abeckham@izakaya

飲んで食うなら家でも十分。
それなのになぜ人は居酒屋に行く。
その謎を解く旅が、ここから始まります。

和と洋 居と食と職

2007-06-27 08:54:32 | Weblog
大学の友人の一人に、現在料理人修行中の友人がいる。彼は2年前まで普通のサラリーマンだったが、割烹を営んでいたご両親の影響や、美食愛好の趣味が乗じ、いつしか料理人を志し、会社を退社後、スペインを旅し、僕の知り合いの新潟のスペイン料理屋で数ヶ月修行をし、現在は原宿のフレンチで修行をしている。といっても厳しい世界。まだ厨房に入れず、ホールをやっている。なんだか某局のTVドラマみたいな展開だが。そんな彼と久々に飲もうかということになり、それぞれ店選びをしてみたが、仕事がら洋食に傾く彼の探す店はビストロなど。副職(?)がら僕の選ぶ店は居酒屋。中々折り合いがつかない。そこで思いついたのが「山利喜」だ。
以前に嫁さんと訪問し、古き良き居酒屋ながら、時代の流れに上手く乗り、洋食のカラーを上手く取り入れていると感じたこの店に、僕は自信を持って彼を案内した。
さて5時の開店と同時に店に着いたが、すでに店の前には行列が。しかし待つことなくすぐに入店完了。口開けにキリンの中ジョッキをもらい乾杯!久々の再開を祝う。
さて近況報告などしながらメニューを観察。洋食的メニューの豊富さに驚く彼は、僕がここを選んだ理由に合点がいった様子だ。まずは名物「煮込み」を1人づつ注文。さらに彼のリクエストで「クレソンサラダ」と、前回嫁さんと食べ損なった「スペアリブ」を注文した。彼はワインエキスパートという資格を取るために勉強中だとか。だからここのワインの豊富さにも関心あり、さっそくお勧めの白ワインをボトルで注文だ。ソムリエの資格を有する店員が颯爽と応対し、綺麗にコルクを抜く。これは居酒屋で見られる光景ではない。実は僕もワインアドバイザーの有資格者だった。が、更新を忘れたため資格失効。今はただの酒好きなだけで、ワインの知識もずいぶん薄れた。だからグルナッシュ種に白ワイン用のブドウがあったことさえ知らず、ラベルを見てうなるざまだ。
僕はとりあえず日本酒が欲しくなり、新潟の「鶴の友」をぬる燗で注文。鶴の友はキングも称える熱燗向きの銘酒だ。彼は白ワインをごくりとやりながら、クレソンサラダにご満悦。さらに「レバーのテリーヌ」を追加。これもまた居酒屋のレベルではない。白ワインにはもちろんだが、僕のぬる燗にもピタリと合うのが素晴らしい。見た目は洋食であっても、食べてみるとどこかに和のテイストを感じるのは、やや薄味の味付けだからか?
さて「スペアリブ」は程よいサイズのリブが3切れ乗り、ボリューム満点。軟骨までぽりぽり食べれて、これは酒が進む。僕も今夜は彼に付き合いワインだ。久々のワインに舌が冴えわたる。
ハイペースで料理を平らげる二人。名物焼きトンを試そうではないか、ということで「たん」「レバー」「はつ」をお勧めの焼き方で注文した。周りのテーブルもサラリーマンや近所のお客さんで埋まり、店はいつしか満席で外に行列も出ている。焼きトンのオーダーがてんこ盛りになり、店の中には芳しい香りが充満する。
「レバー」は珍しく塩焼き。これにもワインが合う。「タン」「はつ」はこりこりで、甘辛いタレがジューシーで香ばしい。そして後味で残る脂分も、ワインがさらりと流してくれるし、カラシを付けて食べることにより、スパイシーな風味も添加される。そろそろボトルが空いたのを確認し、彼はもう一本とばかりに、今度は赤ワインを取り寄せた。そうとなるとつまみが足りない。すかさず「ポテトフライ」「キャベツの一夜干し」を追加だ。
酒が進む中、懐かしい話にも花が咲き、はたまた将来の話やガンダムの話にめまぐるしく展開して行く。話も尽きないが、食欲も尽きない。そして酒は進む進む。気がつけば1時間で赤ワインは空っぽに・・・そろそろワインに飽きたとばかりに、「神亀」を熱燗をでもらい、これにあわせて「菜の花のおひたし」「くさや」「ほたるいかとうどのヌタ」を注文。熱めの燗酒を注ぎ合いながら、箸も口も止まることのない時間がさらに過ぎた。
フレンチレストランで働く彼は、やや高級な食材を目にすることの多い日々。将来自分で店を出すのが夢な彼に聞いてみた、どんな店を開きたいのかと。帰ってきた答えは「大衆的な店」という答えだった。居酒屋レベルまで大衆的かどうかはわからんが、その答えにほっとした僕。友達が開業するなら、頻繁に行ける店でないと困る。高い店じゃ幅を利かせて常連ぶることもできない。これで安心だ。安い単価でえらそうにする。そんな嫌な常連になってやらねば。しっしっしっ・・・
やはり日本人は基本的には大衆的民族だと思う。さらに日本人にとって洋食は記念日やイベント的なものだと思う。洋食に居酒屋的な大衆風を注ぎ込み、日常的に通える洋食居酒屋。これもいいものではないか?山利喜のさらに発展的な店。彼がそんな店を目指すかどうかはわからないが、今日ここに連れてきたことが、彼の仕事や夢に、少しでも良い影響を与えてくれたら僕は幸せだ。なんて感じながら足をふらつかせて店を出た。地下鉄に乗り込み、途中で先に降りる僕。電車を降りる寸前、彼と硬い握手を交わした。友達なら無言で伝わる激励。僕とは戦う世界が違う彼だが、彼は彼の道で成長している様子だ。また次に会う時、違う一面を覗かせて欲しい。僕も頑張らなくては・・・そう心に誓いながら、乗り換える地下鉄のホームへ歩き出した。

