フクロウは夕暮れに

接触場面研究の個人備忘録です

発話生成の段階と断りの誤解は結びつけられるか

2006-07-08 00:03:10 | today's seminar
大学院授業ではここ数週間、規範のことを考えています。以下は他の人にはわかりにくいと思いますが、私自身の覚え書きです。

今日は同僚の高先生の論文から考えました。高さんの論文では受け身の生成モデルとして以下のような過程を提案しています。

(a)インプット→(b)機能→(c)表現→(d)表層化

この各段階に生成過程と管理過程が平行して働いていると言います。また、(a)から(b)、(b)から(c)、(c)から(d)の過程にそれぞれ規範が適用されることも指摘しています。

さて、非母語話者の発話は表層化されて、発話され、母語話者の理解過程に入っていきます。初対面などではまずはこの表層化の規範が強められ、非母語話者の言語表現に注意が向けられることになるでしょう。つまり、母語話者の発話との相違を留意する段階です。しかし、時間がしばらく経過すると、今度はその表層化の規範が緩和されます。つまり、表現上の逸脱は見逃され、意味に注意をするように管理が行われます。

このとき、注意しなければならないのは、表層化規範の緩和は何も接触場面の特有の現象というわけではなく、母語場面の常態だということです。母語話者同士で話をするとき、最初は相手の方言アクセントに気がついてもそのうち気にしなくなります。同じように、接触場面でも母語話者は、母語場面と同じように扱おうと心がけることになります。これが表層化規範の緩和という現象の意味ではないかと思います。

表層化規範の緩和をすると、どの規範で相手の発話を理解することになるかと言えば、それは一部は表現に、一部は機能の段階に相手の意味を求めることになるでしょう。つまり、表層化された発話という確固とした基盤を元に理解を組み立てるのではなく、その前の機能(意図)にまでさかのぼろうとするわけです。

もし母語話者が勧誘をして、非母語話者が沈黙で答えたとします。母語話者は相手の沈黙に対して、接触場面のために、表層化規範を緩和して、機能のところで理解を組み立てようとします。非母語話者は当然、自分が行ったインプット(勧誘)を受け取ったはずであるから、それに対する行動は勧誘に対する応答になるはずです。したがって、沈黙と言う行動は、勧誘に対する応答となれば、「断り」として解釈されることになるのだと思います。つまり、母語話者は相手の発話生成過程の段階を1つ飛び越して、機能を推測しようとすると考えられるわけです。

もう1つ付け加えれば、表層化規範が個別言語の規範であるのに対して、表現、機能と下がって行くにつれて、そこには普遍的な規範や生成過程の領域が次第に拡がっていきます。表層化規範ではなく、機能の規範で理解を試みようとすることは、接触場面における、よりベーシックな規範による管理が実施されることと、類似した過程ではないかと思います。
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