あべまつ行脚

ひたすら美しいものに導かれ、心写りを仕舞う玉手箱

歌仙と古筆 出光美術館

2018-07-11 23:33:33 | 日本美術
 
 大変ご無沙汰、の更新となりました。

 花見シーズンが終わり、女子高の華道部が始動したり、
 新たな文化活動に参加することとなり、
 ボランティア活動が3本となりました。
 日々慌ただしくなってきまして、ブログ更新がすっかりおろそかに。

 学んでいるいけばなの花展もようやく一段落し、家元、諸先生たちの作品を
 拝見するシーズンも前半終了期となりました。

 その中で寸暇を狙ってアート鑑賞に出かけて行きつつも、
 気がつけば、梅雨明けの夏本番という季節に。

 春の美術展覧会では、
 熊谷守一 近代美術館
 松平不昧 三井記念、畠山記念
 名作誕生 トーハク
 木島櫻谷 泉屋博古館
 岩佐又兵衛の浄瑠璃物語絵巻 MOA美
 池田龍男 練馬区立美術館
 森山安英 北九州市立美術館
 はじめての古美術鑑賞 漆 根津美
 琳派 山種美
 などなど、素晴らしい展覧会をみてきました。
 他にも、もろもろ通っていますが、とりあえず、
 印象に残ったものをあげてみました。

 強烈だったのは、熱海のMOA美術館。
 岩佐又兵衛の「浄瑠璃物語絵巻」全巻おしげなく一挙大公開!
 あの絢爛たる華やかさとエキセントリックな物語に
 さぞ熱狂を集めたことだろうと
 全巻に渡る微細な描き込みの激しさと色の鮮やかなこと、
 煌びやかさにくらくらしたのでした。
 本当に、岩佐又兵衛という絵師の仕事に降参するしかないのでした。











 そして今回、期せずして出光美術館で又兵衛の作品に
 出会うこととなったのです。

 「歌仙と古筆」人麿影供900年



  チラシに抜擢されたのは、鈴木其一「三十六歌仙図」
 
 酒井抱一の愛弟子の其一の描き込み激しくひしめき合う、三十六歌仙図。
 どれがどの歌仙なのか、まったくわかっていませんが、
 人麿の姿だけは特徴があるので、見つけることができます。
 相変わらず描き表装の拘りように、其一を感じます。

 しおれた烏帽子、長い眉毛とあごひげ、右手に筆を、左手に巻紙を持っています。
 なんとはなしに歌の構想を練っているようなけだるそうなそぶりで
 時には脇息に腕をのせていたり。大体このようなスタイルでいることが多いようです。
 鎌倉時代に制作された、佐竹本三十六歌仙絵から、
 土佐光起、岩佐又兵衛、宗達、そして、其一まで時代をこして継承されてきた
 歌聖、歌神、ともいわれる人麿像が紹介されました。
 優れた歌を詠むことの重要さを思い知るのですが、そこを通り抜けて、
 はては歌神となって、人麿像ををまつる儀式図も展示されたのでした。

 なぜ、そこまで高みに連れて行かれたのか、知りたいところですが
 やはり、歌の力がそれ程に試され、重要視されてきたことなのだろうと
 漠然と想像します。ハイレベルな歌の力を持たねば、
 殿上人に抜擢されないという国家試験的な要素のあったのでしょうか。

 三十六歌仙で著名な佐竹本。
 その中の秀逸、3枚を出光美所蔵となっている晴れがましさが
 図録にもあらわれているのですが、
 上下2巻が1919年に鈍翁によってくじ引きで分断された佐竹本、
 その行方物語も興味津々なエピソード満載のようです。