理想のつまみ

2007-06-19 11:43:30 | Weblog
家で飲む酒。店で飲む酒。友達と飲む酒。会社の同僚と飲む酒。仕事の酒。楽しい酒。楽しくない酒。親と飲む酒。妻と飲む酒。一人酒。酒を飲むにもいろいろな場面がある。
酒にはつまみが必要だ。酒を飲むと、とたんに何も食べなくなる人がいる。僕は何か食べながらじゃないと飲めない人間だ。と言うか、食べながら飲むことが好きだし、料理と酒のマッチングこそに探究心が湧く源泉だ。ワインにチーズ。ビールに餃子。焼酎にホルモン。酒に刺身。やはりこんな黄金タッグこそ、酒飲みの醍醐味だ、と僕は思う。
さてブログでたびたび述べるように、僕は現時点では日本酒が一番好きだ。ビールも焼酎もワインもウイスキーも紹興酒も好きだが、今は日本酒だ。というわけで今日は理想のつまみについて語ってみよう。皆さんもこれは譲れない、はずせないというつまみがあるだろうが、今回は一方的に僕の好みを語る場でありますのであしからず。
さて、僕が居酒屋に行って必ず注文するに等しいもの、それは「冷奴」だ。僕は木綿豆腐が好きで、家でも必ず木綿豆腐だ。嫁さんはどうやら絹ごし豆腐が良い見たいだけど、度重なる木綿豆腐の攻撃により、最近は黙っていても我が家は木綿だ。この木綿豆腐にかける薬味は、ネギ(可能ならば万能ネギ)と鰹節と生姜。少し変り種としてちりめんじゃこや納豆をかけるのも良い。とんぶり、キムチも中々だ。豆腐の甘味を口の中に開き、すかさず日本酒で流し込む。日本人でよかったと思える瞬間だ。
次は刺身。刺身はやはり「まぐろ」と「貝」だ。東京に出てきてうまいマグロを食べるようになって依頼、僕はマグロが好きになった。地元福岡ではマグロはNG。おいしくない。
中トロあたりの筋が多めの大きな切り身を、たっぷりつけたワサビでばくりと行く。そして熱燗でぐいっと行く。刺身には熱燗だ。誰がなんと言っても熱燗だ。「さば」も良いね~福岡の「ごまさば」は言うことないが、しめ鯖も上手い。軽く〆られた脂の乗った鯖は、いかなる魚もしのぐ時がある。「鯛」「イサキ」「鰺」「秋刀魚」・・・言い出したらきりが無い。「貝」の刺身はまた別格だ。「平貝」「赤貝」「北寄」「つぶ」「あわび」・・・これもきりが無い。やはりこの貝独特の甘さとえぐみは、日本酒でこそ戦える。焼酎やビールじゃあ愛称が悪い。レバ刺しとビールくらい後味が悪い。やはり相性ってなもんが大切だ。刺身はやはりはずせない。
さて次に「おひたし」だ。「ほうれん草」「春菊」「こまつな」「水菜」といろいろあるが、僕はほうれん草だ。これに醤油と鰹節をかけるのも良いが、名古屋風に赤味噌をかけるのも良い。栄養バランスの調整役に欠かせない青菜。これもはずせない。
そして焼き物が来る。「銀だら」「秋刀魚」「一夜干し」などの海の幸もよし。「鳥」「きのこ」「ピーマン」などの山の幸もよし。しかしてっとり早い一番手は「油揚げ」だ。かりかりに焼いた「油揚げ」にたっぷりネギを乗せ、おろし生姜を沿え、醤油をざぶりとかける。さくさくの内側はほかほかのふわふわ。醤油の辛さと油揚げの甘味が混ざり、香ばしくて上手い。「栃尾の油揚げ(新潟)」なら言うことなしだ。代打で「厚揚げ」でもかまわない。やはりこれもはずせない。
そしていよいよ僕のナンバーワンつまみの紹介です。それは「鯛の子煮」なんですね。ぷりぷりの新鮮な「鯛のまこ」を甘辛く煮込み、刻み生姜など添えて出てきたら、これは卒倒もんだ。少し生臭い魚の卵だが、これを上品に煮込むと、甘くて気品に満ちた煮物が出来上がる。「子持ちカレイ」の煮物などに、たっぷり卵が入っているのも最高だ。魚卵は体に良くないらしいが、たまにならこれ以上のつまみは無い。熱燗と交互にやり始めると、箸がとまらなくなり、一瞬でからになってしまう。僕のささやかなつまみの王者はこれだ。
ほかにも「厚焼き玉子」「里芋煮」「卯の花」「ぬた」「目刺」・・・言い始めたらきりが無い。
たいていこんなもの家で食べれるもんじゃないか?!と思われるだろう。しかしつまみとはそれで良いのだ。だいたい同じもの食べているほうが安心する。なんで酒飲むのにどきどきわくわくしなきゃならんのだ?ってなもんではないが、なんとなくいつもの酒にいつものつまみのほうが落ち着くもんだ。だったら家で飲んでろよ!って声も聞こえそうだが、それはまた違う。家は家、店は店。食べるものも飲むものも一緒でも、それはそれなんだ。これを酒飲みの理屈、究極の理屈だ。まあ要するに飲みたいだけなんだね。家でも外でも飲みたいだけなんだよね。毎日少しで良いから飲みたい。だからそこに添えられるのは特別なもんじゃなくて良いのです。豆腐や野菜ならいつでも家にある。それがご馳走になりえるなんて素敵じゃないですか?これも酒飲みの言い訳で・・・
とりあえず毎日楽しく、そしておいしく飲みたいだけなんです。

博多同窓会

2007-06-11 08:49:19 | Weblog
皆様、まもなく梅雨ですね・・・
柔毛の私は湿気が苦手・・・稲垣吾郎状態。
憂鬱な梅雨、乗り切って行きましょう!!

さてメールしましたが8月3日に福岡へ帰ります。
嫁同伴ですが、ぜひ「炙りもの市場”拓”」に寄りたい。
合流は9時半くらい予想ですが、是非によろしく!!

須恵の男よ、確かにその頃にはホークスが首位にたつこ
とを信じて!!
宗が復帰したし、斉藤も戻ってくるはず。アホの篠原が
手痛い失点とかするばってん、歯車がかみ合えばうちが
一番強いはず。信じて応援ばしましょう!

では皆様よろしく!

