記事の連投は避けようかと思っていたのですが,重要な話なので一応書いておくことにします。
6月14日,法曹養成問題について2つの重要な記事が発表されました。1つは,文部科学省の中教審法科大学院特別委員会で,平成24年度の法科大学院入学者総数がようやく明らかにされたことです(下記リンク参照)。http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG1401H_U2A610C1CR0000/
日経の記事によると,法科大学院への入学者総数は3150人で,一応3000人を下回る事態にはならなかったようです。
ただし,例えば大阪市立大学法科大学院のHP(http://www.law.osaka-cu.ac.jp/lawschool/senbatu_h24.html#seiseki)を確認したところ,平成24年度の入学者数が3年標準型27名,2年短縮型28名の計55名とされているものの,同校の「概要」のところでは,同年5月1日時点で1年次生の在籍者が37名しかいないとされているなど,一部の法科大学院で不審な入学者数の水増しが行われている可能性があることは付言しておきます。
もっとも,それが無かったとしても,全法科大学院の約半数にあたる35校で入学者数が定員の半数に満たなかったというのは,かなり異常な事態であると言えるでしょう。入学者数が極端に少ない法科大学院に対し,無意味な税金投入が行われていないかどうか,今後も目を光らせる必要があります。
もう1つは,民主党の法曹養成制度検討プロジェクトチームが,予備試験合格率の大幅な向上などを内容とする提言をまとめたことです(参照:http://www.maekawa-kiyoshige.net/active.html)。
提言案の提案者である前川議員のブログ記事によれば,「①司法試験合格率の低迷、②法曹志望者の激減、③「二回試験」の不合格者激増に照らせば「法科大学院を中核とした法曹養成制度」の蹉跌は明らかであり、(1)直ちに実現可能であり、かつ、効果が期待できる施策を、(2)政府、与党一体として、速やかに着手し、実行する必要がある」とした上で,具体的には次の内容が提言されたようです。
(1)予備試験に関して、
①その合格率を、飛躍的に高めること。
②出題(法律科目)は常識的、基本的な範囲に留めること。
③一般教養試験を廃止し、あるいは大学の一般教養課程の修了をもって免除する
こと。そのために、今秋の臨時国会において、司法試験法第5条第2項第8号
の削除ないし改正すること。
(2)法科大学院に対する公的支援に関して、
①法科大学院に対する公的支援見直しの効果を見定めると同時に、見直しの指標
に定員の充足状況を追加すること。
②見直し指標に該当する法科大学院については、法務省、最高裁判所からの教員
(検察官、裁判官)の派遣を取り止めること。
(3)法科大学院における教員資格に関して、
①直ちに実務教員の割合を「3割以上」に引き上げること。
②引き上げの効果や教員確保の状況等を見定めた上で、さらに、実務家教員の割
合を引き上げること。
(4)回数制限に関しては、引き続き検討を続けること
直ちに実現可能な提言としては概ね評価できる内容であるものの,いくつかコメントしておきたい点があります。
(1) 予備試験について
一般教養科目については,択一及び論文の二段階で試験が課されており,特に択一試験についてはかなり難易度の高い問題が課されているため,予備試験の受験者にとって大きな障害となっていることが予測され,見直しが必要と考えられます(論文式試験については,試験問題で引用されている文献の内容が不明であるため,難易度について的確な判断ができません)。
もっとも,教養科目自体は維持した上で,大学の一般教養課程修了をもって免除することとした場合,免除制度自体は旧司法試験の枠組みを流用することで創設可能と思われますが,上記のように二段階で組み込まれている教養科目について一部の受験者のみ免除とした場合,同一の試験について免除を受ける者と受けない者の負担が大きく異なり,特に論文式試験については公正な採点に支障が出るおそれも懸念されます。予備試験受験者に対する教養担保のあり方は今後の課題になるとしても,当面の措置としては単純に一般教養科目を廃止すべきでしょう。
