黒猫 とのべい の冒険

身近な出来事や感じたことを登載してみました。

S大前期授業 ③命名、父系母系、婚姻

2021年08月13日 13時23分45秒 | ファンタジー
 昔は、成人式などで改名する習俗があったというが、生まれた子どもの名前を決めるのは、やはり親・親族やそれなりの立場の大人だったと思われる。現代の親たちにとっても、命名とは出生届のための単なる手続きでなく、人生の中の厳粛な儀式である。
 アイヌ社会では、子どもの命名は、神との関わりで与えられる神聖なものとされたという。人は死後、ポㇰナモシㇼ(先祖の世界)へ行き、六代分を過ごしてから子どもになって送り出されてくるとされる。当時のアイヌ社会の場合、はるかな先祖の世界から来た神聖な子どもへの命名についてはかなり慎重だった。子が5,6歳になるころに初めて正式な名をつけたという。
 現代の感覚で解釈すべきでないとは思うが、その年齢の早熟な子どもなら、親が提案した名前(とくに魔除けのための汚い名前など)を気に入らない場合があったような気がする。そういうとき、その名前はいやだとか、自分の名前は自分でつけるとか、といった主張をした事例がアイヌ社会になかったのだろうか。それが通らなかったとしても、そう主張する余地があったとしたら、アイヌ社会はほんとうに民主的だと感じる。
 イレズミ(シヌイェ)はアイヌの主に女性に特徴的な習俗。魏志倭人伝に、倭の男子が身体にイレズミをしていると記されている。海洋民が海に潜るときの魔除けという説があるが、女性がしていたかどうかについては言及されていない。北方狩猟民の出身と言われる殷人も甲骨金文によれば、イレズミをしていたらしい。そのような多様な文化を受け入れた日本列島において、現日本人がイレズミをタブー視する態度は、様々な歴史的要因が絡み合っているとはいえ、ちょっとヒステリックな感じがする。
 アイヌ社会は、父系でも母系でもなく、双系社会あるいは父系母系の両方が残った社会だという。フチイキㇼ(祖母の系列)はラウンクッ(守りひも)で、エカㇱイキㇼ(祖父の系列)はイトㇰパ(祖印)で象徴される。このラウンクッ(ポンクッ)は母系ごとに同じ編み方をし、死者にポンクッをしめるのは同じ系統の女性でなければならない。嫁が姑の死装束を着せることはできない。女性は、死後も所属する祖母の系列(氏族)の一員であり続けることになる。
 今の父系的な日本社会と比較すると不思議な感じがするが、「シリーズ古代史をひらく 前方後円墳」(岩波書店)の「古墳と政治秩序」(下垣仁志)によると、倭国の前方後円墳の埋葬事例では、古墳時代の中期前半(5C前半)までは、同じ墳墓の複数被葬者の関係はキョウダイであり、被葬者に男女の差がなく双系的な親族原理が読み取れるという。また、少なくとも5C後半までは、被葬者の配偶者は同一墳墓内に葬られず、配偶者自身の本貫地(出身地)に帰葬されていたことが、おおむね明らかになったという。この時期までの倭国は、アイヌ社会と同様の双系的な社会構造だったことがうかがわれる。
 アイヌ社会では妻を借り物として大事にするという。妻を夫の側に従属させようとする家父長的な家の出身者にとって、この平等主義にはびっくり仰天である。(2021.8.13)



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