ゴリゴリナンコツ in 滝野川

2007-06-04 11:40:57 | Weblog
2月6日
都内にある、とある大学病院に、最近めっぽう仲の良い先生がいる。彼は僕と同世代で、医者とメーカーの営業マンという関係ではないくらいの付き合いである。
今日はその先生と飲みに出た。先生は牛乳が好きだそうで、僕が焼酎の牛乳割を飲ませる店があるという話を以前したことがあり、その話を覚えていた先生が、ぜひそこに行こうと言ってきたために実現した飲み会だ。
さて二人で大学病院を出て、地下鉄に颯爽と乗り込み、世間話などしながら揺られる事約30分。ここは都内北区の滝野川だ。駅で言えば西巣鴨。そうおばあちゃんの原宿と言われる巣鴨の隣町だ。
さて地上に上がり、明治通りを池袋方向にあること5分。大通り沿いでも目立つ「やきとん高木」の看板と、潔い大きな暖簾がお出迎えだ。
立て付けの良くない硝子扉をガラガラと両手で空け、入店。店内は左手にコの字型の大きなカウンターで、右側には5つほどのテーブルが並び、客の入りは半分程度か。僕らは入り口に近いカウンターに腰を下ろし、コートを脱ぎながらビールを注文した。
がたがたと揺れる椅子に座ると、目の前は焼き場のあるカウンター内部が丸見えで、店員さんに活気があって非常によろしい。届いたエビスの大瓶をお互い注ぎあい、にこりと乾杯だ。2月なのに暖かい今日この頃。コートを着て乗り込んだ地下鉄内は暖房で暖まりすぎで、ノドがからからだっただけに旨い!!
さてここは焼トンと煮込みの店だ。と言う事で注文は僕に任せてもらい、まずは煮込みを2人前。そして「レバー」「大ナンコツ」「かしら」「アブラ」なるものを注文。「レバーの焼き方は半生で?」と聞かれたたが、まるで常連かのように「うん」と即答し、「塩かタレか?」の問いにはすかさず「おまかせで」と返答。まるで江戸っ子気取りだ。
あれやこれやと話ながら店内を見渡すと、白髪短髪のじいさんが酒を飲みながらてきぱきと皿を片付けたり、電話を取ったりしている。おそらく先代のじいさんだろう。そう見ると、今焼き場に立つ大将は息子さんのようにも見える。というか3代目だそうで、創業は大正11年というから素晴らしい歴史だ。店内には自衛隊の勧誘ポスターや相撲の番付が貼られ、いかにも個人経営の店らしい佇まいだが、男と女に分かれたトイレに人が入ると、トイレに入っているのが店内に一目でわかるランプが点灯するのが面白い。まるで飛行機の中のトイレット使用中案内みたいだ。
さて「煮込み」は残念ながら数年前の狂牛病騒動以来、豚煮込みらしい。さすがにこれは仕方ないが、とろとろぷりぷりに煮込まれた豚もつは美味。これにテーブルにおいてある玉ネギのみじん切りをこれでもかとかけ、さらに一味をぴりりと利かせれば、庶民のご馳走の出来上がり。ビールも進むが、この辺であっさり酒に変更だ。ここは東京23区内、唯一の酒造が作る酒が飲める貴重な店。北区岩淵にある小山酒造が作るその名も「滝野川」を冷でもらい、そのとろける甘さと、澄んだ味わいにクラリ・・はっきり言って旨い。後で調べたのだが、北区滝野川に、明治34年、大蔵省醸造試験所が建設された折、このあたりは都内の酒の隠れたメッカになったそうで、その名残が1件だけここに残る。都内唯一の地酒は美味。東京の水だって捨てたもんじゃない、と思っていたら、遠く神奈川の水を引いて造るそうだ。
「レバー」は半生というより生。表面だけ火が通り、中はトロトロ。これは旨い!タレも旨い。「かしら」はグリグリと食感が良く、肉特有の甘さも抜群。「大ナンコツ」は最初出てきてその形状にびっくり。なんと豚の膝半分がそのまんまみたいな大きさ。折りたたみ式携帯電話を折りたたんだまま、くらいの大きさで、食べれるの?とか思いながらかじりついたら、これがポリポリ噛み切れて、旨いこと旨いこと。すかさずお替りをしたが、大ナンコツも小ナンコツもお一人様1本までの限定とか・・・残念だがうなづける。そして圧巻は「アブラ」だ。豚肉ロースについている油身だけを綺麗に取り外したかのような脂身の固まりは、最初は正直げんなり感じる代物だったが、口に入れると解けてしまうようなこの甘さは絶品。頭がくらくらくる旨さだ。が、体に悪そ~う。
先生も満足な様子で、あっさり酒を飲み干し、先生のお目当て「牛乳割り」を注文した。この店では「セット」と呼ばれるこの飲み方は、ビールグラスに並々と「源氏」と言う名の古風なラベルの焼酎を注ぎ、牛乳の小瓶を1本と、からのビールグラスが1個渡され、このグラスに牛乳と焼酎を好きな濃さで割って飲むのだ。先生は楽しそうにブレンドし、おっかなびっくりしながら飲む。その後にんまりと幸せそうな表情をこぼした。僕の死んだじいちゃんは、昔から焼酎をこの飲み方で飲んでいた。晩酌の時も、外に飲みに行くときも。外で飲む日は、その店に行くのに冷蔵庫から牛乳を1本持ち出して歩いていく姿をよく見たもんだ。その後すい臓ガンで亡くなったため、うちの母ちゃんは頑なにガンの原因が牛乳割りだったのだと分析している。昔じいちゃんによく一口とねだり飲ませてもらっていた懐かしい味をグビリ。牛乳の臭さを、アルコールが優しく隠し、非常に高級感溢れる飲み物に仕上がるのが不思議だ。是非みなさん麦焼酎を牛乳で割って飲んでみるといい。牛乳が胃の粘膜に膜を張り、体に優しい酒になるかもしれない。
追加で「レバー」を再注文し、さらに「コブクロ」を追加しつつ、煮込みも各1人前追加。バカ話しながら楽しい時間は過ぎていくが、どうやら連日のハードワークがたたったのか、先生は早くも酔いが回っている様子だ。
近くのT大学の学生が、なんと13人でやってきた。予約も電話も無しで、こんな店に非常識・・・などと思っていた僕だが、テーブルで飲んでいたおじ様は、笑顔でカウンターに移動するし、「若い人がいると、雰囲気がいいね~」なんて言いながら飲んでいる常連さんがいたり。僕ももう少し大人にならなくてはいけない・・・反省反省。
というわけでこれを潮時に、僕らは店を出た。来るときは暑さすら感じたが、やはり2月の夜は寒い。早くも眠たいらしい先生と地下鉄の階段を降りながら、また飲み行こうとうれしい誘い。接待でもなく、友達でもない不思議な空気だが、これはこれで大人の飲み。大人になったな、俺も。なんて思いながら切符を買い求め、先生と別れた。
北区滝野川は、僕の居酒屋勢力図の中ではノーマークだった。しかしどんな町にも必ず名店はあるものだ、と再確認させられた夜。果てしない、終わり無き僕の旅は続く。