また,合格率を飛躍的に高めることについては,抽象的にそのような提言をしただけでは運用上無視されてしまう可能性が高いため,合格率に関する基準ないし運用上の留意事項等を法文上明記する必要があります。
口述試験があると,それ自体が受験生にとって大きな負担である上に,その運用難を理由に合格者数が抑制されるおそれも高いことから,法改正により口述試験は直ちに廃止すべきであり,択一試験と論文試験についても科目の統合を図る必要があり,さらに合格者数の運用についても指針を法文中に明示する必要があります。
(2) 法科大学院に対する公的支援に関して
見直しの指標に定員の充足状況を追加すること自体は結構なのですが,具体的な内容が明らかではありません。現在の基準も,法科大学院側の圧力により,明らかに問題があるところにしか適用されない指標になったという経緯がありますので,付け加えるべき具体的な基準を明記する必要があるでしょう。例えば「国民の税金を効率的に運用する観点に照らし,現在の指標では公的支援見直しの対象とされない法科大学院のうち,在籍者数が収容人員のおおむね半数に満たない場合には,公的支援見直しの対象とすべきである」といった基準を明らかにする必要があります。
(3) 教員資格について
実務教員の割合を3割以上とする点については,このブログでは過去に批判的な記事を書いたこともありますが,法科大学院の存続を前提とする場合,他の専門職大学院との均衡を考えても,実務家教員を3割以上とするのが自然な流れかと思われますので,この点について特に反対はしません。
また,必要な実務家教員の増加に伴い,各大学で法科大学院存続のメリットが減少しコストが増加することにより,撤退への圧力が強まるとともに,既得権益団体である法科大学院協会と日弁連の仲間割れを促進し,将来の法科大学院廃止が容易になるといった効果も無視できません。
(4) 回数制限について
直ちに廃止すべきだと思うのですが,継続協議のような結論になってしまったことは残念です。
なお,(1)に関しては,念のため司法試験法の条文改正案も示しておきます。
(司法試験予備試験)
第五条 司法試験予備試験(以下「予備試験」という。)は,司法試験を受けようとする者が前条第一項第一号に掲げる者と同等の学識及びその応用能力並びに法律に関する実務の基礎的素養を有するかどうかを判定することを目的とし,短答式及び論文式による筆記の方法により行う。
2 短答式による筆記試験は、次に掲げる科目について行う。
一 公法系科目 憲法及び行政法に関する基礎的事項から出題する。
二 民事系科目 民法,商法,民事訴訟法及び民事訴訟実務に関する基礎的事項から出題する。
三 刑事系科目 刑法,刑事訴訟法及び刑事訴訟実務に関する基礎的事項から出題する。
3 論文式による筆記試験は、短答式による筆記試験に合格した者につき,前項各号に掲げる科目について行う。
4 前二項に規定する試験科目については,法務省令により,その全部又は一部について範囲を定めることができる。
5 予備試験の運用にあたっては,同試験の合格が法科大学院課程の修了と同等の受験資格であることに留意するとともに,法科大学院課程の修了者と予備試験合格者における司法試験合格率の均衡を考慮し,予備試験の合格率が第一項の目的に照らし過度に抑制的なものとならないよう配慮しなければならない。
まあ,これを厳格に運用したら法科大学院は間違いなく潰れますけどね・・・。
6月14日,法曹養成問題について2つの重要な記事が発表されました。1つは,文部科学省の中教審法科大学院特別委員会で,平成24年度の法科大学院入学者総数がようやく明らかにされたことです(下記リンク参照)。http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG1401H_U2A610C1CR0000/
日経の記事によると,法科大学院への入学者総数は3150人で,一応3000人を下回る事態にはならなかったようです。
ただし,例えば大阪市立大学法科大学院のHP(http://www.law.osaka-cu.ac.jp/lawschool/senbatu_h24.html#seiseki)を確認したところ,平成24年度の入学者数が3年標準型27名,2年短縮型28名の計55名とされているものの,同校の「概要」のところでは,同年5月1日時点で1年次生の在籍者が37名しかいないとされているなど,一部の法科大学院で不審な入学者数の水増しが行われている可能性があることは付言しておきます。
