深海生物研究者の日常

思いついたときに思いついたことを書きます

生中継で伝えたかったこと

2013-08-21 23:33:24 | 日常,つぶやき
今日,所内で職員向けのしんかい6500調査潜航生中継の舞台裏的なセミナーがありました.

実は所内でもしんかいのオペレーションの実際を知っている人というのはかなり限られています.多くの事務職員は整備場にある姿しか見たことがないでしょうし,研究者であってもしんかいの航海に乗船したことのない人は同様です.つまり,職員と言えども,皆さん同様に映像でしか見たことがないわけです.その映像というのもハイライトのみで,実際どのような手順で,どのようなスケジュールでというのはわからないわけです.しんかいの航海に乗ったことがあっても,船上には音響信号で送られてくる船外の映像のみなので,潜航経験がなければ耐圧穀内の様子というのはわからないわけです.しんかい乗船経験があっても,他の人がどのような様子で潜航しているのかはわかりません.

そういうわけで,職員であっても多くの視聴者の皆さんと同じように新鮮な気持ちで今回の生中継を迎えたわけです..

で,今回の生中継で伝えたかったことはなんでしょうか?
実際に挙げていくとたくさんあるでしょうが,今日生放送を企画し,そして潜航した高井さんは,”実際のわくわく,新鮮さを感じてもらうこと”という主旨のことを言っていました.画面越しではありますが,目の前で見ていて,話をしている人が,準備をし,潜航していく.しかも水深5000mの深海にです.ダイジェストではなく,その時間を共有することで,あたかも自分がよこすかに乗船し,その潜航を見守っている気持ちになれるわけです.そして多くの人にとっては初めてのしんかいオペレーションを見ることとなるわけです.”自分が初めてしんかいのオペレーションを経験したときの,なんとも言えないワクワク.すべてが新しく,一日中高揚している気持ちをみんなに感じてほしい”と.どうだったでしょうか?
私もJAMSTECに異動して4ヶ月目にはじめてのしんかいの航海を経験したわけですが,,,,,まぁ船も慣れてなかったし,酔ってたからあんまり覚えていませんが....
でもそのときに撮った写真と動画の数からも,テンション高かったんだなぁと思います.

これをきっかけにして,無人機などのオペレーションや深海の研究,映像がもっと身近になればと思います.
うちに大量に眠っている映像もどんどん自由に見れるようになればいいですね.垂れ流しでもいいと思うんですよ.同僚とよく話しますが,ネットにあげてしまえば,野生のプロがかっこよく編集してくれるでしょう.そうやって日頃目にする映像のいろいろなところで,切れ端でもいいので航海の映像が使われて,自然に視界に入ってくるようになればいいのになぁと.

しんか6500公開整備

2013-08-20 22:57:33 | 日常,つぶやき
日曜日にしんかい6500整備生中継(リンク)イベントがありました.

しんかい6500は母船横須賀とともに世界一周調査航海の最中であり,その途中整備の為に一時帰国した様子をUstreamとニコ生で放送しました.
この世界一周の途中,6月22日にカリブ海の世界最深熱水域の潜航調査をニコ生でライブ中継をし(ニコニコアカウントがあれば今でも観れます),今回はこの報告会という意味もありました.

今回のイベントは前半と後半に分かれていて,前半は公募抽選で選ばれた30人のしんかいレポーターが,しんかいの整備風景を見学し,その様子をSNSにあげたり,学校で発表したりするという内容.後半は整備上からのニコ生.

私は前半の航海整備のときに,世界一周航海で採集した生物等の解説員として参画しました.

まぁ前置きはこのくらいにして,深海ブームですね.とは言っても,実際ブームなのでしょうか?私に関わる人というのは,深海関係者,深海マニア,多少なりとも生物や自然が好き,な人たちなのでその人たちの声が大きくなっただけなのか,これまで興味のなかった人たちが興味を持ってくれているのかはよくわかりません.
関係のない人まで虜にするのがスターよってばっちゃが言ってた.

