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書評「シリア情勢」(4)  文科系

2017年07月19日 15時09分22秒 | 文化一般、書評・マスコミ評など
 この本は、2016年12月末に国連がイニシアを取ったシリア全土停戦にも言及して、この3月22日に第一刷発刊となったもの。イスラム国などの敗勢から、「シリア内戦の『終わりの始まり』」に触れている。この部分が今回紹介する「第6章 真の『ゲームチェンジャー』」と「おわりに」である。ついては、政権復活の下で、部外者らの誰が事態を複雑にし、どういう思惑でこの国の平和に抗ってきたのかが、鮮やかに示された箇所とも言えるのではないか。この本の結論を言えば以下のようになるだろう。

 15年9月末に始まったロシアの大々的爆撃が長年の戦乱を鎮めたのである。ロシアは、トルコがギュレン・クーデターの背後にアメリカを疑っている状況を生かしてトルコを懐柔し、合わせて欧米をも説得して、対アサド最強硬派とも言えたサウジ・カタールを疎外しつつ、その支援を受けた過激派反政府勢力にも「穏健派反政府勢力」にも、無差別に爆撃を加えて、鎮圧していった。ただし、この両派は戦闘員の流出入が激しく、団体同士も合従連衡を繰り返すなどと入り乱れて変化していて、どれがどういう性格なのかさえ、分からなくなっている。
 ロシアは、長距離大型爆撃機を派遣したし、カスピ海の潜水艦から巡航ミサイルを打ち出した。巡航ミサイル発射は、ロシアにとって史上初という出来事である。また、イランは、西部航空基地をロシアに提供し、16年4月、ファトフ軍に対して正規軍を派遣している。正規軍派遣も、共和制イラン国初の出来事だ。
 欧米諸国がこれらの攻撃に対してフリーハンドを認めたのは、「テロとの戦い」「難民問題」で、悩み抜いてきたからであると述べられている

 ロシア空爆開始の直後15年10月に、ジュネーブ三平和協議がウィーンに17か国が集まって開かれた。ここでは、イスラム国以外のアルカイダ勢力をどう処遇するかで最後まで紛糾した。結局、サウジが、支援してきたシャーム自由人イスラム運動、イスラーム軍(イスラム国ではない)等とともに、この協議内容に反対して協議そのものから脱退していく。なお、このシャーム自由人イスラム運動には、人道的救命救急団体と称してきたホワイト・ヘルメット(この団体には日本の資金も出ているとは、前々回に述べた)が行動を共にしている。
 また、これらの「解決」方向に関わっては、国連シリア問題担当特別代表デミストラの仲介も大きかった述べられてあった。

 なお、米国が支援し、トルコが長年の敵としてきたシリア内クルド人勢力は、極めて複雑な立場に置かれることになった。例えば、こんな混乱した諸状況も起こったのである。イスラム国の拠点・ラッカ陥落を目指したクルドには米国は支援し、バーブ市におけるクルドはトルコばかりではなくアメリカからも攻められたのだった。
 かくて就任直前の米大統領トランプはシリアについてこんなことを語ることになる。
「関与すべきでない外国政権の打倒に奔走することはやめる」

 今回のまとめの最後を、この本の帯にも付けられた「おわりに」の中の言葉で締めくくりたい。この言葉は、この本全体のまとめでもあり、世界の今後への教訓ともなるものだろう。
「シリア内戦における混乱を再生産しているのは、シリアにとって異質な部外者であり、シリアの人々は彼らが繰り広げるゲームの駒になりさがってしまった」


 今回でもってこの書評、要約を終わります。ここまでお読み下さった方々、有り難うございました。
コメント (13)
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