もっとも,それが無かったとしても,全法科大学院の約半数にあたる35校で入学者数が定員の半数に満たなかったというのは,かなり異常な事態であると言えるでしょう。入学者数が極端に少ない法科大学院に対し,無意味な税金投入が行われていないかどうか,今後も目を光らせる必要があります。
もう1つは,民主党の法曹養成制度検討プロジェクトチームが,予備試験合格率の大幅な向上などを内容とする提言をまとめたことです(参照:http://www.maekawa-kiyoshige.net/active.html)。
提言案の提案者である前川議員のブログ記事によれば,「①司法試験合格率の低迷、②法曹志望者の激減、③「二回試験」の不合格者激増に照らせば「法科大学院を中核とした法曹養成制度」の蹉跌は明らかであり、(1)直ちに実現可能であり、かつ、効果が期待できる施策を、(2)政府、与党一体として、速やかに着手し、実行する必要がある」とした上で,具体的には次の内容が提言されたようです。
(1)予備試験に関して、
①その合格率を、飛躍的に高めること。
②出題(法律科目)は常識的、基本的な範囲に留めること。
③一般教養試験を廃止し、あるいは大学の一般教養課程の修了をもって免除する
こと。そのために、今秋の臨時国会において、司法試験法第5条第2項第8号
の削除ないし改正すること。
(2)法科大学院に対する公的支援に関して、
①法科大学院に対する公的支援見直しの効果を見定めると同時に、見直しの指標
に定員の充足状況を追加すること。
②見直し指標に該当する法科大学院については、法務省、最高裁判所からの教員
(検察官、裁判官)の派遣を取り止めること。
(3)法科大学院における教員資格に関して、
①直ちに実務教員の割合を「3割以上」に引き上げること。
②引き上げの効果や教員確保の状況等を見定めた上で、さらに、実務家教員の割
合を引き上げること。
(4)回数制限に関しては、引き続き検討を続けること
直ちに実現可能な提言としては概ね評価できる内容であるものの,いくつかコメントしておきたい点があります。
(1) 予備試験について
一般教養科目については,択一及び論文の二段階で試験が課されており,特に択一試験についてはかなり難易度の高い問題が課されているため,予備試験の受験者にとって大きな障害となっていることが予測され,見直しが必要と考えられます(論文式試験については,試験問題で引用されている文献の内容が不明であるため,難易度について的確な判断ができません)。
もっとも,教養科目自体は維持した上で,大学の一般教養課程修了をもって免除することとした場合,免除制度自体は旧司法試験の枠組みを流用することで創設可能と思われますが,上記のように二段階で組み込まれている教養科目について一部の受験者のみ免除とした場合,同一の試験について免除を受ける者と受けない者の負担が大きく異なり,特に論文式試験については公正な採点に支障が出るおそれも懸念されます。予備試験受験者に対する教養担保のあり方は今後の課題になるとしても,当面の措置としては単純に一般教養科目を廃止すべきでしょう。
また,合格率を飛躍的に高めることについては,抽象的にそのような提言をしただけでは運用上無視されてしまう可能性が高いため,合格率に関する基準ないし運用上の留意事項等を法文上明記する必要があります。
口述試験があると,それ自体が受験生にとって大きな負担である上に,その運用難を理由に合格者数が抑制されるおそれも高いことから,法改正により口述試験は直ちに廃止すべきであり,択一試験と論文試験についても科目の統合を図る必要があり,さらに合格者数の運用についても指針を法文中に明示する必要があります。
(2) 法科大学院に対する公的支援に関して
見直しの指標に定員の充足状況を追加すること自体は結構なのですが,具体的な内容が明らかではありません。現在の基準も,法科大学院側の圧力により,明らかに問題があるところにしか適用されない指標になったという経緯がありますので,付け加えるべき具体的な基準を明記する必要があるでしょう。例えば「国民の税金を効率的に運用する観点に照らし,現在の指標では公的支援見直しの対象とされない法科大学院のうち,在籍者数が収容人員のおおむね半数に満たない場合には,公的支援見直しの対象とすべきである」といった基準を明らかにする必要があります。
