シカゴ交響楽団日本公演(2019)
■指揮
リッカルド・ムーティ
■曲目
ブラームス:交響曲第1番 ハ短調 op.68
ブラームス:交響曲第2番 ニ長調 op.73
アンコール曲
ジョルダーノ:歌劇 「フェドーラ」第2幕 間奏曲
ベルリン・フィル、ウィーン・フィルと並ぶ世界のトップオーケストラ、シカゴ交響楽団が7度目の来日公演を行いました。
指揮はウィーン・フィルのニューイヤーコンサートを5回も指揮している世界的巨匠
リッカルド・ムーティさん。ムーティさんは2010年からこのオーケストラの音楽監督を務めていて、両者の関係はいまが最も熟している時期と言えます。
また大阪でこのコンビの演奏が聴けるのは今回が初めてです。
今回の来日公演は全5公演でこの日が最終日。他の4公演は全て東京文化会館での開催で、
プログラムはヴェルディのレクイエムが2回、チャイコフスキーの交響曲第5番とリムスキー・コルサコフの「シェエラザード」が1回、ブラームスの交響曲第1、2番が1回でした。
ムーティさんの指揮もシカゴ交響楽団の演奏も生で聴くのは初めてで、フェスティバルホールの赤い階段を昇る間と、長いエスカレーターに乗っている間、非日常の世界へ向かう緊張感で胸の鼓動が高まりのをはっきり感じました。
シカゴ交響楽団と言えば重厚で豪華絢爛な響きのオーケストラというイメージがありました。
晩年の朝比奈隆さんが定期に招聘された際、ホルン奏者の増員を求めたところ、楽員から「我々で倍の音量を出すから大丈夫」と言われたというエピソードがあります。結果そのコンサートはスタンディングオベージョンになったそうです。
交響曲第1番
ムーティさんは幾分どっしりとしたお姿で、とてもゆっくり歩きながら登場されました。若々しくきびきびした印象があるムーティさんですが御年77歳。まさに大巨匠のオーラを発していて、会場の空気が一気に引き締まるのがわかりました。
指揮台に登ったムーティさんが背筋をピンと伸ばし、腕全体を大きく幾分シャープに振って引き出した荘厳な第1音に、心のなかで「おーっ」と深く唸ってしまいました。
ティンパニが片手でひとつずつ刻む音は凛々しく澄んでいて、これと共鳴する多重の弦楽器の音は息を飲むほど柔らかくて優雅。続く木管楽器はどの奏者もとても個性的な音を出していると思うのですが本当に巧い。金管も加わった合奏部分は期待通りの豪華絢爛で、全体では言葉に尽くせない程美しい。
また、個々のフレーズから1つの楽章そして曲全体が、ムーティさんの熟練のタクトで大きな1つの歌のように聴こえるのが感動的でした。
交響曲第2番
第1番のような多重な音の響きに加え、楽器間の掛け合いも特徴的で引き込まれる曲。
このスーパーオーケストラの実力が最大限に発揮されてたと思いました。
スタジオ録音のCDを聴いているような完璧さの上に、個別奏者の巧さ、個性的な音、優雅で美しい響きがひしひしと伝わり、人の唄う歌のような温かさがありました。
大曲2つのプログラムで、いずれも第3楽章はほんの少し早め、ほかはとてもゆっくりしたテンポだったと思うのですが、ゴツゴツした印象は全くなく、究極の豪華絢爛さと優美さを兼ね備えた歌になっていて、演奏以外のことは何も考えられない夢のような合計100分間を過ごすことができました。
また演奏そのものとは関係ありませんが、楽団員は国際色豊かでアジア系の方も多いことと、皆さん演奏中にあまり体を揺らさないことが印象に残りました。
「フェドーラ」から
アンコールは、ブラームスのハンガリー舞曲の何番か?と勝手に想像していたら、ハープが運び込まれ、ムーティさんが客席に向けて「イタリアのオペラ」と日本語で話し始めた後英語で曲を説明されました。そして演奏された小曲は優雅で大オーケストラ演奏の魅力がたっぷり。弦楽器中心の曲でしたが、まるできょうのコンサートのダイジェストを聴いているような気分になり、感動が深まりました。
終演後ムーティさんはCD購入者向けのサイン会を開かれました。
日本公演最終日でとてもお疲れの中だったと思うのですが、何百人ものファン1人ひとりに優しい笑顔で接していらっしゃいました。
聴き慣れている曲の、とてつもない演奏を聴いてしまったという感動と放心状態のような感覚が、その後何日も続いています。
(2019.2.4 大阪 フェスティバルホール)