BIN山本の『映画にも程がある』

好きな古本との出会いと別れのエピソード、映画やテレビ、社会一般への痛烈なかくかくしかじか・・・

潮 時 ?

2008年10月13日 | 古本
 荒々しい海の断崖にたつ、その岩肌のようにゴツゴツした
小説だ。その荒さに戸惑いながらも読み進めていく内に、
なにか壮大で乾いた太古の人間の関係とは、こんなかたちで
あったろうと思わせるのだ。その時代の島において愛という言葉は、心と身体が
離れている者にとってこそ必要だった。やがての終章に至って、大海の風波は岩
と石を削り丸い小さな砂粒となり、書いた文字がとめどなく波に打ち消されてい
く時間だ。
 アイルランドの、夕暮れの雲に覆われた入江は、暗く静かでもの悲しい。

 藤原 新也さんの小説を読むのは初めてで、初めて書いた小説を幸運にも見つ
けた。そろそろ百円コーナーに通うのも潮時かと、思い始めていたのだが。
藤原さんの著作は「アメリカ」を手始めに、その前や後ろに出版されたものは
古本屋さんの棚次第に任せていた。が、こうなると同時発売でこの本を元にした
写真集「風のフリュート」は、何処かで必死で探さねばならない。

 「ディングルの入江」 著者 藤原 新也  集英社 定価1785円
  ( 1998年1月31日 第1刷発行 )