三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

メル・ギブソン『ハクソー・リッジ』

2017年07月27日 | キリスト教

メル・ギブソン『ハクソー・リッジ』では、主人公であるデズモンド・ドスは真珠湾攻撃に衝撃を受け、衛生兵になるために軍隊に志願します。
しかし、セブンスデー・アドベンチスト教会の忠実な信徒なので、良心的兵役拒否者として、訓練でも武器を持つことすらしません。
そんなデズモンド・ドスが前田高地をめぐる戦いで大勢の負傷兵士を救出するという感動の実話です。

しかし、『パッション』や『アポカリプト』にこめられたメル・ギブソンの意図を考えると、『ハクソー・リッジ』(2016年)も単純に反戦映画、もしくは人類愛賛歌とは言えないように思います。

ハクソー・リッジでの最後の戦いの前、兵士たちはデズモンド・ドスの祈りが終わるのを待ってから崖を登り、前田高地を占領します。

つまり、ハクソー・リッジの戦いは神のお考えだったということになります。

そして、『ハクソー・リッジ』での日本兵は、殺しても殺しても次から次へと現れるゾンビのように描かれます。

スペイン(=キリスト教徒)が新大陸を征服し、先住民を殺戮したことと重なります。

『ハクソー・リッジ』には沖縄に住む人たちは登場しませんが、岡本喜八『激動の昭和史 沖縄決戦』(1971年)では大勢の一般人が戦闘に巻き込まれ、アメリカ兵に殺されます。

デズモンド・ドスは戦争についてはどのように考えていたのか、映画では示されていません。
自分は人を傷つけないが、アメリカ軍が日本兵を殺すこと、まして一般人を巻き添えにすることに抵抗はなかったのでしょうか。

前田高地がある浦添市のHPを見ますと、住民の44.6%、4112人が死亡、一家全滅率は22.6%で、前田地区に住んでいた201世帯、934人のうち、戦死者は549人、戦死率は58.8%です。


セブンスデー・アドベンチスト教会も終末論と関係があります。

ウィリアム・ミラーはキリストの再臨を1843年3月21日~1844年3月21日の間と予言したことで、ミラー支持者は異端として教会から追放され、エレン・ホワイトも所属していた教会から追放されます。
その後、エレン・ホワイトたちはセブンスデー・アドベンチスト教会を設立し、安息日は土曜日であって、ローマ・カトリックは間違いだったとします。

誰もが終末を生き残れるわけではなく、神の教えに従った選ばれた人だけです。

当然のことながら、異教徒の日本兵はダメです。

木谷佳楠氏は、日本においてアメリカのキリスト教と映画との関係を知ることの意味はどこにあるかを問題にします。

アメリカ映画の中にキリスト教的価値観が強く反映されているのだから、日本の観客も知らない間にアメリカ独自のキリスト教価値観の影響を受けることになる。
日本の観客が、善悪二元論や終末観、アメリカンヒーローに代表されるメシア観を取り込んでいる可能性は否定できない。

アメリカン・ヒーローはイエス・キリストがモデルとなっているそうです。

常人以上の特別な能力を持つ一方、敵から苦しみを受け、時には人々から理解されずに悩むという人間的弱さを持ち合わせている。
さらには、自己犠牲的な行為によって生死をさまよったり、死んで復活したりする。
なるほど。

だからこそ、映画に代表されるアメリカ文化の主原料であるアメリカの宗教性を知り、吟味する必要があると、木谷佳楠氏は説きます。

納得です。

それにしても、アメリカ軍は崖にかけられた網ハシゴ(?)を登っていくわけですが、この網ハシゴはいったいどのようにしてかけたのか、日本軍はなぜ切り落とさなかったのか、不思議です。

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