─光る波の間─

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今日の音読

2005-11-22 20:21:35 | 
意味はわからずとも、美しき日本の言の葉、響きとリズムを楽しむべし。

 ・・・・・
 さもあれ 御身は如何なる人ぞ

 (さもあれ おんみはいかなるひとぞ)

 いや人とははづかしや 真ハ我ハ非情の精
 (いやひととははずかしや まことはわれはひじょぉのせい)
 芭蕉の女と現れたり
 (ばしょぉのおんなとあらわれたり)

 そもや芭蕉乃女ぞとハ 何の縁にかかゝる女体の
 (そもやばしょぉのおんなぞとは なにのえんにかかかるにょたいの)
 身をば受けさせ給ふらん
 (みをばうけさせたもぉらん)

 その御不審ハ御誤り 何か定めハあらかねの
 (そのごふしんはおんなやまり なにかさだめはあらかねの)


 土も草木も天よりくだる 

 (つちもくさきもあめよりくだる)

 雨露乃恵みを受けながら
 (うろのめぐみをうけながら)

 我とハ知らぬ有情非情も
 (われとはしらぬうじょぉひじょぉも)

 おのづからなる姿となりて
 (おのずからなるすがたとなりて)

 さも愚かなる
 (さもおろかなる)

 女とて
 (おんなとて)

 さなきだに あだなるに芭蕉の 女の衣ハ薄色の
 (さなきだに あだなるにばしょぉの おんなのきぬはうすいろの)
 花染ならぬに袖の ほころびも恥ずかしや
 (はなぞめならぬにそでの ほころびもはずかしや)

謡曲『芭蕉』(檜書店)/作:金春禅竹



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なんで謡曲なんぞを?
それは、中沢新一の『精霊の王』という本の中に登場して、
その内容がなにやら凄くて関心を持ったから。
狂言や能、まとめて猿楽はたしか室町時代のこのころは、
まだまだ大衆の余興という面もあったと思うのですがねぇ‥。
逆に芸能の、初期の本質的な姿が現れてるのかもしれない。
そんなわけで謡曲本を入手してみたのでありました。(物好き)

この『芭蕉』の内容は・・・、
山奥で法華経を読んで暮らす僧侶が、
あるときから何者かの気配を感じて、見ると一人の女人がそこにいた。
その女人は、「人に生まれるのが難しく、真理の教えに接することも稀な環境なのに、
こうして接することができたことが嬉しく、花を捧げ礼拝をしていました。
どうか仏縁を結ばせてください」といった。
僧は中に入れ、色々話してみるとその志と仏法の理解の深さに驚いてしまった。
実は女人は庭の芭蕉の精であった。(この後が上記の内容になります)

 僧は聞く。
 「あなたはどういう因縁で人間の女性の身になったのですか?」
 すると女人は答えて、
 「そうのようなご不審がそもそも間違っています。人間や動物は意識を持つがゆえに
 有情と呼ばれ、私たち植物には意識作用が無いというので非情と呼ばれていますが、
 もともと両者の間には、決定的な違いなどは存在しないのです。
 存在の真理を、空から降ってくる雨のようにして、たえまなく受け取っていながら、
 それに気づいていない有情も非情も、自分の受け取っているものの素晴らしさに
 気づくことのないまま、それぞれの自然状態に留まっています。
 芭蕉である私も、自然のままに存在する植物として、人間の自然体である女性に
 変身するのです。」


そのあとの、<さなきだに..>は、女性の外見の様子を説明している文です。
上記の短い言葉から、ここまで訳せるものなのか。^^;
もちろん中沢さんが親切に、理解を援ける言葉をたくさん入れてくれてるんでしょうが。
原文を読むだけならさほどの苦労は要りません。
漢文じゃないので、ふつうに上から下へ読めばいいだけだから。

ただ、読み方の記号がわからず、 どこが文章の終わりかとか、
どこまでがセリフでどこからが情景説明なのかが、じつはなかなか解らないのが
むむむ…なところであります。
でも読んでると、気持ちがいいんですよね。リズムと響きがさ。
では、ラストシーンをば。

舞をひとさし舞ったのち、かき消すように消えた芭蕉の精と、
あとに残るは風に破れた芭蕉葉。その静けさを語ります。

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 これも芭蕉の 葉袖を返し
 (これもばしょぉの はそでをかえし)
 
 返す袂も芭蕉乃扇の 風茫々と物すごき古寺の

 (かえすたもともばしょぉのおおぎの かぜぼぉぼぉとものすごきふるてらの)
 庭乃浅茅生 女郎花 刈萱
 (にわのあさぢう をみなめし かるかや)
 面影うつろふ露乃間に 山颪松の風
 (おもかげうつろぉつゆのまに やまおろしまつのかぜ)
 吹き拂ひ吹き拂ひ 花も千草も散り散りに
 (ふきはらいふきはらい はなもちぐさもちりぢりに)
 花も千草も散り散りになれば
 (はなもちぐさもちりぢりになれば)
 芭蕉ハ破れて 残りけり
 (ばしょぉはやぶれて のこりけり)

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