BIN山本の『映画にも程がある』

好きな古本との出会いと別れのエピソード、映画やテレビ、社会一般への痛烈なかくかくしかじか・・・

無 冠

2021年09月22日 | 古本
人の親は99パーセント以上が無冠だ。平凡であり凡庸だ。それがいつしか阿久悠さんはそんな父親のノンフィクション、
いや父の小説を書いた。作詞家として有名になった自分が身内の事をテレビに出したり語る事は「恥ずかしいことだ」と
冒頭にはあったが。(アタシはその見識をタレントなどにも言いたいが、父母のお涙物はみんな好きらしい)
まあそれはともかくいいことにしょう。より興味を持ったのは、この小説が編集者によって最終章を書き直すように云われ
(ただ編集者は改稿を求めたのであり、それが最終章とは書いてないが)
たことで、阿久さんはお蔵入りを決めた。それが死後の後片付けにより発見され、出版されたことだ。つまり編集者はどこが
いけないと感じたのか、そこがアタシは知りたい。確かに外国に旅行中にマネージャーから思わぬ父の死を知らされ、戸惑った。
そして出来るだけ派手に大きな葬儀をと伝えた。参列者が列をなし、有名人からや大手の芸能に係わるプロダクションやTV 局
からの花輪が境内にとどまらず、道路に長くはみ出した、などとは父ではなく自分への自慢に過ぎない。編集者はその辺をたし
なめたものに、という事だったとアタシは思うのだがどうだろう、聞いてみたいものだ。
 「無冠の父」 著者 阿久 悠  岩波書店 定価1800円+税
  ( 2011年10月13日 第1刷発行 )

圧力隔壁という隠蔽

2021年09月16日 | 新 刊
ついに青山透子さんはここまで断言した。日航123便の墜落原因は圧力隔壁などではないと。いままで出版した
「日航123便墜落 疑惑の始まりー天空の星たちへ」や「日航123便 墜落の新事実ー目撃証言から深層に迫る」
などはどちらかというと目撃や傍証証言だったが、それでさえも十分だったか今回は決定打だ。
垂直尾翼のほぼ真ん中に、突然「異常外力着力点」に、つまり爆薬の積んでいない模擬ミサイルが命中したのだ。
どうして521人もの人間の命が奪われた事件が、こうも隠蔽されその線に沿った事故調査委員会の結果しか明かされ
て来ないのかは、それは明らかな事件であり当時の首相〔中曽根康弘〕の自己保身である。
青山さんは堪能な英語力を駆使、アメリカに保存され公開された外交文章などを当時のロン・ヤスの公文書の中から
何気ない文章の中に、はっきりとこれは「事件」だとみちびいた。
圧力隔壁の破壊などは明らかに科学的矛盾にみちた結論であり、だれも寄せ付けなかった事故現場で我先にとその証拠を
到着した自衛隊は寸断し隠した。その作業時間を確保するための墜落地点のメディアへのウソ情報であり、いち早く現場
を特定した地元の消防団や関係者を立ち入り禁止としたのである。
現場での模擬ミサイル弾の塗料などを火炎放射器で焼き、人間にもその証拠が付いていた人は黒焦げになるまで焼き尽くした。
ヘリの燃料もジェット機の燃料も、灯油に多少燃焼効率の良くなるものを混ぜたものを燃料としている。生の草や木や人間は
あそこまでは燃えないのは明らか。かくして現場は目を覆う悲惨な墜落現場となった。そしてその隠蔽作業に当たった人達は
平然と朝に無言で下山したのである。
不肖・宮嶋茂樹、この時何処にいた?
垂直尾翼の壊れて落ちた相模湾の水深は200メートル以内。いまの技術でのサルベージはワケも無い。決定的な証拠が
残っているであろう〔ブツ〕を、政府はもう済んだことにして探し引き上げようともしない。
まるで「桜を見る会」でありモリカケと同じ構図。いま衆議院選挙が近くにある。それでも日本の後進国愚民は自民党に
投票して、安穏とした自分の生活を守ろうとする。
 「日航123便墜落 圧力隔壁説をくつがえす」 著者 青山 透子 河出書房新社 定価1650円+税
  ( 20207月30日 初版発行 )

