◆「復活」宣言は福田だけ
この無力な政治が、暫定税率の廃止という既成事実を元に戻すというパワーを持ちうるだろうか? 答はノーである。福田康夫がいくら頑張っても、自民党衆院議員全員が租税特別措置法改正案に賛成するとは思えない。
国会議員たちは土日には選挙区に帰り、支持者の声を聞く。「諸物価値上がりの中で、ガソリンが安くなっているだけが救いですよ」という声ばかりのはずだ。1カ月も経てば、「元に戻すことは不可能だ」というのが、自民党内世論になる。
福田は3月31日午後6時から記者会見して、「暫定税率を元に戻す」と宣言した。しかし自民党幹事長の伊吹文明は1日午前0時ごろからTBSの番組に出演、菅直人が「暫定税率をどうするのか?」と問い詰めたのに対して、逃げに終始し、ついに答えなかった。伊吹は暫定税率復活の困難さを意識しているのである。
じっさいに租税特別措置法改正案の衆院再議決は29日以後になる。早くも連休明けに持ち越しなどの観測が出ている。いずれにせよ、造反議員を出さないためには、05年の小泉政権下の郵政解散・総選挙のときと同様の強い姿勢が必要となる。小泉政権とは質が違う福田政権は、「造反なら除名」と口先だけの脅しをかけることすら不可能だろう。
◆政権は危険水域に
福田は租税特別措置法改正案の衆院再議決を実現できない。他方、民主党に対してだけでなく国民に約束した形になった道路特定財源の一般財源化(09年度から)も、道路族の抵抗によって実現できない。連休明けには、政権の危険水域に入るであろう。
そこで自民党はどうするのか? 来年の総選挙は公明党が受け入れないというのが政界の定説である。これまでは今年秋の解散・総選挙だと言われてきた。民主党は「5月総選挙」を目指している。
福田では総選挙に勝てないだろうから、自民党は総裁をすげ替えたいだろう。しかしすでに安倍、福田と2代にわたって衆院総選挙の洗礼を受けない政権が続いている。しかも直近の国政選挙は昨年7月の参院選で、与党の自公は敗北している。この状況下で、3人目の選挙の洗礼を受けない首相をつくるのは、大きな批判を招くはずだ。
総選挙は5月でも9月でも、福田が首相であることは変わらないだろう。過去何人かいた「応援に来てくれるなと断られる首相」に1人加わることになる。自民党候補が応援に呼びたいのは、小泉である。あるいは総選挙後、小泉が政権に復帰する可能性が出てくるかもしれない。やってはいけない予言は、以上で終わろう。
◆民主政治が分かっていない新聞論調
この間、政治について、あるいは税について、さまざまな論議が行われた。新聞論調を読めば読むほど、日本の政体は民主主義ではないという思いを強くした。
暫定税率廃止を「混乱を招く」という理由だけで否定する論調がまかり通った。一つの制度を変更して、移行期の混乱が皆無だということはありえない。多少なりとも混乱は生じるのである。「混乱がないこと」を最優先するなら、変更は不可能になる。もちろん改善も変更である。多くの新聞社説は「どんな不合理な制度でも混乱を招くから変更してはいけない」という主張と同じだった。
暫定税率廃止を優先した民主党の姿勢を「無責任」と断じた社説も多かった。その執筆者たちは憲法84条を読んだことがあるのだろうか? 「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする」である。
暫定税率維持を前提にして予算をつくり、成立させたのは政府与党である。衆院多数という数の力と、予算・条約については衆院議決の優位という憲法の規定によって、民主党など野党の意思は反映できなかった。
予算が成立したから、その財源となる税制の立法に反対するのが「無責任」というなら、衆院で単純多数を握るだけの与党が、予算に盛り込むことによって、いかなる重税を課すことも勝手にできることになってしまう。二院制のルールに従って、租税特別措置法改正案を成立させないことが「無責任」などというのは言いがかりにすぎない。
「政争の具にするな」という言葉も、ひんぴんと使われた。民主主義の政治は、何ごとも政争の具なのである。自分たちが正しいと思ったとおりに行動し、次の選挙で国民の支持を求める。そういうパフォーマンスを否定するのは民主主義も、その担い手である政党も否定することに直結する。
◆地方首長は役人の論理だけ
もう一つ、地方自治体の対応にも失望した。この件で「地方6団体」は活発に発言したが、行政を執行するお役所の論理を展開するだけだった。「暫定税率廃止なら地方の財源に穴が空く。だから困る」一色だったのである。揮発油税の上乗せ分を課されなくなる県民・市民の立場を反映した発言は皆無だった。
宮崎県知事の東国原英夫を含めて、自分の選挙のときだけ「県民・市民の味方」で、知事・市長などに就任すると役人の論理を振り回す存在であることがはっきりした。暫定税率なしが定着した段階での彼らの言動はどうなるか? 注目したいところだ。
◆メディアは官僚支配の秩序がお好き?