恋焦がれた名店へ

2007-05-25 08:34:43 | Weblog
2月28日
名古屋に来た。毎月恒例の出張だ。さて今回は僕の憧れの店に行くことを、前々から心に誓っていた。心に誓って店に行く必要などないのだが、ここは別だ。店の雰囲気、価格を考えると、なかなか勇気がいるのだ。
さてホテルから歩くこと5分。前々から場所は下見済み。クラブなどが乱立するビルの中に「杉むら」はある。ここは貝専門店。キングが番組で訪れたのを見て以来、僕はずっと行きたくて行きたくてしかたなかった店だ。甲子園レベルの憧れだ。
さて雰囲気のある入口の前に立ち、一呼吸。ドアは総木造りで、店の中はまるで見えない。勇気を振り絞り、いざドアを開けると、左側にL字型のカウンターがあり、右と奥に座敷が並ぶ。ここは名古屋の繁華街のひとつ「栄」だ。その栄で、ある程度の値段のする店。やはり雰囲気が良い。僕が普段行く居酒屋や酒場とは違う。
さて僕はどうやら本日最初の客のようで、女将からカウンター中央の席を勧められた。テレビで見たカウンターと、少しショーケースなどのレイアウトが違うが、おそらく少し模様替えをしたのだろう。僕の目の前にあるショーケースには貝がたくさん詰まっている。これはすごい眺めだ。思わず唸る。
さて口開けに日本酒をと思い、カウンター内に張られた日本酒の銘柄を見るが、これも全国の有名地酒から、あまり目にしないような銘柄まで約50種類程度。これは見ているだけで楽しいが、女将に愛知の地酒をリクエストし、「醸し人九平次」の純米吟醸生をもらうことに。きれいなグラスに注がれた九平次をグビリ。切れがあり、甘味もほどよく、非常に気品のある味わいだ。突き出しは砂肝を甘辛く炊き、刻みネギをまぶしたものと、大根おろしと合わせたなまこの酢の物で、上にマイクロトマト(トマトもミニからマイクロの時代)が乗り、日本酒には非常に合う取り合わせ。酒を飲みながら、ショーケースに目を走らせ、女将の話を聞きながら、まずは「赤貝」を刺身で注文した。この「醸し人九平次」は愛知の地酒ながら、その出荷数のほとんどは東京に出てしまう酒らしい。地元では知られていない酒が、実は東京で大人気なんてことはよくある話。九平次もそのひとつだ。この繊細で上品な味わいと香りは評価が高く、有名な料理本「ミシュラン」が紹介する、本場フランスの三ツ星レストランで唯一提供される日本酒がこの九平次だ。ソムリエも唸る香りに酔いながら、明るい女将の「貝講座」に耳を傾ける。
今夜入荷している貝は「赤貝」「まつぶ貝」「ホタテ」「マテ貝」「大あさり」「はまぐり」「皿貝」「ふじつぼ」だ。楽しみにしていた「平貝」「夜行貝」は本日入荷なし。貝だけに鮮度が命。こればっかりは仕方ない。本当は大きな「まつぶ貝」を食べようかと思っていたが、これで満腹になってはいけないと心に決め、「赤貝」で手を打った。
出てきた「赤貝」は、綺麗に掃除され、飾り包丁が入れられて、盛り付けも美しい。厨房から聞こえてきた「ゴリゴリ」という音が証明する本ワサビが添えられ、醤油に溶いて貝を口にぶち込むと、口の中に貝独特の甘さとえぐみが広がり、言葉が出ない。
しかしひとつ疑念がよぎる僕。テレビで見た「杉むら」は、老年の板さん(店主)がカウンターで貝を捌き、女将の顔つきも少し違っていた。そのことを正直に聞いてみると、なんと1年半前に杉むらは閉店し、そのまま店を引き継いだのが今の女将だというではないか!僕が憧れていた杉むらは、知らぬ間に店を仕切る人と、内容が少し変わっていたのだ。しかし根強い貝ファンに応えるべく、貝をうまく捌ける板さんを探し、今も変わらず貝を提供し続けているとの事。それはありがたいが、ここに来れたうれしさは2割減ってしまった。申し訳ないが仕方ない。気を取り直して次の酒だ。僕は次も女将のお勧めで「からから」という辛口の愛知の地酒をもらった。さっきの九平次の甘さと違い、「からから」はその名の通り辛い!同じ地域の酒でもこれだけ味が違う。これを日本酒道の深さなり。
カウンターに載せられた大鉢のお惣菜の中から、「わかさぎの南蛮漬け」をもらう僕。ほかの「ポテサラ」「野菜の煮しめ」「姫あわびの煮物」もうまそうだ。
お客の入りも50%を超え、他の客もそれぞれ好みの日本酒を飲んでいるが、貝を頼む人はほとんどいない。やはり店が変わり、客層も変わり始めているのか?少し寂しい。
見ているとどうやらここの人気商品は「くんせい」のようだ。女将もさっきからお客さんに勧めている。僕はあまり燻製が好きではないので注文しないが、隣の人が注文した燻製盛り合わせは「さば」「ほたて」「かまぼこ」「カマンベールチーズ」「トマト」など10種類くらいの燻製が載せられ、非常においしそうだ。中でも女将の自慢は「のれそれ」を10匹ほど使い、「くちこ」の形をまねて乾燥させたものの様子。食べたお客さんの評価も高い。これは次回試してみたいものだ。(のれそれ→アナゴの稚魚 くちこ→なまこの卵巣を乾燥させた珍味)
なんとなく貝三昧という気分ではなくなった僕は、つまみの追加として、「さばの糠味噌焼き」をもらう。お品書きに「小倉直送、100年の糠床」と書いてあり、なぜ小倉なのかと聞いてみたら、なんと女将の出身が小倉だとか。九州の人は九州の人と出会うとすぐに心を開いてしまう。また女将と話が盛り上がる。さばは糠付け独特の風味が身に香り、身もやわらかくてうまい。ピリリと効かせた唐辛子の辛味も絶妙だ。さらに酒が進むとばかりに、最後は女将推奨の宮城の銘酒「浦霞・純米生」をもらう。生酒特有の臭みと甘さがたまらない。やはり春は新酒の生に限る。そしてその対抗馬に、本日のメインディッシュ「ふじつぼ焼き」を注文だ。ガスコンロに直接ふじつぼを載せ、中火で炙ること数分。香ばしい磯の香りが漂い、目の前に熱々のふじつぼが届いた。ふじつぼは貝ではなく、厳密に言うとカニなのだ。タラバガニがカニではなくやどかりなのと同じでややこしい。
卓球の球くらいの大きさのフジツボから、ひょっこり角を出す形で収まった身を抜き出すと、山の中が空っぽになった富士山みたいな感じで殻が残る。抜き出した身は非常に小さいものの、薄い黄色のとろりとした身をかじると、口いっぱいに磯の香りが充満する。身離れもよく、非常に食べやすい。食感はまさにカニ。味わいもカニに近い。これは間違いなくカニだ。5個で1,000円が高いのか安いのかわからないが、これは日本酒のともには良い。希少価値もあり、育ちにくいフジツボは養殖物が食卓に出回るのが普通らしく、これも養殖らしい。生酒の甘味と磯の風味の調和がくせになり、あっという間に酒もふじつぼもジ・エンド。少し名残惜しいが、ここはある程度高級店だ。懐具合も気にかかるし、最後にしめの「ししゃもおにぎり」なるものを注文。熱いお茶を飲みながら、女将と話を重ねつつ、待つこと15分。今が旬の生青さ海苔のたっぷり入ったお汁とともに出された「ししゃもおにぎり」は、焼いたししゃもをご飯で包み、長細く(バナナのくらいの大きさ)形作り、それをじっくり時間をかけて焼いたものに、軽く醤油を塗ったもの。表面はぱりぱりで、中のご飯はしっとり。そしてししゃもの塩加減がご飯に上手く伝わり、これは美味。海苔の風味満点の汁をすすりながら至福の時間をすごした僕は、女将の声を背中で聞きながら店を出た。
僕も年をとるように、店も年をとる。いつまでも僕が同じ見た目や内面でないように、お店もいつまでも同じように存在するわけではない。そんなことはわかっているが、なんとなく少しもの寂しい。テレビや本で見た店が、行ってみたら少し違ってたなんてことはよくあることだが・・・やはりやりきれない。いつまでもあると思うな親と居酒屋。やはり今行っておかなくてはならない店はたくさんある。居酒屋の歴史はいつまでも続くとは限らない。さあ急げ、若き(?)居酒屋探検家。僕は居酒屋の歴史を見守らなくてはいけない。そんな使命を勝手に胸に刻み、ホテルへの道を急いだ。(写真はフジツボ焼き)