戦場からの狭間

2021年09月13日 | 古本
「岡村明彦」名前だけは知っていたが、後半生はホスピス運動にのめり込んだようだ。してこの作者もまた同じようなのめり込みようだ。
岡村さん同様に過ごして活動した足跡をだどる。作者もまた求道者のように辿り着くす。どちらかというとべトナムの戦争写真よりは、
その後の方が多いような気がする。実はほぼ半分なのだが文体的に重いせいか、後半が長く感じる。文体もくどい。
ホスピスと言っても多様で深刻な精神世界が多い。その辺にうといアタシはなんだか飽きて、早読みしてしまった。
著者の松澤さんさんはこれが出版された1995年当時は病院に看護師として勤務とある。出版から25年、いまも岡村さんと仕事の狭間、
日々どうしていらっしゃるのだろう。
 「報道写真家 岡村昭彦」 著者 松澤 和正  NOVA出版 定価2600円
  ( 1995年5月31日 第1刷発行 )

ゲバラの生活記録

2021年08月31日 | 古本
<さて、一人の男の一年にみたない短時日の間の日記が、これほどまでに世界を騒がせたことはないだろう。その「日記」に、
重大な政治的・軍事的機密がもたらされているわけでもなく、また新しい理論が体系的に展開されているわけでもない。「日記」
そのものは、困難な条件のなかのゲリラ作戦についての淡々とした記録である。この「日記」が、感情をむきさいにした感想文
ではなく、客観的に克明に記されたゲリラ指導者の生活記録であることは、チェ・ゲバラの人物像が、一般に 想像されがちな
ラテンアメリカ気質にみちた激情的なボヘミアンふうの革命家というイメージとは異なって、冷静な統率力のある指導者であった
ことをしめしている。>〔ゲバラの日記〕より
アルゼンチンに生まれキューバ革命をなし、国立銀行総裁や初代工業相に就任するもフェデル・カストロ首相に別れの手紙を書き、
ボリビヤのゲリラ闘争へと進んだ。山岳地帯はジャングル、毒をもった蛇や獰猛な蚊や昆虫、また持病の〔ぜんそく〕という発作
にも悩まされた。何よりそこは政府軍の支配地でもある。
広範囲に散らばった貧しい農民も、必ずしも敵とも見方とも分からない。そんななか、1967年10月8日ボリビア軍に包囲され
ついに逮捕、翌9日死亡。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              チェ・ゲバラの言葉
「世界のどこであろうと不正が行われるたびに、あなたがこれにたいして怒りをもやすならば、われわれは同志なのです」
世界中の為政者よ、ゲバラの爪の垢を煎じて飲むがよい。
 「ゲバラの日記」 著者 チェ・ゲバラ  訳者・筆者 栗原人雄 斉藤 孝 中川文雄 宮嶋光男 向 一陽
  太平洋出版社 定価1200円 (1974年3月15日 第13刷発行 ) 

シャシン

2021年08月16日 | 古本
年輩の映画にかかわるお歴々には映画を〔シャシン〕という呼ぶ方が多い。アタシがバイトしていた札幌東映の映写技師さん達も
そうだった。よくフイルム倉庫に休憩しにきた時、今度のシャシンは何々だなどと話していた。映画業界には特別な隠語や言い方
が多い。それに慣れないと一人前扱いされなかった。
また今では例外を除いてほとんど同時録音だが、フィルム撮影時代が多かった時代はそれを〔シンクロ〕と言った。同時録音カメラ
を使うか、ナグラなどの高性能テープレコーダーを使う。その時カメラから出るパルスをレコーダーにも録音してシンクロさせる。
稀に何かの事情で〔アフレコ〕(アフターレコーディングのこと)のなる場合がある。屋外でOKテークにサイレンの音が入ってしま
ったとか、極端に騒音の多い所でのセリフなどは音声さん泣かせだ。ちなみに映像業界では音の収録スタッフを〔音声〕さんという事
がほとんど、これに対してホールなど屋内の音スタッフは〔音響〕さんという。屋外でのライブなどは〔PA〕さんいというケースが
多い。そのほか映像業界独特の言い回しや隠語があるが、それを語るときりがない。