新聞論調に戻ろう。社説執筆者たちのアタマは、深層のところで官僚統治礼賛なのである。官僚にまかせておけば、混乱は起きない。また予算は成立したのに、財源となる税法が成立しないといった矛盾も起きない。その整った姿を礼賛し、国民主権の原理を押し通すことによる混乱や矛盾を嫌うのが、彼らの深層意識だ。混乱と矛盾を引き起こす国民主権は嫌いということになる。
最後に、1日付各紙の社説を掲げておこう。1面コラムも、ガソリン税がらみのものは掲載しておく。私の新聞論調批判が正しいかどうか? 参考資料としてお読みいただきたい。
▼朝日=立ちすくむ政治―この機能不全をどうする、天声人語
▼毎日=ねじれ国会 有権者が動かすほかない、余録:エープリルフール
▼読売= 「暫定」期限切れ 「再可決」をためらうな
▼日経=再可決して一般財源化の公約を果たせ、春秋
▼東京=ガソリン値下げ 混乱の抑制へ万全を、筆洗
▼産経(主張)=4月混乱 まともな政治取り戻せ、産経抄
この無力な政治が、暫定税率の廃止という既成事実を元に戻すというパワーを持ちうるだろうか? 答はノーである。福田康夫がいくら頑張っても、自民党衆院議員全員が租税特別措置法改正案に賛成するとは思えない。
国会議員たちは土日には選挙区に帰り、支持者の声を聞く。「諸物価値上がりの中で、ガソリンが安くなっているだけが救いですよ」という声ばかりのはずだ。1カ月も経てば、「元に戻すことは不可能だ」というのが、自民党内世論になる。
福田は3月31日午後6時から記者会見して、「暫定税率を元に戻す」と宣言した。しかし自民党幹事長の伊吹文明は1日午前0時ごろからTBSの番組に出演、菅直人が「暫定税率をどうするのか?」と問い詰めたのに対して、逃げに終始し、ついに答えなかった。伊吹は暫定税率復活の困難さを意識しているのである。
じっさいに租税特別措置法改正案の衆院再議決は29日以後になる。早くも連休明けに持ち越しなどの観測が出ている。いずれにせよ、造反議員を出さないためには、05年の小泉政権下の郵政解散・総選挙のときと同様の強い姿勢が必要となる。小泉政権とは質が違う福田政権は、「造反なら除名」と口先だけの脅しをかけることすら不可能だろう。
◆政権は危険水域に
福田は租税特別措置法改正案の衆院再議決を実現できない。他方、民主党に対してだけでなく国民に約束した形になった道路特定財源の一般財源化(09年度から)も、道路族の抵抗によって実現できない。連休明けには、政権の危険水域に入るであろう。
そこで自民党はどうするのか? 来年の総選挙は公明党が受け入れないというのが政界の定説である。これまでは今年秋の解散・総選挙だと言われてきた。民主党は「5月総選挙」を目指している。
福田では総選挙に勝てないだろうから、自民党は総裁をすげ替えたいだろう。しかしすでに安倍、福田と2代にわたって衆院総選挙の洗礼を受けない政権が続いている。しかも直近の国政選挙は昨年7月の参院選で、与党の自公は敗北している。この状況下で、3人目の選挙の洗礼を受けない首相をつくるのは、大きな批判を招くはずだ。
総選挙は5月でも9月でも、福田が首相であることは変わらないだろう。過去何人かいた「応援に来てくれるなと断られる首相」に1人加わることになる。自民党候補が応援に呼びたいのは、小泉である。あるいは総選挙後、小泉が政権に復帰する可能性が出てくるかもしれない。やってはいけない予言は、以上で終わろう。
◆民主政治が分かっていない新聞論調