焼酎談義

2007-05-14 08:28:51 | Weblog
焼酎の飲み方
僕は九州は博多の人間だ。厳密に言えば博多ではなく、福岡人。福岡と博多は厳密に言うと違う街。まあそんな話は置いておいて、今日は焼酎について語ろう。
僕は日本酒が好きだ。家ではもっぱら日本酒派だが、もっと基本的な遺伝子レベルの段階には、「焼酎」の二文字がはっきりと書かれていると思う。日本酒も好きだが、焼酎だって別腹以上に大好きである。キムタクも良いが、中居君も捨てがたい・・みたいな感じか・・違うか。
僕は焼酎と言えばやっぱり芋だ。そば焼酎も旨いし、麦焼酎をウーロン茶や水で割るのも好きだが、やはり九州は芋焼酎天国だ。僕の福岡の友人も、毎日芋焼酎だし、集まれば集まったで、またやっぱり芋焼酎だ。有無を言わさず芋焼酎だ。実家に帰ってもやっぱり芋焼酎だし、僕と芋焼酎は切り離せない。僕の友人もブログで芋焼酎について熱く語る。彼の言うことはなかなかこれで参考になる。愛、熱が感じられる内容だ。
さて僕はたいてい家で焼酎を飲む際には「白波」を選んでいる。東京でも芋焼酎はブームであり、最近どの酒屋でも手に入るようになったものの、その種類は非常に少ない。やたらと高級で変わった焼酎ばかりが評判を呼び、飲みに行っても白波や霧島と言ったような、「王・長嶋」レベルの不動の4番と出会うことが難しい。非常に理解しがたい東京の焼酎ブームだ。(高いもんが良いもんの理論か?)
僕は酒屋で白波の2リットルパックを買う。友達はブログで紙パックの焼酎は紙臭いと語るが、東京で1升瓶の白波は皆無に近い。なので仕方なく紙パックを買うが、これはこれでお徳な上、ゴミにも優しい。だから僕は地球に優しい。
うちではこれを500mlのペットボトルに半分強入れ、そこにおいしい水を約半分弱注ぎ、冷蔵庫で1日、もしくは2日寝かしている。いわゆる前割りだ。これは鹿児島独特の飲み方であり、鹿児島の人はこの前割りを「黒じょか」に注ぎ、直接火にかけて燗をしてから飲む。簡単に言うと、前もって焼酎の水割りを作り、それを温めてお湯割りにして飲むということだ。僕の友人たちなら知っていて当然かもしれないが、これ、東京の人にしたら「これサプライズなのよね」。(スレッガー風な口調で言いました)
前もって焼酎を水で割ることで、角の立った焼酎の角が水の力でまろやかに柔らかく変身する。それだけでもその場で作った水割りとは雲泥の違いが出るのだが、これを暖めると、その格差は段違いになる。うちにも母からもらった黒じょかがあり、嫁さんはこの黒じょかに前割を入れ、コンロにかけて暖める作業を楽しみにしている。この前割の燗のうまさをなんと表現しよう。柔らかく、まろやかで、自然と血液に溶け込み、全身にゆっくり、優しく酔いを巡らせてくれるとでも言おうか。日本酒は毛細血管に溶けていくような心地よい酔いをもたらすが、この前割のお湯割りも同じだ。とにかく未体験の方は一度だまされたと思って試して欲しい。芋焼酎はくせがあって・・・なんて彼女を持つ芋焼酎ファンの男性よ、黒じょかが無くても良いから、一度前割を作って、彼女を家に呼んでみるといい。冷たいままでも良し、暖めても良し。きっと彼女の芋焼酎感が変わり、普段は見せない酔い姿を見せるかも・・・しっしっしっ・・・ただし絶対電子レンジで暖めないこと!!これ約束あるよ。
なんて薀蓄を語るが、やっぱり最後はソファーに身を沈め、芋焼酎をロックで飲むのがまた幸せだ。僕は寝る前や、夜テレビをゆっくり見る時間には芋焼酎ロックだ。ウイスキーも良いんだが、やはり焼酎かな。僕のこだわりは、唯一の贅沢で昔購入したバカラの大降りのロックグラスに、僕専用の丸い氷(嫁さんがスーパーで買ってくる4個入りのプリンの器に水を入れて凍らせ、それを二つ取り出し、それぞれの平面を合わせると、なんと丸い氷の出来上がり)を入れ、そこに白波を注ぐ。大よそ30mlで、ちょうど氷の上まで焼酎が注がれることになる。丸い氷は溶けにくく、焼酎を冷たいまま、そして薄めることなく長い間保つことができる。この丸い氷がなくなるまでに、大抵3杯の焼酎を費やす。これぐらいが僕の日常の適量のようだ。バカラの代わりに、2年前に福岡に自分の釜を開いたガラス職人の友人が作ってくれたグラスを使う日もある。これは小ぶりだが、上品で手放せないグラスだ。A木よ、ありがとう!!
普段飲む酒だから、それぞれみんなこだわりがあるだろう。しかし一番おいしい焼酎の飲み方は、やはり仲間と囲むテーブルの上に置かれた焼酎だろう。銘柄など関係なく、飲み方もたいして関係ない。仲間と酒と、少しおいしいものがあればそれで十分だ。なんだかんだ言っても酒をおいしくさせるのは気持ちや気分だろう。色んな場所で、いろんな仲間と、色んな酒を楽しみたいものだ。人生の楽しみは案外近くにたくさん転がっているもんさ。

