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『小説 会計監査』(3-1)

2008年02月14日 | 読書
第4章 月光証券会計不正スキャンダル
この本で書かれている社名を使うと混乱してしまうので、日興コーディアルグループの事件と勝手に仮定して、読み替えて書くことにします。

日興の会計不正についての詳細は省略してしまいますが、著者が書いているように整理すると
① 日興の子会社であるNPIが、その株式の全てを所有し、実質的に支配しているNPIHを連結の範囲に含めなかったこと
② NPIHにEB債(他社株償還特約付社債)を発行させ、NPIに所有させたこと
③ EB債の発行日を遡らせたこと
その結果、平成17年3月期にNPIにEB債の評価益約120億円が発生し、同時にNPIHに同額の評価損が発生した。しかし、NPIHが非連結であるために、NPIの評価益のみが親会社の日興コーディアルグループに連結上で計上されることになった、というものです。

改めて書くと、ほんとに会計に親しんでいる人以外は内容がさっぱり理解できないのではないかと思いますが、そういう人でも安心して証券市場に参加できるように会計専門家である公認会計士がいるわけですから、会計士が適切な判断を下すというのは非常に重要なことだと考えています。

主人公は「会計監査人として見ていないところなのでどうも実際のところがはっきりしない③を除き、会計実務上、それ自体、不当なものとはいえないルールになっているんだよ」と言っています。EB債の発行日改竄は、NPIHの取締役会議事録の改変(というか後付けかな?)というかたちとなっていたわけですが、ペーパーカンパニーであるNPIHの取締役会議事録はなかなか監査でも見る機会がないと思いますし、日興の特別調査委員会による報告書では発行決議が8月4日ではなく実際は9月22日だったという話でその差が1月半しかないのですから、確かにこの点からすると会計監査人が気付く可能性は低いのかもしれません。ただ疑問に思うのは、このEB債の取得をNPIはいつ会計処理したのでしょうか。実際の発行が9月22日だったのであれば会計システムへの入力もこれ以降だったはずです。特別調査委員会の調査でもNPIの8月月次決算にはEB債が計上されていなかったことが指摘されています。さらに実際の発行決議日とされた9月22日の直後の9月27日にはベルシステム24株のTOBが発表されているわけですから、EB債が仕訳計上された直後に、TOB価格によりNPIに評価益が計上されることが確定したわけです。これだけをみて胡散臭さを感じても良かったのではないかと思います。ただ発行日改竄の発見に関してはなかなか難しいというのが本音でしょう。

この本にもありますが、特別調査委員会の報告をみても監査法人がEB債のオプション部分から生ずる評価益にやけにこだわっていたという印象を受けました。引当金をたてるとかなんとか。ただしこれについては金融商品会計基準に従いデリバティブ部分を時価評価し、取得時より時価が高くなっているなら評価益を計上するという方法以外にはないと考えます。これについては議論の余地がないでしょう。これに関し主人公は「残念ながら金融商品会計基準は非常におかしな基準だと思っています。」と言っていますが、含み益経営を否定するのは時代の流れでしょう。時価のある金融商品は時価評価して評価損益を計上する会計理論自体がおかしいとは全く思いません。

それよりもおかしいのは、VC条項の解釈であるのは明らかでしょう。