フクロウは夕暮れに

接触場面研究の個人備忘録です

図們江(豆満江)まで

2010-02-12 23:39:51 | Winter walk in Yanji
時間は前後するが、午前中は延吉から車で1時間ほどの図們まで5人も乗れる大型のバンで走った。曇り空で天気予報では雪模様との話。延吉市を北上して高速にのって東に進む。すぐに山が近づいてきてその間に凍った川が蛇行してついてくる。川は延吉市を南北に隔てる川などが合流して図們まで流れているらしい。ようやく町並みが見え出すと同時に雪が零れ落ち始める。運転手は図們江にかかる図們大橋の手前、国境の検問所前で車を停めた。

図們市は対岸の南陽労働者地区と呼ばれる北朝鮮との国境で有名な町だ。国境は観光地でもあり、江沢民の名前が彫られた碑や土産物屋が並んでいる。ぼくは物見高いただの観光客だから、すぐに国境の向こうを眺めたくなる。

国境は橋の上に書かれていて、それがいかに人為的なものでしかないかがわかる代物だ。橋自体は1941年につくられていて、おそらく関東軍がつくったものだろう。そういえば、対岸の南陽市のすぐ背後にせまる山並みにはロシア軍の進軍をふせぐための砲台建設が試みられたらしい。ここは、38度線とはちがって、中国と北朝鮮の国境だから、けっして緊迫した雰囲気ではない。むしろ友好の碑が建てられていて、計画通りいったなら両市は自由経済区が実現するはずだった。しかし、現実には改善の兆しは見られない。図們江だけでなく、すべてが冬の寒さの中に灰色に凍結してしまったようだ。

ぼくらが行ったつい5日後にはアメリカ人がこの橋を単独で北朝鮮まで渡り切り北朝鮮側に逮捕されたらしい。これはなんのことだろう?あるいは2年前には自民党の加藤紘一議員らがこの橋を歩いて渡って南陽市を回って歩いたという記事もみかけた。昨日の朝日新聞にはこの図們江を渡ってくる脱北者の女性たちがブローカーを介して売られているという記事も掲載されていた。外の人々はそのようにこの一帯を眺めている。ぼくもまたそのようなまなざしで対岸を見ようとしているわけだ。

検問の監視員に見守られながら、線引きされた橋の途中まで歩いた。川べりには北朝鮮の監視員が二人ゆっくりと巡回している。そのとき、ぼくの横を一人の男が通りすぎて、国境線を越えて歩き出した。監視員が鋭い声で「おいっ!」「止まれ!」と言うのだが、まったく聞こえないように男はどんどん橋を渡っていく。そして向こう側に消えていった。そのときはいつ男が射撃されるかとかたずを飲んで見守るだけだったが、そのようなことは起きなかった。案外、観光客用のアトラクションだったのでは?とあとでみんなで笑ったのだったが。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 西市場のフィールドワーク | トップ | 煙突の下で »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

Winter walk in Yanji」カテゴリの最新記事