寒い名古屋は角打ちで

2007-05-01 08:16:10 | Weblog
ブログのメンテやら出張やら学会やらでUPサボっておりました。

1月29日
今年初の名古屋出張に出た。暖かい東京に比べると、名古屋の冬は若干厳しい。よそ者の僕だからそう感じるのか、名古屋に来るととても寒く感じる。
仕事を早めに切り上げ、ホテルにチェックインすると、速攻で町へ出た。今夜は行くあてが有る。前に「大甚」で飲んだ後、ホテルに帰る道すがら偶然見つけた立ち飲み屋の看板。店の中は見えなかったものの、笑顔のサラリーマンが躊躇無く入っていくその姿は、店の良さを感じさせるには十分だった。その場所の記憶を探りながら、コートの衿にマフラーをぐるぐる巻きにして歩く。
10分も歩いただろうか、人通りの少ない住宅街の中に、「しなのや」の看板を発見した。廻りは住宅ばかりで、この時間は既に静寂に近い空気が流れるが、ここだけは暖かい灯りが中から漏れている。さあ意を決して扉を開ける。
店内は左側に10人程度が場所を取れるカウンターがあり、既に常連さんがたが6人程度飲んでおり、入店した僕に一瞥。知り合いではない事がわかると、すぐに視線はもとに戻り、新参者の僕は、とりあえず店内右側に作りつけられている小さなテーブルの前に位置を決めた。さてとりあえず注文だが、店の中にはすごい高齢のおばあちゃんしかいない。どうやらおばあちゃんが1人で切り盛りしている様子で、僕の「中ジョッキ」という声に気がつかない。しばらくしていると小さな黒いプラスチックのケースを持って僕の前にやってきた。「何飲みますか?」と聞いてきたので、再度「中ジョッキ」と注文。「ここにお金入れといてくださいな」と黒いケースを僕に渡し、カウンターにゆっくり戻るおばあちゃん。なるほど張り紙を見ると、代金その時払い。キャッシュオンデリバリーのスタイルだ。黒いケースに千円札を入れると、ビールを持ってきたおばあちゃんは、650円のおつりを残し、札を持ち帰る。なるほど中ジョッキ350円。立ち飲み価格が財布に優しい。グビリと冷えたビールを飲む。ノドに突き刺さるこの感触。間違いなくスーパードライ。まあ良しとしよう。2口目を飲みながら店内の張り紙に目を留める。料理はポテトサラダ、どて煮、梅クラゲなどの簡単な物から、立ち飲み屋らしく缶詰類が充実しており、サバ、イワシ、イカ、赤貝、サザエ、アスパラなどが250円前後で並び、他には名古屋の地ハム「めいほうハム」やチーズの王様「6Pチーズ」も鎮座。いやーここまで来ると表現としては「角打ち」という方が正しいのかもしれない、なんて思っていると、なんとカウンターの扉の向こう側には酒屋的空間が広がる。おばあちゃんに聞いてみると、店の裏は酒屋に繋がっており、酒屋は息子が経営する「信濃屋」だそうで、こちらはおばあちゃんが営む「しなのや」ということらしい。なるほど、良い商売だ。家族経営の酒屋としては理想の姿だ。
僕はビールを飲み干し、日本酒のメニューの中から会津の「飛良泉」の山廃吟醸を常温でもらいつつ、ポテトサラダをひとつ注文。少し大きめのコップを枡に入れ、こぼれるまで注がれた日本酒をグビリ。山廃特有の酸味と深みが旨い。やはり僕は酒は山廃が好きだ。ポテサラはジャガイモもニンジンも玉ねぎもめいほうハムも図体が大きい。薄めの味付けがとても旨く、しゃきしゃきと歯ごたえが良い。すばらしいポテサラだ。
店のお客さんは焼酎はが多い様子で、芋、麦、米、泡盛など、400円前後で10種類以上の焼酎が並び、日本酒は「男山」「峰の白梅」「亀の越」などが揃う。他にも梅酒、サワー、ウイスキーも揃い、さらに酒屋らしく、外国産ビールの品揃えも豊かだ。
壁には名古屋らしく、中日ドラゴンズの写真がたくさん貼られ、昨年の優勝記念のノリタケ製のサインいり絵皿が高々と飾られている。また僕がいる左の壁際には、本日の中日新聞が貼ってあり、僕はその記事を読みながら酒を飲んだ。
僕以外のお客さんも全て1人客だが、全員が顔見知り。1人入るたびに1人抜けたりするが、その誰もが毎日通う常連の様子で、黙ってても好みの酒を出すばあちゃんが素敵だ。客の1人のおじ様が時々僕に話しかけてくれるが、深入りまでしてこない。常連が幅を利かすわけでもなく、新参者にも優しい空気が嬉しい。良い店をばあちゃんは経営している。とてもこのばあちゃんが好ましく思えた。
最後の1杯に「男山」を燗してもらい、「ネギチクワ炒め」なる物を注文し、これにてお会計終了。しめて1,500円なり。
熱めの男山をちびりちびりやりながら、白葱とチクワをごま油でぴりからに炒めただけの素晴らしい味に感銘を受けながら、僕はほろ酔い気分に。
さてそろそろ飲み終わる熱燗を眺めながら、もう1杯飲もうかどうか考えた。しかし廻りの人を見てみても、決してここで本腰入れて飲む様子はない。角打とはそういうもの。黒いケースの中もカラになり、僕は「ごちそうさま」とばあちゃんに声をかけながらコートの前ボタンを閉じる。ガラガラと扉を開けると、背中に「気をつけて」と、ばあちゃんの声ではない声がかかる。常連さんの二人の声が重なった。これが常連で賑わう角打ちの礼儀か?僕は笑顔でお礼を返して扉を閉めた。ふーっと息をつきながら見上げた名古屋の空は満天の星空だった。

