Youtubeには色々な映画の面白シーンを切り取ったものがありまして、前回記事の「旅情」についてもいくつかあったので2つ程映像テクニックを吟味しながら見直してみたわけです。「旅情」以外にも沢山ありそうなので、今後もYoutube動画で面白いシーンを見つけたら、再鑑賞しながら面白テクニック等も解説してみたいと思っております。
ということで、早速、これも色々と関連動画がアップされている、1967年製作のアメリカン・ニューシネマの秀作「卒業」から拾ってみましょうか。
東部の大学を優秀な成績で卒業しながら、将来計画も展望も浮かばないという不安を抱えている主人公ベンジャミン・ブラドックは、両親が祝ってくれたパーティーの夜に、父親のビジネスパートナーであるロビンソン氏の奥方に誘惑されるという椿事に出くわす。最初は相手にしなかったものの、いつまでも甘やかしてくれる両親にも些かうんざりしてきたし、好奇心も手伝って刺激的な人妻との性の冒険に飛び込んでみようと思うのだが・・・という序盤の、いよいよベンジャミンとミセス・ロビンソンの密会が始まるシーンでありますな。
シーンの冒頭は、ベンジャミンがスキューバ・ダイビングの格好をして自宅のプールの底に佇んでいる映像。しかし、流れている音声はベンジャミンがホテルの公衆電話からミセス・ロビンソンに連絡をとっているものでした。
最近はあまり見かけないですが、ニューシネマの頃にはこういう映像と音声のタイムラグをシーンの切り替えに使うことが多かったんですよね。普通はほんの一瞬の音とかが多いんですが、このシーンは結構長めに前後のシーンがラップしています。つまり、前のシーンのプールに潜っている時に人妻との情事を決行してみようと思いついたという表現にもなっているんですね。
ベンジャミンは、『もしよろしかったら1杯飲みませんか・・・』なんて言っているのですが、向こうのミセス・ロビンソンは『今何処?わかった。1時間で行くわ』と、まことに素早い決断をしてサッと電話も切ってしまいます。この辺の演出も二人の心情や関係が憎いほど伝わってきますね。
「卒業」は、大学を卒業した若者と周囲の大人とのギクシャクした関係を、辛辣なユーモアを交えて描いたコメディなので、特に前半はクスクスと笑ってしまうシーンが多いのですが、特に今回のシーンは若者の初心者感があちこちに現れて可笑しさが満載なのです。
1時間待たされることになったベンジャミンは、ホテルの中に入っていく。ドアを開けたとたんにゾロゾロとお年寄り達がやって来て、まるでドアボーイのような役割を担わされるというのも彼のお人よし加減が滲み出るシーンです。
その後ベンジャミンは受付カウンターに近づいていくのですが、この後のシーンで少し気になるモンタージュがあるので書いておきます。
カメラは歩いているベンジャミンの主観ショットに変わって、カウンターの中のホテルマンをフォーカスしながらハンディ・カメラで移動していき、ホテルマンは近づいてきた主観カメラに向かって『何か御用でしょうか?』と問いかけます。直前まで観客はベンジャミンの主観だと思って映画を観ているので、次のショットは当然カメラに向かってしゃべりかけたホテルマンの主観ショットに変わると思うのですが、今度はベンジャミンを(ホテルマンの視点ではない)客観ショットで捉えているんですね。よく見直すと、ベンジャミンの主観カメラだと思っていた移動ショットが途中で主観から客観にすりかわっていると見るしかないのですが、この辺りでカットが一つ抜けている感じがします。
ブースの中で立ち働いているのは、この映画の脚本を書いたバック・ヘンリー。このホテルマンとベンジャミンとのやり取りは、この後も何回かあって、どれも抱腹絶倒とまではいかなくともかなり笑えるシーンであります。
動画が始まって4分後くらいにミセス・ロビンソンが登場します。ベンジャミンはホテルの中のバーで一人酒を飲んでいる。ここも相当笑えるシーンです。
落ち着かないベンジャミンは彼女の飲み物さえも言われて注文するくらいで、その注文もかっこよくとはいかず、結局ミセスロビンソンが堂々とウェイターにマティーニを注文する。
『緊張しないで』
『こんな場面で緊張しないなんて無理です』
『部屋は取ったの?』
『いえ。今すぐがイイですか?』
『私が取る?』
『いや、私が取りますよ』と椅子から立ち上がる時にテーブルの角に膝をぶつけてしまうのも笑えるし、その後のバック・ヘンリーとのやり取りも頗るオカシイ。
なんとか、偽名を使ってシングルルームを確保する。
と、次のショットはバーの中のミセス・ロビンソンに電話がかかって来て、ウェイターが受話器をテーブルまで持ってくるシーン。ロビンソン夫人が出ると、なんと電話の主はベンジャミン。受付カウンターの男が疑っているので、電話でお知らせしたというわけ。
このシーンでも緊張のあまり情事の相手に大事な伝言を忘れて受話器を切ろうとするという若者の描写が、情けなくも可笑しいものとなっています。
この後のホテルの一室でのシーンも別の動画でアップされていて、こちらも面白いシーンでした。
尚、この時点のベンジャミンは童貞という設定だと解釈されているようですが、少なくとも原作ではこのシーンの前に放浪の旅に出た彼が父親に対してコールガールとも遊んだと告白するので女性は初めてではなかったと考えるのが妥当です。
肝心のyoutubeが削除されたようなので、別途探してみましたところ、幾つか細切れですが当該シーンの動画が見つかりました。コピペします。(2016.07.12)
