黒猫のつぶやき

法科大学院問題やその他の法律問題,資格,時事問題などについて日々つぶやいています。かなりの辛口ブログです。

橋下流「維新」に関する雑感

2012-03-20 23:22:10 | 時事
 最近体調が安定しないため,ブログの更新も不定期になってしまい申し訳ありません。今回は,以前から興味は持っていたのですが,橋下徹大阪市長を中心とする「大阪維新」の動きについて若干コメントしたいと思います。
 橋下市長が推し進める「体制維新」の政策は,今のところ(1)大阪都構想,(2)職員基本条例,(3)教育改革が3つの柱となっているようですが,ここでは主に(1)についてコメントします。(残る(2)と(3)については,別に機会があればということで)

 例の懲戒請求騒動との関係で,黒猫自身は橋下氏についてあまり良い印象は持っていないのですが,大阪都構想自体について反対するつもりは特にありません。橋下氏と堺屋太一氏の共著である『体制維新-大阪都』によると,一言で言えば大阪府と大阪市は伝統的に仲が悪く,お互いをライバル視して政策面でも無用な競争を重ねた結果,税金の無駄遣いがひどくなり大阪の衰退を招いたということであり,この際大阪府と大阪市を廃止して大阪の行政区画を大幅に再編し,体制の刷新を図ろうというものです。
 このような例は,実際に戦前の東京にもありました。戦前は現在と異なり,東京にも「東京府」と「東京市」が併存していたのですが,東京府と東京市の仲は伝統的に悪く,このままでは関東大震災からの復興や戦争遂行の妨げになると判断されたのか,1943(昭和18)年に「東京都制」という法律が施行されて「東京府」と「東京市」が廃止され,代わりに現在の「東京都」が発足することになりました。
 この東京都制は「帝都たる東京に真の国家的性格に適応する体制を整備確立すること」、「帝都に於ける従来の府市併存の弊を解消し、帝都一般行政の、一元的にして強力な遂行を期すること」、「帝都行政の根本的刷新と高度の効率化を図ること」を目的として制定されたものですが,一連の改革は内務省の強い主導のもとで行われており,従来の東京府・東京市や各区の議会は総じてこの改革に反対していたところを押し切ったというのですから,東京都制の目的で触れられている「府市併存の弊」というのも相当にひどかったのでしょう。
 ちなみに,東京都構想そのものは明治時代から存在しており,1895(明治28)年には東京15区を東京都として独立させて政府の支配を強化し,残りの地域を多摩県とする「東京都制及び多摩県設置法案」が提出されたのですが,この法案は帝国議会や東京市民の反感を買って廃案に追い込まれ,当時の内務大臣が引責辞任する事態に追い込まれたという経緯があり,内務省主導による東京都制も戦時下という特殊な情勢でなければ容易には実現できなかったことでしょう。
 もっとも,当時の東京都制は「東京の地方行政を東京都の強い監督下に置く」ことを目的としたものであり,現在のように区長や区議会議員の公選制が認められるのは1975(昭和50)年を待たなければなりませんでしたが,現在における東京の発展が,東京都と23の特別区という行政組織に支えられている面は否定し難いでしょう。
 もっとも,当時の内務省も東京都制を実現するだけで手一杯だったのか,同じように「府市併存の弊」がありそうな大阪は戦後も現状のまま放置されたわけですが,その結果大阪府と大阪市の水道施設が同じ場所に並んで建てられたり,大阪府立大学と大阪市立大学が併存していたり,うんざりするような税金の無駄遣い事例が後を絶たず,その結果警察力の強化にも十分な予算が出ず,治安は悪化して有望な人材や企業はどんどん東京へ流出し,大阪が非常に住みにくい都市になってしまった。そこで大阪も東京都の例に倣って「大阪都」を中心とした行政組織の再編を行い,大阪の再生を推し進めようというのは真っ当な議論だと思います。ただし,組織改革によって大阪という都市が再生の方向に向かうかどうかは,単なる区割りで済む問題ではなくその後数十年にわたる努力を経て初めて結果を示せる類のものなので,過剰な期待は禁物だと思いますが。