まぁでも1年前よりも深海の話題が多くなっているのは確かですよ.
もちろんその背景には最近NHKで放送されたダイオウイカとそのダイオウイカをフィーチャーした国立科学博物館の深海展があります.
そこにニコ生とサメが続きました.そしてそれに合わせて全国各地の水族館等が深海特集をやっています.

まさに計画通りに作られたブームなわけです.

で,このブーム遅くても年明けには終わるでしょう.そのときが大切な気がしています.うちの広報の方達もその辺りは気にしていると思います.
興味を持ってくれた人の一部がいつでも気軽にアクセス出来るような媒体で,より研究を身近に感じることが出来るようなことが出来たらいいなと思っています.
(ほら,むし界隈とか,最近では菌界隈がざわざわしてますよね).

JAMSTECは組織が大きいからフットワークが重くなってしまうんですよね(と勝手に思っています).
こういうことについて,研究アイデアと同じように,evernoteにつらつらと書きなぐっているのですが公開していくことにしました.

ちなみに私は今回のしんかいレポーターイベント,全然満足していません.もっとこう,中の人とレポーターが密に絡み合って,えぐいことをぐいぐい聞かれてそれがネットに配信されるみたいなものを想像していたので.なんというか説明する人,聞く人になってしまいました.要はより詳しい一般公開になってしまったのです.質的にいつもと変わりがなかった.せっかく30人という少人数で,それを15人ずつ2班にわけて,それぞれにオペレーション関係者と研究者がついたのに,もったいなかったです.

復活

2013-08-20 22:47:05 | 日常,つぶやき
まったく放置していて,パスワードとかも忘れていましたが,復活しました.
更新していなかった間も毎日30人くらい来てくれていました.

左右相称動物の共通祖先は”後口型”か?

2012-11-05 22:29:35 | 研究
口と肛門についての所見

エラヒキムシPriapulusの発生が、後口動物的であるという論文がcurrent biologyに出版されました.SarsのAndy HejnolラボとUppsalaのGraham Buddラボの共同研究です.ちょうど1年半前くらい,エラヒキムシの発生でポスドクの公募が出てましたね.それの成果でしょうか?
この論文がもたらすインパクトと重要性を述べてみたいと思います.書きなぐったので、長文だし、読みにくいかもしれませんがすいません.ただ,結構背景を語らないといけないテーマですので.

元論文はこちら

まず何が問題なのか.この研究は”口と肛門はどうやって進化したのか”という素朴な疑問に由来します.口や肛門は、ざっと周囲を見渡すとほとんどすべての動物が持っているもっとも基本的なだから.
ただ口と肛門を持っていない動物もいます.例えばイソギンチャクやサンゴの仲間である.正確には、彼らは口と肛門の区別をつけていません.彼らは1つの開口部(まぁ口って呼ばれるんですが)から,食べて、そして排泄します.
さらにカイメンなどはその開口部も持っていません.

動物は多細胞体制を獲得した後、体を袋状にして、口から食べ、そのなかで消化吸収をするという方法を進化させてきた訳です.

今度は摂食する穴と、排泄する穴が同じでないほうが都合がよくなったでしょう.そして口と肛門が出来上がった.

さて,口や肛門の形成について,高校や学部の授業で習うのは”前口”と”後口”があるということでしょう.そこでは”口と肛門は原腸貫入という発生イベントを通して形成され,原口が口になるのが前口動物で原口が肛門になるのが後口動物”と説明され,その横にウニの発生の模式図があり,これが後口動物,そしてその逆が前口動物と説明される.
左右相称の動物は前口動物と後口動物にわけられ,僕たちは高校動物だよ.昆虫や貝は前口動物だよ.と習う訳です.

え、そうすると,口や肛門、消化管は独立に進化したのでしょうか?それともどちらかが祖先的で、一方が派生的なのでしょうか?

これはずっと長くから議論されてきた、動物進化の中の大きな問題の一つです.

それでは,各グループについてもっと詳しく見ていきましょう.
我々人が属するのは後口動物です.後口動物には、脊索動物、棘皮動物、半索動物などが含まれています.この中では棘皮動物や半索動物の初期発生が祖先的であると言われています.これは教科書的な後口形成からディプリュールラ型幼生になるというものです.

