような状況で,みなさん本当にいろいろな生物で研究をしていて,全員とじっくり話が出来なかったのがとても残念でした.とにかく楽しかったです.

これだけの人数が集まり,登場から10年が経とうとしていて,もはや次世代ではなくなっていますが,価格・精度・リード数・リード長のどれもがこれからも改善していくであろうシーケンサーの進歩からは目が離せませんね.
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Quelle後半積み込み

2013-08-22 22:41:06 | 日常,つぶやき
今日は現在行っている世界一周航海の後半戦の積み込みをしました.
しんかい6500も整備を終え,母船よこすかに乗っています.我々も研究機材を積み込んで準備万端です.

後半は南西太平洋へと調査に行きます.詳しくはこちら(リンク)をどうぞ!!

トンガーケルマディックが主なターゲットですが,実はウェブサイトに載っていない航海も存在していて,僕はそれに乗船します.
時期は11月,しんかいがトンガーケルマディックの航海を終え,横須賀に帰る途中に調査をしながら帰るわけです.
というわけで乗船地はニュージーランドのオークランド,そして下船地は横須賀になります.
ええ,長旅です.その期間は実に20日間.
そして,気になるしんかいの潜航日は!?



2日.


2日...です.


20日の航海で,2回です.


ええ.ほとんど回航ですよ.

まぁわたくしくらいになると,それまでに実験データを出して,論文執筆にいそしむわけですが(キリッ

そして,初の赤道越えです.船乗りの間で脈々と受け継がれてきている奇祭「赤道祭」が執り行われるわけです.ああ恐ろしい.恐ろしい.


そういえばQuelleってヴァイスラント語で水源を意味するクヴェルの元ネタですよね.
我々は南回帰航路で何を見つけるのか?偉大な発見をし,タイクーンと呼ばれるようになるのか?それとも邪悪なアニマの虜になってしまうのか?
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