 もっとも,そこまでは良いとしても,さらに橋下氏は諸外国の例を引き合いに出して,260万人もの人口を有する大阪市は大きすぎて住民の顔を見ながら仕事をするのは無理だ,(一般論として)基礎自治体は人口数十万人程度が適正規模だ,という趣旨の主張もしています。こうなると,論理的には大阪府・大阪市だけでなく,およそ政令指定都市を抱えている府県のすべてがその行政組織を再編しなければならないことになります。
 特に,現在黒猫が住んでいる横浜市は,大阪市をも上回る367万人もの人口を抱えており,橋下氏の論理でいえば基礎自治体としては機能できないはずですが,大阪と違って横浜は現在でも順調に発展しており,少なくとも一市民の感想として,現在の行政組織にそれほどの不都合は感じていません。
 神奈川県の黒岩知事も,大阪都構想に関し「県と3政令市の関係は役割分担・相乗効果を果たしている為都構想は不要。その上,神奈川県は橋下氏らと連携することはない」と述べていますが,神奈川県では伝統的に県と横浜市などが深刻な対立関係に陥るという構図はなく,水道行政も横浜市と川崎市が自分の地域を,県がそれ以外の地域を担当するといった感じで自然に棲み分けが出来ていますし,「横浜市立大学」はあっても「神奈川県立大学」はありません。
 橋下市長自身は,横浜市を神奈川県から独立させ「特別市」にする構想を支持しているようですが,地理的な問題を考えれば横浜市と川崎市を統合して特別市とするのでなければ効率的な行政は難しいでしょうし,そもそも横浜市を神奈川県から独立させる必要性がどこまであるかは大いに疑問です。

 また,橋下氏は「大阪都は日本の体制改革実現への試金石」と位置づけており,大阪都構想の成功をバネにして将来的には「平成維新」とでも呼ぶべき日本全体の体制改革を志しているようですが,大阪都構想自体は東京で成功した行政組織を大阪にも導入しようというものに過ぎず,それ自体に「維新」と呼べるほどのインパクトは感じられません。
 堺屋氏は現代日本の経済衰退を江戸幕府の末期,太平洋戦争と並ぶ「第三の敗北」と位置づけ,この状況を打開するための「平成維新」とでも呼ぶべき抜本的な体制改革が必要だと訴えているようですが,わが国における明治維新と戦後復興の成功は,非常に大きな犠牲の下に成り立っていることを忘れてはなりません。すなわち,どちらの改革でも国の借金を大胆に踏み倒しているということです。
 幕末時代には,幕府も諸藩も莫大な負債を抱えていましたが,明治政府は幕藩体制を継承した政権ではないことを理由にこれらの負債の支払いを拒否し,事実上明治維新以前の借金を踏み倒してしまいました。戦後の復興については,明示的な債務不履行宣言などはなされなかったものの,戦後間もなくのハイパーインフレで郵便貯金は紙屑同然となり,事実上戦前の負債を帳消しにすることになりました。
 これと同程度の「維新」を現代において行うとすれば,当然ながら総額1000兆円とも言われる国の借金をどうにかしなければなりません。どうにかすると言っても,これほどの借金をきちんと返済するのは不可能に近いですから,結局は踏み倒すしかないのですが,預貯金も紙屑同然,年金も支払いストップということになれば,国の福祉で生活している高齢者の大半は餓死するしかないでしょう。
 そういう事態が現に起こってしまい,日本としてはこれ以上失う物もないという状況に陥ってしまえば,あるいは国民の多くも「平成維新」と呼べるほどの大胆な改革を受入れるかも知れませんが,未だに「消費税増税反対」「日本の国債は大丈夫だ」などと喚いている人間が少なくない現状では,大規模な体制維新は大多数の国民の支持するところにはならないでしょう。要するにまだ時期尚早だということです。

 これに続く教育改革の問題については,黒猫は橋下氏の意見にはほぼ全面的に反対という立場なのですが,これについてはまたの機会に書くことにします。

3 コメント

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Unknown ()
2012-03-21 10:36:44
別に、1000兆の国債を全部一気に返す必要は無いし、そんなことをしている国はどこにもないですけどね。ファイナンスし続ければいいだけです。
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Unknown ()
2012-03-21 14:01:32
ファイナンスし続けるための水準(バランス)に全く至っていないってことでしょ。
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リア充vs引きこもり (南太平洋)
2012-03-26 20:57:46
橋下派がリアルに活躍しているのに対して、反橋下派はもっぱらネットで活動。表に出ないと勝てないよ。もっとも、ネットウヨは反韓流デモで出てきたが、効果なし。脱原発も同様。
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