この間、政治について、あるいは税について、さまざまな論議が行われた。新聞論調を読めば読むほど、日本の政体は民主主義ではないという思いを強くした。
暫定税率廃止を「混乱を招く」という理由だけで否定する論調がまかり通った。一つの制度を変更して、移行期の混乱が皆無だということはありえない。多少なりとも混乱は生じるのである。「混乱がないこと」を最優先するなら、変更は不可能になる。もちろん改善も変更である。多くの新聞社説は「どんな不合理な制度でも混乱を招くから変更してはいけない」という主張と同じだった。
暫定税率廃止を優先した民主党の姿勢を「無責任」と断じた社説も多かった。その執筆者たちは憲法84条を読んだことがあるのだろうか? 「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする」である。
暫定税率維持を前提にして予算をつくり、成立させたのは政府与党である。衆院多数という数の力と、予算・条約については衆院議決の優位という憲法の規定によって、民主党など野党の意思は反映できなかった。
予算が成立したから、その財源となる税制の立法に反対するのが「無責任」というなら、衆院で単純多数を握るだけの与党が、予算に盛り込むことによって、いかなる重税を課すことも勝手にできることになってしまう。二院制のルールに従って、租税特別措置法改正案を成立させないことが「無責任」などというのは言いがかりにすぎない。
「政争の具にするな」という言葉も、ひんぴんと使われた。民主主義の政治は、何ごとも政争の具なのである。自分たちが正しいと思ったとおりに行動し、次の選挙で国民の支持を求める。そういうパフォーマンスを否定するのは民主主義も、その担い手である政党も否定することに直結する。
◆地方首長は役人の論理だけ
もう一つ、地方自治体の対応にも失望した。この件で「地方6団体」は活発に発言したが、行政を執行するお役所の論理を展開するだけだった。「暫定税率廃止なら地方の財源に穴が空く。だから困る」一色だったのである。揮発油税の上乗せ分を課されなくなる県民・市民の立場を反映した発言は皆無だった。
宮崎県知事の東国原英夫を含めて、自分の選挙のときだけ「県民・市民の味方」で、知事・市長などに就任すると役人の論理を振り回す存在であることがはっきりした。暫定税率なしが定着した段階での彼らの言動はどうなるか? 注目したいところだ。
◆メディアは官僚支配の秩序がお好き?
新聞論調に戻ろう。社説執筆者たちのアタマは、深層のところで官僚統治礼賛なのである。官僚にまかせておけば、混乱は起きない。また予算は成立したのに、財源となる税法が成立しないといった矛盾も起きない。その整った姿を礼賛し、国民主権の原理を押し通すことによる混乱や矛盾を嫌うのが、彼らの深層意識だ。混乱と矛盾を引き起こす国民主権は嫌いということになる。
最後に、1日付各紙の社説を掲げておこう。1面コラムも、ガソリン税がらみのものは掲載しておく。私の新聞論調批判が正しいかどうか? 参考資料としてお読みいただきたい。
▼朝日=立ちすくむ政治―この機能不全をどうする、天声人語
▼毎日=ねじれ国会 有権者が動かすほかない、余録:エープリルフール
▼読売= 「暫定」期限切れ 「再可決」をためらうな
▼日経=再可決して一般財源化の公約を果たせ、春秋
▼東京=ガソリン値下げ 混乱の抑制へ万全を、筆洗
▼産経(主張)=4月混乱 まともな政治取り戻せ、産経抄