三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

石原慎太郎『わが人生の時の人々』

2015年03月22日 | 

福田和也『作家の値うち』は石原慎太郎『わが人生の時の時』に96点をつけていて、どんなものかと興味を持ち、図書館に出かけたのはいいものの、粗忽な私は間違えて『わが人生の時の人々』を借りてしまいました。

『わが人生の時の人々』は石原慎太郎が芥川賞を取ってからの交遊録というか、自慢話。
世の中には、家族や経歴や顔の広さを自慢したり、知識をひけらかす人がいて、聞かれたのならともかく、自分から自慢話を得々と話す人の気が知れません。

『わが人生の時の人々』はその手の本で、こんな有名人と親しいんだとか、この人に何でも言えるのは自分ぐらいだ、どうだ、すごいだろうといった感じ。
そして、人を見下したり、バカにしたり、これだけしてやったのにと恩着せがましいことを書いたりしてて、「してあげたことしか覚えてない不幸 三谷ゆりえ」という川柳を思い出しました。

浅見雅男『皇族と帝国陸海軍』に

皇族や元皇族の自伝の類にはかなり都合のいい間違いが散見されるので、そのまま信用してはいけない。ただし、これは自伝一般についていえることでもある。

とありますが、その点は『わが人生の時の人々』はどうなのでしょう。

昭和55年の都知事選立候補について、石原慎太郎はこのように書ています。

党公認の都知事最後の候補者だった宇都宮徳馬氏が突然その直前に降りてしまい、前年すでに断っていた私はまたまたお鉢が回ってきて、コミュニスト美濃部知事を無競争で当選させてしまう訳にはいかず必敗覚悟で出た


沢木耕太郎「シジフォスの四十日」(『馬車は走る』)を読むと、ちょっと違ってます。
「勝目は薄いが、大義のために、余儀なく、しかし潔く立った」と言われているが、いくつかの疑問符が付されると沢木耕太郎は書いています。
昭和49年の暮、浅利慶太に石原慎太郎は「やりたい」と言っている。
余儀なく立ったわけではない。
毎日新聞の内藤国夫が「あなたは自民党のスケープゴートにさせられますよ」と言うと、石原慎太郎は「いや、勝算がなければ私は出ませんよ」と断言した。
そして、典子夫人に「こんどの選挙は、美濃部と僕と、千票差の大接戦になるかもしれない」と洩らしている。
勝算がまったくなかったわけではない。

なぜ負けたのか。

理由はひとつ、彼が石原慎太郎であったことだ。

新聞のカメラマンが食事をしているところを撮りたいと申し出たのを引き受けているにもかかわらず、数枚撮られると「もういいだろ!」と険のある声で言う。
個人演説会で話の途中、酔っぱらいが「おーい、慎ちゃんよ!」と二度ほど呼びかけ、三度目に「慎ちゃーん」と呼んだ時、いかにも不快そうに「酔っ払いだろ、それ、早く連れ出せよっ」と会場係に命じた。
参謀グループとステーキを食べに行ったときのこと、庭で石原慎太郎とボーイがハチ合わせしたが、二人はどちらも譲ろうとしない。
石原慎太郎は「おまえ、ボーイだろ、どけよ!」と言った。

理は石原にあったかもしれない。だが、その時ボーイの眼に浮かんだ憎悪には、かなり激しいものがあった、という。


そして沢木耕太郎は次のようにまとめています。

石原が変われば勝てる。だが、彼はついに石原慎太郎であることをやめなかった。


石原陣営の参謀だった浅利慶太と牛尾次朗は、口をそろえて「都民の判断は賢明だった」と言っている。

石原に対する不安というのは、「ファッショ的」などということより、もっと本質的なところに根ざしていたのではないか。都民はそれを敏感に感じ取っていた……。

石原慎太郎は変わらなかったけど、都民、そして国民が変わったということでしょうか。

『わが人生の時の人々』の解説は田辺聖子。
よいしょのうまさといったら。

コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ウベルト・パゾリーニ『おみ... | トップ | ジョン・ファヴロー『シェフ ... »
最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (はるよこい)
2015-03-23 12:43:11
今よりもっと美しかった頃、大田区から醍醐やすのすけという人物が立候補し選挙事務所を開設したので手伝いに行った。
そこで石原慎太郎とわたしは仮設トイレででくわした。当時から目をパチクリするくせはあったが今の性格から考えられないほど驕ることなく素直で感じのいい男であった。それに比べ選挙応援に来ていた、泉ピン子はブスのくせして足を組みタバコをふかしとても周りから浮き嫌な感じの女であった。夕方から桜内官房長官の演説が駅前であり、なんとも盛況で活気にあふれていた。
春は花粉とともに (円)
2015-03-25 08:13:35
醍醐安之助ですね。
都議会議員11期、名誉都民。

年を取ると丸くなるかというと、そういう人は少ないようで、もともとの性格がより強調されることが多いです。
傲慢な人はより傲慢に。

コメントを投稿

」カテゴリの最新記事