デラシネ(deracine)

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『ワールドカップヘようこそ』

2010-06-11 23:59:09 | weblog
山際淳司、という作家を覚えておられる方は多いと思う。
主にスポーツ・ノンフィクションを著し、NHKのスポーツキャスターやCMでも活躍したが、
46歳という若さで逝去された方である。

私は高校生の時に短編集を2冊ほど読んだが、
(おそらく代表作『スローカーブを、もう1球』と『ウィニング・ボールを君に』だった)
その著作の中に『ワールドカップへようこそ』という、
サッカーを題材にした短編があった。

当時(今でも)サッカーよりは野球に興味があった自分は、
そのサッカーの話は斜め読みをしていたが、ある程度のストーリーは記憶している。

1990年のワールドカップイタリア大会(94年のアメリカ大会かも)を取材に行った作者が、
サッカーが盛んなイタリアでイタリア人に、
「日本はまた予選で負けて、W杯に出られなかったんだ」という主旨の話をしたら、
そのイタリア人が言った言葉が、

「ワールドカップへようこそ」

というものだった、という話である。

つまり、そのイタリア人は、「出られなくても、それぞれにワールドカップがある」、
「予選で負ける、それもまたワールドカップ」ということを言いたかったのだ。
※イタリアだったかアメリカだったかそこが定かでないが、おそらくイタリアだと思う。


「ワールドカップへようこそ」
この言葉は非常に印象に残っている。


FIFAワールドカップ南アフリカ大会が、開幕した。
日本代表も他の国の代表も、いや、全ての国の代表も、そしてファンも、
それぞれの、ワールドカップを楽しんでほしい。


余談だが、私は本をほとんど読まない。
短編集とはいえ2冊も読んだ作家は、あと3人ぐらいしかいない。
スポーツの持つ汗臭さがなく、爽やかにかつ冷静に切り込む(対象にも読み手にも)文章は、
実に読んだ後が心地いい。
『江夏の21球』などは野球ファンなら必読の一篇です。