海側生活

「今さら」ではなく「今から」

慰めの言葉が見つからない

2010年11月12日 | 浜の移ろい

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この漁港で一番の水揚げを誇る元気者の“せいちゃん“に彼らしさが無い。
何時も人を笑わせ周りの人達を陽気にさせていたのに、夏以降は言葉数が減り、しかめっ面することが増えた。気のせいか眉間にシワも時々見える。

“せいちゃん”得意の海老網に依るサザエ漁も、最盛期だと言うのに殆ど獲れない。
浜に戻った網には身の無いアワビやサザエの殻だけがずいぶん多い。「アワビやササエの餌になる海草のカジメが、この夏以降、海水温の異常な上昇で十分には育たず、アワビやサザエにとっては餌も無く、身の隠し場所もなく成長する前に天敵に食われてしまったのでは」と“せいちゃん”は言う。

しかし今年の気候変動、中でも夏の猛暑の影響は現在でも尾を引いている。
この漁港でもいつもの年とは違う。この港でも名物のシラスも、漁をしても全く獲れない日もあり、漁獲高は昨年の半分以下らしい。
港の風物詩で、自分もいつも何が入っているかと楽しみにしていた定置網も、早々に解かれ浜に長々と干してある。
また、沖縄で良く見た原色をした魚が網に掛かっていたり、釣りでも始めて目にする、名前すら知らない魚が掛かる事もあった。     
日本海で見られた有名なあの「越前クラゲ」が、この相模湾でも目にした人は多いと聞く。
今でも水温が異常に高い。通常より二度は高い。

猛暑に依る海水温の上昇が魚達の生態系までも変えてしまったのか。
刺身で絶品のカワハギもこれからの冬場を越すために、その肝に脂肪を蓄え、そして自分に釣られ、肝合えとして刺身で食べられるのを待っていると言うのに、その肝は夏場の大きさと同じくらいでまだ小さい。
暦では立冬を過ぎたのに自分はまだワラサを狙って釣りをしている。例年だったらワラサは今頃にはもっと暖かい海に移動している。しかもまだ当分は続けると釣り船の船長は言う。

魚ばかりではない。ワカメも天然モノはもとより、種付けを始めた養殖モノも、今の水温では育たないかも知れないと浜では皆が不安がっている。
米も各地で等級が低い物が多かったと聞く。野菜の高騰はまだ続いている。秋を彩る果物も不作だと聞こえてくる。
今年の大雨と猛暑で、例年になく豊作なのは松茸だけだ。

今晩あたり松茸と一升瓶を提げて“せいちゃん”を訪ねようか。
しかし慰めの言葉が見つからない。