桃色狼

2007-04-17 17:29:22 | Weblog
1月9日 
なんだか話しが数回前後しましたが、ようやくブログの記事も年を越しました。遅まきながら、あけましておめでとう。
さて今日は学会やカタログ作成などでいつも力を借りている業者の担当者を会社に招き、色々な打合せを行なった。しかしそれは建前であり、実のところはそのFさんと飲みに行く口実であり、というのも去年秋の僕の結婚パーティーの際に、素敵なフラッグ(詳しくはまた)を作ってもらったり、僕の同期の余興に使う物の作成まで手伝って頂いていたため、同期と一緒にお礼をしようという意図もあったのだ。
仕事始め間もない本郷の夕暮れの中を歩き、会社から5分ほど歩いたある店へ、僕らはたどり着いた。この店の名は「桃狼」。以前に大人数で飲みに行き、多種多彩なお酒と、豊富な豚ホルモンが記憶に残っており、機会があれば訪問したいと考えていた店だ。
入口に近いテーブルに座り、コートを脱ぎながら生ビールを注文。お絞りで手を拭きながら、「いやー」とか「ふー」とか、間の抜けた声を出し、まだ客の入りもまばらな店内で落ち着かない僕らはビールの登場を待つのみだった。
届いたジョッキを握りしめ、昨年のお礼を述べながら、新しい年を祝い乾杯!!グビリと冷えたビールが喉を刺す。おそらくこれはキリンの一番絞りだろうか?うまい。余談だが僕は大手4社のビールなら、目をつむっていても飲み分けはできる!!プチ自慢ですが。
世間話をしながら、ホストの僕は料理を注文。やや日本語の伝達力にかける中国人のアルバイトに、あれやこれや聞きながら注文したのは次の通り。「レバーの塩辛」「ガツラー」「クレソンサラダ」「レバカツ」。そして焼トンは「ミノ」「タン」「バラ」「なんこつ」をお勧めのタレで注文した。
世間話に盛り上がりながら、2杯目のビールが届く頃には、先行型の料理が登場して歓声が上がる。「レバーの塩辛」は生のレバーをごま油などに軽く漬け込んだもので、新鮮なレバーの旨みがたまらず、塩辛さがビールを引き立てる。これはここでしか食せない一品だ。「ガツラー」はガツを軽くボイルし、ラー油で絡めた気さくな一品。しかしこの歯ごたえと味わいは冴え渡り、今まで一番のガツ刺しと言っても過言ではない。そして驚愕するのは「レバカツ」だ。大降りのブタレバーに薄い衣を纏わせ、カラリと揚げたこの野郎は形容する言葉が無いほどの旨さのにくい奴だ。僕のノドが珍しく3杯目のビールを欲する。ああ、感無量だ。3杯目の生ビールなんて学生時代以来か?健康を気遣い注文した「クレソンサラダ」がほのかに苦味を沿え、食べたそばから血をさらさらに浄化してくれるように感じるのは僕だけだろうか・・・
甘辛いタレにまみれ、程よく焦げ目もつき、それでいて中はレアーな焼トンが届く頃には、僕らは日本酒に切り替えだ。とりあえず好きな日本酒をとの計らいで、僕は静岡の「開運」を熱燗で。我ながら正月にぴったりの注文だ。Fさんは八海山を冷で注文だ。
届いた酒を焼きトンにマリアージュさせながら、話は昨年の結婚パーティーの裏話に移り、酒も進むが料理の追加も進む。今日は男3人豪快に飲み、かつ大胆に食うが心情。それぞれ旨かった焼トンを追加注文し、今夜の友に決めた八海山を2合徳利でがんがん追加。僕はここの「ミノ」に虜になり、いったい何本食べたやら・・・
気がつけば同期がシメにと「焼おにぎり」を注文し、それもしっかり腹に収め、僕らはしたたか酔っ払い、普段話さない事をこれでもかと口に出し、大笑いのうちに店を出た。
今年も宜しくと握手を繰り返し、今年最初の居酒屋訪問は大成功に終わる。さあ今年もブラリ居酒屋巡りのスタートだ。良いスタートを切ったと確信し、僕はこの週末福岡へ帰ることを思い、ややほくそえみながらマフラーを締めなおしたのである。

居酒屋対比 名古屋手羽先編 2

2007-04-09 08:20:21 | Weblog
さて今日も仕事を終えた僕は、名古屋の町へ出る。昨夜の「世界の山ちゃん」と比較すべく、今夜は「風来坊」を訪問だ。風来坊は確かに名古屋を車で走っていると、所々でその看板を目にする。山ちゃんが大きな町(栄、錦、名駅周辺)に何店舗も店を構えるのと異なり、風来坊は街中にもあるが町外れにも看板が見られる。なんとなく「いぶし銀」を感じさせる。さてそんな2大巨頭にはどんな違いがあるのだろうか。上杉謙信と武田信玄。源氏と平家。劉備と曹操。王と長嶋。猪木と馬場。この名古屋でそんな感じの勢力争いを繰り広げているのだろうか?
さて「風来坊・栄店」のあるビルを地下に降り、暗い廊下を奥へ進むと暖簾が下がっている。なんとなく怪しげな雰囲気だ。ビルも古いし、廊下にはビールケースや野菜のダンボールが山積みだ。店構えは山ちゃんに軍配が上がる。
さて店に入ると左前に10程度座れるカウンターがあり、その後ろにテーブルが3つ。店の奥には縦長に小上がりが連なり、客の入りは中々な物。昨日と同じ時間帯だし、客の入りは風来坊の勝ちだ。さてカウンターに席を取り、出されたお絞りで手を拭きながらビールを注文した。
サッポロの大瓶が出されたので、ほっと一息入れながらビールを注ぐ。綺麗に洗われたグラスでビールの泡のたちも良い。さてまず乾杯。グビリと今夜も旨い。
お通しは「カキの甘辛煮」で、程よく付けられた甘さがおいしい。山ちゃんのマカロニサラダと比べれば風来坊に軍配が上がる。お通しで手抜きをする店は最悪だ。だったら最初から出さないか、ピーナッツなどの乾き物の方が安全で安心だ。
さてメニューを見ながら、まずは「手羽先」を1人前注文だ。メニューには刺身、焼き魚、揚げ物、サラダなど、色々な食べ物が並び、手羽先やドテ煮や味噌串カツ以外には、特に名古屋を感じさせる物はない。カウンター内にある厨房には年配のおじさんが二人は入り、1人は奥で揚場(焼き場?)を担当し、手前のもう1人が刺身などを受け持ち、もう1人、目の届かない所でフライパンを煽る音が聞こえる。厨房にかけられた本日お勧めにはマグロ、ブリ、ホタテ、イカなどの鮮魚が書かれているが、特に舌が求める物はなしだ。
さて「手羽先」を作るところを眺めていると、まずはバットに盛られた手羽先を油に投入。しっかり揚げた後、油を切って網の上に載せる。それを上からもう一枚網で挟み込み火の上で炙る。そしてそれにタレとコショウ少々とゴマをかけて、キャベツの盛られた皿に盛り付けて完成だ。風来坊の手羽先は山ちゃんと違い、手羽の先部分(手羽先を食べる際に手で持つ部分)が最初からカットされており、その分だけ量が少ない。しかし野菜がしっかり添えられているところが出張者の僕には嬉しい。ビタミン不足は出張中の永遠のテーマ。さて一口かぶりつくと、山ちゃんほど辛くなく、口が麻痺することもない。どちらかと言えば薄味だ。しかししっかり味わいはあり、かけられたゴマがアクセントになり旨い。手のかけ方、味で言えば風来坊の勝ちだが、手羽先好きにしてみれば、手羽の先部分が無いのはもの寂しい。手羽の身の部分がメインではあるが、やはり軟骨が多く、皮が薄くてパリパリな手羽の先部分も楽しみのひとつだ。それが無い点で言えば・・・甲乙付け難い。
さて更なる比較の為に僕は熱燗を注文した。酒の銘柄は大関だと書いてある。
カウンターには僕より随分年上のおじ様が新聞を読みながら手羽先と刺身でビールを飲んでいる。テーブルにはサラリーマン二人組みが会社の愚痴を言い合いながら、愉快にビールを飲んでいる。奥の小上がりには大学生にも見える若者グループが何組か入り、豪快に手羽先のオーダーを繰り返している。店の中の雰囲気というか活気は山ちゃんと互角だ。どことなく怪しんでいた僕の目も心も、そのころには警戒心と解いていた。
届いた熱燗は大徳利になみなみと注がれており、燗付けマシンにて暖められた物だと飲んでみるとわかる。普通ならあまり関心しないが、電子レンジより数段まし。熱燗は風来坊の勝ちだ。少々口寂しいので、僕は名古屋名物「味噌串カツ」を追加しながら酒を傾ける。
似たようなふたつの店を比較するなどという、大変失礼な企画を実施した。批評も多く出してしまったし、お店に対して失礼なことも申しましたが、結論を申しますと・・・
どちらもおいしく楽しめればOKなわけです。酒飲みは(特に僕は)なんだかんだと薀蓄を語りますが、心の芯には「楽しくおいしく飲めれば良い」という火が燈っているのです。
ただ、その火を美しく、愉快に燈し、そして満足して火を吹き消して眠る為に、店の選択を間違わなければ良いのです。そこには少しの注意が必要です。
あれが食べたいと思ったら、それがおいしく食べれる店へ行くこと。その際、何かを我慢したり、捨てたりする必要があるならば、それを覚悟すること。それについて異議申し立てはしないこと。自分を全て満足させてくれる店なんて、きっと地球の裏側まで探したって存在しないはず。今日の自分の気持ちに相応しい店の暖簾を潜る。これを心がけていれば、かなりの確立で満足した顔でお会計までたどり着けるはず。そのためにもたくさんの暖簾をくぐり、多くの情報を集めることが大切でしょう。なんてことを味噌串カツを頬ばりながら考えた僕です。
さあ、まだまだTHE居酒屋道の奥は深いと再確認した僕は、ようやく2006年の師走中盤を終えようとしていた。記事を載せるのは4月。早く記事と現在の折り合いをつけねば・・・

