テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

眺めのいい部屋

2005-08-21 | ラブ・ロマンス
(1986/ジェームズ・アイヴォリー監督/ヘレナ・ボナム=カーター、ジュリアン・サンズ、デンホルム・エリオット、マギー・スミス、ジュディ・デンチ、ダニエル・デイ=ルイス、サイモン・キャロウ、ローズマリー・リーチ)


 数年前に観て気に入った映画で、DVDになって出ていたのでレンタルしてきた。

 E・M・フォスター原作の【A Room with a View】の映画化。フォスターの小説の映画化ではリーン監督の「インドへの道(1984)」を思い出すが、あちらはイギリス女性がインドを旅する話で、こちらはイタリアの古都フィレンツェをイギリスの男性や女性が旅をする。

*

 20世紀初頭の話。年取った従姉妹のシャーロット(スミス)と一緒にフィレンツェに来たルーシー・ハニーチャーチ(ボナム=カーター)は、父親(エリオット)と一緒にこの美しい古都を訪れているジョージ・エマソン(サンズ)と知り合う。同じホテルに泊まっていて、シャーロットの予約した部屋が“眺めのいい部屋”ではなかった事を彼女が愚痴っていると、エマソン親子が部屋の交換を申し出てくれたのだ。シャーロットは昔風の堅物の英国女性で、素直に受け入れない。偶然にも同じホテルに旧知の牧師を見かけ、彼が間をとりもってくれて、なんとか“眺めのいい部屋”に泊まれることになった。

 一緒のホテルに泊まっている英国女性には、女流作家のエレナ(デンチ)もいる。この作品は、伝統や格式を重んじる封建的な人といわゆる“自由主義”の人との葛藤を描くという側面もあって、シャーロットは前者の代表のような描き方で、エレナは作家らしく後者の好奇心旺盛な女性である。
 ルーシーはイギリス貴族の娘で封建的な風土の中で育った人間だが、自由主義者のジョージには、彼女の情熱的な部分が見えていた。ルーシーはベートーベンが好きで、ホテルでもピアノを弾いていた。
 フィレンツェでのある日、数組のホテルの客同士で馬車で出かけた時に、美しい麦畑で突然ジョージはルーシーにキスをする。たまたまソレを見かけたシャーロットは、あわてて予定を繰り上げてルーシーと共にイギリスへ帰ることにする。

 祖国に帰ったルーシーには、幼なじみと思われる、セシル(デイ=ルイス)の求婚が待っていた。セシルは音楽や文学、絵画など芸術を愛する男で、彼女は彼の申し出を受けることにした。しかし、ルーシーの母親も弟も、それ程セシルが気に入ってるわけではないようだ。二人の初キスは婚約の後という、そちらの方面は奥手のセシルであった。

 二人が婚約して間もない頃、近所の空き別荘に、セシルがイタリアで知り合った人が引っ越して来ることになった。なんとそれはジョージと父親であった・・・(続きはビデオで)。

*

 ヘレナ・ボナム=カーターはもっと綺麗な人だったようなイメージがあったけどなぁ。

 前半のフィレンツェの街並みや彫刻の数々、美しい自然。NY批評家協会賞で撮影賞を獲ったトニー・ピアース=ロバーツのカメラが素晴らしい。フィレンツェの広場でイタリアの若者同士のケンカのシーンがあるが、「ロミオとジュリエット」を思い出しました。

 後半。ジョージやルーシーの弟達が川で水浴びをするシーンでは、男性のナニがなんのボカシもなくて公開されていたのに驚きました。以前観たときもそうだったのだろうか?フィレンツェで裸の男性の彫刻も出てきたし、自然と戯れる風景なのでイヤらしさはないのだが、いつの間に映倫はここまで物わかりがよくなったんだろう、と思いましたな。
 アイヴォリー監督といえば、翌年に同じフォスター原作の「モーリス(1987)」を作っている。未見だが、若者の同性愛を描いた作品だと聞いているので、なんとなく前出のシーンも監督の趣味かなと思ってしまいました。

▼(ネタバレ注意)
 最終的にはジョージとルーシーは結ばれ、二人して思い出のフィレンツェへ行き、“眺めのいい部屋”でルーシーの弟からの手紙を読みながらイチャイチャする。

 ルーシーに疎ましく思われていたシャーロットが、最後には二人のキューピットになり、幸福な旅先のルーシーから手紙を受け取るというのは嬉しい結末でした。英国アカデミー賞ではマギー・スミスが主演女優賞を獲ったらしいです。

 泰西名画の様な風景の中で、封建的な慣習に囚われない主人公二人の(控えめながらも)生き生きとしたところが、19世紀の女流作家ジェーン・オースティンの「自負と偏見」を思い出させてくれました。
▲(解除)

 芸術は愛せても人間は愛せないのではないか、と思わせる可哀想な英国貴族を演じたダニエル・デイ=ルイス。この映画の彼を見ると古い友人(イニシャルS・S)を思いだしてしまうんですが、この友人もスポーツはゴルフ以外苦手。しかしちゃんと結婚をして一児のパパになりました。

 1986年のアカデミー賞では、脚色賞(ルース・プラワー・ジャブヴァーラ)、美術賞、衣裳デザイン賞を受賞し、作品賞、監督賞、助演男優賞(デンホルム・エリオット)、助演女優賞(マギー・スミス)などにノミネートされた。
 NY批評家協会賞では、助演男優賞(ダニエル・デイ=ルイス)と撮影賞を受賞。
 更に、ゴールデン・グローブ賞ではマギー・スミスが助演女優賞を受賞。英国アカデミー賞では、ジュディ・デンチが助演女優賞をとった。
 主演の二人がどれにもノミネートされていないのは淋しいですが、脇の人達の演技は確かにどれも見応えのあるものでした。





・お薦め度【★★★★=友達にも薦めて】 テアトル十瑠

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11 コメント

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確か・・ (anupam)
2005-08-21 23:31:55
だいぶ前に「モーリス」は見ました。イケメンの片思いって感じでしたかね。昔は同性愛は犯罪行為、ディカプリオ主演の「太陽と月に背いて」でも「もし身体検査をされてばれたら逮捕される」というセリフがありました。



この「眺めのいい部屋」は未見なのですが、「モーリス」の監督さんならそういった嗜好があるのかも・・でも芸能関係の人は多いみたい・・

ジョン・シュレンジャーもそうでしたね。
ヴィスコンティは (十瑠)
2005-08-22 07:20:58
有名ですけど、特にヨーロッパの映画関係の人はいわゆる“バイセクシャル”が多いんじゃないでしょうかねぇ。

シュレシンジャーも・・・とは知りませんでした。



>身体検査をされてばれたら



って、どんな検査かいな・・・?
検査は・・ (anupam)
2005-08-22 08:18:50
たぶんセリフの前後から察すると、ダイレクトに排泄物の玄関口(汚い表現ですみません)を検査する方法のようですよ。

そこで一発でばれちゃうんですって。

検査する方もいやだろうにな~
なるほど・・・ (十瑠)
2005-08-22 12:15:35
「太陽と月に背いて」は19世紀の話みたいだから、宗教上の罪が一般的な罪にもなったんでしょうな。



あ、あの~、「眺めのいい部屋」は美しくてきめ細やかなドラマですから・・・anupamさんも是非ご覧になって下さい。
Unknown (sally)
2006-05-24 01:01:03
こんばんは!TBありがとうございました♪

英国のアカデミー賞ではマギー・スミス(シャーロット)が主演だったのですね~・・・じゃあルーシーは一体・・・。

でも確かにマギーとジュディ・デンチの共演は見ごたえがありましたね♪

この映画を観るとフィレンツェに行きたくなりますね。
「おいも」と・・・ (viva jiji)
2008-02-07 18:26:32
「薄っぺらなパン」の話にばかりチカラ込めて書いている拙記事、持参しました。(--)^^

>ヘレナ・ボナム=カーターはもっと綺麗な人だったような

御意!

私も再見して気づきました~^^;
彼女、赤ちゃんの頃は絶対あれ、カモメまゆげ・・だったに違いないわん。
でもしっかりした欲のある芝居をし続けています。
ちょっと今はダンナ色に濃く染まり過ぎてるきらいがございますけどね。^^

>なんのボカシもなくて

そ、そそそそそそっ、それを早く知っていればっ!
これから凍り道もなんのそのっ!
滑り転びつGEOに行って来まっす!

『BS2放映にホットケーキは飛ぶかっ!』

十瑠さん、賭けっこしない?^^

私、飛ばないほうにエビス・ビール、1パック、賭ける!(500ml×6缶入)(笑)
賭け・・・ (十瑠)
2008-02-07 20:48:07
天下のNHKさんですからねぇ。エビス・ビールは欲しいけど、これは賭けにならんでしょう

最近のBS放送は、アカデミー賞特集とかで、「スティング」やら「トプカピ」やら、そして今夜は「ペーパーチェイス」と、録画の鬼となっております。

おっ、今夜はヘレナ・ボナム=カーターの旦那さんの「エド・ウッド」も録画の予定です。
コメントありがとうございました (YOSHIYU機)
2009-02-25 22:19:45
あの男性のナニが乱舞する(笑)場面は
最初の公開時には、カットされていたそうです。

ヘレナ・ボナム=カーターは、今と
全然、顔が違いますよね。
YOSHIYU機さん、いらっしゃいませ (十瑠)
2009-02-25 22:54:43
そうですか、カットされてましたか。
随分前ですが、VHSテープでレンタルした時にはぼかされていたように思うんですけどね^^

>ヘレナ・ボナム=カーターは、今と全然、顔が違いますよね。

これ以外の彼女を観たことがないんで、なんとも・・・。
旦那の映画にもいまいち手が伸びずにおるのです。
映倫 (樹衣子)
2012-06-10 17:39:36
おじゃまします。

私の観たDVDは古かったので、ぼかしがありました^^!

この映画では、ルーシーが性的にめざめていく点も大事かと思いますので、
水浴びのシーンは違和感がなかったですが、
近頃、外国映画での男性の全裸シーンは珍しくないようですね。
芸術的観点からぼかしもあまりなくなりました。
肉体に対する考え方や日本的な羞恥心の感性が違うのかもしれません。
考えてみれば、女性の全裸シーンはよくみかけますしね。

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