三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

青草民人「蝉(せみ)」

2005年08月31日 | 青草民人のコラム

うだるような暑さも峠を越し、残暑に夏の名残を惜しむ時期になった。
夏の代名詞ともいうべき蝉の鳴き声。その蝉にも時期によって変化がある。

夏休みの始まりとともに一番早く鳴き始めるのが、ヒグラシという蝉である。カナカナカナカナと、なんとなくもの悲しく鳴き始める。真っ昼間というよりは、日がやや傾きはじめた午後から夕方にかけて鳴き始めるので、よく怪談話の中に出てくる鳴き声である。

盛夏を代表するのは、ジージーと鳴くアブラゼミ。蝉時雨という言葉があるが、まさに鳴き声が降ってくるように聞こえる。暑さを倍増させるような騒々しさながら、松尾芭蕉はそれを逆手にとって、「静けさや岩にしみいる蝉の声」と、見事に蝉時雨の音に包まれた静寂の世界を表現している。

この蝉の鳴き声をアブラゼミとするかニイニイゼミとするか、真面目に議論した人がいるらしいが、まあどちらでもよい。

夏の代表的な蝉といえば、ミンミンゼミ。この声を聞くと、かき氷やよく冷えたスイカが食べたくなる。風鈴の音や麦茶の氷の音ともよく似合う。まさに夏休みの音である。

さて、そろそろ宿題が気になる頃に鳴き出す蝉が、ツクツクボウシ。オーシン ツクツク オーシン ツクツクと始まると、ああ夏休みが終わってしまう。そんな寂しさを感じる。ヤダヨ ヤダヨ ヤダアーッという感じで終わる鳴き声には悲愴感が漂う。

蝉は、生涯のほとんどを地中で過ごす。桜満開の春や実りの秋、厳格な冬を知らない。短い一生を暑い夏の真っ只中で完全燃焼させる。

道ばたに転がる蝉の死骸をよく目にする。つま先にぶつかるとカラカラと乾いた音がする。
一生を悔いなく生ききった小さな生き物の最後は、とても潔すぎてもの悲しい。

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