前口動物はどうでしょうか?実は前口動物は事情がとても複雑.

前口動物は、大きく2つのグループ「冠輪動物」と「脱皮動物」にわけられます.冠輪動物にはゴカイや軟体動物が含まれ、脱皮動物には節足動物(昆虫や甲殻類など)や線虫が含まれます.

冠輪動物においては,ゴカイのようにトロコフォア幼生を持つタイプが祖先的と考えられています.そしてそのゴカイは”前口”なのですが,ここで気をつけないといけないのが,教科書的に習う前口は、後口の逆ではないということです.前口の前とは”原口が口になる”という意味であって、原口が肛門にならないといっている訳ではありません.実は、ゴカイは原口が口にも肛門にもなるのです.原口ができた後、側方が張り出してきて、正中でジッパーのように閉じることで管ができ,口と肛門になります.このような形成パターンは広義では前口ですが、狭義ではamphistomyと呼ばれ,protostomy とは区別されます.
さらにその他の冠輪動物をみてみても,protostomy, amphistomy そしてdeuterostomy (後口型)が混在しています.

次に脱皮動物の代表的としてあげられる昆虫や線虫を見てみましょう.彼らは非常に独自の進化を遂げており、その形態形成過程は必ずしも祖先状態を再現しているとは言えません.そしてまた原腸の運命も様々です.

そこで,やっと今回の主役のエラヒキムシが登場します.
エラヒキムシは長虫状の生き物で、カンブリア紀にも現在のエラヒキムシとほとんど形の変わらない化石が見つかっています.つまり生きた化石であり、その他の脱皮動物よりも祖先的な形質を残している可能性が高いと言えます.

著者らは、エラヒキムシの一種 Priapulus caudatusの原腸貫入時の細胞運動やその他の動物で原腸形成、口や肛門形成に関わっている遺伝子の発現を観察しました.
その結果、エラヒキムシでは原腸が肛門になり,口は二次的に形成される、いわゆるdeuterostomyであることが明らかとなりました.

今回の結果は、脱皮動物の共通祖先はdeuterostomyであったことを示唆しており、おそらく前口動物と後口動物の共通祖先もdeuterostomyであったであろうと考察しています.そして,これまでの様々な動物での研究結果をふまえ、左右相称動物の共通祖先においては、原口、口,肛門を作るための遺伝子制御ネットワーク(GRN)が存在し、それらのGRNが新たな組み合わせを獲得することのよって、proteostomyやamphistomyなどが独立に進化したのではないかと議論しています.
この仮説はトロコフォアとディプリュールラが相同であるというこれまでの仮説と異なるものです.しかし,別の仮説(著者らの先攻研究),すなわち,放射相称動物(イソギンチャク等)から左右相称動物への進化において,原腸ー口GRNが植物極から動物極へ移動し、それによって口が独立に進化することが可能になったという仮説と整合性があります.

ーー以下感想ーー
遺伝子の発現パターンなどから(特にBraの発現)エラヒキムシと後口動物の”後口”が相同でない可能性が高いというのは僕も同感です.そして僕自身口というのはかなり自由にできると思っています.そしてトロコフォアとディプリュールラが相同でないということについても僕の考えと同じです.しかし,それについてはまだ印象でしかありません.幼生や口肛門の進化についてどうやってアプローチしたら面白くなるのかについても具体的なアイデアもいまのところないのが現状です.遺伝子発現を網羅したら知見は増えるけど、その後どうなるかというのが見えて来ない感じです.
今回の彼らのアプローチ、特にAndyはいろいろな生き物を材料に研究していますが、タクソンサンプリングというのが重要だということを再認識しました.日本ではなかなかこういうアプローチをする人が現れませんね.ヨーロッパ勢においしいところを持っていかれている印象ですが、まだまだターゲットにすべき分類群はいろいろあります.

日常?

2012-04-22 17:22:40 | 日常,つぶやき
なんかブログのタイトルが日常とかなってるけど、航海のことしか書いてないね。
今日も先日の航海x2のこと書こうと思ったけど、写真がラボのMacにしか入ってないからまた今度ね。

とりあえず、広告には消えてもらいます。では。