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随筆紹介  百 歳    文科系    

2023年02月28日 00時34分06秒 | 文芸作品
随筆  百 歳    K.Kさんの作品です

 今年の十月に百歳迎える母がお世話になっている施設の担当者から「より良い介護の実践レポートを書くことになり、母を対象にしてもよいか?」の打診があった。チームを作って計画しているらしい。母に関心を持って貰えることは嬉しいので了解した。「母についてのこれまでの生い立ちや仕事を知りたいのですが┉┉┉┉協力お願いします」と、始めはおそるおそる聴いてくる。
思いだしながら応えていく。母は大正十二年日進市のお寺の五人兄弟の次女として生まれ、兄が後に住職として跡を継ぐ。ここまで話していくと「お寺さんでしたら、抹茶が好きなのが分かります」と言う。「最近、水分が摂取少なくて、一日で五百ⅭⅭ程しか摂れてないのが、抹茶を飲むようになってから増えて、今は千ⅭⅭまでになりました。水分摂取が多いと便秘解消になり、覚醒時間も長くなります」とやり取りがあり、情報が共有出来た。面会の時に母はうつらうつらするのが多かった。「寝ているのか、起きているのか分からん」呟いていたのだが、好きな抹茶の効果で水分補給も出来て、色んな事を改善できるとは┉┉┉┉。
若い担当者は「お寺が心配とよく話す理由も納得です」、続けて言う。お寺関係者とは気が付かないだろう。本人の環境、習慣や生い立ちは家族は分かっていても、介護者は情報不足で分からないのだと改めて思う。
教職を経て二十五歳の時に結婚で辞め、刈谷市へ嫁ぐ。その後は三人の子育てしながら、連れ合いの転勤で茨城県、青森県で過ごす。退職後、刈谷市へ戻る。趣味の園芸では名古屋市の東山植物園でボランティア活動を通して植物について学ぶ。庭も季節の花が咲いていた。花について話す顔は輝いていた。「それでぬり絵も花だけを選ぶのですね」担当者はここでも納得したようだ。
八十歳の時に横断歩道でトレーラーの左折巻き込み事故、 四カ月入院。骨盤骨折、両手も不自由になった。それからは父が家事をこなしていた。四年後父が急に旅立ち、それまでデイサービスに通っていた今の所にお世話になっている。この辺は担当者も記憶しているようだった。
電話で二十分くらい話をしただろうか。まだまだ細かいところもあるので、後日、私の知る限りの母の事を書いて送ることにした。介護のチームでも共有してもらえたらと思う。
今回の事で思いがけず母の百年の生き様を思い返せた。だが、どこまで母の気持ちを分かっていたのだろうかと、考えさせられた。

 母がお世話になっている施設の担当者から嬉しい報告があった。より良い介護を目指す対象になった母の経過報告だ。「目標としている水分摂取が一日で六五〇CCしか摂れていなかったのが、一五〇〇CCまでになり、覚醒時間も長くなってきて、歩行距離も延びています」明るい兆しが見えてきた連絡に頬が緩む。水分摂取量はそんなにも大事なのだと改めて思う。
百歳になる母の生い立ちレポートを送ったのもチームで共有して役にたっているらしい。
 お寺の次女として生まれ結婚するまで過ごした記憶は最近強くなっているようだった。「今日はお客様が多いから忙しい、抹茶を沢山立てないと」母が夜になってからそわそわしていると、話を聞いた介護の方が「そうだねー」、と母の気持ちを分かって、話を合わせていく。情報を共有しているから対応出来ているらしい。母に合わせていくと穏やかな表情になって、眠りにつくそうだ。家族としては有り難くて電話の前で頭を下げる。
 さらに花の好きな母のために近くの園芸店まで外出をやってくれた。手押し車につかまりながら歩く外出は、時間がかかり大変だと察する。スタッフが「鉢植えの花を籠に入れようとしたら、「その花は元気がないから、こちらがいいのよ」と、教えて貰ったとか母の口調を思い浮かべ口の中で笑った。元気な頃は毎週のように通った店に行けて悦んだと思う。生き生きした姿が目に浮かぶ。買い求めた花は、施設の中庭で皆さんと一緒に世話をしているそうだ。
少し前まで施設でクラスターが発生して、部屋から二週間出られなく、足が弱り歩けなくなるのではないかとの不安がよぎったことがあった。外出出来るなんて嬉しさも倍に感じる。現実と自分の世界を行き来している母には、外出は何よりも良薬だ。
「これでより良い介護を目指す三カ月の実践期間は終わりましたが、良い結果が出てきているので繋げていこうと思っています」さらに、「自分の親は居て当たり前だったが、考えさせられました」電話口からのやり取りは、以前より親し気に話す。
 今回の事が無ければ百歳の母は半分呆けた年寄りの一人に過ぎなかった。食事以外は椅子に座りうつらうつらして、ぶつぶつ独り言を呟いていた時間も長かったのだから。おそらく、若いスタッフから見れば老人は十把一絡げだったのだと思う。母の気持ちを少しでも分かって寄り添って貰えるようになった機会があって良かった。個人情報を嫌がる人もいるが、私は情報を提供して共有してもらえて、思いもよらずいい結果に繋がったと思う。若いスタッフさん達に感謝している。
コメント
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