九条バトル !! (憲法問題のみならず、人間的なテーマならなんでも大歓迎!!)

憲法論議はいよいよ本番に。自由な掲示板です。憲法問題以外でも、人間的な話題なら何でも大歓迎。是非ひと言 !!!

随筆紹介 『ミッドウェー、ガダルカナルに消えた東郷兵士たち』   文科系

2017年05月22日 10時53分10秒 | 文芸作品
 ミッドウェー、ガダルカナルに消えた東郷兵士たち
  --軍事機密を東郷兵士の戦没者から推理--   K・Yさんの作品です


 東郷町誌という分厚い本が(東郷町)図書館にある。二巻のうち第一巻に戦没者の一覧があり、太平洋戦争で戦死した一五七人の氏名、死亡場所、死亡日などが載っている。当時の東郷の人口は四六〇〇人だから、3%以上が亡くなったなあと、ぼんやり一覧を眺め、数ヶ月がたった。

 秋となり、落葉樹は紅葉で染まっていたある日、「ミッドウェーの決断」(プレジデント社)という本を読んでいた。
 真珠湾の奇襲により、太平洋戦争に火をつけたものの、半年後の昭和一七年六月に、海軍はミッドウェーで大敗北し、東太平洋からはじき飛ばされたとある。だが、海軍は真相を隠蔽した。ミッドウェーでは巨大な航空母艦の四隻(赤城、加賀、飛龍、蒼龍)すべてが撃沈され大敗北に帰したが、大本営は「ミッドウェーを強襲、米国艦隊に甚大なる損害を与えた」と公表した。東條英機も、陸軍も大敗北したことをすら知らなかったという。敗走した生き残りの兵士が国民に真実を漏らすことを恐れ、転戦要員として、決して郷里に帰すことはなかった。
 そして戦死者三〇五七名(推定)の死亡場所は「東太平洋方面」とされ、遺族には守秘義務とせよ、乗船した船名を漏らすな、死亡通知は父母妻子にのみとせよ、読経をするなと命令した。

 そうか。なるほど。海軍は軍事機密という手法でミッドウェーの真相を隠したのか。当時の報道管制、治安維持法、新聞紙法の社会のシステムを悪用し、海軍は都合の悪い情報を部外者に流さなかったのか。これが軍隊の本質かも知れないぞ、と思った。
 そして、まさか東郷・戦没者にはミッドウェーの関係者はいないだろう、でも一度確かめてみるかという遊び心があった。
 町誌のうち一冊だけ貸出ができた。そして詳細を調べた。なんと、前述の「太平洋方面」で戦死した方がいたのだ。東郷町とミッドウェーとの関係があったのだ。
 祐福寺の海軍三等兵曹・久野欽彌さんの死亡場所が「東太平洋方面」とあり、昭和一七年六月七日死亡とある。彼こそミッドウェーの犠牲者だった。まさに海軍の指示どおりの死亡場所だ。ミッドウェーという地名そのものが軍事機密だったのだ。そう断定できる。

 海軍の軍事機密が戦後に作成した町誌(昭和三二年発行)にも残ったままである。これは、徳島県知事が死亡場所を具体化(昭和四八年)したように、「ミッドウェー諸島」と改訂すべきであろう。
 だとすると、さらに四ケ月後の十月に大敗北したガダルカナルについてはどうだったのかという疑念が生じる。
 ガダルカナルでは陸海軍の三万一千人のうち2/3が戦死し、大敗北した。これ以降南太平洋でも日本は守勢一方となった。
 だが大本営は「目的を達成し、転戦」と公表した。そして生き残り兵士一万六百人は、疲弊した姿を国民にさらすのを避けるため、転戦要員とされ日本に帰ることを許さなかった。
 東郷町誌の戦没者に諸輪の海軍二等飛行兵水野正雄さんと、同じく諸輪の海軍一等機関兵曹近藤鎌一さんが昭和一七年にソロモン群島で死亡とある。主力の陸軍ではなかったが、海軍も参戦しており、彼らもガダルカナルの犠牲者だったのだろう。
 ここも陸海軍がガダルカナルという地名を軍事機密としソロモン諸島としたのではないか。それが戦後に作成した町誌(昭和三二年発行)にも残ったままである。「ガダルカナル島」と改訂すべきであろう。
 国民は敗北を知らず、軍のトップは徹底抗戦に猛進していく。その結果が三百万人の無駄死をうんでしまった。
 東郷の戦没者もそれを語っている。昭和二〇年の戦死者が最も多い、次いで一九年である。死亡場所の大半がミッドウェーの西、ガダルカナルの北の南方諸島となったのは、この二ケ所での敗北は無かったことになっているがゆえに、無謀に兵士を送ったのである。戦略上、大きな矛盾、落とし穴にはまって行った。
 主力の四空母を失い、もはや太平洋地域での勝ち目は昭和一七年時点ですでに閉ざされていた。明らかに勝利しない南方地域での戦闘を余儀なくされた日本兵士の悲惨さ、馬鹿らしさ。それが戦後になって初めて明らかになった。

 さて、戦後七〇年を迎える日本において、情報を隠すことを合法化しようとしている。特定秘密保護法である。何を秘密にするのか。国家機密という名のもとで、真実を隠蔽し、一方的な情報のみを公表する。真実を求めようとすると、逮捕される、職を奪われるという危険が出てきた。ミッドウェーのように嘘の情報が一人歩きする危険性がでてきた。
 一方的な情報の公表は、太平洋戦争と同じように、国家そのものが建前でのみ行動しがちとなる。総合的にバランスよく判断できない国家は矛盾の落とし穴にはまり、逆に国家そのものが危機的状況に落ちる。
 嘘をつくと、そのフォローが大変なのは、個人も、組織も、国家も同じであろう。周囲の関係者も騙され、大変な事態となる。
 歴史を見ると集団的自衛権とセットで制定された秘密保護法は悪法となりはしないか、大いに不安である。


(愛知県東郷町の「文章サークル『文友』第28号」から)
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする