上 中 下

　一瞬我目を疑った。シーナさんの「哀愁の町に霧が降るのだ」（パートー２）
が上、中、下巻、ガン首を揃えて並んでいるのだ。
　シーナさん流に言えばその並びの美しさに動揺し、錯乱し、逆上し、エイャー
とばかりに発作的同時一挙一網打尽ねこそぎ購入という事態になった。
この店は、前にも大量のシーナ本が在った所だ。この店に出入りのシーナファン
が、またこの３冊を処分した確たる証拠は見られないが、しかし少なくともこの
３冊は、同一人物が持っていたであろう証拠はあるのだ。
　アタシのような〔均一本主義出会い系エピソード評論家〕は、その本にある独
特なニオイというか、全体の並びの立居振舞い、あるいは紙のシミや紙質経年変
化度の色合いにおいて、元の持主の人生的思想や境遇、環境といったものまで想
像できるのだ。週刊文春の〔新宿赤マントシリーズ〕の一連もあの店に在ったの
だから、きっとあの店の近くには熱烈なシーナファンが何人が居るのだ。そして
その人達の無欲な温情の本売りによって、アタシはかなりのシーナ本を読み楽し
めた。
　できることならその人には感謝状でも贈り、男なら握手を軽く求め、それがも
しご婦人なら（シーナファンに女性は居ないだろうが）きつく抱きしめてあげた
いのだ。どうかアタシの行く店の「椎名誠新刊即購入党数年後チェーン店処分
派」の身に覚えのある方は、是非とも名乗りを上げてもらいたい（笑）。

　「哀愁の町に霧が降るのだ」スーパーエッセイＰart２　著者　椎名　誠
　　　情報センター出版局　　定価９１０円
　　（　上巻　１９９１年５月２７日　第５７刷　）
　　（　中巻　１９９１年５月２７日　第４８刷　）
　　（　下巻　１９９１年５月２７日　第４６刷　）
　※ちなみに、上巻　第１刷は　１９８１年１０月２９日
　　　　　　　中巻　第１刷は　１９８２年２月２７日
　　　　　　　下巻　第１刷は　１９８２年１１月６日