居酒屋対比 名古屋手羽先編 1

2007-04-02 11:57:07 | Weblog
ちょいと話が前に戻るがあしからず。話は昨年12月の出来事です。

今年最後の名古屋出張。というわけで尾張名古屋で酒を飲むのも今年最後だ。と言うわけで名古屋の街に出た。
いつもは「大甚」に足が向かうところだが、今回は以前からやってみたいと思っていた企画を実践してみようと決めた。皆様ご存知の通り、名古屋名物と言えば「みそかつ」「味噌煮込みうどん」「あんかけスパゲティ」などなど、少し引き気味になる食べ物が多い中、「手羽先」だけは全国区になりつつある。東京にも「鳥良」という手羽先唐揚の店がチェーン展開されており、僕も何度も行ったことがある。しかし名古屋の手羽先といえば「世界の山ちゃん」だ。僕も名古屋の営業引継ぎで始めて名古屋に先輩に連れてこられた時に連れてこられ、手羽先の洗礼を受けすっかり虜になっているが、最近は東京に何店舗も山ちゃんが進出してきており、名古屋に行かずとも食せるようになった。東京でも数回行ったが、あのぴり辛&香ばしい味付けは完全にビールを止まらなくする。まあそれは良いとして今回の企画とは、その「世界の山ちゃん」と地元名古屋で人気を二分(?)する「風来坊」との徹底比較だ。地元の業者に話を聞くと、「風来坊」派もかなりの数を誇り、お互い対抗心があらわだ。ならば僕がその両雄の言い分を聞き、見極めるしかないだろう。
さて初日の今日は「山ちゃん」だ。僕はホテル近くにある「世界の山ちゃん・栄店」の暖簾を潜った。まだ店内は客がまばら。僕は1人だと店員に告げ、どこでも言いといわれたものの、1人の定番であるカウンターに腰を下ろした。「ふぅ~」と一息つき、店員に瓶ビールを注文し、届いたお絞り(山ちゃんオリジナル)で手を拭きながら店内を見回した。
1人客が少ないのだろう、カウンターは6席程度。東京で「和民」や「白木屋」に1人で行くのを想像して欲しい。店のレベルは別として、雰囲気は似たものだ。
さてビールを届けてくれたお兄さんにコップにビールを注いでもらいながら、「手羽先」を1人前注文。注がれたビールを軽く持ち上げ「お疲れ様」。ぐびり一口飲んで、「んっ?」と違和感が広がる。「山ちゃん」といえばモルツスーパープレミアムというイメージが僕にはあったのだが、どうやらモルツを注文しないと出てこないらしい。久々に飲む「スーパードライ」にがっくり・・・やっぱりおいしくない。いや、好きではない。少し寂しい気持ちになっていると、早くも手羽先が届く。1人前5本。カリカリの手羽先に甘辛いタレがかかり、これでもかと黒コショウが振りかけられている。割り箸袋に書かれている手羽先の食べ方にしたがい、まず1本。パリッとジューシーでスパイシー。やはりおいしい。スーパードライの違和感も少しぼやかせてくれた。初めて山ちゃんのカウンターに座った大きな目的は、厨房の様子を見ることでもある。若いバイトの兄ちゃんが多数蠢く厨房内は、おしゃべりと笑顔にあふれているが、真面目さに欠ける。やはりチェーンの居酒屋だなと思わせられる。他のテーブルの注文で手羽先が入った。さあ、目を輝かせて手羽先を作るところを見つめたが・・・油が熱せられたフライヤーの横に置かれた大きなザル。そこには一度揚げられた手羽先が山盛りになっており、そこから注文に合う本数の手羽先を取り、油に投入。しばらくしてそれを網で上げ、油を切ってタレをかけ、コショウを振って出来上がり。しかも先ほどのザルの横にはビニールに詰められた冷凍の手羽先が・・・まあこれだけの大型チェーン店だし、冷凍素材を使うことは安定供給とコストダウンのためにも当たり前だが、それをお客の目に触れさせてはいけない。大きく気持ちをそがれたが、僕はもうひとつ調べることがあり、熱燗を注文した。とどいた熱燗(銘柄不明)はおそらく電子レンジで燗されたと見え、熱くて持てない徳利から、燗がつかり過ぎ、電子の力でお酒の分子が壊れた酒の香りがツーンと漂う。それでも飲んでみないと比較はできない。少し時間を置き、口に含んでもまだ熱い。しかも味が変わった酒はこの上なくおいしくない。僕はここで偵察を終了し、会計を済ませた。
大型チェーンとは言え、「世界の山ちゃん」は地元民に愛され、しかも東京でも評価の高い存在。言わば「名古屋の味の代表」なわけである。しかしその実情は僕をがっかりさせた。所詮と言っては悪いが、大型チェーン居酒屋と同レベルだ。今まではそんなこと考えず、いつもおいしく食べていたが、今の僕には満足できない。あまり批評ばかりだと行けないが、店選びの参考になればと思う。そしてフォローもしておこう。一人客だからということもあるが、バイトの兄ちゃんがビールを注いでくれる対応や元気な挨拶は評価できる。いろんな事を気にしなければ、きっと最初から最後まで楽しく過ごして店を出られると思います。それに「えびふりゃー」「どて煮」「味噌カツ」「天むす」など、名古屋の味覚を幅広く、そして気軽に味わえるのは山ちゃんの大きなメリットです。
とりあえず今回の採点は、次回の「風来坊」の評価が出てということにして。それでは明日は「風来坊」の暖簾を潜ります。