三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

金成隆一『ルポ トランプ王国』(1)

2017年06月06日 | 

なぜトランプは大統領選で勝利したのか疑問でしたが、金成隆一『ルポ トランプ王国』を読んで、こういうことかと思いました。

CNNの出口調査の結果によると、トランプに投票したのは、郊外か地方に住む45歳以上の白人男性、高卒か大学中退で年収は5万ドル以下、経済状況は4年前と比べて今のほうが悪いと考えている人たちが多い。

大統領選挙でのトランプの得票率は、ニューヨークのマンハッタンで10%、ブルックリンで17.9%、ワシントンで4.1%、サンフランシスコ郡で9.4%、ロサンゼルス郡で23.4%。
都市部はトランプを拒絶した。

トランプが遊説する場所はほとんどが田舎で、大都会、特にワシントンやニューヨークへの反発心が強い街。
自分の訴えがどこの人々に響くかをトランプは理解していた。

トランプは白人比率が85%の郡で62%を得票し、クリントンの33%を引き離した。
2012年の大統領選では、オバマは41%を得票している。
白人の比率は、ニューヨーク市が約33%、ロサンゼルス市は約29%だが、アパラチア地方の多くは白人の街。

2012年の大統領選で共和党候補が負け、今回トランプが勝った州は6つある。
そのうち5州は五大湖周辺のラストベルト(さびついた工業地帯)と呼ばれる州である。
製鉄業や製造業が栄え、高卒の労働者たちがまっとうな給料を稼ぎ、ミドルクラス(中流階級)を形成していたエリアだ。
ラストベルトの労働者たちは、労働組合に属し、民主党を支持する傾向が強かった。
ところが、今回の大統領選ではトランプに投票したのである。

 1 ミドルクラスからの転落
トランプ支持者とサンダース支持者の似ている点は、かつての豊かな暮らしが終わる、低所得層に転落しそうだ、という不安を抱えているミドルクラスが多いこと。

金成隆一氏の理解では、アメリカン・ドリームとは、まじめに働いて、節約して暮らせば、親の世代より豊かな暮らしを手に入れられる、今日より明日の暮らしはよくなるという夢だ。

トランプ支持者が懐かしむ50年代、60年代、70年代前半は、アメリカでは比較的格差が縮小した時代だった。
1940年生まれの世代が親より裕福になる確率は約92%だったが、50年生まれで約79%、60年生まれで約62%、70年生まれで約61%、80年生まれで約50%に落ちた。

アメリカの製造業の雇用者数は、1945年の約1200万人、1979年に約1950万人のピークに達し、その後は下降線を描き、1990年の1780万人が2016年の1230万人にと、約3割減った。
工場が閉鎖されて、廃工場、廃屋が並んでいるさびれた町は失業率が高い。

子どものころには家族そろって毎年旅行に出ていたのに、今は月末になるとお金の心配ばかりで、長期休暇を楽しむこともできない。
まじめに働いてきたのに以前のような暮らしができない、ミドルクラスから没落しそうだ。

デトロイトの元病院勤務(67歳)「私はずっと普通のミドルクラスでした。(略)
企業はもうかっても、労働者には利益が回ってこない。私にとっては、今のように自分が金銭的にぎりぎりの暮らしをしていること自体が奇妙な感じがします。それを思うと、イライラしてしまう。
もうデトロイトにはミドルクラスはほとんど残っていないと思います。20年ぐらい前からでしょうか、どんどん暮らしがきつくなった。かつてのミドルクラスは、ごく一部だけが上に這い上がり、残りの大半は下に落ちました。私は間違いなく下に落ちた大勢の中の1人」

サンダース支持者(48歳)「今のアメリカは生活費も高すぎます。サービスも食料も、何でも高い。月末にお金が残らない。私はきちんと働いているというのに、普通の暮らしを営むことも難しい。もう3年間もバケーション(長期休暇)で家族旅行にも出られない。昔は1年に1度、1週間ぐらい太陽の近くに行っていた。(略)
私は所有していた家を手放し、今はアパート暮らし。まじめに働いているのにお金が手元に残らず、家族旅行にも行けない。私たちはもうミドルクラスではない。私にとってミドルクラスとは、普通の人。週40時間はたらいて、自分の生活を支えて、正しいことをやるように努めて、社会で生きること。でもそれがいま消えかかっている。(略)
娘が「将来は歯科医になりたい」と言い始めた。でも多額の費用がかかるので、うちには学費を払う余裕がない。娘は、もう夢を追いかけられない」

大学を出ても、資格が生かせる仕事に就けないし、学資の借金を返すのに苦労する。
州立大学で経営学の学位を取得したが、溶接工をしている男性は、学費の返済残高が8万ドル、毎月700ドルの返済をしている。
州立大学を卒業してガス採掘会社に就職した男性(32歳)は、年収の半減を一方的に通告されて退職、いまだに仕事が見つからない。

オバマケアへの不満の声が多いのには驚きでした。
勤務先が掛け金を払えないと言いだして無保険になった溶接工(42歳)「オバマケアの責任だ。掛け金が跳ね上がり、勤め先が保険をカットした」

サンダース支持者(48歳)「オバマケアは負担額が大きかった。オバマケアが導入される以前に戻してほしい。(略)みんなが社会保険に入るべきだと思っていたけど、あまりに負担が大きすぎる」

2017年の保険料が2割以上あがるとの試算が発表されている。
地域によっては2倍以上に跳ね上がるケースもある。

日本も中間層の所得が減少し、世帯所得は1996年に比べて18%低下しています。
共働き世帯が増えているのに、世帯収入は2割近く落ちたのです。
一億総中流化と言われた時代は過去のものとなりました。

コメント
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