(3) 教員資格について
実務教員の割合を3割以上とする点については,このブログでは過去に批判的な記事を書いたこともありますが,法科大学院の存続を前提とする場合,他の専門職大学院との均衡を考えても,実務家教員を3割以上とするのが自然な流れかと思われますので,この点について特に反対はしません。
また,必要な実務家教員の増加に伴い,各大学で法科大学院存続のメリットが減少しコストが増加することにより,撤退への圧力が強まるとともに,既得権益団体である法科大学院協会と日弁連の仲間割れを促進し,将来の法科大学院廃止が容易になるといった効果も無視できません。
(4) 回数制限について
直ちに廃止すべきだと思うのですが,継続協議のような結論になってしまったことは残念です。
なお,(1)に関しては,念のため司法試験法の条文改正案も示しておきます。
(司法試験予備試験)
第五条 司法試験予備試験(以下「予備試験」という。)は,司法試験を受けようとする者が前条第一項第一号に掲げる者と同等の学識及びその応用能力並びに法律に関する実務の基礎的素養を有するかどうかを判定することを目的とし,短答式及び論文式による筆記の方法により行う。
2 短答式による筆記試験は、次に掲げる科目について行う。
一 公法系科目 憲法及び行政法に関する基礎的事項から出題する。
二 民事系科目 民法,商法,民事訴訟法及び民事訴訟実務に関する基礎的事項から出題する。
三 刑事系科目 刑法,刑事訴訟法及び刑事訴訟実務に関する基礎的事項から出題する。
3 論文式による筆記試験は、短答式による筆記試験に合格した者につき,前項各号に掲げる科目について行う。
4 前二項に規定する試験科目については,法務省令により,その全部又は一部について範囲を定めることができる。
5 予備試験の運用にあたっては,同試験の合格が法科大学院課程の修了と同等の受験資格であることに留意するとともに,法科大学院課程の修了者と予備試験合格者における司法試験合格率の均衡を考慮し,予備試験の合格率が第一項の目的に照らし過度に抑制的なものとならないよう配慮しなければならない。
まあ,これを厳格に運用したら法科大学院は間違いなく潰れますけどね・・・。
法科大学院推進派の方なのでしょうか。
総じて反論はないですが、まあ、正確な部分だけ取り出した方が記事全体の信憑性を高めるし、わかりやすくていいとは思います。
たしかに法科大学院の中には未修1年・既修1年と呼ぶところもあるようですが、誤解を招きがちでややこしいため、多くの法科大学院では、既修者として入学した人は2年生(2年次生・2回生)と呼ばれていて、これは常識の部類に属する事柄だと思います。
そもそも、国が作った制度はそのように設計されています。善し悪しは別として、法科大学院は未修が基本であり、既修者認定試験に合格した者は、未修者が1年次に修得すべき単位を修得したとみなされるというのが、専門職大学院設置基準の規定です。既修者は、いわば2年次編入のような形で未修者の2年生と合流するというイメージです。
そうすると、既修者として入学した者を「2年次生」と呼ぶのは、特に断らなくても当然ということになり、多くの法科大学院はこれを前提にそう呼んでいると理解できます。ただし、このようなルールをみんなが知っているわけではなく、誤解を招く恐れがあるため、大阪市大のように定義を明確にしているところもあると思います。
法科大学院にそれほど関心のない一般国民や受験生等は、このあたりの細かなルールを知らなくてよいと思いますが、法科大学院制度について語ろうとするならば、基本的なしくみや定義は踏まえられたほうがよいと思います。
本文の主張の中心部分とはあまり関係ありませんが、初歩的な誤解に基づき、具体的な法科大学院を名指しして「水増しの恐れがある」などと書かれている点が気になりましたので、あえて指摘させていただきました。
大阪市立の場合は、確かに、
http://www.law.osaka-cu.ac.jp/lawschool/cu02.html
「法学既修者の第1学年は、2回生とします。」
と書いてありますね。