 東博での円空展に出陳されていた人麿像や
 東照宮拝殿石の間の三十六歌仙図の扁額、なども思い出され、
 意外や人麿像を見てきた気もします。


 今回の展示には思いの外、岩佐又兵衛作が多く出品されていて、
 それがまたすばらしい屏風2作品。ほか、6点も。
 びっくりしました。

 「三六歌仙・和漢故事説話図屏風」伝 岩佐又兵衛



 図録では、見開きの掲載で屏風の全体を見渡すことができますが、
 これは実見しなければ、描き込みの熱量が伝わらないだろうと思います。
 上段に歌の色紙、その下に作者の肖像が左右に18作ずつ、その下の3分の2の空間には
 金雲立ちこめる中、団扇面の重なりが点在し、扇面のなかには
 細やかに伊勢物語、平家物語、源氏物語などの著名シーンが描き込まれるという
 手の込みよう。それでも全体のバランスが整理された構成となっているので、
 うるささが全くなく、雅で華麗、ゴージャス。
 それぞれの三十六歌仙の姿、作品を一望しながら、その源泉も感じることができるのです。
 又兵衛に発注した人物にとって、三十六歌仙というモチーフを使うことで
 時代の頂点的ステータスを手に入れたのではないかと想像しました。

 その後に展示された
 「扇面散図屏風」伝俵屋宗達 



 扇面がばらばらと散らばっていて、リズム感ある屏風スクリーンです。
 よく見れば、歌仙たちが扇面に描かれています。
 三六人全員集合ではなく、選ばれた六歌仙なのでしょうか?
 人麿はもれなく、見つけることができます。
 さすが扇屋のなせる技だ、とうなずきつつも、
 楽しめる素養、歌の教養の大事さをまたしても思い知らされるのでした。

 「三十六歌仙図屏風」伝 岩佐又兵衛



 
 先の和漢故事を描き込んだものと異なり、こちらの方は三十六歌仙、勢揃い。
 全面金箔の下地に、歌仙たちの細やかな肖像が描かれ、背後には作品の歌が配置。
 金地の屏風の上方には殿上の御簾が下がっています。
 こちらも全体の構成がキリッとしていて、計算された配列に安定感があります。
 それにしても、衣裳の柄などの丁寧な描写にはため息です。

 こうして描かれてきた三十六歌仙、柿本人麿の肖像の展示の間に
 歌を詠んだ古筆、が紹介されています。
 そのたよやかな、たおやめぶりに、しなしなしてしまいます。
 美しい文字と、美麗な料紙、に胸騒ぎの歌がしたためられ、
 それを手にした人をそわそわさせ、なびかせたことが容易に伝わります。

 西行、定家にはじまり、小野道風、紀貫之この人の文字にすなるわけにはいかなかっただろうと
 不埒なことを思いつつ、
 藤原行成、佐理、公任、などなど藤原家の名筆を
 まったく読めないレベルながらもとろけてしまうわけでした。
 
 琳派関連では、光悦、宗達、松花堂昭乗、後水尾天皇、乾山、其一作品が展示。
 「西行物語絵巻 第一巻」宗達による絵、烏丸光廣による詞書きも注目です。
 出光美術館には絵巻4巻のうち、巻1,2,4,の3巻を所蔵し、重要文化財となっている
 お宝絵巻です。
 今回は、佐藤義清が西行になっていくまでの公開場面です。
 そのなかでもやはり、歌の評価が高かった、義清の扱いに注目です。
 武勇優れ、歌にも秀で、眉目麗しい義清の運命や如何に。

 会場折り返し地点に、平安期のごつい猿投の壺が急所を締めています。
 
 国宝となった、古筆手鏡「見努世友」(みぬよのとも)の
 出陳も見所です。

 最終には
 近世歌仙絵の変奏、として、鈴木其一の新しい歌仙絵の解釈が光ります。



 こうして、会場を一巡りすることで
 柿本人麿、三十六歌仙、の描かれ方を一望することができるのでした。
 
 それにしても、東博からの出品が3点ほどあるものの、
 その他全部が出光所蔵のもの、コレクションの水準の高さに
 ひたすらの敬意を捧げます。
 殿上人の典雅な歌の世界、遙かな教養と美学、
 今はどれもが足りてないことを悲観もするのでした。

 詳しくは、出光美術館サイト、こちらをご参照下さい

 会期は意外と短く、7月22日までとなっています。
 地下鉄から地上まであがれば、すぐにエレベーターホール。
 灼熱炎天下に出なくとも入館できます。
 三井記念美、サントリー美等とも提携があるので、
 入場券が割り引かれるサービスもあり、チェックをお勧めします。
 
 次回は、江戸時代へタイムスリップ。
 「江戸名所図屏風と都市の華やぎ」7/28〜9/9
 が開催予定です。これまた、楽しみな展覧会です。  

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