さて後藤 浩滋さんは1960年代から70年代は盛んに、また80年90年代までも東映のプロデューサーとしていわゆるシャシンを
プロデューサーとして仕切った人物。知らなかったが女優〔藤 純子〕さんの実父でもある。任侠映画を多く手掛けたがヤクザの杯は受け
なかったもののそのスジとの付き合いは多い。クレジットの名が出なかったシャシンもそれなりにあるのだと。
その人物を山根 貞男さんが聞き書きとして1冊にした。写真も多く、またアタシらには懐かしい役者の名も多く出ている。アタシは
任侠映画は特別好きでもなく、そんなには観ていないがパターンは大概決まっている。まあ呆れるほどの本数を年間量産していた時代
の古い名プロデューサー。それらの逸話を読むのも一興かも知れん。
 「任侠映画伝」 著者 後藤 浩滋・山根 貞男  講談社 定価2000円+税
  ( 1998年2月1日 第1刷発行 )

シベリア

2021年08月02日 | 古本
シベリア抑留のことを書いた本はあまたある。しかしこの本は実父の話をまずは他人に聞き取らせ、著者が整理してまとめ、
父に確認を取るという手法を行った。思い入れや他の感情を抑え、極めて冷静に推敲したものだ。
カバーのコピーにはこれ以上ないというように、一人の軌跡全体を印した文章になっている。以下その文章から。
<とある一人のシベリア抑留者がたどった軌跡から、戦前・戦中・戦後の生活模様がよみがえる。戦争とは、平和とは、高度
成長とは、いったい何だったのか。戦争体験は人々をどのように変えたのか。著者が自らの父・謙二(1925-)の人生を
通して、「生きられた20世紀の歴史」を描き出す。>
アタシの父は大正元年(1911年)の生まれだった。徴兵検査があったが不合格だった。片腕が肩より上に上がらず、それが
理由だったと何度か聞いた事がある。そのおかげでアタシが戦後に生まれ、父も人を殺さず殺されもせず、抑留などという経験
をせずにすんだ。その後の荒れ地での百姓という苦労はあったにせよ、アタシも戦争というバカな手柄話を聴かずにすんだ。
毎年8月も半ばになると、あの先の大戦戦争の検証番組などが放送される。NHKも埒も無い朝ドラや、戦国時代のアホな武将の
大枚をかけた番組などは止め、この本の主人公の庶民生活史などの一生をドラマ化したらどうか。これ程正確で具体的な人生史
の原作はほかには無いだろう。
今年の8月はコロナやオリンピック関係の番組で、忌まわしい戦争の番組などは無いだろう。もうすぐ広島や長崎に原爆が投下
された日が近づく。マラソンはそれらをつぶすだろう。
 「生きて帰ってきた男ーある日本兵の戦争と戦後」 著者 小熊 英二  岩波新書 定価940円+税
  ( 2017年5月8日 第11刷発行 ) ※初刊は2015年6月、その後11刷も重刷されたことに感謝だ。

上手いタイトル

2021年07月27日 | 新 刊
〔泣ける〕とダチに強く勧められていたのに、4月の札幌では映画を見逃してしまっていた。ならば原作を取り敢えず読んでみる。
アタシは「グリコ・森永事件」は以前より関心があり、今まで出た本はほとんど読んでいた。映画はDVDで観るしかない。
まあこれはフィクション小説だが、人物や会社名は仮名だがすぐにそれと分かる。時系列の主な出来事や脅迫状はそのまま
使われている。して文庫とは言え535ページあり、ゆうに2冊分の分量(文量)がある。
実在の事件の多くの資料があったとはいえ、いかにも在りそうな展開に久し振りに堪能。前半はややたるいがしかし省略はできない。
後半などよくぞここまで膨らませたなと感心だ。
2016年8月に単行で発刊されたが見逃していたのは、タイトルにグリコとか森永事件とかが入っていなかったからか。でもその分
いいタイトルに久し振りに出会った。面白い本はタイトルがいいと証明した。彼のほかの著作も読みたくなった。
ところで、ダチは何処の場面で感涙を刺激したのだろうか、きっと上手い映画だったのだろう。
 「罪の声」 著者 塩田武士  講談社文庫 定価930円+税 
  ( 2020年1月20日 第6刷発行 )