ということで、早速、これも色々と関連動画がアップされている、1967年製作のアメリカン・ニューシネマの秀作「卒業」から拾ってみましょうか。
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東部の大学を優秀な成績で卒業しながら、将来計画も展望も浮かばないという不安を抱えている主人公ベンジャミン・ブラドックは、両親が祝ってくれたパーティーの夜に、父親のビジネスパートナーであるロビンソン氏の奥方に誘惑されるという椿事に出くわす。最初は相手にしなかったものの、いつまでも甘やかしてくれる両親にも些かうんざりしてきたし、好奇心も手伝って刺激的な人妻との性の冒険に飛び込んでみようと思うのだが・・・という序盤の、いよいよベンジャミンとミセス・ロビンソンの密会が始まるシーンでありますな。
シーンの冒頭は、ベンジャミンがスキューバ・ダイビングの格好をして自宅のプールの底に佇んでいる映像。しかし、流れている音声はベンジャミンがホテルの公衆電話からミセス・ロビンソンに連絡をとっているものでした。
最近はあまり見かけないですが、ニューシネマの頃にはこういう映像と音声のタイムラグをシーンの切り替えに使うことが多かったんですよね。普通はほんの一瞬の音とかが多いんですが、このシーンは結構長めに前後のシーンがラップしています。つまり、前のシーンのプールに潜っている時に人妻との情事を決行してみようと思いついたという表現にもなっているんですね。
ベンジャミンは、『もしよろしかったら1杯飲みませんか・・・』なんて言っているのですが、向こうのミセス・ロビンソンは『今何処?わかった。1時間で行くわ』と、まことに素早い決断をしてサッと電話も切ってしまいます。この辺の演出も二人の心情や関係が憎いほど伝わってきますね。
「卒業」は、大学を卒業した若者と周囲の大人とのギクシャクした関係を、辛辣なユーモアを交えて描いたコメディなので、特に前半はクスクスと笑ってしまうシーンが多いのですが、特に今回のシーンは若者の初心者感があちこちに現れて可笑しさが満載なのです。
1時間待たされることになったベンジャミンは、ホテルの中に入っていく。ドアを開けたとたんにゾロゾロとお年寄り達がやって来て、まるでドアボーイのような役割を担わされるというのも彼のお人よし加減が滲み出るシーンです。
その後ベンジャミンは受付カウンターに近づいていくのですが、この後のシーンで少し気になるモンタージュがあるので書いておきます。
カメラは歩いているベンジャミンの主観ショットに変わって、カウンターの中のホテルマンをフォーカスしながらハンディ・カメラで移動していき、ホテルマンは近づいてきた主観カメラに向かって『何か御用でしょうか?』と問いかけます。直前まで観客はベンジャミンの主観だと思って映画を観ているので、次のショットは当然カメラに向かってしゃべりかけたホテルマンの主観ショットに変わると思うのですが、今度はベンジャミンを(ホテルマンの視点ではない)客観ショットで捉えているんですね。よく見直すと、ベンジャミンの主観カメラだと思っていた移動ショットが途中で主観から客観にすりかわっていると見るしかないのですが、この辺りでカットが一つ抜けている感じがします。
ブースの中で立ち働いているのは、この映画の脚本を書いたバック・ヘンリー。このホテルマンとベンジャミンとのやり取りは、この後も何回かあって、どれも抱腹絶倒とまではいかなくともかなり笑えるシーンであります。
動画が始まって4分後くらいにミセス・ロビンソンが登場します。ベンジャミンはホテルの中のバーで一人酒を飲んでいる。ここも相当笑えるシーンです。
落ち着かないベンジャミンは彼女の飲み物さえも言われて注文するくらいで、その注文もかっこよくとはいかず、結局ミセスロビンソンが堂々とウェイターにマティーニを注文する。
『緊張しないで』
『こんな場面で緊張しないなんて無理です』
『部屋は取ったの?』
『いえ。今すぐがイイですか?』
『私が取る?』
『いや、私が取りますよ』と椅子から立ち上がる時にテーブルの角に膝をぶつけてしまうのも笑えるし、その後のバック・ヘンリーとのやり取りも頗るオカシイ。
なんとか、偽名を使ってシングルルームを確保する。
と、次のショットはバーの中のミセス・ロビンソンに電話がかかって来て、ウェイターが受話器をテーブルまで持ってくるシーン。ロビンソン夫人が出ると、なんと電話の主はベンジャミン。受付カウンターの男が疑っているので、電話でお知らせしたというわけ。
このシーンでも緊張のあまり情事の相手に大事な伝言を忘れて受話器を切ろうとするという若者の描写が、情けなくも可笑しいものとなっています。
この後のホテルの一室でのシーンも別の動画でアップされていて、こちらも面白いシーンでした。
尚、この時点のベンジャミンは童貞という設定だと解釈されているようですが、少なくとも原作ではこのシーンの前に放浪の旅に出た彼が父親に対してコールガールとも遊んだと告白するので女性は初めてではなかったと考えるのが妥当です。
肝心のyoutubeが削除されたようなので、別途探してみましたところ、幾つか細切れですが当該シーンの動画が見つかりました。コピペします。(2016.07.12)
そんなシーンあったんか!!
再見しないと!
『こんな場面で緊張しないなんて無理です』
再見してちょ