三日坊主日記

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須藤眞志『真珠湾〈奇襲〉論争』

2020年01月16日 | 陰謀論

ルーズベルト大統領は日本海軍による真珠湾攻撃をあらかじめ知っていたと主張する人たちがいます。
須藤眞志『真珠湾〈奇襲〉論争』によると、アメリカでもルーズベルト陰謀説を唱える人がいるそうです。

ドイツに宣戦布告をしたかったルーズベルトが、日米戦争を画策し、太平洋艦隊をおとりにしたとする陰謀論が出されている。
しかし、歴史的な検証に堪える証拠は出ていない。

 1 ルーズベルト陰謀論
① ルーズベルト政権は、日本の真珠湾攻撃を予測する十分な情報を得ていたにもかかわらず、これをハワイの司令官たちに故意に送らなかった。

② ルーズベルト大統領は、日本の真珠湾攻撃を知っていたにもかかわらず、日本の攻撃を成功させるべくハワイの太平洋艦隊をオトリに使った。

③ ルーズベルト大統領は、日本に経済的圧迫を加えて挑発し、日本に武力発動をさせた。それが真珠湾攻撃であった。

いずれの説も背景にあるのは、ルーズベルトはヨーロッパの戦争に介入してイギリスを助けたかった、つまりドイツと戦争をするために、日本との戦争を使って裏木戸から参戦しようとした、そのきっかけが真珠湾だったということである。

真珠湾攻撃の10日後に、責任問題の調査委員会が作られた。
調査委員会の共和党議員4名は少数派報告として、ワシントン政府は早くから傍受電報で日本の意図を察知しており、その情報を十分にハワイに知らせなかった責任があると主張した。
真珠湾の責任はルーズベルト大統領にあるとする説はこの時からあった。

 2 陰謀論の根拠
① 暗号解読
日本海軍の暗号電報が真珠湾攻撃より早く解読されていたとする。
日本の外交電報は1940年9月頃より完全に解読されていた。
海軍の電報も傍受されていたのは事実であるが、解読・翻訳されたのは開戦後のことで、ミッドウェー開戦の直前と言われている。

② 無線の傍受
日本の機動部隊は完全に無線を封止して航行していたが、弱い電波を出しており、それが傍受されていたとする。
無線封止を破ったという証言はないし、傍受解読されたという証拠もない。

 3 ルーズベルトが日本を挑発したということ
日本の南部仏印進駐の時は、アメリカは日米交渉の断絶を告げ、日本の資産を凍結した。
しかし、日本は南部仏印進駐後の経済制裁によってやむなく戦争を決意したわけではない。

7月2日の御前会議の時、「帝国は本号目的達成の為対英米戦を辞せず」と、戦争決意を固めていた。
日本の戦争目的は「開戦の詔書」にも「(日本の)自存自衛のため」と書かれてあり、「東南アジアの解放」ではなかった。
「ABCD包囲陣」という言葉は、開戦前後に日本が作り出したスローガンで、最初からそのようなものがあったのではない。
後からつけた言い訳である。

1941年11月26日、ハル国務長官が野村、来栖両大使に手渡した「ハル・ノート」が日本にきた一日前に、連合艦隊機動部隊はすでにハワイに向けて出航していた。
ハル・ノートがきたので出撃命令が下ったのではない。
『大本営戦争機密日誌』には、ハル・ノートは「天佑」だったと記されている。
そして、日本の最終提案がハル・ノートによって拒否されたので、攻撃命令を下した。

1941年11月の段階では、アメリカは大西洋と太平洋の両面作戦を行うには、海軍力が不足していた。
真珠湾攻撃によって十分な軍事的準備がないまま、日米戦争に入らざるをえなくなった。

 4 ルーズベルト陰謀論を信じる日本人の心情
日本の陰謀論者たちは、ルーズベルトがわざわざ日本の攻撃を成功させてくれたと喜んでいるわけではない。

日本を侵略者として裁いた東京裁判で、日米戦争の責任を一方的に日本に負わされることへの反発、そして「ルーズベルトは真珠湾攻撃を事前に知っていたのだから奇襲ではない」とする真珠湾免罪論がある。

ハーグ条約は、開戦前に宣戦布告をすることが義務づけられていた。
日本の最後通告が真珠湾攻撃よりも50分遅れたのだから、真珠湾攻撃は明らかに国際法違反だった。
仮にルーズベルトが真珠湾攻撃を知っていたとしても、日本の奇襲攻撃が肯定されるわけではない。
しかも、この最後通告は日米交渉の継続が困難になったということを伝えているだけで、国交断絶も開戦の予告も記されていない。
通告が攻撃より遅れればハーグ条約違反になることは、天皇も東条首相も山本五十六もはっきりと認識していた。
しかし日本では、真珠湾攻撃は無通告の卑怯な攻撃だったという反省の弁はほとんど聞かれない。

そもそも、陰謀論が成立するためには、ルーズベルトだけでなく、ルーズベルトの側近やハワイの司令官、参謀たちすべてと共謀しなければならない。
そのようなことは不自然である。
しかも、ルーズベルトが真珠湾攻撃を知っていたら、日本に攻撃されるまで待たず、連合艦隊を迎撃し、そしてドイツに参戦したはずである。

秦郁彦『陰謀史観』も同じ指摘をしています。

なぜ大統領は直前に全艦隊の真珠湾出港を命じなかったのか、そうすれば空撃ちになり、しかも対日参戦の口実も得られるのでは…」と問い返すことにしている。

なるほど、もっともです。

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