新聞習慣

2021年07月05日 | その他
ワクチン接種の1回目で札幌に戻った際、4月末からの未読新聞を持ち帰えったが、それが長年の習慣になっている。
毎日朝夕刊の1日分を小一時間ほどかけて読む。留守にしていた分を読み返す作業も、日数かける1時間でほかの読書
は中断となる。今回はやや2ヶ月分溜まっていたので読み終えるまでもう少し時間がかかる。
後から新聞を読み込むメリットはいろいろある。まず番組欄やスポーツ記事は読まない。大体の結果が分かっているので、
そこには時間が取られない。あと経済面や株式欄も関心が無い。その分他の文化面や投書欄、社説欄などをじっくりとだ。
時に気になった記事は切り取ってスクラップ帳へため込む。もうやや50年の週間。昔のスクラップ帳をみると、紙はセピア色、
字か小さくて裸眼は無理。大きな活字の見出しを読むと当時どんなことに関心を寄せていたかがわかる。とにかく新聞は面白い。
月の購読代は十分に元を取っている事になる。
最近夕刊の薄っぺらさ(内容も)が心配だが、購読者が少なくなっているのは仕方ないのか。特に若者、スマホを捨て新聞を読め!

汚れつちまつた

2021年06月25日 | 古本
以前BOOK OFFに行った際みつけた。ここの棚を探せばあるはずだが、カバーの表紙イラストが気に入ったので買ってしまった。
しかも値が110円で最近は200円とつくことが多いので、長い事たな晒しだったのか。
中原 中也・1907年山口県に生まれ、1937年没。どうも昔の文学者などは30才かその手前が鬼門になっている。病気が
多いが今の医療技術ならもっともっと長生きしただろう。しかし考えるにその生きた年齢もまた文学そのものなのかも知れない。
(中には29歳で警察の拷問による獄死した小林 多喜二のような例もあるが。石川 啄木は26歳だった。)

改めて読んでみると、中也ほどフォーク系の歌手に詩をパクられた人はいないのでは。友川カズキは「サーカス」に曲を付け唄って
いるし(友川氏は中也の詩を他にも歌っていて、それを公表・明記しているが)武田鉄矢の「思えば遠くに来たもんだ」は中也の
「頑是無い唄」という詩の冒頭にある一節だ。一行くらいなら偶然を装うこともいいのだろうか、それとも鉄也氏はそれを公表?

 「汚れつちまつた悲しみに 今日も小雪の降りかかる」か あ・・・中原 中也
「汚れつちまつた悲しみに・・・」 著者 中原 中也  集英社文庫 362円+税
  ( 2008年6月7日 第19刷 )

負けです。

2021年06月21日 | 古本
これは再読、岩瀬達哉さんの「キツネ目」を読んだばかりだったので、棚にあったNHKスペシャル編はどうだったかを
再読したくなった。しかしまあ何人かでの同時取材とはいえ、これは圧倒している。この本がありながら、新たなネタも
そう無い岩瀬さんはなんでまた「キツネ目」なる本を取材していたのか理解に苦しむ。もちろん悪いことではないが、
岩瀬さん、負けです。
ただ塩田 武士氏原作本「声の罪」なる本も映画もあるので、余計に興味が湧く。今回ワクチン接種で休館の中、本屋さん
へ行けなかったのが残念。ついでに重松 清「ひこばえ」もかなわず。NHK新日曜名作座を聴いている身には情けなし。
 「グリコ・森永事件~捜査員300人の証言」 NHKスペシャル取材班 編著  文藝春秋 定価1550円+税
  ( 2012年5月25日 第1刷発行 )